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HOME > 遊戯王SS一覧 > TURN 39 敗北―動力開発―

TURN 39 敗北―動力開発― 作:Dann

 「ん~……負けた。むぅ……ミスは無かったよなぁ……」

 「また始まったか……」
 「あいつは何をブツブツ言ってるんだ?」

 一人でブツブツと話し始めた雀夜を尻目に狩に尋ねた。

 「あいつは負けた時はいつもその決闘の反省点を探して改善しようとするんだ……声に出して」
 「な、なるほど……」

 その場に座り込んでデッキを開き、それを眺める雀夜に遊星は踏みより肩に手をかけた。

 「いい決闘だったな」
 「ん、ああ……楽しい決闘だった。ありがとう」

 デッキをしまって立ち上がり、雀夜と遊星は握手を交わす。

 「……!?」

 その瞬間遊星は目を瞠った。
 遊星の目に映ったのは紅色に染まった雀夜の目。
 泣いて充血したわけではない。
 紅く染まっているのは白目ではなく、虹彩の部分。
 その目はハイライトが消えており、一面がべた塗りしたように紅かった。

 「お前……その……」
 「え?」

 しかし次に雀夜の目を開けた時、目は先程と同じ普通の目に戻っていた。

 「いや……なんでもない」
 「? ……そうか」

 さて、残った時間をどう過ごすか。
 D-ホイールの点検が終わるまでまだまだ時間がある。
 帰るのもまた1つの手だが、徒歩で往復したくない。
 デュエルし続けるのもアリだが、いつか飽きる(主に作者が)。

 「……シティの観光とか……?」
 『徒歩でか? しかもさっきの食事で財布寂しいだろ』

 フィニーからの返答は更に雀夜を悩ませる。

 「俺もD-ホイールがねえと配達屋はできねえし、遊星も満足に修理の依頼を果たせないからな……」
 「あんたら働いてるのか?」
 「ああ。俺達は来年開催される“ワールド・ライディングデュエル・グランプリ”、“WRGP”に向けてD-ホイールの開発や、その資金調達をしているんだ……ジャック以外はな」
 「それは! 俺に合った職が見つからない以上仕方ないのだ!!」

 それでは完全にニートの言葉ですよ、ジャックさん。

 ワールド・ライディングデュエル・グランプリ。
 1年後にネオ童実野シティで開催されるライディングデュエル大会。3対3で行う団体戦であり、優勝チームには最高の栄誉が与えられる。
 その大会ではD-ホイールの自動操縦(オートパイロット)がカットされ、手動操縦(マニュアル)で走行する事になる。そのため、デュエルの実力のほかにD-ホイールの運転技術が要求される。

 「“WRGP”か……そう言えばそんな大会のポスターがあちこちに貼られてるな……」

 雀夜達がいる場所のすぐ横を見てもそのポスターが貼られていた。

 《フェニックス・ギアフリード》と《聖なるバリア-ミラーフォース-》のカードを持った《ドラグニティ-ブラックスピア》が戦闘を行っているイラストのポスターだ。

 『そういや、お前はもう【ドラグニティ】は使わないのか?』
 「どうかな。ふむ……その内使うかねぇ……あと、フィニー」
 『ん?』
 「重い。痛い。主に首が」

 フィニーは両足を雀夜の頭に乗せて羽を休めていた。

 「降りろ」
 『ぶねっ……!』

 雀夜はフィニーを振り払って退かせた。

 「精霊と話せるって龍可みたいだな?」
 「そうだな。あいつもカードの精霊と話ができるからな」
 「龍可?」

 『噂には聞いている。《エンシェント・フェアリー・ドラゴン》を始めとする様々な精霊のカードを操る“シグナー”の少女か』
 「およ? どうしたの、サファイア?」

 急に悠美のデッキからサファイア・ペガサスが現れた。

 『まあ暇だったからな。この会話に混ざろうと思い参上した』

 周りには他の宝玉獣の精霊達が出ていた。

 「賑やかになって来たな……ふあぁ……」
 『ルビィ~』

 気だるそうに欠伸をする雀夜の頭にルビーが登ってきた。
 しかし欠伸をする雀夜に眠気ざされたのか、ルビーはそこで眠ってしまった。

 『zzz……』
 「…………フィニーより軽いからいいや……」
 『なんだよそれ!?』

 自分との扱いの差にフィニーが雀夜に抗議したが、雀夜は何食わぬ様子でルビーが頭から落ちないように姿勢を直した。

 『和むわねぇ~』
 『和むと眠くなるな……』
 『眠い……』

 これまたいつの間にか出てきていたハモンの呟きにオシリスが答え、オベリスクも続いた。

 「これがあの神と幻魔か」
 「思ってたのと、何か違うな……もう少し威厳ある喋り方とすんのかと思ってたが……」
 『まぁ、作者の意向でこうなってるんだけどね~』
 『おい、メタは神や幻魔にも許されている事では無いぞ。無論作者にもな』

 オシリスは明後日の方向を向きながらそんな事を言ったが、常人には理解できない内容なので、遊星達は神達の高次元の会話として理解する事にした。

 「……さて、どうするかねぇ」
 「ああ……暇なのは結局変わらない……」
 「遊星、俺達は帰ってD-ホイール開発の続きをするぞ」
 「ああ、そうだな。じゃあ、俺達はこれで」

 遊星達はその場を後にしようとした。
 そこに狩が声をかける。

 「もし良ければ、その開発を見学してもいいか?」
 「ん? ああ、構わないが……」
 「よし。これでいくらか暇が潰せるぞ」
 「え? あ、うん……」

 眠気を催していた雀夜は狩に言われて我に返った。
 遊星達の住処であるガレージは、雀夜の家と比べると明らかに近い噴水広場にある。

 『……誰も悠美の服装にはツッコまないんだな』
 『ツッコむのも面倒なんだろうな』

 フィニーの呟きにサファイアが答えている間に雀夜達は歩いて行ってしまった。
 それを2匹(頭?羽?体?)は急いで追いかけた。



 「着いたぞ。ここだ」

 遊星達に連れられ、雀夜達は噴水広場にある時計屋の地下にあるガレージに来ていた。

 「なるほど。作業するには丁度良いぐらいのスペースがあるな」
 「結構綺麗な場所にあるのねぇ~」

 雀夜は遊星達のガレージの中を、悠美はその周りの噴水広場を見渡す。
 しかしそのガレージの中は……

 「随分散らかってるな……」
 「ああ。昨日までD-ホイールのエンジンの開発をやっていたんだが、なかなか上手く行かなくてな」

 ……外層フレームや熱廃棄用のタービンやらシリンダー、モーメント等の他にも様々な部品があたりに転がっていた。

 「……色々派手にやらかしたみたいだな」

 雀夜がボソリ呟くと、玄関から3人の少年と少女が入ってきた。
 その内2人は緑色の髪をした幼い双子の兄妹、もう1人は十代半ばの赤い髪の綺麗な少女だった。

 「遊星~!」
 「遊びに来たよ!」
 「やあ、龍亜、龍可、アキ」

 見るからに3人は遊星達と知り合いなのだろう。

 「お、美少女!」
 「? 遊星、その人達は?」

 何やら寒気のする視線に気がついたのか、アキが遊星に尋ねた。
 悠美の姿に龍亜が頬を赤らめるが、龍可の視線に気付き、それを取り繕う。

 「ああ、D-ホイールのライセンス取得の手続きにしている時に知り合ったんだ。中々面白い決闘をするぞ」
 「ふ~ん」

 アキや龍亜達の視線で自己紹介した方がいいかと雀夜達は悟る。

 「ふむ……遊幻 雀夜だ」
 「獣田 狩……」
 「美少女大好き影天 悠美よ♪」

 その自己紹介でアキは少し後ずさりをした。完全にドン引きである。
 悠美が自己紹介を終えると、今にもアキに手を出しそうな悠美をハモンが姿を現し抱きかかえて制止した。

 『そしてこの変態美女の制止役の降雷皇ハモンよ~』
 「はぁ~なぁ~せぇ~!」

 そんなやり取りを見ている雀夜と狩は呆れ、深い溜息をつく。
 他も何が何やら分からない様子で困っていた。

 「はぁ……」
 「えっと……さくやさんでしたっけ? そこに止まってるのと、頭で寝てるのって精霊ですか?」
 「ああ。そういや君は精霊が見えるらしいな」
 『コイツのエースモンスターの精霊、フィニーだ。宜しくな、“シグナー”のお嬢さん』

 そう言いながらフィニーは龍可の近くに止まる。
 するとフィニーの周りに彼女の持つ精霊のカード《クリボン》と《レグルス》の精霊が現れ、社交辞令を交わした。

 「あと、その頭の上のは私の精霊の1体のルビーよ。離しなさいぃ~!」
 『ダメに決まってるでしょう。セクハラ止めるならいいわよ?』
 「それは約束できないわぁぁぁ!」

 「ダメだこりゃ」と雀夜達は改めて溜息をついた。

 「ゆ、遊星。説明して欲しいんだけど……」

 もう本当についていけない様子のアキが遊星に尋ねた。

 「色々と事情が複雑みたいでな。俺もここまでキャラが濃いとは思わなかった」

 遊星も結構驚いていた。
 ジャックやクロウもどうしたものかと唸っていた。

 「とりあえず、この変態をどうにかしないと話進まないと思うんだ……遊星達の作業も邪魔したくないし」

 狩がハモンに目線を送ると、ハモンは「OK」と答えて悠美を連れて(引き摺ってとも言う)外に出て行った。
 オシリス達や精霊達が現れ、また雀夜達“ID”についての長ったらしい説明が始まる事となった。
 “ID”の存在から始まり、その役割、メンバー、現在対立している謎の組織、その他様々な事をアキ、龍亜、龍可に話した。
 途中何度か決闘も交え、それだけで二、三時間が経過した。

 『……とまあ、こんな感じだ。理解できたか?』
 「ええ。大体の事は分かったわ」

 龍亜はまだ良く分かっていない感じだったが、龍可が今の話を簡潔にまとめて説明し、理解した様子だった。
 オシリス達が説明をしている間、遊星達はエンジンの開発・テストの作業を行い、狩はその様子を見つめ、雀夜は壁に体を預けてルビーと一緒に寝ていた。

 「すまない、龍亜。そこのスパナを取ってくれ」
 「え? あ、うん。はい」

 遊星が工具箱の中のスパナを指差し、龍亜がそれを渡した。

 「ありがとう。……これで、一応は完成だな。よし、早速テスト稼動してみよう……っと、もうそろそろ行けば丁度D-ホイールの点検が終わる頃に着くな」

 完成したばかりのエンジンを抱きかかえ、顔を上げた先の時計を見て遊星は言った。

 「ふむ。ならば先にD-ホイールを受け取りに行った方がいいだろう。遅くなれば受け取りも困難になるだろうからな」
 「そうと決まりゃあ早速行こうぜ」

 「助けてぇ~……」
 「ん……?」

 ガレージの外から今にも泣きそうな声が聞こえて来たため、クロウは何事かとシャッターを上げた。
 そこにはハモンに両腕をがっしりと掴まれた悠美が涙目で正座していた。

 「うぅ~……」
 『落ち着かせるのに苦労したわ……』
 「あ、ああ……ご苦労さん……」

 予想外の光景にクロウは苦笑していた。

 「じゃあ、俺達は行って来る」
 「ええ。色々楽しかったし、私達も帰るわ」
 『ほら行くぞ、雀夜』

 未だ眠っている雀夜をフィニーが突っついて起こした。

 「ん……あ、行くのか」
 『ああ。さっさと目ぇ覚ませよ』
 「ああ。覚めた」

 雀夜の頭の上で寝ていたルビーも目を覚まし、悠美のデッキの中へと戻っていった。

 「よし、じゃあ行くぞ」

 雀夜・遊星達は1時間と少し徒歩で移動し、無事点検の終わったD-ホイールを受け取り、ライセンスを取得した。

 「……しっかし、よく私逮捕されなかったわね~」
 『そうね。すぐ逮捕される物だと思ってたけど。あとK・ナイトだって、違法ギリギリの改造品じゃない』
 「零時の言ってたように、アンタの件は色々検討中なんじゃないか? まぁ、俺には関係ないが……」

 影天 悠美。自分が法に引っ掛かる事をしている自覚はあるらしい……
 だが、やはりダメだこの人。
 雀夜は心の中でそう思った。

 「さ~て帰るか~。明日からもビリビリ働くぜ!」

 クロウは自分のD-ホイール“ブラック・バード”が戻ってきて張り切っている様子だった。

 「それじゃ~な、雀夜、狩、悠美」
 「またいつか会おう」
 「ふん」
 「ああ」


//次回で遊戯王ⅠD’sは最終回となります。打ち切りじゃないですよ?

>>うおさ123さん
まぁぶっちゃけるとその通りですwww
ちなみにシリーズのタイトルは「遊戯王ID’s」ですが、このスレッドのタイトルは「遊戯王ⅠD’s」です。
この違いに気づけば、次のスレッドのタイトルは予想できるはず……(ワクワク)
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うおさ123
なぬ、もう最終回ですか! 解りました、次回から遊戯王ID´sセカンドが始まるんですね(完全にゼアルの影響) (2013-02-13 20:20)
うおさ123
そういえば悠美さんがアインス、とか言っていましてね。ってことはツヴァイで遊戯王TD´s……いや、この際単純にⅡD´sですかね? (2013-02-14 19:51)

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