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仙樹レギア 作:プレミメイカー
ド ド ド ド ド ド……
激しく水のなだれるような音が暗い森に響く。
「はははは早く!もっと早く走るのです!追いつかれてしまいますわ!」
「……わかってるから、もう少し静かに背負われて。」
『おにぃちゃん!リトル食べられちゃうの!?』
「だあっ、あんまり頭の上で暴れるな!」
『空を飛ぶって楽だなぁ~』
「グガオオォォッ!!!」
後方からバスターたちを追い立てるのはベヒーモスの群れ。
岩をも砕く牙と頑強な顎、大木を鎧袖一触にへし折る膂力と爪もつ百獣王が1,2,3,4
……5頭。
先ほどのバブーンたちとは違う、数と暴力による蹂躙。これだけの大型モンスターに1度にかかられては、バスターとレイナの2人で捌ききることなど不可能だった。
「もう少しですわ!」
姫芽宮の視線の先には、光!
森がひらけた!
久し振りの陽光に目の前が真っ白に眩んだが、前進を止めるわけにはいかない。
しかし、行く手が塞がれている!今までの巨木と比べてもひと際太い木によって。
「くそっ……」
これまでに疲労を思い出したかのように、急に足が重くなった。
「いえ、大丈夫。あちらを御覧なさい。」
姫芽宮が指し示す方へ振り向くと、ベヒーモスたちは先ほどの獲物を追うような、
餓えと興奮に満ちた貪欲な形相ではなく、暗い森の中で、こちら側のなにかを威嚇するかのように唸り、口角を震わせていた。
「……どうして……!?この気配は!」
触覚に反応がある。ということは、
「バスター様は気づかれたようですね。そう、この地は竜の気配が満ちている。今だ残る竜の骨や臭いが他のモンスターを寄せ付けないのです。」
「竜の……つまりここが、」
「竜の渓谷、があった名残とでも言いましょうか。そして、仙樹レギア様がおわす森の聖域でございますわ。」
それは、行く手を遮っていたあの巨木であった。眩んだ目では気がつかなかったが、鉤方の髭を生やした彫りの深い老人のような顔が付いている。
『破壊剣士の里の末裔よ。そなたが此の地を訪れた理由は存じておる。
世界に再び災いが降りかかろうとしていることも……。
そなたらが目指す竜の渓谷は生きておる。征竜の引き起こした天変地異で、3分の1ほどの規模になってしまったがな。現在は霞の谷の最奥に位置し、そこには竜と心を通わせ、共に生きる一族が住む。彼らとの接触は竜を狩る一族であるおぬしにとっては、稀有な経験となろう。』
おだやかだが、雄大な大地を思わせるほどの威厳を持った声が脳内に語りかけてくる。
「よかった……。」
これで前へ進むことができる。バスターは胸を撫で下ろす。
『渓谷まではアルパカリブに案内させよう。聖獣と呼ばれるあやつならば、谷の民に警戒されることもなかろう。』
「あの、仙樹様。一つ伺いたいことがあるのです。その、征竜について……」
『……よかろう。ワシの知る限りを答えよう。
四元素を司るかれらは決して消滅することはない。
この世に森羅万象がある限り、長い年月を経て何度でも蘇る。
お主らがこの先まみえる可能性も考えられるからの。』
仙樹レギアは柔らかに目を瞑り、自身を過去へ落とし込むかのように低く深い声音で、遥か昔、征竜が起した大天変地異について語った。
まだ、わしが此の地の根を下ろす以前のことであった……
『竜の渓谷』そこは、世界の裂け目と形容されるほどの大渓谷。覗けばその岩壁は深淵まで続き、1度落ちれば優れた飛行能力を備える翼竜種さえ、2度と日を見ることは叶わないとさえいわれるほどだ。
雄大にして悠久。地平は遥かかなた、空はその限りを知らず。風に急かされる雲だけが、時の流れていることを気づかせてくれる。
その広大さゆえに、渓谷にはさまざまな環境が存在した。南の谷底には溶岩が滾り、北の谷底には山脈から極寒の冷気が流れ込む。乾いた風が吹き荒れる荒涼とした台地、巨大生物の跋扈する熱帯雨林、無数の大瀑布が連なる絶壁……。
その全てにおいて、超常的な気象状況であったため、圧倒的な環境適応能力を備えたドラゴン族以外のモンスターは自然のうちに淘汰され、渓谷は彼らの楽園となっていた。
不可侵の自然、ドラゴン族による支配。その栄華は永遠のように思われた。
しかし、その終焉はあまりにも突然であった。栄枯盛衰、生者必滅が世の理であるにしても。
日が天上に昇りきった頃、鉛のように黒く、分厚い雷雲が唸り声をあげながら渓谷を押し潰さんとするかのように上空を覆った。
異常気象など日常茶飯事な竜の渓谷においても、これほど暗く禍々しい雷雲は前古未曾有の事象であった。
その光景に、普段は血気に満ちた狂竜たちでさえその動きを止め、夜の澄んだ暗闇とは違う、汚泥を掻き揚げたかのように澱んだ暗黒の空を見上げていた。
そして、
黒で塗りつぶされた白昼の空を一筋の稲妻が切り裂いた刹那。
荒野部の渓谷の奥底より巨大な旋風が巻き上がる。岩壁を切り崩し、生命を巻き上げ、黒雲を穿つ。そして竜巻を突き破り1体の竜が姿を現した。
かの竜こそ四征竜が一角、風の元素を司る≪嵐征竜-テンペスト≫であった。その咆哮とともに地上に降り立ったいくつもの竜巻は、万物を飲み込み元の姿さえ分からぬ砕片へと変えていく。
テンペストの出現に呼応するように、密林を焦がし溢れ出る溶岩の中より≪焔征竜-ブラスター≫が首をもたげ、山脈を突き崩し≪巌征竜-レドックス≫が現れた。大瀑布の底より≪瀑征竜-タイダル≫が浮上し、渓谷の全てを洗い流さんばかりの暴雨を呼んだ。
四征竜は自身の力を誇示するかのように自然を、ドラゴンたちを蹂躙し、3日と経たないうちに過酷な自然を有し、竜の栄えた広大な渓谷は、あらゆる生命が枯れ尽した荒野へと姿を変えた。
『……わしは森を拓く新天地を求める旅の途中、渓谷を訪れていたが、辛うじて逃れることが出来た。そして、征竜が去った後、僅かに渓谷の自然エネルギーが残っていた此の地に根を下ろし、森羅の森の礎となった。
やつらの力は、並大抵の竜とは一線を画す。その次元はもはや自然災害そのもの。
これだけは、心に留めておいて欲しい。相対しても決して戦おうなどと考えてはならん。
ただ、過ぎ去るのを待つのだ。』
1体だけでさえ、周囲の生態系、環境を一変させうる人智を超えた力を持つ竜。
バスターたちはただ、その事象に遭遇しないことを願うだけだった。
激しく水のなだれるような音が暗い森に響く。
「はははは早く!もっと早く走るのです!追いつかれてしまいますわ!」
「……わかってるから、もう少し静かに背負われて。」
『おにぃちゃん!リトル食べられちゃうの!?』
「だあっ、あんまり頭の上で暴れるな!」
『空を飛ぶって楽だなぁ~』
「グガオオォォッ!!!」
後方からバスターたちを追い立てるのはベヒーモスの群れ。
岩をも砕く牙と頑強な顎、大木を鎧袖一触にへし折る膂力と爪もつ百獣王が1,2,3,4
……5頭。
先ほどのバブーンたちとは違う、数と暴力による蹂躙。これだけの大型モンスターに1度にかかられては、バスターとレイナの2人で捌ききることなど不可能だった。
「もう少しですわ!」
姫芽宮の視線の先には、光!
森がひらけた!
久し振りの陽光に目の前が真っ白に眩んだが、前進を止めるわけにはいかない。
しかし、行く手が塞がれている!今までの巨木と比べてもひと際太い木によって。
「くそっ……」
これまでに疲労を思い出したかのように、急に足が重くなった。
「いえ、大丈夫。あちらを御覧なさい。」
姫芽宮が指し示す方へ振り向くと、ベヒーモスたちは先ほどの獲物を追うような、
餓えと興奮に満ちた貪欲な形相ではなく、暗い森の中で、こちら側のなにかを威嚇するかのように唸り、口角を震わせていた。
「……どうして……!?この気配は!」
触覚に反応がある。ということは、
「バスター様は気づかれたようですね。そう、この地は竜の気配が満ちている。今だ残る竜の骨や臭いが他のモンスターを寄せ付けないのです。」
「竜の……つまりここが、」
「竜の渓谷、があった名残とでも言いましょうか。そして、仙樹レギア様がおわす森の聖域でございますわ。」
それは、行く手を遮っていたあの巨木であった。眩んだ目では気がつかなかったが、鉤方の髭を生やした彫りの深い老人のような顔が付いている。
『破壊剣士の里の末裔よ。そなたが此の地を訪れた理由は存じておる。
世界に再び災いが降りかかろうとしていることも……。
そなたらが目指す竜の渓谷は生きておる。征竜の引き起こした天変地異で、3分の1ほどの規模になってしまったがな。現在は霞の谷の最奥に位置し、そこには竜と心を通わせ、共に生きる一族が住む。彼らとの接触は竜を狩る一族であるおぬしにとっては、稀有な経験となろう。』
おだやかだが、雄大な大地を思わせるほどの威厳を持った声が脳内に語りかけてくる。
「よかった……。」
これで前へ進むことができる。バスターは胸を撫で下ろす。
『渓谷まではアルパカリブに案内させよう。聖獣と呼ばれるあやつならば、谷の民に警戒されることもなかろう。』
「あの、仙樹様。一つ伺いたいことがあるのです。その、征竜について……」
『……よかろう。ワシの知る限りを答えよう。
四元素を司るかれらは決して消滅することはない。
この世に森羅万象がある限り、長い年月を経て何度でも蘇る。
お主らがこの先まみえる可能性も考えられるからの。』
仙樹レギアは柔らかに目を瞑り、自身を過去へ落とし込むかのように低く深い声音で、遥か昔、征竜が起した大天変地異について語った。
まだ、わしが此の地の根を下ろす以前のことであった……
『竜の渓谷』そこは、世界の裂け目と形容されるほどの大渓谷。覗けばその岩壁は深淵まで続き、1度落ちれば優れた飛行能力を備える翼竜種さえ、2度と日を見ることは叶わないとさえいわれるほどだ。
雄大にして悠久。地平は遥かかなた、空はその限りを知らず。風に急かされる雲だけが、時の流れていることを気づかせてくれる。
その広大さゆえに、渓谷にはさまざまな環境が存在した。南の谷底には溶岩が滾り、北の谷底には山脈から極寒の冷気が流れ込む。乾いた風が吹き荒れる荒涼とした台地、巨大生物の跋扈する熱帯雨林、無数の大瀑布が連なる絶壁……。
その全てにおいて、超常的な気象状況であったため、圧倒的な環境適応能力を備えたドラゴン族以外のモンスターは自然のうちに淘汰され、渓谷は彼らの楽園となっていた。
不可侵の自然、ドラゴン族による支配。その栄華は永遠のように思われた。
しかし、その終焉はあまりにも突然であった。栄枯盛衰、生者必滅が世の理であるにしても。
日が天上に昇りきった頃、鉛のように黒く、分厚い雷雲が唸り声をあげながら渓谷を押し潰さんとするかのように上空を覆った。
異常気象など日常茶飯事な竜の渓谷においても、これほど暗く禍々しい雷雲は前古未曾有の事象であった。
その光景に、普段は血気に満ちた狂竜たちでさえその動きを止め、夜の澄んだ暗闇とは違う、汚泥を掻き揚げたかのように澱んだ暗黒の空を見上げていた。
そして、
黒で塗りつぶされた白昼の空を一筋の稲妻が切り裂いた刹那。
荒野部の渓谷の奥底より巨大な旋風が巻き上がる。岩壁を切り崩し、生命を巻き上げ、黒雲を穿つ。そして竜巻を突き破り1体の竜が姿を現した。
かの竜こそ四征竜が一角、風の元素を司る≪嵐征竜-テンペスト≫であった。その咆哮とともに地上に降り立ったいくつもの竜巻は、万物を飲み込み元の姿さえ分からぬ砕片へと変えていく。
テンペストの出現に呼応するように、密林を焦がし溢れ出る溶岩の中より≪焔征竜-ブラスター≫が首をもたげ、山脈を突き崩し≪巌征竜-レドックス≫が現れた。大瀑布の底より≪瀑征竜-タイダル≫が浮上し、渓谷の全てを洗い流さんばかりの暴雨を呼んだ。
四征竜は自身の力を誇示するかのように自然を、ドラゴンたちを蹂躙し、3日と経たないうちに過酷な自然を有し、竜の栄えた広大な渓谷は、あらゆる生命が枯れ尽した荒野へと姿を変えた。
『……わしは森を拓く新天地を求める旅の途中、渓谷を訪れていたが、辛うじて逃れることが出来た。そして、征竜が去った後、僅かに渓谷の自然エネルギーが残っていた此の地に根を下ろし、森羅の森の礎となった。
やつらの力は、並大抵の竜とは一線を画す。その次元はもはや自然災害そのもの。
これだけは、心に留めておいて欲しい。相対しても決して戦おうなどと考えてはならん。
ただ、過ぎ去るのを待つのだ。』
1体だけでさえ、周囲の生態系、環境を一変させうる人智を超えた力を持つ竜。
バスターたちはただ、その事象に遭遇しないことを願うだけだった。
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