凌斗VS『黒騎士』を操る女！②　作：はにわ改

　
ーー『女』の場に召喚された黒い甲冑を身に纏う騎士。
冷めきった無表情でぼんやりと凌斗を見つめる銀髪のその顔は、正にーー。

「せ、先輩がいつも使ってる……」

そう。
透矢が常に起点として召喚するから、皆の記憶にも刻まれやすい『三騎士 白銀の盾』。
だが決定的に違うのはその黒い甲冑と、生気を失ったその表情。
透矢を護ろうという決意の強さを秘めたあの勇ましさが、今はまるで感じられない。

「『黒騎士 アリアス』……。
『三騎士』と『黒騎士』は対を為す存在で、言っちゃうと光と影みたいな存在なの」

「ひ、光と、影……」

「誰もが心に光の部分を持つように、闇の部分もある。
それは透矢くんも私も。
そして……君も。
みんなその二つの心でその人の人間性を形成しているの」

「な、何が言いたいんだ？」

『三騎士 白銀の盾』を光、
そしてこの『黒騎士』を影、と表現した『女』。
レベルは４で攻撃力は１４００、守備力１１００と能力は全く同じ。

だが違うのは外見ではなく、その効果。
『白銀の盾』はデッキトップに『三騎士』モンスターを置く能力を持っていたがーー。

「『黒騎士 アリアス』の効果。
召喚時に手札を１枚墓地へ送り、デッキから選択した『黒騎士』１枚を墓地へ送る」

「手札を捨ててまで、墓地へ捨てるってのか？」

「私はこの効果で『黒騎士 メルセディア』を墓地へ送るね」

「！？
また新たな『黒騎士』が？」

手札１枚と共に、デッキから送られた別の『黒騎士』。
その瞬間、『女』の背後に立つ十字架が光を発する。

「『黒騎士』が墓地へ送られたから、『黒の褒賞（ブラック・リワード）』の効果が発動。
私はデッキからカードを１枚引く」

『黒の褒賞』の効果によりドローを行い、『アリアス』の効果による手札コストを実質０にした。

「そして『メルセディア』の効果。
このカードが『黒騎士』の効果によって墓地へ送られた時、
デッキから同名モンスター以外の『黒騎士』を墓地へ送るの」

「何？！
更に墓地へ捨てるのか！」

「私は『リューゼリッド』を墓地へ送るね。

ーーで、また私の墓地に『黒騎士』が送られたから、『黒の褒賞』の効果でカード、ドロー」

『リューゼリッド』が墓地へ行くのと同時に、また光を発する十字架。
これで逆に手札は１枚増えた計算となる。

「（め、『メルセディア』と『リューゼリッド』……。
２枚とも先輩が使ってたカードだ……！）」

凌斗は固唾を飲み込む。

「（しかもどんどん『黒騎士』が墓地へーー。
何を狙ってやがんだ？）」

透矢はデッキから特定のカードを手札に蓄える戦術を駆使していたが、『女』は逆に墓地へ送っている。

それは『サーチ』という意味では似て非なる行為。
『女』は手札ではなく墓地にカードを蓄え、いや肥やしているのだ。

「『リューゼリッド』の効果。
このカードが『黒騎士』の効果で墓地へ送られた時、手札の『黒騎士』モンスターを１体、特殊召喚出来る。
私は２枚目の『アリアス』を特殊召喚」

「な、何っ？！」

『女』の場に現れる２体目の『アリアス』。
光なき眼球が凌斗を見据える。

「『アリアス』の召喚時効果を使いたいところだけど……この効果は１ターンに１度しか使えないの。
残念だけど、ね」

ターン１制限の制約。
凌斗は思わず胸を撫で下ろしてしまう。

「わ、忘れるな！
あんたは今カードを合計で２枚ドローした！
よって俺様の『グリード・デバウアー』の攻撃力がアップ！」

凌斗のモンスター、『グリード・デバウアー』は相手がカードをドローする度に、１枚につき２００ポイント攻撃力を上げる。
それにより、『グリード・デバウアー』の攻撃力は２９００から３３００へ。
『アリアス』に大差をつけると共に、３０００のラインを超えた。

「ふふ、自分のこと『俺様』とか言っちゃって。
君、案外可愛いね」

「う、うるせぇっ！」

『女』のそんな声に、恥ずかしさを感じたか顔を赤くして怒号を飛ばす。
何かと明朗に絡んでくる『女』にペースを乱されがちではあるが、凌斗は忘れていない。
目の前の『女』は自分をこの場所に何らかの方法で閉じ込め、デュエルを強要する危険な奴である、と。

「私は手札から装備魔法、『黒の聖剣（ブラック・セイバー） ロゼェリム』を発動。
『アリアス』に装備」

『女』が発動させた装備魔法。
凌斗から見て右にいる『アリアス』の元々持っている短剣全体を、黒い光が包み込む。
するとその『アリアス』の攻撃力は何故かマイナスを刻み、０になってしまう。

「な、何だ？！」

「『ロゼェリム』の効果。
『黒騎士』専用の装備魔法。
装備モンスターの攻撃力を０にする。

ーーでもね、装備モンスターが戦闘で発生するダメージは、私の代わりに相手が受けるの」

「な、何だそりゃあ！？」

「しかもそれだけじゃないよ？」

『女』が言うと同時、もう一方の『アリアス』の攻撃力もが０になってしまう。

「『黒の聖剣』の共通効果。
装備の効果を装備モンスターと同名モンスター全てに与えるの」

「ってことはそいつもーー」

「そう。
同じく戦闘ダメージを跳ね返す能力を持ったわ」

装備カードは通常、攻撃力や守備力を上げる能力であるのが一般的だが、『ロゼェリム』は違う。
攻撃力を０にしたその上で、発生する戦闘ダメージをそのまま相手に返す。
これにより相手の場に攻撃力の高いモンスターがいる程、より効果的にその能力を活かす事が出来る。

まして凌斗の場にいる『グリード・デバウアー』の攻撃力は３３００。

「（こ、こいつ……俺のモンスターに自爆特攻させるつもりかっ！）」

「バトル。
装備していない方の『アリアス』で『グリード・デバウアー』を攻撃」

そしてバトルフェイズ。
無表情のまま命じられるがままに、百パーセント敗北が決定付けられたバトルに臨む『アリアス』。
装備していない方の『アリアス』だが、『黒の聖剣』は装備モンスターと同名モンスター全てに同じ効果をもたらす。
故にこの戦闘に於いて、発生するダメージは凌斗が代わりに受ける事になる。
そのダメージは『グリード・デバウアー』の攻撃力分ーー３３００。

これを受ければ凌斗のライフはほとんど残らない。

「な、嘗めるな！
速攻魔法『サイクロン』！」

「あはは、やるぅ！」

「その装備魔法を破壊してやる！」

凌斗が寸前で発動させた『サイクロン』。
突風が『女』の場の『ロゼェリム』を宙へと巻き上げて破砕する。
これにより装備効果は消えて、『アリアス』の攻撃力は元の１４００に戻るが、同時にダメージを跳ね返す効果も消える。

「粉砕しろ！『グリード・デバウアー』！」

攻撃宣言は下されているため、攻撃は止まらない。
迫り来る『アリアス』に対し、『グリード・デバウアー』は口から鉄砲水のように体液を飛ばして『アリアス』を吹き飛ばす。
酸を含んでいたその体液により、『アリアス』の身体は崩壊。

同時に発生した戦闘ダメージ１９００ポイントが『女』を襲い、ライフを１１００まで減らした。

「よく返したね！
君、やっぱり結構出来る子でしょ！」

「ぐ……こ、子供扱いすんな！」

賞賛の意だろうか、小さく拍手してみせる『女』。
だが凌斗には馬鹿にされているようにしか聞こえない。

「『アリアス』の効果。
フィールドから墓地へ送られた時、デッキから『黒騎士』モンスターを１枚、墓地に送れるの」

「ま、また墓地送りか！」

「私はデッキから『アリアス』を墓地へ。

ーーで、『黒の褒賞』が連動発動。
デッキからカードを１枚ドロー」

『女』がデッキに残る３枚目の『アリアス』を捨て、『黒の褒賞』でドロー。
すると背後の十字架が突然、ひび割れて崩れ落ちる。

「三回効果を使用した『黒の褒賞』は破壊される」

「お、お前がカードをドローした事により、『グリード・デバウアー』の攻撃力が更にアップ！」

『グリード・デバウアー』の攻撃力は３５００に上昇。

「ふふ、しょうがないね。
それじゃ私はもう１体の『アリアス』でそっちの小さなドラゴンを攻・撃♪」

残ったもう１体の『アリアス』がやはり無表情のまま、『ドラコニュート』へと迫ると、
その短剣が小さな竜の鱗を斬り裂く。
『ドラコニュート』は守備表示だったため、互いにダメージは発生しない。

「リバース・カード、発動！
『竜の報復』を発動！」

「罠カードね」

「自分フィールド上に存在するドラゴン族モンスターが戦闘で破壊された時に発動！
相手に破壊されたモンスターの攻撃力分のダメージを与える！」

発動された罠カード、『竜の報復』から放たれる火球が『女』に向かって飛空し、直撃させる。
『ドラコニュート』の攻撃力７００ポイントが『女』のライフから差し引かれ、残り４００まで減らした。

「その後、破壊されたドラゴン族モンスターと同名のモンスターをデッキから手札に加える！」

「あらら、残り４００か。
このままだと負けちゃうな」

凌斗が３枚目となる『ドラコニュート』を手札に加える中、『女』は困ったような笑い声を上げる。

「私はカードを１枚セットして、ターンを終了」

メインフェイズ２でカードをセットしてターンを終わらせた『女』。

「（イケる……！
流れは完全に俺のもんだ！）」

凌斗が自信を深める。
『女』が使うカードに驚かされはしたが、このターン『女』の行動を全て何らかの形で返した格好だ。
そして『女』のライフは僅か４００。

ーー勝てる。
凌斗がそう思うのも無理はなかった。