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第6話 カードショップ上の交錯 作:とき
そのカードショップは、昔はおばあさんが運営していた玩具店が商品の一つとしてカードを取り扱っている店だった。優は玩具店だった頃に何回かその店を訪れたことはあったが、おばあさんが亡くなって長男があとを継いだ時に、店を大手カードショップチェーンに売り払いその系列店となってからは訪れたことはない。ただ、カードショップになった、ということを知っているだけである。だから、その店に近づくのも、入ろうとするのも今日が初めてである。店の名前は、「カードユニバース 羊ケ峰店」という。
優は胸騒ぎがするのを感じていた。極度の緊張からだろうか。すると頭の中に、先程まで夢の中で聞いた声が響いてきた。レナードだ。あの男のことだ、人の精神に声をかけることもわけないということだろう。
(伝え忘れていたな。その胸騒ぎが、近くにピースがいるという証だ。おそらくだが、そのカードショップの中にいるぞ。飛び込むなら覚悟を決めることだな)
(うっさい。黙れ変態スーツ男。人の頭の中にまで入り込むな)
(おお怖い。俺はせっかくアドバイスをお前に授けに来たというのに)
レナードとの会話を打ち切って、優はカードショップに入り込む。
「これが… これがカードショップ…」
あたり一面に広がるショーケースには、遊戯王のカードが大量に展示されているどころか、他のカードゲームのカードと思われるカードたちも綺羅星のごとく飾られていた。優は高鳴る胸騒ぎに不安を覚えながらも、遊戯王のカード売り場に足を向ける。が。
「カードが多すぎる… 私のデッキに合うカードがわからない…!」
なんせ長い長い遊戯王の歴史を網羅し尽くさんばかりのカードがショーケースだけでも並んでいる。それに加えて、ノーマルカードはストレージのカードの山から探さなければならない。優は自分で探すのを諦めて、近くでカードの整理を行っていた店員に声を掛ける。その瞬間、胸が張り裂けそうな高鳴りを感じた。これは恋?一目惚れ?いや、そんな馬鹿な話があるかと優は一蹴する。
「あの… カードを探しているのですけど」
「いらっしゃいませ、カードをお探しでしたら、注文票をレジに提出していただければ我々がバックヤードからお探ししますが」
「えっと、それがはっきりとはわからなくて… デッキを強くしたいとしか考えてなくて」
「ふむ… 失礼ですが、使用しているデッキは?」
「サイバース族です」
「ならば、シングルですべて集めるよりも3つ出ているストラクを… もう買っているかもしれませんが、おすすめいたします。特に先日入荷したばかりのSD『マスター・リンク』は強力な新カードが多くておすすめですよ」
「…へえ、こんなストラクが最近に出たんですね。わかりました、そのストラク3つと、残りの2つは過去に買ったので足りないカードを注文票に記載して… うう、さらば樋口、君のことは来月のお小遣いまで忘れない…」
「ありがとうございます。 …ああ、それと、これをあなたに」
『マスター・リンク』3つと何枚かのカードをお買い上げした優に、店員は一枚の紙切れを差し出した。
「…マインド・ゲームに関わっているならば、損はさせない情報ですよ」
その言葉を聞いた瞬間、優は自分の不用意さを恥じた。間違いなく、この店員はマインド・ゲームのピースの一人だ。だからこそ近づいた時にあそこまで胸騒ぎがしたのだ。レナードの言葉通り、店の中にピースはいたのだ。それも店員という形をとって。店員だからと安心して自分のデッキを晒してしまった不用意さを優は悔やむ。
しかし、疑問に思うこともある。マインド・ゲームのピースの割にはあの店員はデュエルせずに自分のデッキの強化に力を貸してくれた。そしてこの紙切れ。ピースの全てが、マインド・ゲームの勝利に動いているわけではないのか?
考えても仕方がない。優は空いているデュエルスペースに腰を下ろすと、二つ折りにされた、店員から渡された紙切れを開く。そこにはこう記されていた。
老若男女、ピースたちが集うバー
フリーマインド・ゲーム可、マッチング承ります
アルコール、ジュースが飲みたいだけの方もご自由に
羊が峰○丁目○○ー○○地下1F バー:「大志」
店長:大田大悟 TEL:090ー○○○○ー○○○○
「バーの宣伝… じゃあなさそうだね。ピースたちが集うって、こっちの世界の住人じゃないとわからない言葉を使っている時点で、マインド・ゲームの参加者に向けてのものだってのは明らかだ」
既にマインド・ゲームを食い物にしている大人たちがいることに若干の驚きを覚えながらも、優は来るべき戦いの到来を予感しデッキを強化するべく家に帰ろうとする。だがその前に、カードショップの入り口の方角から先程の店員と違う別の胸騒ぎが来るのを感じた。
(ちょっ、まだデッキ強化してないのに…!)
一体誰が、と思うと同時に、見つかりたくない思いから優はデュエルスペースの隅っこに擬態する。幸い、あのピースである店員がいる限りは胸騒ぎの対象も散らばるはずだと信じ、隅っこに隠れ続けながら密かにカウンターに向けて目をやり続けていると、胸騒ぎの正体と思われる相手が姿を表した。しかしその相手は、優にとって思いもよらず、また絶句するしかない相手だった。
(なんで…!? なんで晴海がここに来てるの!?家に帰ったって言っていたのに!)
そして優は決定的な瞬間を目撃する。晴海が店員と会話を交わした後、商品とともに優が渡されたものと似たような紙切れを渡されているのを見てしまった。あの紙切れが自分と同じピースたちが集うバーの宣伝チラシならば、晴海は少なくともあの店員にはピースであると認知されてしまっているということだ。
「晴海!!」
優はいてもたってもいられず、晴海のもとに駆け寄ると、彼女をやや無理矢理にデュエルスペースに引きずり込んでいった。
「あれ!?優!?どうしてここにいるの!?というかちょっと痛いよ、引っ張らないでよー!」
「どうもこうもない!ちょっと聞きたいことがあるから、そこの卓について!」
「は、はい!?」
優と晴海はデュエルスペースの1つの卓の前で正対する。思えば中学に入ってから、晴海とこう相対して話す事は初めてなような気がすると優は思った。胸の鼓動が収まらないのは、やはり晴海がピースだからだろうか。
「その紙切れを見せて」
「えっと、何かのおまけかクーポンだと思うんだけど… どうぞ」
晴海はいとも簡単に紙切れを優に譲る。優はそれを急いで開くと、果たしてそれは自分が受け取ったバーのチラシと同じものだった。
「…やっぱり」
「私まだ見てないんだけど… 何が書いてたの?」
「マインド・ゲームのピースが集まるバーの宣伝」
「えっ…!」
優の言葉に、晴海がたじろぐ。ああ、この反応は、やはり。
「単刀直入に聞く。晴海… あなたももしかしなくても、ピースでしょ」
「やっぱり、分かっちゃうよね… マインド・ゲームのピースは惹かれ合う宿命を持つ、レナードさんがそう言っていたもの。今、優の前にいると胸の鼓動が収まらない。…優も、ピースなんだよね」
「残念ながら、その通りよ、晴海。…私たち、敵同士みたいだ」
「でも、出会ったからといってすぐにマインド・ゲームをする必要はない、そうでしょう?」
「だけど、いずれは…」
「今はあなたの友達の西川晴海でいたい。…お互いにピースになった経緯を知っておくとか、このゲームをどうするか、とか、考えていかなきゃならないでしょ?」
「…そうだね。私も、晴海とは戦いたくない。まだデッキも強化してないし…」
「デッキを強化かぁ… 考えることは同じだよね、自分の身は自分で守らなきゃいけないし」
考えることは同じ。少なくともこの時点まではそうだ。だが、その先は。優は自分の中に秘めたどす黒い野望を晴海にひた隠しにする。晴海は誰にだって優しい。自分の行おうとしていることを知れば、間違いなく止めに入るだろう。優は少し罪悪感を覚えながらも、それをすぐに否定する。そのまま、晴海との会話を続けるのだった。
優は胸騒ぎがするのを感じていた。極度の緊張からだろうか。すると頭の中に、先程まで夢の中で聞いた声が響いてきた。レナードだ。あの男のことだ、人の精神に声をかけることもわけないということだろう。
(伝え忘れていたな。その胸騒ぎが、近くにピースがいるという証だ。おそらくだが、そのカードショップの中にいるぞ。飛び込むなら覚悟を決めることだな)
(うっさい。黙れ変態スーツ男。人の頭の中にまで入り込むな)
(おお怖い。俺はせっかくアドバイスをお前に授けに来たというのに)
レナードとの会話を打ち切って、優はカードショップに入り込む。
「これが… これがカードショップ…」
あたり一面に広がるショーケースには、遊戯王のカードが大量に展示されているどころか、他のカードゲームのカードと思われるカードたちも綺羅星のごとく飾られていた。優は高鳴る胸騒ぎに不安を覚えながらも、遊戯王のカード売り場に足を向ける。が。
「カードが多すぎる… 私のデッキに合うカードがわからない…!」
なんせ長い長い遊戯王の歴史を網羅し尽くさんばかりのカードがショーケースだけでも並んでいる。それに加えて、ノーマルカードはストレージのカードの山から探さなければならない。優は自分で探すのを諦めて、近くでカードの整理を行っていた店員に声を掛ける。その瞬間、胸が張り裂けそうな高鳴りを感じた。これは恋?一目惚れ?いや、そんな馬鹿な話があるかと優は一蹴する。
「あの… カードを探しているのですけど」
「いらっしゃいませ、カードをお探しでしたら、注文票をレジに提出していただければ我々がバックヤードからお探ししますが」
「えっと、それがはっきりとはわからなくて… デッキを強くしたいとしか考えてなくて」
「ふむ… 失礼ですが、使用しているデッキは?」
「サイバース族です」
「ならば、シングルですべて集めるよりも3つ出ているストラクを… もう買っているかもしれませんが、おすすめいたします。特に先日入荷したばかりのSD『マスター・リンク』は強力な新カードが多くておすすめですよ」
「…へえ、こんなストラクが最近に出たんですね。わかりました、そのストラク3つと、残りの2つは過去に買ったので足りないカードを注文票に記載して… うう、さらば樋口、君のことは来月のお小遣いまで忘れない…」
「ありがとうございます。 …ああ、それと、これをあなたに」
『マスター・リンク』3つと何枚かのカードをお買い上げした優に、店員は一枚の紙切れを差し出した。
「…マインド・ゲームに関わっているならば、損はさせない情報ですよ」
その言葉を聞いた瞬間、優は自分の不用意さを恥じた。間違いなく、この店員はマインド・ゲームのピースの一人だ。だからこそ近づいた時にあそこまで胸騒ぎがしたのだ。レナードの言葉通り、店の中にピースはいたのだ。それも店員という形をとって。店員だからと安心して自分のデッキを晒してしまった不用意さを優は悔やむ。
しかし、疑問に思うこともある。マインド・ゲームのピースの割にはあの店員はデュエルせずに自分のデッキの強化に力を貸してくれた。そしてこの紙切れ。ピースの全てが、マインド・ゲームの勝利に動いているわけではないのか?
考えても仕方がない。優は空いているデュエルスペースに腰を下ろすと、二つ折りにされた、店員から渡された紙切れを開く。そこにはこう記されていた。
老若男女、ピースたちが集うバー
フリーマインド・ゲーム可、マッチング承ります
アルコール、ジュースが飲みたいだけの方もご自由に
羊が峰○丁目○○ー○○地下1F バー:「大志」
店長:大田大悟 TEL:090ー○○○○ー○○○○
「バーの宣伝… じゃあなさそうだね。ピースたちが集うって、こっちの世界の住人じゃないとわからない言葉を使っている時点で、マインド・ゲームの参加者に向けてのものだってのは明らかだ」
既にマインド・ゲームを食い物にしている大人たちがいることに若干の驚きを覚えながらも、優は来るべき戦いの到来を予感しデッキを強化するべく家に帰ろうとする。だがその前に、カードショップの入り口の方角から先程の店員と違う別の胸騒ぎが来るのを感じた。
(ちょっ、まだデッキ強化してないのに…!)
一体誰が、と思うと同時に、見つかりたくない思いから優はデュエルスペースの隅っこに擬態する。幸い、あのピースである店員がいる限りは胸騒ぎの対象も散らばるはずだと信じ、隅っこに隠れ続けながら密かにカウンターに向けて目をやり続けていると、胸騒ぎの正体と思われる相手が姿を表した。しかしその相手は、優にとって思いもよらず、また絶句するしかない相手だった。
(なんで…!? なんで晴海がここに来てるの!?家に帰ったって言っていたのに!)
そして優は決定的な瞬間を目撃する。晴海が店員と会話を交わした後、商品とともに優が渡されたものと似たような紙切れを渡されているのを見てしまった。あの紙切れが自分と同じピースたちが集うバーの宣伝チラシならば、晴海は少なくともあの店員にはピースであると認知されてしまっているということだ。
「晴海!!」
優はいてもたってもいられず、晴海のもとに駆け寄ると、彼女をやや無理矢理にデュエルスペースに引きずり込んでいった。
「あれ!?優!?どうしてここにいるの!?というかちょっと痛いよ、引っ張らないでよー!」
「どうもこうもない!ちょっと聞きたいことがあるから、そこの卓について!」
「は、はい!?」
優と晴海はデュエルスペースの1つの卓の前で正対する。思えば中学に入ってから、晴海とこう相対して話す事は初めてなような気がすると優は思った。胸の鼓動が収まらないのは、やはり晴海がピースだからだろうか。
「その紙切れを見せて」
「えっと、何かのおまけかクーポンだと思うんだけど… どうぞ」
晴海はいとも簡単に紙切れを優に譲る。優はそれを急いで開くと、果たしてそれは自分が受け取ったバーのチラシと同じものだった。
「…やっぱり」
「私まだ見てないんだけど… 何が書いてたの?」
「マインド・ゲームのピースが集まるバーの宣伝」
「えっ…!」
優の言葉に、晴海がたじろぐ。ああ、この反応は、やはり。
「単刀直入に聞く。晴海… あなたももしかしなくても、ピースでしょ」
「やっぱり、分かっちゃうよね… マインド・ゲームのピースは惹かれ合う宿命を持つ、レナードさんがそう言っていたもの。今、優の前にいると胸の鼓動が収まらない。…優も、ピースなんだよね」
「残念ながら、その通りよ、晴海。…私たち、敵同士みたいだ」
「でも、出会ったからといってすぐにマインド・ゲームをする必要はない、そうでしょう?」
「だけど、いずれは…」
「今はあなたの友達の西川晴海でいたい。…お互いにピースになった経緯を知っておくとか、このゲームをどうするか、とか、考えていかなきゃならないでしょ?」
「…そうだね。私も、晴海とは戦いたくない。まだデッキも強化してないし…」
「デッキを強化かぁ… 考えることは同じだよね、自分の身は自分で守らなきゃいけないし」
考えることは同じ。少なくともこの時点まではそうだ。だが、その先は。優は自分の中に秘めたどす黒い野望を晴海にひた隠しにする。晴海は誰にだって優しい。自分の行おうとしていることを知れば、間違いなく止めに入るだろう。優は少し罪悪感を覚えながらも、それをすぐに否定する。そのまま、晴海との会話を続けるのだった。
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『ピース』同士が近づくと胸騒ぎがするというシステムも...良いですね!
またスキルの存在も、どんなスキルが登場するか全て非常に楽しみです。
次回も楽しみに待っています! (2018-07-03 18:50)
初めまして!楽しく読んでいただきありがとうございます!
>主人公が~
どす黒い野望と自白してますし今言われると欲望に近いかな?って気がしますが、そんな優でよければ追いかけていただけるとありがたいです。
>『ピース』同士が近づくと胸騒ぎがするというシステム
生体ビーコンみたいな感じです。鉄○DASHの缶蹴りがヒントになりました。
>スキル
リスクのある「切り札」なのでそう簡単には使わせませんが、楽しみにしていただければ幸いです。 (2018-07-03 23:24)