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ミステイク? 作:プレミメイカー

ブワァン

カードによって創り出された光球から開放されるとそこは背の高い木々が鬱蒼と生い茂る森の中だった。枝葉の隙間から微かに漏れた光が風と共に揺らめき、木の根や転がる岩を覆う苔をやさしく照らしている。

『渓谷、という感じではなさそうだな……。』

「……ここって、あなた達の里の近くの森ってオチじゃないでしょうね。」

「いや。火ノ木が生えていないし、里周辺でここまで豊かな森は見たことがありません。」

『こーゆーの、神秘的っていうんでしょ!』
リトルは俺の頭の上で楽しそうにはしゃぎ、尻尾をブンブン振っている。
「いててっ!おい、やめろ!あまり角を引っ張るな!」

「その角?って飾りじゃなかったの?」

「ん、あぁ、外から来た人たちにもよく言われるんですけど、コレはマスクじゃなくて素顔なんだ。当然この角にも神経が通っています。俺達はこれで、相手がドラゴン族かどうか判別することができるんですよ。」

「え、え、じゃあ、その鎧みたいなのも元からで、ていうことは、あなた、今……」
顔を赤らめ目を泳がせながら、俺の体を震える指先で差す。

「安心してください!これはちゃんと鎧です!けっして全裸などではないですよ!」
腰に手を当て仁王立ちしてみせる。

「……。」
スパンッ!強烈なビンタが右頬を貫く。
「ぶふっ……!?」

『デリカシーというものがないな!お前は、こういうときは
もっとオブラートに包んで、「僕はけっしてフルティn……』
キュッ レイナの腕が父の首もとを捉える。
「絞めるわよ。」

『……もう、おぢぞうぜす(落ちそうです)。』

「このッ、変態親子ッ……」
レイナは父を放り、森の奥へ誰が見ても苛立った足取りでずんずん進んでいった。

「ちょっ、1人で行くのは危ないですよ!……ん?」
リトルが足元でぴょんぴょん跳ねている。
『ねーねー!リトルは?今、フルティン?ねーねー!』
キュッ
「父さん。リトルが変な言葉覚えちゃったじゃないですか……」
『ぐっ、ずばだび(すまない)……。』




「……もう、なんなの、あの親子。デリカシーの欠片もない!……けど、久しぶりね。
ああやって馬鹿に巻き込まれるのも。村をでて2年かって……あれ、みんなは?」

……ガサガサッ!

「バスターなの?」

ガサガサガサッ!!

「……違う、どんどん増えて……ッ」


きゃああぁぁ~っ!!

「今のは!レイナさんの声だ!」
声はそう遠くなさそうだ。俺はリトルを抱え急いで声の元へ走った。

「レイナさん!……これは……」
剣を構えるレイナの行く手を阻むように、いくつもの赤い炎がゆらゆらと茂みの暗がりに浮かんでいる。
「……なにか、し、死霊的、なものかしら?は、早く何とかしてちょうだい……」
レイナは剣を構えながらもどこか力なく、少し青ざめているように見える。

『いや、そのような気配は感じられんな。この森に巣くうモンスターだろう。』

「ドラゴン族でもなさそうですね。」
リトルは俺にしがみつき、胸板に顔をうずめて動かない。

≪答えろ。お前らは何者だ。ここへ何をしに来た。≫

どこからともなく声が聞こえた。直接頭にというよりは森全体に響いているような感覚だ。

「お、俺は破壊剣士の里からやってきたバスター・ブレイダーといいます。
ある竜を倒すため、いまは竜の渓谷を目指しているところです。」

≪旅の者か。竜の渓谷……聞かない土地だな。
う~ん……下手に歩き回られ野たれ死なれても困る。≫

そういうと、前方を塞いでいた炎の1つが進み出てきて、1匹の燃えるキノコ型のモンスターが、ちょこちょこと歩き姿をあらわした。
「かっ……(かわいい!)」

「どうしました?レイナさん。」

「……なんでもないわ。」

「僕たちはストール。この森羅の森の監視役をやっているんだ。悪い人たちじゃなさそうだから、姫芽宮様のところに案内してあげる。あの方なら何か知ってらっしゃるかもしれないから。」
ついておいで。と1匹が言うとストールたちは一列に並び、その灯りで俺達を導いてくれた。





『わーッ!おっきい木だね!』
何度も木を見上げては、俺の足元をトタトタ走りまわる。

「こんな立派な木は初めてみたな。タイラントドラゴンよりでかいかもしれない。」

「賢樹シャーマン様だよ。この森で2番目に長寿なんだ。とっても物知りだけど大体眠ってばかりで姫芽宮様以外に起こされると、すごく機嫌を悪くするから静かにしてね。」

『おにいちゃん!この木お顔付いてるよ!へんなの~』
賢樹を前足でペシペシと叩く妹。

「こらッ!リトル!」 いつの間に!
急いで妹のもとへ向かい、抱えて戻ってくる。

『……セーフのようだな。』
龍を覆う光が強弱を交互に繰り返している。焦るとこうなるのか。

「ここだよ!この奥に姫芽宮様がいらっしゃいますよ。」
先ほどのシャーマンより巨大な木に、これまた大きな洞があいている。
その脇に1人の門番らしき男が立っている。
「ストールよ、そやつらは何者だ?
どこの馬の骨とも分からんやつらを通すわけにはいかぬぞ。」

「馬の骨とは失礼ね。私達は世界を守るために動いているのよ。」
レイナが静かに前へ出る。

「!!……ふ、(ふつくしい……)」

「?……なに。」
じっと見つめてくる男にレイナは眉をひそめる。

「そなた、種族は?」

「戦士族よ。それがどうしたの。」

「戦士、か……(くっ、姿かたちこそ近けれど、植物族の私とは相容れぬ身……。
しかし、愛に境界なしというのはあらゆる書物の証明するところ!要は当人の思いと努力しだい!だが、どうすればよいのだろう。今だにおなごと交際したことがない故、勝手が分からぬ。戦士というからには、まずは一緒に剣の鍛錬でも……)。」

『なんか、固まってしまったぞ。』
「ブレイドはクソ真面目だから時々こうなるんだ。
さ、ほっといて姫芽宮様に会いに行こう。」

自然に出来たのか疑いたくなるほど、分厚く岩のように硬い幹のトンネルを抜けると、広い空洞が広がっており、見たこともない薄い桃色の花を湛えた木々が立ち並ぶ。上を見上げると、この空洞は巨木の先端までぽっかりと空いており、そこから降り注ぐ柔らかな日差しが、舞い散る花弁のことごとくを透かし、この世のものとは思えぬ幻想的な光景を作り出していた。
今まで、はしゃぎまくっていたリトルもこれを目の前にしては、ただただ見惚れるしかないようだ。

「……綺麗。」
うっとりと眼前の夢のような空間に浸るレイナの姿は、普段より幾分か女の子らしく見えた。
「……。」

『なにを見ているんだ?バスター?』

「い、いえ。なにも!」



「姫芽宮様がおいでになられました!」
ストールがかしずく。

「え?」

ぶわっ

花びらがつむじ風に舞い上げられたかと思うと、その中から萌芽の色の衣を纏い、深緑のように瑞々しい髪を伸ばした見目麗しい気品のある女性が現れた。

「始めまして、旅のお方。私が森羅の姫芽宮、サクヤと申します。」
その容貌に似合う淑やかな声音。

「お、お初にお目にかかります!姫芽宮様。私、破壊剣士の里のバスター・ブレイダーと申します。」

「レイナです。」

「わんっ!『リトルだよ!』」

「あら、そちらの龍の殿方は?」
と俺の背後にいる父さんへと目線を向ける。

『おっと、失礼いたしました。ファザー・ブレイダーともうします。』
姫に見蕩れ完全に上の空だったようだ。生前の姿だったら盛大に鼻の下を伸ばしていたことだろう。

「実張りのピースから話しは伺っております。竜の渓谷をお探しとのことでしたが、
その理由をお話しいただけませんか?」

「はい……」
俺は里の壊滅からここに至る経緯を姫芽宮に話した。

「……そんな出来事が、これは協力を断る理由などございませんね。森羅の民はできうる限りあなたがたの旅を支援いたしますわ。」

「ありがとうございます!」

「カードに関してですが、正常に機能した結果だと思います。なぜなら、ここは竜の渓谷だった場所、と伝えられておりますから。そのカードの記憶は、かのマスター・ブレイダーが残したものということは、この森の発生以前のものということは確実です。
その長い年月の間に、ここにあった渓谷は、あることがきっかけで失われてしまいましたの。」

「渓谷が、ない……?」
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