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HOME > 遊戯王SS一覧 > 8 Judgment

8 Judgment 作:ター坊



図書室の騒動後、保健室では―
「…」ジー
「…」ギロッ
「…」ビクビク
「遊月…、そうピリピリするな」
張りつめる空気の中、遊路が宥めるも美羽と遊月のプレッシャーに女子生徒は萎縮してしまう。特に遊月は今にも刃物で刺してしまいそうな形相で睨んでいた。
「…それにしても怪我がなくて安心した。聞いた時びっくりしたよ…」
図書室の本棚がドミノ倒しになった際、遊路は運良く倒れた本棚同士が重なってできた隙間に転がり込み、重量のある本棚本体に押し潰されるという事態だけは避けられたのだ。かすり傷レベルでわざわざ保健室で治療を受けるまでもないが、今後の話し合いの席として遊路はここにやって来た。
「心配掛けて悪かったな。それにしてもお前も災難だったな」
「…」
「遊路様。この女は…」
「分かってる。なぁ君」
「…はい」
「あそこに呼び出すよう頼んだのは道炎寺だよな?」
「…」
女子生徒は最初黙って俯いていたが、罪悪感や助けてもらった恩義、はたまた遊月に気圧されたからか、しばらくして小さく頷いた後にポツリポツリと今回の経緯を話した。
話は女子生徒と宗一郎の出会いに遡り、入学式からしてしばらく、向こうから声を掛けてきたことが始まりだという。女子生徒は前髪をだらりと伸ばした風貌のせいで初見の人間からは怖くて避けられていたが、話し掛けられたことが嬉しくて友達からということで付き合い始めた。宗一郎が多くの女性を侍らせていたのは知っていたが、そのフレンドリーさも才能の内なんだなと寧ろ感心し、こんな自分とも接してくれる優しい人なんだとも思っていた。そして今日、宗一郎から頼まれたのだ。この手紙をアイツに渡して欲しいーその後、図書室でアイツを待ってくれーそしたらデートに行こうか、と。
女子生徒の告白に遊路は少し考えた後、フフっと笑う。
「そっか。アイツの事、好きなんだな」
「…」コクリッ
責められると思っていた女子生徒にとって遊路の言葉は意外だったが恥ずかしがりながらも肯定の意を示す。
「遊路様!彼女がしたことは…」
「分かってる。でも遊月だって俺からの頼みだったら聞くだろ?」
「それは…まぁ…」
「行動の善し悪しは別にして、コイツは好きって気持ちでやったんだ。そんな純粋な気持ち、俺は叱る気にならない」
「…もう、甘いんだから」
美羽も遊月も遊路の態度に呆れつつも、叱りきれないといった表情で口元を少し綻ばせる。

ピロリン♪

「…」ゴソゴソ
静かな保健室にスマホの着信音が響き、それに反応して女子生徒が鞄からスマホを取り出して軽く操作する。
「…奴からか?」
遊路が問い掛けるも女子生徒は慌てた様子でスマホをしまって椅子から立ち上がった。
「あ、ちょっと待った」
「…?」
「名前訊きたかったんだ。手紙を読んでもなんて読むか分からなくてな」
「…ナナセ…。銀鏡 七聖(しろみ ななせ)です…」
そう短く言って七聖は軽く一礼した後、保健室を去った。
「…さて、追いかけようか」
遊路はやや険しい面持ちで立ち上がり、遊月と美羽を引き連れて保健室を出た。







体育館裏。スマホを見た七聖はあの人に呼ばれてやって来た。柄にもなく胸の高鳴りを抑えつつやや駆け足で。しかし、その高鳴りは別なものに変わることになった。
「これは…」
七聖が見た光景。それは想像していた場面とはかけ離れた現実だった。そこには腹を抱えながら横たわって泣きじゃくる女子とその子を踏みつける宗一郎、それを見世物のように嘲笑う宗一郎の取り巻きの女子生徒数名がいた。そんな惨状に七聖はただならぬ不安感から震え始める。
「ど…道炎寺先輩…どうして…」
「ああ。この子?ほら、僕が気に入らない風峰遊路って奴がいるじゃない?それでこの子に頼んで海水ポタージュ飲ませようとしたら失敗してね。そのお仕置きだよ」ゲシッ
「オェッ」
宗一郎は横たわる女子の腹に蹴りを一発入れる。
「何?もしかして約束通りデートできると思ったの?僕さ、僕のために頑張ってくれない女って大嫌いなんだよね」
「ご…ごめんなさい…」
宗一郎の大嫌いという言葉に七聖は咄嗟に謝ってしまう。宗一郎はアカデミアで唯一懇意にしてくれた人、そんな宗一郎からの拒絶は七聖にとっては世間から村八分にされるような感覚である。
「君は今年の1年生の中で1番スタイル良かったから唾つけといたけどさ、暗いし顔もよく分からないしで飽きた上に、こうも使えないんじゃね?」
「そんな…」グスッ
「何?泣いてんのw?」
「そのカッコで泣くとかマジ幽霊じゃんwww」
「暗くてキモかったのに道炎寺さんの目に止まるって奇跡って感じ?」
信じて好きになった人からの裏切りと周りからの罵倒で七聖の心はズタズタに引き裂かれて泣き崩れる寸前という時だった。
「やはりそういう人でしたか」
遊路と遊月、美羽がゾロゾロと割って入ってくる。
「おや、風峰君。これは僕と彼女の問題だよ。口出しはしないでくれたまえ」
「銀鏡さんは貴方のことを信じて好きになったからこそ、一歩間違えたら犯罪紛いのこともやったんですよ。それに対する仕打ちがこれですか?」
「別に。この子が勝手に惚れて言うこと聞くようになっただけだよ。少し優しくしたらコロッとついてきてくれたし、変化球で良いかなとは思ったんだけどね」
「ふーん。…とりあいず先輩はゲスということはよーく分かりました」
とぼけた口調で語る宗一郎に対して遊路は終始敬語だがその語気は怒りがまざまざと出ていた。
「随分な物言いだね。先輩に対する口がなってない後輩にはお灸が必要かな?」
「ほぅ。お灸とは?」
「デュエルだよ。遊月ちゃん達の目の前で君を完膚無きまでに叩きのめして失望させてあげるよ」
「良いでしょう。それなら受けて立ちます。ですが賭けるものを少し変えませんか?」






遊路と宗一郎の話し合いが終わり、互いにデュエルディスクを構え始めた頃、騒ぎを聞きつけた遊希達が合流する。
「一体何がどうなってこんな状況になっているのよ」
「実は遊路様が賭けデュエルを始めまして…」
「はい?」
賭けデュエルとは文字通りデュエルの勝敗によって何らかの損得が発生するものであり、アカデミアでは現金やレアカード等の貴重品を賭けたものは禁止されている。
「一体何を賭けたのよ?」
「遊路様自身です…」
「どういうことですか?」
「遊路が勝ったら道炎寺に銀鏡さんへ土下座で謝罪させるんだけど…」
「万が一負ければ遊路様が道炎寺様卒業までの間、奴隷になって何でも言うことを聞くという賭けなのです」
「まったく。男子って何でこうバカっぽい事するのよ」
千夏の呆れも尤もだが、男には引けない勝負というものが時にはある。今まさにその火蓋が切って落とされたのだ。

「「デュエル!!」」

先攻は宗一郎からとなる。

「僕のターン、まずは『王立魔法図書館』を召喚!」
フィールドには書物が周囲に浮遊する巨大な本棚が現れる。
「魔法カード『増援』でデッキから『イグナイト・ドラグノフ』を手札に加えるよ」

宗一郎が手札に加えたカードに対して観戦していた遊希達も食いつく。
「遊希サン、確かイグナイトと言えば」
「ええ。ペンデュラムモンスターのカテゴリーの1つね」
この世界においてペンデュラムモンスターは遊希達が2年生に進級した頃に一般のパックに収録されて世間に広がり始めていた。しかし、まだまだ新参が故に戦術研究もカードプールもそこまで発展しておらず、アカデミア内でもごく少数しか使い手がいないのが現状である。

「さらに魔法カードを発動したことで『王立魔法図書館』に魔力カウンターが1つ乗る」
(こりゃ長いターンになりそうだな)
一方遊路側の世界ではイグナイトはもはや過去のカテゴリなので、遊路はその動きを概ね把握しており、タネが分かりきった手品を眺めるような退屈な目で流していた。
「さらに魔法カード『テラ・フォーミング』でデッキから『イグニッションP』を手札に、そしてそのまま発動。『テラ・フォーミング』と『イグニッションP』を発動したことで『王立魔法図書館』に魔力カウンターが2つ貯まり3つになったことで全て取り除き1枚ドロー。…『イグナイト・デリンジャー』をペンデュラムゾーンにセッティング。知ってるとは思うけどペンデュラムモンスターをペンデュラムゾーンに置いても魔法カードを発動した扱いになるから魔力カウンターが貯まるのだよ」
「わー、すごいですね(棒読み)」
ドヤ顔の宗一郎に遊路は心にもない賛辞を送る。
「『イグニッションP』の効果でデリンジャーを破壊し、デッキから新たにキャリバーを手札に加え、スケール2のキャリバーとスケール7のウージーでペンデュラムスケールをセッティングするがキャリバーのペンデュラム効果でキャリバーとウージーを破壊してデッキからマスケットを手札に。『王立魔法図書館』に再び魔力カウンターが3つ貯まったので全て取り除きもう1度ドロー」
一応は3年生でも上位と噂されるだけありペンデュラムの特徴を上手く活かした戦法を披露する。
「さて、行かせて貰うよ僕はスケール2のマスケットとスケール7のドラグノフでペンデュラムスケールをセッティング!これで手札・EXデッキからレベル3~7のモンスターを同時に召喚可能。開け、僕の薔薇色のアーク、ペンデュラム召喚、EXデッキから『イグナイト・デリンジャー』、キャリバー、ウージー、手札から『E・HEROブレイズマン』!」
烈火の騎士達が並ぶ中で些かブレイズマンは浮いているようだが、この布陣の理由はすぐに判明する。
「ブレイズマンの特殊召喚に成功したことでデッキから『融合』を手札に加え、レベル6のキャリバーとウージーでオーバーレイ、2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、ランク6『フォトン・ストリーク・バウンサー』。さらにペンデュラムゾーンのマスケットの効果でドラグノフとマスケットを破壊し、デッキからライオットを手札に加えて『融合』を発動。フィールドのデリンジャーと手札のライオット、2体の通常モンスターを素材に融合召喚、『始祖竜ワイアーム』!『王立魔法図書館』に魔力カウンターが3つ貯まったことで取り除いて1枚ドロー。そして『王立魔法図書館』とブレイズマンでオーバーレイ!レベル4のモンスター2体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、ランク4『竜巻竜』!」

ペンデュラム召喚からの特殊召喚ラッシュで宗一郎の布陣は磐石となった。
「ワイアームがいる限り、効果モンスターでの突破はほぼ不可能…ですよね」
「しかもモンスター効果での行動も『フォトン・ストリーク・バウンサー』によって1度止められちゃって動きが鈍るわ…」
「罠で迎撃しようとしても『竜巻竜』で先に除去されちゃうし…」
「こういう時に普段入れない除去魔法カードが欲しいデスネ…」
「遊路…。どうひっくり返す気なのかしら…」
「「…」」
遊希達が気を揉む中、遊月と美羽は言葉を出さずにまっすぐと遊路の方だけを見つめていた。

「長々と申し訳なかったね。僕はこれでターンエンド」
言葉とは裏腹にすまないという気持ちを微塵も感じない笑みで宗一郎は遊路にターンを渡す。
「俺のターン、ドロー。…フッ」
「何が可笑しいんだい?まぁこんな布陣を前にしたら逆に笑っちゃうかもだけど」
「いえいえ。先輩が一生懸命デッキを回したのにこのターンで終わりそうだなって考えたら妙に可笑しくなっただけですよ」
「何っ…だと」
遊路の台詞に宗一郎は眉をひそめる。
「という事でまずは魔法カード『トレード・イン』で『堕天使スペルビア』を墓地に送り2枚ドロー。もう1度『トレード・イン』で『機巧蛇―叢雲遠呂智』を墓地に送り2枚ドロー」
「ふんっ。見慣れないカードもあるようだけれど、スペルビアという事は上級天使を蘇生させるデッキかな。そんな戦術は」
「はい。『フォトン・ストリーク・バウンサー』が邪魔なのでこうします」
そう言って遊路がパチンと指を鳴らすと『フォトン・ストリーク・バウンサー』が光に包まれ消滅していく。
「これは!?何かの不正システムを!?」
「いいえ。れっきとしたモンスターの力ですよ。来い、『壊星壊獣ジズキエル』!」
消滅した『フォトン・ストリーク・バウンサー』に代わり、龍に似た謎の機械生命体が姿を現す。
「なんだ、このモンスターは…。僕のフィールドに突然…」
「これは年末に発売される予定の壊獣というカテゴリーのカードでしてね。テストプレイヤーとして使わせてもらいますよ」
「くっ…だけどジズキエルの攻撃力は3300もある。それとワイアームを合わせても突破は…」
「手札の『堕天使イシュタム』と『魅惑の堕天使』を捨てて2枚ドロー。魔法カード『堕天使の戒壇』の効果で墓地のスペルビアを守備表示で特殊召喚、さらにスペルビアの効果でイシュタムを特殊召喚します」
フィールドには禍々しい赤い光輪が揺れる褐色の堕天使と鍋のような異形の堕天使が並び立つ。
「1000LPを払い、イシュタムの効果を発動」

遊路:LP 8000→7000

「墓地の『魅惑の堕天使』の効果を適用し、ジズキエルのコントロールを得る」
「くっ…だけどワイアームがいる限り、どれだけ効果モンスターを並べたところで無駄だ!」
「俺、言いましたよね?壊獣というカテゴリーだと」
「まさか…」
「今度はこちらをプレゼントします」
突然、無数の糸が絡まってワイアームを捕獲し、どんどん糸に包まれて繭状の白い塊になっていった。
「来い、『怪粉壊獣ガダーラ』」
繭がドクドクと脈を打つとパッカリ割れ巨大な蛾のモンスターが咆哮と共に飛び立つ。
「馬鹿な、ワイアームにモンスターの効果は…」
「そのリリースは効果ではなく壊獣を特殊召喚するための手順。よってワイアームも倒せるんですよ」
壊獣の強制リリースの前では強力な耐性も万能カウンターも無力であり、特殊召喚できない状況またはリリースできないという特殊な性質を持っていない限りは逃れる事はできない。この強烈さと手軽さから後々の物語でも多用されるのだ。
「まだ展開しますよ?墓地の『機巧蛇―叢雲遠呂智』の効果発動。デッキの上から8枚を裏向きで除外し、自身を特殊召喚!叢雲遠呂智とスペルビアでオーバーレイ!レベル8のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!ランク8、『森羅の守神アルセイ』!」
機械龍と堕天使が重なり、葉に覆われた巨獣が降臨する。
「アルセイの効果でカード名を1つ宣言する。宣言するのは『ラーの翼神竜』!」
「なっ、バk」
「なんてあるわけありませんがデッキトップチェック」

ペラッ『堕天使アドゥムシアス』

「当然ハズレのため墓地に送られますがオーバーレイユニットを1つ使い、第2の効果発動。これでガダーラを俺のデッキの1番下に戻します。戻ってこい」
アルセイの放つオーラによりガダーラが吹き飛ばされてしまう。これで宗一郎のフィールドには低打点かつ現状では効果が役に立たない『竜巻竜』のみとなる。
「先輩。貴方がやってきた事を絶対に許しませんよ」
「何を言ってるんだい。僕は直接君に何もしていないじゃないか」
「ええ。ですが仮に俺が何かされたとしても、そこはどうでも良いんですよ」
「じゃあ…」
「貴方が犯した罪、1つずつ言ってあげますので懺悔してください。まずはジズキエルで『竜巻竜』を攻撃!これは料理研究部が用意してくれた食事会をぶち壊した恨み!」

壊星壊獣ジズキエル ATK 3300 VS 竜巻竜 ATK 2100

宗一郎:LP 8000→6800

「続いてアルセイでダイレクトアタック。これは海水ポタージュで苦しんだスティーブンの仇!」

森羅の守神アルセイ ATK 2300 直接攻撃

宗一郎:LP 6800→4500

「イシュタムでダイレクトアタック。これは裏切られた銀鏡さんの悲しみ!!」

堕天使イシュタム ATK 2500 直接攻撃

宗一郎:LP 4500→2000

「ふっ、残念だったね。このターンで終われなくて」
「何を勘違いしていますか?メインフェイズ2でイシュタムとジズキエルでオーバーレイ、レベル10モンスター2体でオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚、ランク10『超弩級砲塔列車グスタフ・マックス』!!…こいつの効果は御存知ですよね?」
「なっ、そんな…馬鹿な…」
宗一郎を見下ろす巨大な鋼鉄のモンスター。その意味することに気付いた宗一郎は顔を青ざめる。
「トドメは女を物みたいに扱って気に入らなければ踏みにじる…そんなク ズ野郎のお前への怒りだ!オーバーレイユニットを1つ使い効果発動」
「ま、待って…」
「いいや。The Endだ」パーン

ボオォンッ!!

遊路が銃を撃つ動作を手で真似たと同時に2000バーンの超火力ダメージが爆音と共に火を噴いた。

宗一郎:LP 2000→0








決着した瞬間、宗一郎の膝はガクッと落ちた。
「そんな…。この僕が、負けた…?」
宗一郎としては年下の、しかも遊希やエヴァのように有名なデュエリストでもない、ただの生意気な後輩に敗北したという今起こった現実を受け止められなかった。
「嘘…負けたの?」ヒソヒソ
「ダッサ…」ヒソヒソ
「ま、待ちたまえ」
宗一郎は取り巻きの女子生徒の小さな陰口に過敏に反応し、女子達を引き止める。
「あれはちょっとした油断だよ。つまりこの試合は」

ピロリン♪

不幸とは何の因果か、立て続けに起こるものである。
「えっ、道炎寺グループ事実上破産!?」
取り巻きの1人が見たスマホのネットニュースによると宗一郎の父親の会社の悪事が明るみとなったが、損害賠償を払う能力もないため破産手続きを開始したというものであった。
「えっ、じゃあ宗一郎君、貧乏になるの…」
「うわっ…」
今まで媚びていた瞳は何処へやら、取り巻きの女子達は宗一郎に冷めた眼差しの滝を浴びせる。
「そんな…。そんな目で僕を見るな!!」
金や権力は確かに魅力的で他者を惹き付けるが、失えばそれまでのこと。甘い蜜が絶えれば虫が寄ってこないに等しい。
「ホントの愛を金や権力だけで買えると思うなよ。女の子の心はそんなに安くはない。自分の傍にずっといて欲しいなら自分の全部を賭けてみろ」
「うるさい、黙れ!!お前のせいだ…お前のせいで…。うわああぁぁっ!!」
遊路の尤もらしい言葉だが宗一郎の理性を千切るには充分だった。外っ面は物腰柔らかな好青年だったがそれが消え、忍ばせていたであろうナイフを突き立てて遊路に襲いかかってきた。
「はっ!!」
「ぐふっ!!」ベキッ
しかし、咄嗟に割って入った遊月がナイフを取り上げて捨て、重い肘鉄を宗一郎の顔面に喰らわせる。
「顔面はヤバい、ボディだ」
「分かりました。はぁっ!!」
遊路のアドバイス通り遊月の正拳突きが宗一郎の鳩尾に決まり、宗一郎は倒れて沈黙した。





賭けデュエルの数日後、宗一郎はアカデミアを退学した。遊路にデュエルに負けて信用を失い、道炎寺グループが無くなった挙げ句、遊月の肘鉄がクリーンヒットして前歯3本が欠けた間抜け面になった以上、実力・富・容姿が揃った自身の栄光が完全に崩壊した現実に耐えられなかったのだろう。そして誰に見送られることもなく消えた宗一郎の余波は意外な形で遊路に寄せることになった。
「キャー、風峰くーん!」
「こっち見てー!」
「付き合ってー!」
「…」ハァ
宗一郎の取り巻きが広めたのか、賭けデュエルの噂によって女子生徒の好意は遊路に向けられていたのだ。
3年生でも上位だった宗一郎を破り天都遊希にも一目置かれている実力(よく一緒にいるからそういう噂が立った)、平均より上でやや中性気味の整った顔立ちと男にしては低身長で華奢な体つきに加えて、賭けデュエルで見せた紳士的かつ漢気な心持ちで人気を博したのだ。その上、異世界出身を隠していることで出自について尾ひれが付き、有名イケメン芸能人の弟説や政治家の秘蔵っ子説、果ては大企業の御曹司説など、好き勝手に女子の妄想が膨らんでいたのだ。当の本人はと言うと

「遊月と美羽以外の異性として付き合う気ゼロなんだよなぁ」

遊路がこの世界で過ごしてから知り合い・友達がだいぶ増えた。事情を知る遊希達、喧嘩から交友が始まった朱里那、部活廃部の一件で親交を深めたスティーブン、他にも行く先々で知り合ったアイドル研究会や演劇部、料理研究部と輪は広がっている。
ある昼休み、前回ドタバタで中止となった食事会が開かれた。今度は最初招かれた3人だけでなく遊月や遊希達も混ざる。
「…あの。どうぞ」
「ありがとう」
料理研究部には新入部員として七聖がいた。
「それにしても銀鏡さん。やっぱり部としては前髪をなんとかして欲しいんですけど…」
「…あ、でも…」
「銀鏡さん。物は試しよ」
「…」フルフル
部長の速水でも有名人の遊希でも七聖の答えは首を横に振るばかりである。
「…じゃあさ。こんな大人数じゃなくてまず俺に見せてくれ。それなら恥ずかしくないだろ?」
「…」
遊路の申し出に七聖は戸惑うが、少し考えて決心がついたのか首を小さく縦に振った。
「じゃあ部屋の隅っこでな」
遊路と七聖は移動して部室の角に立つ。
「それじゃあ、オープン」
「…」
七聖は少し躊躇いながらも徐々に自分の前髪を上げていく。そして七聖の素顔が露出した時だった。
「わぁお!!」
体の何処から出たのか、遊路の歓喜の叫びが部室に響く 。
「え、遊路様?」
「何その反応?」
「いや自分でも突拍子もない声が出たと思うが何と言うか…まさにダイヤの原石ってやつだな。この前テレビで見た国民的美少女コンテストでミスグランプリに選ばれた奴の百倍は可愛いぞ」
遊路のベタ褒めの評価に誰もが七聖の素顔に興味を持たざるを得ない。しかし七聖は前髪をささっと戻してしまった。
「…」
「銀鏡さん。やっぱり今まで隠してたのを急に晒すのは恥ずかしいか?」
「…ううん。怖い」
「…そっか、怖い…か。そうだよな。今まで見せた事がない自分の一面を他人に見せたら何か変わっちゃいそうで怖いもんな」
「…」
「でも変わるって怖い事ばかりじゃないって思うんだ。変わるからこそ素敵なものを見つけたりもできる。俺は変わったからこそ遊月と美羽に出会えたんだと思うんだ」
遊路は元々ドライな性格で何を喜びとして生きているのか見出だせていなかった。そこから大冒険を経て情熱と誰かを想う心を取り戻して変わったからこそ、生き生きとした今の姿とその姿に惚れた人を手にしたのだ。
「…ちょっとだけ…なら…」
遊路の言葉に諭されたのか、七聖は自分の前髪を少しずつ上げていった。




次回予告

千夏「お便り来てるわよ。ペンネーム レッドエンジェルさんから。『毎回 遊戯王ノーレコード・メモリーを楽しく読んでます。ただ次回予告を見ても全然次の話が分からず、遊んでばかりでふざけ過ぎだと思います。たまには真面目に予告してください』だって」
美羽「次回はデュエル回じゃないって」
千夏「そういう事じゃなくて」
遊月「遊路様と遊希様が活躍します」
千夏「断片的じゃなくてもっとこう…」
遊路「突如賑わう祭会場に現れたシーフード怪人3兄弟。その魔の手は天都遊希に迫っていた。もうダメだと思ったその時、3人の勇者が立ち上がる!次回、遊戯王 ノーレコード・メモリー第9話『Show time』。次回も見てくれよな」
千夏「一番それっぽいけど意味不明だって!!」

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ヒラーズ
はっはぁ!敵さんざまぁww
手を出した矢先がこれだよ。見事だ大統領。

陸也「しかし、女性にモテるってそんなに良いことなのか」←戦争ばっかやってた。
ネクロ「私も教えて欲しいものだねぇ」←屍ばかり集めてた。 (2019-05-26 21:55)
ター坊
ヒラーズさん、コメントありがとうございます。
実は遊路のデッキは私が応募したハナコのデッキと同じ、というかター坊が現実で使ってる1軍デッキと似た構築にしてます。当然本編中には出せないNo.も入っており、希望魁竜+クリスティアやラビオン+ハートアースなど相手にとって悪夢の布陣が割と簡単に組めます。

女性にモテるのがステータス、というのも遊路の真摯な態度や誠実な人柄の現れですからね。複数と付き合っても女性同士でいざこざが起きないのはそれだけ遊路の(現実離れした)人徳と愛情深さの現れかなと思います。 (2019-05-26 22:13)
ギガプラント
恒例のド下衆野郎。
イグナイトも十分に強いっちゃ強いのですが、実力・情報その他諸々が圧倒的に足りなかった…バイバイボンボン。とどめの瞬間まで怒りを露にしないのは実に遊路氏らしいですね。
食べ物は粗末にしちゃいけないのです。女の子を蹴ってはいけないのです。 (2019-05-26 22:43)
ター坊
ギガプラントさん、コメントありがとうございます。
確かにこうもゲス野郎が多いとアカデミアの風評被害な気が…光芒さん、すいません。
イグナイトは初期のペンデュラムカテゴリですが、通常モンスターというところに希望を感じた時期もありました。まぁ壊獣いなかった除去魔法軽視の現代では攻略不能の可能性もありますけどね。
遊路は激情に駆られながらも冷静さを忘れないクール熱血を目指してます。 (2019-05-26 22:58)
光芒
自分で手を下すのではなく、取り巻きの女子生徒にやらせているあたりがまたゲスかったですね。しかし、女性に対して優しい(?)遊路からしてみれば絶対に許せない相手であり、そしてそんな彼に出会ってしまったのが道炎寺の運の尽きというものなのでしょう。デッキコンセプトとしては図書館+ペンデュラムと悪くない組み合わせだけに悉く救いようのない人間だと思います。
しかし、横領する教師に女侍らせて好き放題やる生徒と竜司が胃潰瘍になってしまいそうな。二部でもそういう要素を盛り込んでみるべきか……
(2019-05-27 16:31)
ター坊
光芒さん、コメントありがとうございます。
運の尽きのお手本のような展開にしました。遊路に喧嘩を売った時点で彼の命運は尽きたかもしれない。
とりあいずトラブルが無ければ事は起こらないので、その火付け役として悪徳野郎が出てくる訳で、第二部は是非善良な世界にしてください。ただ完全な悪ではなく、ガンダムみたく『相手にも正しい言い分があり、しかもそれが利己的ではなく客観的に見ても納得できる部分がある』みたいな正義の反対は別の正義みたいな奴との対決は面白いかもしれません。私もそんな悪役を出したい。 (2019-05-27 16:49)

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