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7 Dangerous Prince 作:ター坊
遊路達がこの世界に飛ばされてかれこれ10日ほど過ぎようとしていた。とはいえ遊路達の世界と遊希達の世界の感覚はほぼ同じであり、食事や文化の違和感もロマンチックなファンタジー感も全くない。今日も遊路はこの世界の普通のアカデミア2年生としての1日を送るのである。
そんな遊路、今日はスティーブンと一緒に登校している。
「遊路様、おはようございます」
「遊路、スティーブン。おはよう」
「うぃーす」
「おはよう」
遊路は校舎の入り口辺りで遊月・美羽・朱里那・遊希達と合流し、軽く挨拶を交わした時だった。
「あ、あの!風峰遊路さん、ですよね?」
「そう…だけど」
見慣れない女子生徒2人組が遊路を見掛けるなり駆け寄ってきた。
「私、料理研究部部長の速水と申します」
「同じ部活の後輩の柳瀬です」
ポニーテールの速水とセミロングの柳瀬がそれぞれ名乗る。
「あれ?でも確か料理研究部はもう…」
「はい。去年経費削減という理由で鶴見先生から廃部宣告を受けたのですが、鶴見先生が起こした事件のせいだったようでして…」
「そしたら校長先生がお詫びに部の再設立を認めてくれたんです」
「そっか、そりゃあ良かったな」
「それで校長先生にお礼を申しましたら《本当に感謝されるべきは風峰遊路という子だよ。あの子がいなかったら私は今回の不正を永遠に知らなかったかもしれない》と仰いまして」
「へぇ。校長先生がそんな事を…」
「それで…もしご迷惑でなければ昼休みに感謝の印として食事会を開いておもてなししたいと思った次第なのですが…如何でしょうか?」
「食事会か…。料理をするのも興味あるし、乗ろうかな?」
「はい!」
「それとコイツらも良いかな?」
「お友達ですか?ええ是非いらして下さい!何名でいらっしゃいますか?」
「そうだな…」
「私達は遠慮しておくわ。あまり大人数で押し掛けても調理が大変だろうし」
「あのときは遊路様と美羽様がご活躍したのですから、私が出る幕ではありません」
「私ハ行ッテミタイデスネ」
「美羽は来たらどうだ?鶴見先生と戦って勝ったし祝勝会がてら」
「そうかな…遊路が良いなら…」
「では3名様ですね。それでは昼休みに家庭科室でお待ちしてます」
そう言って一礼した後、速水と柳瀬はパタパタと走り去った。
「アニキ、モテモテ デスネ」
「変な事を言うな」
「そういう割には少し口許がニヤケてるわよ」
「「…」」ムゥ
「…よせやい」
遊希は意地の悪い、遊月と美羽はじとっとした嫉妬深い視線を遊路に送った。
チャイムの鳴る中、教室から1時限目の古典終わりの生徒が講義室から流れ出てくる。その中には遊路・遊月・美羽・遊希・エヴァの姿があった。
「うーん。やっぱり古文は難しいデス」
「昔の日本人の文章だもの。今を生きる日本人にも難解なのに外国人のあなたが読めないのも当然だわ」
「良かったら私がお教えしましょうか?」
「遊月なら心強いね」
「ああ。なんと言ってもほんの少し前までは現役で使ってたからな」
「フフ。そうですね」
そんな風に談笑しながら歩いていると、それを割く声が後ろから入った。
「君が風峰 遊路君かい?」
「ん?今日はやけに人に呼ばれるな」
遊路達が振り返るとそこには制服を今までで一番ピシッと着こなす凛とした男子生徒が複数の女の子を侍らせて立っていた。
「あの、どちら様で?」
「道炎寺様を知らないなんて無礼者め!!」
「そうよそうよ!」
「恥を知りなさい!」
「えっ!?」
取り巻きの女子生徒の一気呵成の喚きにさすがの遊路も怯む。
「まぁまぁ君達。彼はこのアカデミアに来て日は浅いらしいから上級生である僕の名前を知らないのも無理はないだろう」
「キャー!さすが道炎寺様!」
「器が太平洋!」
「僕は3年の道炎寺 宗一郎って言うんだ。よろしく」
「は、はい…」
上の学年と聴いて遊路も一応それらしい敬語を取る。
「それで、先輩が俺に何の用でしょうか?」
「いや何。少し気になってね。僕のように女の子にモテるんだね。そんなに侍らせて」
「いえいえ侍らせるだなんてそんな…」
「謙遜しないでくれたまえ。僕でも落とせなかった天都遊希君まで侍らせているのだから」
「いえ、彼女はただの友達というか…」
「ふーん。ん…?隣の彼女は?」
宗一郎は遊路と言葉を交わした後、今度は遊月の方に注目しだした。
「遊月が何か?」
「美しい…」
「え?」
「どうだい?僕の彼女になる気はn」
「お断りします」
道炎寺の突然の申し出にも関わらず、遊月は道炎寺が言い切る前に毅然と断った。
「私が心に決めた方は遊路様だけなので」
遊月はぎゅっと遊路の腕を抱き寄せる。
「…そうか。じゃあ風峰くん。遊月ちゃんを賭けて昼休みにデュエルしないかい?当然君が勝てば僕の女の子を差し出すよ?」
「…お断りしますよ」
「やはり彼女の前で醜態を晒すのは恥ずかしいかい?」
「あいにく昼休みは料理研究部との食事会の先約があります。それに…」
「それに?」
「自分の大切な女の子を物みたいに賭けるなんて…男として最低の行為だと思うので。…じゃあ俺は次の授業があるので失礼します」
遊路は言うだけ言い捨てて足早に去って行った。それを見送った宗一郎の脳裏にある閃きが起きた。
「ふーん。食事会ね…。ねぇ君」
「はい!」
「君も確か復活した料理研究部に入ってたよね?」
その後、遊路は次の授業開始前の講義室で遊希とこんな会話を交わした。
「…かなり喧嘩売った物言いだけど良かったの?」
「ああ。本心を言ったまでだ」
「私も付きまとわれたけど、かなりしつこいわよ」
「…蝿は払うさ。いつか逃げるか潰れるまで」
「…っ」
「…なんてな。そんな引くなよ」
ジョークだと言うが遊路が一瞬見せた残忍な笑みは、プロデュエリストとして数多の大舞台を経験して肝が据わっているはずの遊希ですら背筋を震わせるものだった。
時は移って昼休み。遊路は美羽とスティーブンを引き連れて食事会が開かれる家庭科室にやって来た。
「お待ちしておりました」
エプロン姿の速水と柳瀬と4名程の部員が遊路達を出迎えてくれる。
「今日はわざわざどうもな」
「いいえ。風峰さんのおかげで私達、また活動できるようになったから嬉しいんですよ」
「今日は部活動再開の記念も兼ねていますので、どうぞお楽しみ下さい。こちらの席へ」
速水に促された席には既に料理が並んでいた。
「本日は主食にBLTサンド、主菜にチーズインハンバーグ、その付け合わせにニンジンのグラッセとホウレン草のソテー」
「副菜のサラダはポテトサラダ、スープはコーンポタージュとなっております」
料理はまだ盛られたばかりなのか湯気がほわほわ漂っており、その湯気に乗って届く匂いが授業に疲れた脳を刺激する。遊路達は席に着き、他の部員達も座る。
「それではいただきます」
遊路がナイフとフォークに手を掛けた時だった。
「アニキノポタージュ、多イデスネ」
「そうか?変わらないと思うけど…良かったら交換する?」
「アリガトウゴザイマス!私コーン大好キナンデスヨ」
大きめのマグカップに注がれたコーンポタージュの量は言うほど差はないが、好物ならばこだわりがあるのだろうと遊路は交換してあげた。
「ソレデハ早速…ゴク…ブォエア!!!ゲホッ、ゲフォ!!」
「っ!?おい、スティーブン!!急にどうした!?」
一口ポタージュを飲んだ瞬間、スティーブンはそれを辺りに吐き出してしまう。熱かったなら数回噎(む)せて終わりだろうがスティーブンの様子はそんなものではなかった。吐くに吐けないのか、咳き込む度にだらりと粘液が零れる。
「スティーブン!大丈夫か!?」
「私、保健室に運びますね。スティーブンさん、しっかり」
スティーブンは部員2人に付き添わられて保健室へと向かった。
「一体何が…」
遊路はスティーブンを見送った後、おもむろにスティーブンが引っくり返したマグカップに残ったコーンポタージュを指で掬って舐めた。
「おぇっ!なんだこれ、海水みたいにしょっぱいぞ」
「えっ!?そんな…」ペロッ
信じられないといった表情の速水も舐めてみるがやはり顔をしかめることになった。確かにこんな塩気が強い物、一口でも飲み込めば具合が悪くなるのも当然である。
「どうしてこんな事が…。コーンポタージュを担当したのは確か柳瀬ちゃん…だよね」
「ち、違います!私が味見した時には…」
「…」
遊路は続いてスティーブンと交換した自分の方を舐めてみる。
「いや、柳瀬さんは悪くない…。こっちの方は普通だ」
「じゃあ…」
「スティーブンが飲んだのは元々俺の物。つまり誰かが俺を狙ってこんな物を仕掛けた…というわけか」
「遊路を狙って…誰が?」
遊路はふと考える真っ先に浮かんだ人間がいた。
「…あの、速水さん」
「なんでしょうか?」
「さっきスティーブンを連れていった眼鏡を掛けた子、普段から眼鏡掛けてますか?」
一方、遊月は学食にて遊希達と朱里那と一緒に昼食を摂っていた。
「道炎寺…面倒くせぇ奴に絡まれたな」
「そうなんですか?」
「ああ。大商社の道炎寺グループのボンボンでな。顔と金に物言わせてたとえカップルからでも女を取って食うって噂だぜ」
「…私も去年の校内対抗戦でデュエルした事あるんですけど、負けた後にデートとかどうってしつこくて…。遊希さんに助けられました」
朱里那からも詩織からも宗一郎に関する話はろくでもなかった。
「まぁ遊月さん綺麗だし、狙われるのは無理ないわね」
「…私としては遊路様の方が心配です。何か嫌がらせがなければ良いのですが…」
「確かに…。でも言ってた事はスゴいかっこ良かったデス」
「ふーん。それはどうかな」
急に男の声が割り込んでくる。遊月達が視線を向けるとそこには鼻につく顔の宗一郎が立っていた。
「僕にはただの逃げの言い訳にしか聞こえなかったけど」
「遊路様がその気になれば貴方程度に遅れは取りません」
「そうかなー?デュエルの成績が3年生でもベスト5の僕が2年生の彼に負けるとは思えないけどねえ?それより遊月さん。君は幸運だよ?僕に見初められるなんて滅多にないんだから」
「いいえ。お断りします」
「そんなに頑なになって良いのかな?彼の身に何か…おっと」
「それはどういう意味ですか…!」
「さぁ?」
「遊月。そんな奴の口車に乗らなくていい」
「…ん!?」
普段穏健な遊月ですら思わせ振りな宗一郎に苛立ちを隠せないでいたが、後ろからの遊路の声で宗一郎の顔に驚きが浮かぶ。
「どうした?まるで幽霊でも見たような顔をして」
「くっ…」
宗一郎は涼しい顔の遊路を見るなりそそくさと立ち去った。
「ふんっ」
「やっぱりアイツの仕業かな…」
「あの遊路様、それに美羽様…。どうしてこちらに?」
「食事会はワケアリで中止になってな」
「もしかして…」
「ああ。その可能性大だ」
時間が経って放課後、遊路は手紙を持って図書室に来ていた。経緯は5限目が始まる前に遡る。
《あの…これを…》
講義室に向かう途中、とある女子生徒から手紙を渡されたのが始まりであった。その女子生徒は顔を隠すように前髪を伸ばしていて、恥ずかしいからか終始俯きがちで手紙を渡すと一目散に走り去っていったのだ。遊路はその手紙を授業の始まる前に読み、書かれた想いを察して授業が終わってからここを訪れた。別に疚しさはないが、遊路は辺りを気にしながら図書室の上層への階段を上り、奥まった本棚と本棚の間に着くとあの女子生徒が待っていた。そこは宗教や哲学などの小難しい本が多いせいか他の生徒の気配はない。
「お待たせ」
「…」
遊路は優しげな口調で話し掛けるが女子生徒は黙って俯いているだけだった。
ゴトッ…ガッガッガガガガ!!
「っ!危ない!」
突然響く轟音に女子生徒は何事かと音の方向を向いたが、遊路は咄嗟に女子生徒を両手で強く押し退けた。
「…ん…、えっ…」
訳も分からぬまま突き飛ばされた女子生徒が自分のいた場所を見ると本棚は倒れたドミノのように重なり、納められた本は散乱していた。そして遊路は…
次回予告
遊路「おお…。ドラゴン娘になれるってホントだったんだ」
遊希「まぁ少し語弊はあるけど…」パタパタ
遊路「アニメとかでモン娘は見るけど実際に見ても可愛いもんだな。元が可愛いからっていうのもあるけど」ナデナデ
遊希「ちょっ、そんな猫みたいに…ひゃん!」(角に触られて)
遊路「え?」
遊希「バカ…変な声出ちゃったじゃない…/ / /」
遊路「じ、次回『Judgment 』。…じゃあ次は翼の付け根を」ゴクリ
遊希「っ!」イラッ(遊路にアームロックを極める)
遊路「がああああ!!」
美羽「それ以上いけない」
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>遊希「っ!」イラッ(遊路にアームロックを極める)
>遊路「がああああ!!」
某グルメサラリーマンかな? (2019-04-18 14:08)
危ない王子様…遊路の恋愛観はどちらかといえば純愛寄りでありながら他者から見たら結構刺激的ですからね。次回は文字通りjudgmentですわ!的な落ちっぷりを見せられると思います。
さすがに分かりやすいネタでしたか(笑) (2019-04-18 17:05)
遊路の奥さんに手を出すとは良い度胸だな・・・その罪は死よりも重し。
陸也「そんな奴はさっさと首をはねた方がいいぞ」ガチャコン(ショットガンを構える音)
海理「まずはその人に刺激的絶命拳を食らわせれば良いんじゃないでしょうか?良いやられボイスが聞けそうな気がしますが?」 (2019-04-18 19:25)
遊路に悪い関係で接するとたいていはロクな目に遇いませんね。しかも下手したら死んだ方がマシなレベルで叩き落とされます。
(2019-04-18 20:43)
話は変わりますが、この場を借りてター坊さんにお願いがございます。(コメ欄でのご依頼となって申し訳ありません。場所が悪ければ読後削除していただいても構いません。)
以前の企画で「遊戯王 カオスジェネレーション」をお借りしたように、今度は「遊戯王 DEVIL DRIVER(以下DD)」をお貸し頂きたいというお願いなのですが、今回は少々また違った試みを考えておりまして…。今回はコラボではなく遊戯王DDの二次創作(遊戯王の原作がある以上正しくは三次創作だけど…)を一本書かせて頂きたいのです。DDの世界観や設定を重視し齟齬がないよう最大限努める所存ですが、こちらご返答頂ければ幸いです。
内容についてはまだ全体像は朧気な状態ですが、予め確認したい質問等は幾らでもお答え致します。
ざっくりとしたテーマを羅列すると、
「どちらかといえばデュエルよりストーリー重視」
「推理物的なノリでややオリキャラ多め」
「主人公は一貫して風峰遊路」
です。
長文失礼致しました。何卒宜しくお願い致します。 (2019-04-20 11:50)
こんな男に付き合う女の子の質はというと…次回でやっぱりかと思います。実際に海水を飲んだことはありませんが一口でも飲み込めばヤバそうなのでスティーブンを犠牲にしました。
実はデビドラのラズベリー等の悪魔はジョジョみたいに『異能を以て事件や危機的状況を解決させてみる』という側面を持たせたくて始めた設定でした。ただ推理物に偏ると本来のデュエル路線から脱線するのでドラマみたいに複雑な伏線は張らずに即解決出来るような仕様にしてます。そういった意味では本格的な推理物の3次創作は有り難いです。全然OKですよ。 (2019-04-21 11:10)
現状まだ具体的な構成を考えている最中の為、投稿についてはかなり後になってからになると思われます。また「オリジナル悪魔」の作成についてはまだ未定です。(主に退場のさせ方が難しいので…。)
忘れた頃にポンと投稿するかもですが、その際は宜しくお願い致します。 (2019-04-24 09:08)