凌斗、『覚醒』　作：はにわ改

　
「ーーお疲れ様」

デュエルは決着した。

ーー『女』の勝利にて。

『女』は一言そう呟くと、『倒れたまま』の凌斗へと近付く。

「君は『立てなかった』。
ライフを１５０まで減らされたダメージが、今の君には耐えられなかったんだね」

『女』の２回目のターンが終わり、凌斗は３ターン目を迎えるはずだったが、女の言うように彼は『立てなかった』。
地に伏しながらも少し前まで確かに彼の意識はあったのだが、そのまま立ち上がれずに昏倒してしまった。
手から落ちたカードがそれを物語っている。

それを見届けた『女』は１ターン目に伏せていたリバース・カード、『黒の衝撃』を発動させ、このデュエルを終わらせた。
このカードは自分フィールド上に『黒騎士』を素材とするＴ・Ｆモンスターがいるときに発動出来、
墓地の『黒騎士』１種類につき３００ポイントのダメージを与える。

『堕ちた戦乙女 アリアス』が召喚された瞬間から発動可能であり、ターンを渡されたとはいえ、
既に凌斗に勝ちの目は残されていなかったことになる。

「今頃、『夢』の中で君は私に思い通りのコンボを決めて、気持ちよく逆転勝ちを決めているかもしれない。

ーーでもね、思い通りにいかないのがデュエル、なんだよ」

凌斗の『幻の勝利』。
それはその言葉通り、朧な意識が生み出させた幻想。
彼は今でも『夢』の中で勝利に歓喜している。

恐らく、永遠にーー。

「約束通り……私とデュエルをしてくれた君に力を上げる。

そして私のためにそれを役立ててね、『流石 凌斗』くん」

『女』が凌斗の左腕に装着されたデュエル・ディスク、そこにセットされたデッキに指を触れさせる。
するとその指から黒い霧のようなものがデッキを覆い、次の瞬間にはデュエル・ディスクが『女』のものと同様黒く変色する。
そして黒い霧は倒れた凌斗の身体をも包み込み、彼の頬に異様な模様が浮かび上がる。

そして気絶しているはずの彼の目が大きく見開かれると、その目は『アリアス』同様、黒目と白目が反転していた。

ーーそのまま静かに立ち上がる『凌斗』。
『女』と目を合わせ、互いの視線が１つに繋がる。

「『覚醒』、おめでとう。
今の君は生半可な相手なら瞬殺出来るほどの力を持ったわ。

……どう、君も感じているでしょ？」

『女』に言われた『凌斗』が、ディスクからデッキを取り出すと、
それを扇状に広げて端から端へと目を凝らす。
『力』を得た証である変貌したデッキを見た彼は、顔を大きく歪めながら『笑った』。

「さあ……私と共に行きましょ。

透矢くんのところへ。

君も……そのデッキの力、試してみたいでしょ？」

『女』の問いかけにすぐ頷いた『凌斗』。
差し出された手を取ると、二人は瞬間的にその姿を消失させた。


ーーその日、流石 凌斗は忽然とその姿を消した。
同日深夜、家族によって捜索願いが出される事になり、
アカデミアを通して今、透矢たち生徒と随伴した理事長・クロエの耳に入るのはその翌日夜半になる。