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3 School Life 作:ター坊
《約束した待ち合わせ場所~♪“相変わ》ブツッ
この世界ではアラーム程度の役にしか立たないスマホの着歌音が消えた。
「…今日からだったな」
遊路はベッドから出るとキッチンに向かって簡単な朝食を作っていく。
「…あ」
遊路は普段の習慣で卵を多く割ってしまう。うっかりで少し豪華になったダブル目玉焼き+カリカリベーコンに白飯を盛って食べ終わると真新しいYシャツとアカデミアの制服に袖を通す。
遊路は何故こんな事になっているのか?それは2日前に遡る。
「1ヶ月半!?」
「すまない…」
遊路達が校長室で竜司からそんな宣告を受けたのはこの世界に来て少し経った頃である。竜司は壊れた次元転送装置修復のために、かつてそれに携わった者達に声を掛けた。技術提供をしたアースランド・テクノロジー、資金を工面した藤堂グループ、そしてデュエル業界の大手・海馬コーポレーションとI2社。精霊の力を借りたとはいえ、生身の人間を精霊界とこの世界の間を往来させたという偉業を成した、人類の科学技術の精鋭チームとも言えるべき存在である。竜司の、異世界からの漂流者という連絡に緊急性を察した各社は他の案件を蹴って飛んできたのだ。その早急の調査の結果、修復・転送先の座標の演算・安全性の確認などでどうしてもそのくらいの期間が必要なようである。
「…いいえ。帰れる算段を着けていただいただけでもありがたいです」
「やはり不都合があるのかい?」
「向こうの世界では世界大会で優勝した後ですのでイベントへの参加や大会出場は決定していましたが、私達が消えた経緯を見た人もいましたし…たぶん事情は理解してキャンセルしてくれるかと思います」
「入りたい専門学校の見学会がありますけどそんな事言ってられる場合じゃないですし…」
「大和も信頼する人達に預けましたので…」
「…そうですか。…では帰るまでの間は我々の方で支援させて下さい」
突然仕事をキャンセルさせてしまった事、将来の進路に向けての活動を邪魔してしまった事、赤ん坊と急に離れ離れにさせてしまった事。今回の事故に関して竜司には何の落ち度も無く、遊路側の世界での都合も関係ないが、それでも竜司は罪悪感が突き刺さり何か手を差し伸べずにはいられなかった。そこで竜司が提案したのがデュエルアカデミアへの一時入学である。
人間が生きていくのに衣食住は欠かせない。幸い、遊路達が転移した頃、この世界のカレンダーでは連休の真っ只中だったため準備時間には事欠かなかった。
衣―制服はもちろん、こちらで生活する間の何着かの私服や寝間着
食―学食の食券や寮室で使える調理器具や家電など
住―男子寮と女子寮の空き部屋1つずつ
その上お小遣い等、これだけの至れり尽くせりな待遇に遊路達も申し訳なさで、お金は日雇いのバイトで稼ぐとか生徒ではなく事務員見習いとして働くとか遠慮したが、竜司の恩情を無下にしきれず、御言葉に甘える形になり現在に至る。
「…ブレザーもイケるな」
遊路はシックなデザインのデュエルアカデミアの黒のブレザー制服を纏い、鏡の前に立つ。元の世界での遊路の学校では学ランだったが、意外と様になっているなと遊路は一人で頷く。
「さて、行くか」
鞄に教科書・ノートを詰めて遊路は部屋を後にした。
寮から出た遊路は真っ先に女子寮に向かった。男子は余程の事情がなければ入れないと事前に知らされている遊路は目立たないよう近くの木陰で待つ。
「あっ、遊路」
「お待たせして申し訳ありません」
しばらくすると美羽と遊月が可愛らしい制服姿で現れる。
「へぇ。前にあいつらのを見て着たら可愛いだろうなと思ったけど、実際に着た破壊力ヤバイな」
男子と揃いの黒のブレザーに赤いネクタイだが胸元が隆起し、チェックのスカートから覗く生脚を紺色のソックスが包む、男としてはなかなかそそられる逸品である。
「私の学校はセーラーだったから、なんか新鮮かな」
「制服…なんだか普通の服とは違う感じですね。あっ、ネクタイ曲がってますよ?」
「そうか?」
「直しますね」
「…良いなこういうの」
新婚のようなやり取りに遊路のニヤケが止まらない。
「朝からお熱いわね」
「まぁ、ほぼ結婚してるようなもんだしな」
遊路達のやり取りに遊希達が入ってくる。
「連休中はほとんど復旧についての話し合いやこっちの生活用品を揃えるのに係りっきりだったから学校内をあまり知らないでしょ?1時限目は私達も同じものをとってるし案内するわ」
「それは助かる」
遊路・遊希達は1時限目の選択科目が同じ者同士で3つに分かれた。
遊月は詩織と共に教室に向かいながら自身の今までの事を話していた。
「たった1年と少しで…。しかもその…妊娠している時に?」
「はい」
遊月は遊路と美羽の世界とも違う世界から来た人間ではあるものの、その勤勉な性格のおかげで小中学校レベルの学習は理解しており、高校レベルも現役の遊路と美羽に迫る勢いである。
「早く遊路様達のお役に立ちたいので」
「本当に風峰さんの事が好きなんですね。そういう人がいるのって、なんだか素敵です」
「詩織様にも素敵な殿方が現れますよ。とても綺麗ですし」
「そんな…、私にですか…?」
そんな会話をしている二人の後ろには男子生徒の一団がじっと見ていた。
一方、美羽は千夏とエヴァと一緒に授業が始まるまで雑談に興じていた。
「やっぱりフタマタは良くないと思いマス!」
「そうは言っても結構それで収まっちゃってる、っていうか…」
エヴァにもフィアンセがいるからこそだが、美羽と遊月と遊路の恋愛関係には納得できないところがあった。
「…じゃあエヴァさんはその…ジェームズさんと天都さんのどっちかと必ず別れなきゃいけないってなったらどっちと別れる?」
「そんなの…選べマセン…」
「きっとそれと同じかな。遊路の事は好きだけど遊月も大切な友達だから…。遊路を巡って喧嘩するくらいなら二人で愛されようって話し合って決めたんだ」
「…」
そんな美羽の話にエヴァは黙るしかなかった。
遊路は遊希と綾香と同じ教室にいた。
「今日はたぶんこの範囲だけど、どう?」
「俺の世界でもやったところだし…復習みたいな感じかな」
「そう、良かった」
「…」ジトー
まるで新入生に接するように遊希は遊路に懇切丁寧に訊くが、隣の綾香は面白く無さそうな顔で遊路を睨みつけていた。そんな視線に遊路が気付く。
「…ヤキモチ?」
「はぁ!?」
「私の遊希を取ったな、って顔に書いてある」
「べ、別に遊希は親友であって…、その…遊希は優しいからアンタに親切にするのは当然だろうし…」
「別に取って食うわけではないから」
「く、食うって…変態!」
「顔がコロコロ変わって面白いな。…おっと、先生が来たみたいだ。集中集中」
「むぅっ…」
遊路に良いようにからかわれ綾香はより一層を頬を膨らませるが、遊希は微笑ましい兄妹喧嘩を動画で眺めるような生温かい目でそのやり取りを静観していた。
1時限目が終わり、次の教室に移動する途中、遊路達は男子生徒にゾロゾロ囲まれている遊月と詩織に出会した。
「俺達バスケ部だけどさ、マネージャーやらない?」
「いやいや俺達水泳部のマネージャーに」
「テニス部に是非!」
男子達は運動部の連中のようで、遊月は熱烈な勧誘を受けていた。
「あの…皆さん、この方は…」
「お、君も可愛いね。一緒にどう?」
「あぅ…」
遊月を擁護しようにも詩織も周りの押しの強さにたじたじである。
「遊月?」
「遊路様」
「遊路様だと!?」
遊月は遊路と目が合うと詩織の手を引っ張り遊路の元に走る。
「おい!お前 遊月ちゃんとどういう関係なんだよ!」
「まぁ…彼氏というか」
「なんだよマジかよ」
「萎えるわ~」
遊月が彼氏持ちと分かると脈無しと諦めたのか、大半の男子は残念そうに帰っていった。一部を除いては。
「おい」
大男が前に出る。身長は2m近くはありそうで横にも広く、坊主頭で凶悪な面構え、同じ制服を着てなければ暴カ団系の武闘派幹部か何かのヤバい奴にしか見えない。この風貌にはさすがの遊路も息を呑む。
「な、なんだよ」
「こいつはオレの女にするぞ!」
「おわっ!!」
大男が意味不明な宣言をするや否や遊路の胸ぐらを掴む。
「遊jっ!」
「…」チョイチョイ
遊月は飛びかかろうとするが遊路が手で小さくまぁまぁと制止する。
「おい、女をオレに寄越せよ」
遊月はその艶やかな黒髪、姫として整った顔立ち、素直で一途な性格、グラドルも裸足で逃げ出す程のプロポーション、男の理想像をこれでもかと詰め込んだような少女である。この大男のように求める輩もいるだろう。遊路は眉をひそめながら挑発気味に言い放つ。
「イヤだね。それにそんな力ずくで奪うような奴に遊月も靡かないさ」
「なんだとこの野郎!!」
「うおっ!」
大男は全うな正論に腹を立てて、遊路の胸ぐらを掴んだまま持ち上げて後方にぶん投げた。その蛮行に一度は制止された遊月も堪忍袋の緒がキレたようである。
「…よくも」
「ぐぶっ!」
遊月はまず怒りの右ストレートを大男の鳩尾(みぞおち)に一発入れ、
「てやぁぁぁっ!!」
「ぐっ!!…ぁぁ」
気迫の叫び声と共にその大男を背負い投げで床に叩きつけた。その小柄な体と細腕からは想像もつかない光景である。
「…」チーン
柔道の試合とは違い、床はコンクリートのためダメージは大きく、受け身を取る暇もなかったのか衝撃がモロに全身に伝わった大男は気絶した。
ちなみにこの大男、名前を木村剛雄(たけお)。3年生で柔道部主将であり、この翌年に弟が似たような騒動を起こすのはまた別の話である。
当然、この件の後に当事者の遊月と遊路、近くにいた遊希・綾香・詩織は校長室に呼び出され事情を話す羽目になったが、そこは遊路である。口八丁に弁明し、遊月の行為は正当防衛であると主張、ペナルティーは口頭での厳重注意に留めたのだ。
「それでは以後気を付けるように」
「はい、失礼しました」
語を強めるミハエルに解放された5人は校長室を後にした。
「遊路様、それに皆様もご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「いいえ。私こそ何の力になれずすみません…」
一緒に絡まれていた詩織と遊月は互いに頭を下げ合う。
「私も特に何もしてないし。…ところでさ。なんでわざわざ自分が投げられるような事言ったの?」
「それは私も思った。 まぁまぁって止めてまで」
一方の綾香と遊希は遊路の謎の行動ついて尋ねた。
「あんなどうしようもない奴を殴って遊月がペナルティーを受けるのは馬鹿らしいと思ったからさ」
確かに、胸ぐらを掴んだ時点で遊月が殴りかかった場合、暴力を(まだ)振るってないのに殴られたと大男が言い逃れる可能性もあった。故に遊路は大男が100%悪くなるように敢えて挑発して投げられたのだ。
「遊月には気持ち良く学園生活っていうのを経験して欲しいからな」
「お気持ちは嬉しいですが、万が一怪我でもしたら…」
「お前と美羽のためにもう2回くらい命投げてるって」
「遊路様ったら…」
遊月は呆れとはにかみが混じる表情を隠すようにそっぽを向いた。
時は進んで昼休み。デュエルアカデミアの学食は腹を空かせた生徒で賑わっていた。遊路達は竜司から貰った食券ですんなり料理を受け取り、端っこの席に陣取ってランチタイムを過ごしていた。
「にしてもゴロゴロしてるよな」
遊路達が選んだのは無難という理由でカレーライス―
大抵の店のカレーはよく煮込まれているせいか具材が全て溶けきりルーオンリーで淋しげだが、デュエルアカデミアのカレーは牛肉もじゃが芋も人参も玉葱も大振りのサイズで残りつつも噛めばジューシーだったりホクホクだったり良い塩梅の食感で、育ち盛りの高校生のガッツリ食いたいという欲求を満たす食い応えのある逸品に仕上がっていた。
「添え物も美味しいです」
追加料金でトッピングも可能で、食欲を擽(くすぐ)られて遊路はメンチカツ、遊月と美羽はエビフライを乗せている。たかがトッピングとはいえ侮れない。メンチカツもエビフライも乗ってる個数は2個だが、4~5個くらいと添え物のキャベツを一皿に盛って白飯と味噌汁を付ければ定食と名乗れるくらいのクオリティーはある。メンチカツは割ると透明な肉汁の小川がチロチロ流れ、口で噛めば決壊してブワッと肉汁の洪水となる。エビフライは衣がサクッと軽く、中のエビは肉厚で噛むと爆ぜた直後に口の中にジワ~と海鮮特有の旨味が拡散される。
そんなややお高めのレストランにも引けを取らない味わいに遊路達のスプーンも進む。
「元の学校はお弁当だったからこういうオシャレな学食ってちょっと憧れだったんだよね~」
「あー、分かる分かる」
遊路達がそんな風に楽しく談笑している時である。
「おい。誰だおめぇら」
「ん?」
後ろからする乱暴な女声に遊路達が振り返る。その声の主はせっかくの綺麗な制服を着崩しており、髪は濃い金髪をポニテに結って前髪にピンクのメッシュを掛け、手には指貫グローブを着けている。顔は可愛い系寄りだが狼のようなドキツい眼つきでギラリとガンを飛ばしてくる。
「えっと…」
「そこはオレの席なんだよ!」
「…ぅぅ」
「お待ち下さい!」
その恐い女子生徒に美羽は怯えるが遊月は毅然と反論する。
「ここは誰の場所でもありません!貴方の指定席ではありませんよ!!」
「うっせぇ!ぶっ殺すぞ!!」
「二人共落ち着けって」
「あ゛!?なんだテメェ!!」
「よくも遊路様に…!」
テーブルを挟んで怒鳴り合う二人の間に遊路が仲裁に入るが、恐い女子生徒は全く聞く耳を持たず、遊月は遊月で暴言に対して頭に血が昇っていた。周囲の席の生徒達も何事かとざわつき始め、今にも殴り合いに発展しそうな時だった。
「ちょっと貴方達」
割って入ってきたのは遊希達であった。
「ここは食事をする場所であって喧嘩する場所ではないのだけれど?」
「ですが!」
「横からしゃしゃり出てくんじゃねぇよ!!」
遊希の言葉も怒り心頭の二人には届かないようである。遊路は頭を捻ってある妙案を閃く。
「ちょっと待て。じゃあデュエルで決めるっていうのはどうだ?」
「なんだと?」
「負けた奴が勝った奴の言う通りにする。殴り合いよりは賢いし後腐れもない。何よりこのデュエルアカデミアらしいやり方と思わないか?」
「おもしれぇ…。やってやるぜ」
「そう仰るのであれば、望むところです」
その女子生徒と遊月の視線の間には女の意地の火花がバチバチ散っていた。
次回予告
美羽「私達の世界のスマホアプリで運命の人を占うやつがあるんだ」
千夏「へぇ面白そう。じゃあ一番恋愛遠そうな遊希を調べて」
美羽「えーと、名前と身長と生年月日その他諸々を打って……出た!なになに…身長が貴方より少し高めで女装が似合う感じの中性的な年下彼氏が…来年にも現れて恋に落ちちゃうかもだって」
千夏「えっ!?あの遊希に?まっさかー!!」
遊希「千夏?まさかってどういう意味かしら?」ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ …
千夏「ひっ!?じ、次回『Power VS Technique』!!お楽しみに~!じゃあ…」
遊希「待ちなさい?」
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良い人ばかりじゃないですなぁ…遊月の心休まる時間がなさそうです。
ただその場の収め方もまた遊路らしいというか…。
そしてまたもデュエルの雰囲気。やっぱこうこなくてはですね。
…カレーは具沢山のが好きですねやっぱり。 (2019-01-15 12:55)
遊月さん、お疲れッス(プリニー風)。
カレーの具沢山は良いですよね。
陸也「遊路さんは相変わらず羨ましいところがあるな」
次回を待つばかり…めっちゃ楽しみです(新作作りながら)。 (2019-01-15 15:03)
遊希達が在籍する学校でも問題児の一人や二人はいるかなと思いまして登場させました。名前や素性は次回判明します。
カレーは完全に私の偏見ですね。
(2019-01-15 19:25)
デュエルアカデミアにはどのくらいの不良がいるのか?まぁ遊戯王の学校には生徒も教師もダメな奴は多いですから。
やっぱりみんな大好きカレーライス。学園らしい風景その①ということでこういった飯のシーンを入れました。
遊路「コンプライアンス的な意味で遊希達には手出しできないけどな!」
(2019-01-15 19:34)
そして案の定湧いて来るアカデミアのならず者たち。遊希相手でも食って掛かるあたりは身の程知らずと言わざるを得ないような。でも公衆の面前でイチャイチャされたら絡みたくなる気持ちもわからなくもないのが悲しいorz
>遊路「コンプライアンス的な意味で遊希達には手出しできないけどな!」
そんなことした時点でパパの雷が落ちますからね
(2019-01-15 23:40)
脳内設定では精霊界転送のノウハウがあるから1ヶ月半と短くできるだろうと考えました。世界一の科学力を信じる!
実は新キャラ、遊希とメンバー中の誰か一人と因縁があり…?それも追々判ります。
派手なシーンを入れたら神の鉄槌(=垢バン)もあり得るので気を付けていきます。 (2019-01-16 00:13)