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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第18話 転校生

第18話 転校生 作:にしん

 帝王教の騒ぎから数日が経った。帝王教ではサーカス団の支援を受けた教祖が更なるエンタメと会員の募集のために活発に動いていた。

そしてそのサーカス団ではその教団幹部の1人、白鳥 ソニ子によって荒らされた団長室やらを団員総出で片づけていたところだった。

放課後、俺は団長に用があってサーカス団に来たのだが、片づけやら掃除やらで忙しそうにしているみんなを見て引き返そうとした。


どんっ


「うわっ」「きゃあっ」


振り返った途端に誰かと正面衝突。俺は少し仰け反っただけだがその誰かは尻餅をついていた。そこにはピンク髪のチアリーダーの格好をした女の子。ミミカちゃんだ。尻餅をついているということはスカートの中が・・・と言っても流石にアンダースコートと呼ばれる「見えてもいい下着」のはず。

・・・と思ったら、そこに見えたのは紛れもなく白とピンクの縞模様のやたら薄そうな布。俺はとっさにそっぽを向くことができず、まじまじと見てしまうのであった。


「あいたたた・・・ごめんね、驚かそうとついていって・・・えっ?」

「・・・はっ!!」


我に返った俺は一瞬のうちに後ろを向く。その後、かわいい悲鳴と共にお尻に衝撃が走ったのは言うまでもない。



・・・


「またミミカちゃんアンスコ忘れてたの?」

「うぅ・・・し、私服だし履かないんだよぉ・・・」

「えぇー、ミミカちゃんチアリーダーだからつけてるってずっと思ってた」


ローラさんがミミカちゃんをなだめている。俺はというとお尻への衝撃とその拍子に床にダイブした衝撃によって額と鼻に擦り傷を負ってしまい、団長に消毒薬を吹きかけられているところだ。


「痛っ、しみる~~~!」

「練習でミスってもすぐに治せるような強力な薬だからね。しみるのは我慢しててね」

「ぎゃあああ」


とりあえずさっきの出来事をまとめると、団長室を訪れる俺を見つけ、驚かそうとこっそり追尾している時に俺が引き返した拍子に衝突。というわけか。状況整理をした時にパンツが思い出されて・・・


「虹くん、治療終わったよ・・・虹くん?」

「・・・はっ、あ、ありがとうございます」

「ぼーっとしてたけど、頭強く打ったのかもしれないね」

「い、いや、大丈夫です。多分・・・」


ミミカちゃんはまだ赤面して顔を隠して恥ずかしがっていた。なんだか役得だったけど気まずくなる。


「今回はミミカちゃんのおふざけのせいだし虹くんドンマイだね」

「役得だったし大丈夫だぜ」

「・・・まぁ、できれば忘れたほうがいいかもね」


ローラさんはミミカちゃんを連れて団長室から出た。周辺を見ると片づけはある程度終わっていたようで、治療前よりすっきりしていた。パンパンになったゴミ袋を家政婦のような恰好をしたアリシアさんが台車で持って行った。


「さて虹くん。ここに来たということは私に用事かな?」

「あっ、はい。そうです」


俺の用事は帝王教の騒ぎの時に団長に貰ったカードのことだ。結局使わなかったのだが、レプリカとはいえ流石に返さなければと思った。


「ああ、エンタメには必要ないからね。わざわざ返しに来てくれてありがとう。確かに虹くんが使うことはなかったね」

「俺は覇王烈竜という相棒がいますから」

「そうだ。明日、来月のサーカスでデュエルするシフトを決める抽選会があるんだ。本来は私たち団員が引いてリンクルで通知するんだけど、虹くんが出れる日出れない日の希望を聞いていなかったから明日までにリンクルでミミカちゃんに送ってくれ」

「了解です」

「次のエンタメデュエルも期待してるよ」

「はい!」


 サーカスで用事を済ませた後はいつものカードショップへ行く。だけど今日はいつもの友人2人がいないので1人でデッキ調整を行う。俺の覇王烈竜デッキに魔術師を組み込んだのはいいものの、まだしっくりこない。本当のことを言うとこの構成でどうエンタメするかという問題もあった。

店内にいた常連の大学生2人が俺の目の前に座った。


「お、虹。今暇か?」

「調整中だけどやりましょう」

「後で俺ともしようぜ」


常連の大学生たちとデュエルをする。サーカス団に所属してからカードショップへ行くたびに常連さんからデュエルの申し込みや調整を頼まれる。なので調整相手には困っていないが・・・


「出す前に終わったか・・・メテオバーストでダイレクトアタック」

「負けたぁ、流石エンタメデュエリストだー。でもいつものあれが出そうで出てないな」

「うーん、まだまだ調整が必要かなぁ」

「あ、じゃあこんなのはどうかな」


大学生だからか俺では思いつかない構成ややり方を教えてくれた。そしてそれを基にデッキを構成して再びデュエルをしてみる。すると・・・


「おっ、うまく回ってる!俺は手札からEMSとアストログラフ・マジシャンを、EXデッキからオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンをP召喚!そして・・・」

「やっぱりアストログラフだったか」

「ついこないだ制限にされたからクロノグラフも入れてもいいかもしれないな」


<アストログラフ・マジシャン>。効果の一部・・・②の効果が全部塗りつぶされていて読めないものの、非常に俺のデッキに必要なカードだった。だけど塗りつぶされている理由は誰にも分からないらしい。仲間と思われる<クロノグラフ・マジシャン>も同様に同じく②の効果が塗りつぶされていた。だけどこのカードはレプリカらしく、特別な力を感じない。


「イラスト綺麗だし入れることにするぜ。ありがとうございました!」

「おう」

「またやろうぜ」


早速アストログラフとクロノグラフを購入し、デッキに組み込んだ。買う際に店長にも「このカードはレプリカだけど、本物のカードが実はうちの倉庫に眠っているんだ。たまにKC社の人が確認しに来るよ」と言われた。そんなに恐ろしいカードなのか。他の効果やイラストを見る限り、<魔術師>はもちろんあの<覇王>に関係していそうだが、真相は分からなかった。

とにかくこの世には<覇王>を含む数種類のいわゆる「カテゴリ」化されたカード群が禁忌、もしくは伝説のカードとされており、出回っているのは全てがレプリカ。実際のデュエルにおいてソリッドビジョンシステムで出せるものの、レプリカなのでただのモンスターとして認識できる。実際、以前に炎属性の友人が伝説のカードのレプリカ<オシリスの天空竜>をソリッドビジョンで出したけどお互い特に何も感じなかった。

・・・ただし、俺が持つ<覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン>は紛れもなく本物のカードであり、<覇王>の名に恥じぬ恐怖を与えることができる。サーカスでのデュエルでの反応がまさにそれだ。だけど、俺にはこの竜が「デュエルに燃えている」という正義の力を感じたからこそ扱えているし、生まれ変わった覇王烈竜は反応がよかった。


・・・と考え事をしていた時、2人の見慣れない客が入ってきた。


「いらっしゃいませ」


店長はカードを整理しながらいつも通りの接客をする。その客の姿には見覚えがあるどころか、ついさっきまで会ったことがあった。


「ここが噂のカードショップなの?」

「うんうん。この強者(つわもの)が揃いそうなアットホームそうに見えてしっかりとしたショップ・・・まさに伝説の隠れカードショップね!」


大手と比べて狭い店内だけど壁やボードにずらーっと並べられたパック、シングルカード、サプライを見てはしゃぐ女の子2人。それはミミカちゃんとローラさんだった。というか“伝説のカードショップ”ってなんだ?ここは普通のカードショップだぜ?まぁ大会で成績を残す人が多いのは事実だけど。

その2人がデュエルスペースを覗いた時、目があった。


「「本当に強者いた!」」


・・・

とりあえずこのカードショップについて教えた。


「なるほどね。虹くんの行きつけのカードショップかー。でもなんで伝説のカードショップなんだろ?」

「ねー」

「それは多分俺とかあっちでデュエルしている人たちとか大会で成績残してる人が集まるからかも」

「「なるほど~」」


どうやら一部のデュエリストではこのカードショップが噂になっているようだ。主にデュエリストのレベルで。

2人は再び売り場を見回る。俺はそのままデュエルスペースでデッキ調整を続けた。さっきの大学生たちのおかげでいい感じに回るようになったので後はどうエンタメするかだった。そういえばこの2人はプロのエンタメデュエリスト。アドバイスを貰おう。

魔術師系を入れたからローラさん・・・に頼もうかと思ったけどシングルカードの販売用カードをいくつか手にして考えていた。なので近くにあるサプライを眺めていたミミカちゃんに頼むことにした。


「ねえ、ミミカ・・・さん」

「およ?何かな?あとあたしの事は“ちゃん”呼びでいいよっ☆」

「い、いいのかな・・・じゃあミミカちゃん」

「はーい♪」


ミミカちゃんは俺のデッキのカードをぺらぺらっとめくって眺める。途中気になるカードがあったのか手を止めていた。


「雰囲気的にあの時の虹くんみたいな熱いエンタメにするの難しそうかな?カッコいい・・・というより神秘的なデッキだね~」

「なるほど・・・<魔術師>を入れまくったからかも。俺的にはぱぱーっと竜たちを展開してどっかーんってやりたいからなぁ」

「ん~・・・あっ、<調弦の魔術師>かわいい~♡」

「効果も強いんだぜ。ペンデュラム召喚した時にデッキから魔術師を・・・」

「知ってるよっ。ただローラさんが着ても白いブラマジガールって感じだったから」

「あっ」


思い出してみれば確かにローラさんの髪は紫だから白いブラマジガールっぽい。


「<魔術師>だし魔法陣で竜をどーん!って出すのがかっこいいかも?」

「やっぱり<降竜の魔術師>とかのレベル7を増やすのが正解か・・・」

「<白翼の魔術師>とかよさそう!」

「でもレベル合わないし、<ゴブリンドバーグ>外したくないなー」


・・・

ミミカちゃんと夢中になってデッキ調整をして数時間後。ようやく納得のいく感じに仕上がった。その時、店長が窓のシャッターを下ろしていたところだった。俺たち以外に客はすでにいなかった。

俺は時計を見る。夜10時。時を忘れるほどすごい集中していたのだろう。ミミカちゃんもびっくりしたような顔をしていた。そしてローラさんは椅子を並べて寝ていた。


「いいデッキができたかい?今日は閉店だからデュエルは次の日でお願いね」


ローラさんを起こして外に出た。真っ暗だ。そしてカードショップの電気も消え、本当に真っ暗になる。そして店長は出入り口前のシャッターを下ろした。


「今日はもう遅いから電話しておいたよ。そろそろ来るはずだけど・・・」

「電話?」


その時、1台の車がショップの前に停まる。ハイエースだ。窓が開くとそこに乗っていたのはアリシアさんだった。


「ありがとうございます、店長さん。遅くまで遊んで皆さんの保護者が心配していましたよ?」

「うげっ、マジか・・・」

「えへへ」

「だよねー」


俺は帰った後急いで予定を確認し、ミミカちゃんにリンクルで連絡を入れるのだった。



 翌日。今日からまた平日。俺はいつも通り2人の友人と登校する。


「そういえば今日から転校生来るんだったな」

「だねー。男と女子どっちだろう。デュエリストってだけ聞いたけど」


転校生か。確か先生が黒フードの時に言ってたな。実力のあるデュエリストってだけは聞いていた。


「とりあえずデュエルだな!」

「そうだね」

「俺も俺も」

「といっても遊飛はプロだしなー。実力あるみたいだし見てみたいぜ」

「だねー」


プロか・・・俺もいつかプロエンタメデュエリストになりたい。とりあえず今日の転校生とデュエルすることになったら楽しませてやらないと。それが俺のデュエルだしな。


そして朝のホームルームでその転校生がいよいよ入ることになった。先生が教室に入ると同時にみんな一斉に静まり返る。いつもは適当な先生だがこの様子に流石に戸惑いを隠せなかったのか、ジト目をしていた。


「・・・デュエリストの転校生が来るからってそんなわくわくしてもまず授業だぞ」

「「「ぎくっ」」」

「特にそこの3人組。デュエルするなら昼休憩でなー」


教室内で笑いが起こる。俺たちデュエリスト組はクラスでも有名だ。特に俺がサーカス団所属ともなればなおさら。だけど、転校生が待っているであろう廊下からもかすかな笑い声が聞こえた。どうやら女の子のようだ。だけど、その声は聞いたことのあるような気がしなくもない。


「・・・まぁ、落ち着いたところで転校生を紹介しようか。さ、入って」


先生の言葉で元気のいい返事と共に扉が開き、その転校生が入ってきた。


「!!」

「おっ、遊飛知り合いか・・・って、こいつは!」

「サーカス団の・・・」


俺は、いや、恐らくほとんどの人はこの転校生として入ってきた女の子を知っているだろう。服装は流石に制服だが、あのメルティオールサーカス団のチアリーダー・・・


「今日からみんなのクラスメイトだ。デュエルもいいけどまずは仲良くしてくれ。自己紹介を」


その子は黒板に大きな文字で名前を書く。そこに書かれていたのはもちろん俺の知っている名前。


「転校・・・というよりサーカス団より転入しました、ミミカ=カンナカラーです!よろしくねっ☆」



ーーー
おまけ
団長「さて、なぜ作者が前回からこんなに投稿が遅れたかを説明しよう」
遊飛「なんで団長が知ってるんですか・・・」
団長「まぁそこは気にしないでくれ。オリカ掲示板でも知らされた通り、作者は別次元の人間だ。その別次元で忙しくなったり病気にかかったりしたらしい」

団長「ということで今後も投稿間隔が開いたりするかもしれないけどオリカ共々”遊戯王EM”をよろしくお願いします」
遊飛(いったい誰に向かって言ってるんだろう・・・)
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