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1Hello!another world 作:ター坊
アカデミア地下にて、とある計画が蠢いていた。
「これで、私は神を…!!」
ビィービィービィー
「ちっ…。あと1枚のところで…」
白衣を着た人物は3枚のカードを手に巨大な装置から立ち去った。室内に警報が虚しく響く。
この異変を、とある少女は悪寒として感じ取っていた。
「…っ!!」ガバッ
背筋に真冬の海水が伝うような違和感に少女は眠気が一気に覚めて飛び起きた。
「どうしたの遊希?」
「…いや、なんでもない。ちょっと寒気がしただけ…」
「そう…」
(きっと…気のせいよね)
物音に気付き、二段ベッドの上から遊希の親友・綾香が心配そうに声を掛けるが遊希は平静を装い、再び眠ろうと目を閉じた。
所変わってここはサニーアップ事務所のデュエル練習場。ここでは遊路と遊月の実戦さながらのデュエルが決着を迎えようとした。
「スキュルート Eternal Aceでダイレクトアタック!!」
未来の真救世者 スキュルート Eternal Ace ATK 2500 直接攻撃
遊月:LP 1000→0
デュエルが終了し、モンスター達が消えると対戦していた二人が近づく。
「ふぅ…。相変わらずガードが固くて苦労する。この間の決勝戦より焦ったぞ」
「いいえ。ああされては防ぎようもありません…。遊路様こそお見事でした」
遊路は冗談混じりの口調で先程の攻防を振り返る。その朗らかな表情からは、最年少記録でデュエリンピックの金メダルをもぎ取った世界最強のデュエリストの風格は感じられない。
「遊路、遊月。お疲れ様。はい、お茶」
「ああ。どうもな美羽」
「いただきます」
美羽は熱戦を繰り広げた二人に水分補給を勧めてお茶入りの水筒を渡す。
「さて、次はお前に稽古を付けてやる。早く稼げるように強くならないとな」
「ふんっ。やってやるよ」
最近塾生第1号になった詩音はデュエルモンスターズを本格的に始め、生意気な口を利きながらも持ち前の負けん気と遊路を見返してやろうという反抗心で弟子1号として着実に手腕を磨いていた。
「あ゛あァァ!!あ゛あァァ!!」
「ありゃま、大和ちゃんどうしたの?ベロベロバー」
「あ゛ー ー ー ー !!!」
突然、堰を切ったような泣き声を大和が挙げる。母親である遊月に代わって抱っこする千代があやすも金切り声に近い泣き叫びは全然収まる気配がない。
「大和、どうしたんだろ」
「おっ ぱいの時間なんじゃない?だってあとちょっとで1時だよ」
「なっ、もうそんな時間なのか?」
「いけない!大和今行きますね」
そんなドタバタの中で遊路達は幸せを謳歌していた。
バチッ,バチバチ、ブウォン!!
「ん…な、なんだあれは!?」
後ろから妙な音がして遊路が振り返ると、空中に漆黒の丸い何かが出現していた。それはバスケットボールくらいの大きさで、まるで人間の心臓の如く収縮と膨張を繰り返すと突然グバッと広がった。
「うおっ…!なんだ、吸い込まれるぞ!」
「きゃっ!」
漆黒の何かは口を大きく開ける化け物掃除機のように周辺のものを吸い寄せていく。遊路は地面に四つん這いで踏ん張るもズリズリ、うつ伏せで堪えてもズリズリと徐々にその漆黒の何かに引き摺りこまれていく。
「うっ…、もうダメだ…うわぁぁぁぁっ!!」
地面にしがみつくも限界を迎えて浮いてしまった遊路はゴロゴロと転げ回り、漆黒の何かの中に消えてしまった。
「遊路!!」
「遊路様!…千代様!大和を頼みます!」
「遊月!待って、私も!」
「あ、遊月ちゃん、美羽ちゃん!!」
遊路の危機を見逃せないと遊月と美羽は千代の制止を振り切って漆黒の何かへと自ら飛び込んだ。その直後、漆黒の何かは遊路達を吸い込んで満腹になって帰ったように萎みながら静かに消えた。目の前で起きた事に千代と詩音は理解が追い付かず目をパチクリさせる事しかできなかった。
一方、警報が鳴り止まない部屋では多くの科学者風の人達が右往左往走り回り、事態の収拾を試みていた。
「地下は修復後、閉鎖を指示された筈なのに…誰が稼働させた!?」
「それよりも問題は今です!ワームホールの伸縮が収まりません!」
「しかもワームホール内から生命体反応があります!」
「何!?…異世界の生物がやって来るとでも言うのか…」
「次元転送装置、臨界点突破!いつ自壊してもおかしくありません!!」
「全員!!衝撃に備えろ!!」
次元転送装置と呼ばれる機械がガタガタガタと金属音を激しく打ち鳴らすと
ボフッ!!
耳を裂くような爆発音と共に、金属片が飛び散り、部屋が砂埃に覆われた。
シンと静まり返る中、1人だけむくりと起き上がる人がいた。
「…?」
遊路である。手足など体に怪我もなく、意識もまるでぐっすり寝た後にシャキッと目覚めたかのようにスッキリとしているようだ。遊路は立ち上がり周囲を見渡す。辺りは瓦礫やら金属プレートやらガラス片やらで滅茶苦茶に荒れ果て、非常灯なのか、赤色ランプが部屋全体を真っ赤に染め上げていた。
「えっと…、確か俺は変な黒いヤツに巻き込まれて…あっ遊月!美羽も!」
遊路は起こった事象や危険の確認は二の次に視界に飛び込んだ2人の元に駆け寄る。
「遊月!美羽!起きろ!!おい!」
遊路は必死に名前を叫びながら二人を揺り動かす。
「ん…。ゆ、遊路様!良かった…ご無事で…」
遊月は愛しい遊路の姿を捉えた途端、二度と離さないと言わんばかりにぎゅっと抱き着く。それに応えるように遊路も遊月の頭を撫でる。
「ああ。なんとかな。怪我はないか?」
「はい…。大丈夫みたいです…」
「…あれ?私…あぁっ、遊路!」
「美羽も良かった!大丈夫か!?」
「うん!平気!!」
美羽も起き、お互いの無事を確かるように遊路と美羽は抱擁し合う。
「みんな無事で良かった。…もしかしてわざわざ俺を追って…」
「はい…」
「無茶な事しやがって」
「…お叱りは如何様にも」
「ごめんなさい。けど、やっぱり遊路がいなくなったらイヤだから…」
「ああ、分かった分かった。そんな暗い顔をするな。…ありがとう、…愛してる」
遊路は、自分の命を擲ってでも愛情を貫く二人を抱き寄せ
て感謝と愛の言葉を囁くのだった。
「…さてと。どうしたものか」
遊路達には大きな武器があった。経験である。あの大冒険によって遊路達は、不測の事態に陥っても簡単には動揺・挫折しない度胸、どう行動するべきか決める判断力、状況を見定める洞察力、そして心の余裕を身に付けていた。
「まるでSF映画みたいな機械だな」
「…もしかしてやっぱり」
「ああ。ここは異世界だと考えるべきだろうな。あの黒いヤツ、それにこの見たことのない巨大な機械、異世界に飛ばされた以外に説明がつかない」
「そうですね」
「まずは出来ることから始めようか」
とりあいず遊路達は始めに周囲の人間の安否確認を行った。倒れている人間は全く動かないものの、息と脈はあり、顔や手の甲など露出した部分には軽い擦り傷や切り傷が散見された。
「おーい。…ダメだ。こいつも気絶してる」
「しかし、どの方も大怪我をしていないのが幸いでしょうか」
「そうだね。それにしても白衣の格好だし、ここの研究員とかかな?」
「かもな」
遊路達は気絶している研究員風の人達を瓦礫が比較的少ない壁際に寄り掛からせる格好で移動させた。たとえ異世界人相手でも人助けは当然の行いであるという倫理観でもあるし、この異世界に対して敵意はないという証明にもなると考えたからだ。
「それに白衣の刺繍を見ると日本語や英語が書かれています」
「異世界というよりパラレルワールドって感じかな?」
「みたいだな。まぁ、メルヘンやファンタジーみたいな無茶苦茶な世界じゃないだけマシか」
「うーん。魔法の世界っていうのは行ってみたいかも」
現状確認から談笑に移り始めた頃、ガチャッとドアが開く音がした。
「誰かいるのかね?」
「ん、君達。そこで何をしている?」
部屋に入って来たのは男性2人。一人はスーツを着たパパといった風合いの優男、もう一人は高身長で顔は外国人っぽい。
「俺が話すから何かあったら頼む」ヒソヒソ
「了解しました」ヒソヒソ
遊路は遊月に耳打ちして話を切り出す。
「えーっと、初めまして。私達が話す言葉は分かりますか?」
「ん?ええ、分かりますが…」
「私はサニーアップ事務所所属の風峰遊路と申します。後ろの女の子2人は遊月と美羽と言います。そちらのお名前は?」
「私はこのデュエルアカデミアの校長を務めている星乃 竜司という者です」
「私は教頭のミハエル・シュトラウスという」
竜司校長とミハエル教頭は遊路達の方が明らかに年下にも関わらず、見下したり威圧的な態度を出さず、わざわざ敬語を使って穏やかな口調で話してくれた。
遊路が竜司達と接触していたその頃。
「…ちょっと遊希?何やってるの?」
綾香が物音で起きると遊希は寝間着を脱いで白の下着姿になり、制服に手を掛けているところであった。
「胸騒ぎがして…。アカデミアで何か起きたような…」
「えっ、何かって…」
「分からない。でもとりあいずはアカデミアに行かなきゃって…。なんとなくだけど」
遊希にも自身の心に渦巻く焦燥感の正体はハッキリしなかった。ただ、安全運転をしてるのに後ろからハイビームをガンガン浴びせられぶつかるギリギリまで詰めて煽ってくる車に追い回されるような恐怖、そんな感覚が混じった嫌な焦燥感なのは確かであった。
「そう…。なら私も行くわ。確かパパも今日は校長室で仕事しているらしいし、まずはそこに行ってみよ」
綾香もいそいそとベッドを降りると
「話は聴かせてもらったわ!」
「千夏?」
「私も行きます」
「詩織まで…」
遊希と綾香の話声で目覚めたのか、千夏と詩織もベッドから出てくる。
「いいの?もしかしたら私の気のせいかも知れないし…」
「遊希と綾香の二人っきりで行かせるワケないじゃない」
「それに気のせいなら気のせいで良いじゃないですか」
「千夏、詩織、それに綾香も。ありがと…」
そんな親友達の優しさに遊希は照れた笑みを隠すように着替えの手を早くした。
次回予告
遊路「はーい。詩音クランクアップ!お疲れ様」
詩音「はぁっ!?まだ1シーンしか登場してねぇのに!ギャラは!?」
遊路「台詞1個であとは背景みたいにいるだけなのにギャラ貰えると思うなよ?昼にロケ弁出されただけでもありがたいと思え!」
詩音「なら…次回遊戯王ノーレコード・メモリー、『Meet again』!!」
遊路「コイツ…!次回予告で無理矢理仕事を取りやがった!」
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異世界転移ですからね。それらしい要因となるとやはりこれになるかなと。
こちらこそよろしくお願いします。 (2019-01-01 12:58)
さて年明けと共に始まった拙作とのコラボ。前回は遊路一人が遊希たちの世界に行く形となりましたが、今回は遊月と美羽も一緒なんですね。竜司・ミハエルの二人と早速出会っていますが果たして遊路はこの世界でどのような活躍を見せてくれるのか楽しみです! (2019-01-01 16:13)
こちらこそ明けましておめでとうございます。
とりあいず3人での異世界観光(?)になると思います。遊希達と絡むのはもうしばらく後なのでお楽しみに。 (2019-01-01 17:04)