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竜角の狩猟者 作:プレミメイカー
無意識だった。咄嗟に走り出したのは、俺たちの家の方角。里の奥はさっきいた場所と比べると、家の形がかろうじて残っていた。そのせいだろうか、一層、自分の抑え込んでいた感情が掻き立てられ、目尻から溢れ出す。
「……父さん、母さん、リトルッ!、」
ズルッ
「!!」 雨でぬかるんだ地面に足を取られる。
「くそッ!」
「グオオオ~ッ!」
竜が雄叫びをあげ、巨体をうねらせながら、俺たちを喰わんと襲い掛かってきた。
剣を握る手に力がこもる。
「こうするしか、ないのか……?」
生と死と、理性と本能の間で揺らぐ俺の心を横目に、
1つの人影が竜の口めがけて飛び込んでいった。
ズシャアッ
影は手にしていた剣で、竜の口蓋から脳を串刺にし、一撃の内に竜を屠った。
「……ッお前!いまのは!」
里の仲間だったのに!荒々しく剣士の肩に手を掛ける。
「……助けたのに、なぜ?」
黒い鎧に掛かる蒼髪をなびかせ、静かに振り向いたのは、
「おん、な?」
「……悪い?」
感情の感じられない冷たい視線だった。
「助けてもらったのに、すみません。俺はバスター、バスター・ブレイダーと言います。」
俺はこれまでの経緯を掻い摘んで彼女に話し、先の非礼を詫びた。
「そう、私はレイナ、狩猟者よ。いいわ、そんなこと。それに、私も似たようなものだから。」
「似たようなって、まさかあなたの故郷も!?」
「えぇ、人を竜へと変え、意識をも蝕む竜化の病、それが2年前、私の村に蔓延したの。
今はその治療薬の材料になる角を持つ竜を探して旅をしているわ。
村の人が変化した竜は、この竜の姿とは違うから病と関わりがあるかはわからないけどね。……先輩としてひとつ、忠告してあげる、たとえ正体がなんであろうと
竜の斬るのをためらっては、ダメ。その大事そうに抱えている仔にだって、いつか牙を向けられる可能性だってあるのよ。」
今度は冷たいものの奥に何か決意めいた強さを秘めた目だった。
彼女自身、かつての同胞を斬り生き延びてきたのだろう。
確かに、あのままだったら俺は、
「……そうだ、助けてあげたうえに忠告までしたんだから、質問にこたえて。」
「破壊剣士の里、ってどこ?」
「ここが、俺の家です。」
やっぱり、残っていた。屋根が半分崩落している程度で、ここらの家の中では一番被害が少ない。彼女が求める情報があるかはわからないが、
ここには父さんの書庫がある。もしかしたら。
「まさか、破壊剣士の末裔がこんな腰の抜けた男の子だったなんて、意外。竜を斬ることに異常なほど興奮する竜姦の一族だなんて噂もあったのに。」
「竜姦ってなんですか。初めて聞いたんですけど……」
「知らないの?あれをあそこにこう……」
左の人差し指と親指で作った輪っかに、人差し指を差し込もうとする彼女の右手を
「やめてくだい。」
すんでの所でつかんで阻止した。
「そ、それじゃあ入りましょう。」
ガチャッ
内装はだいぶ荒れてるな……。人の気配は、ない、か。
書庫は地下にあったから、たぶん大丈夫そうだけど……。
「ここです。」 ギイッ
仔竜は妹の部屋がほとんど無事だったので、そこのベッドに寝かせてきた。
2人で薄暗く先の見えない階段を慎重に進んでいく、雨が降ったせいか、かび臭い。
「すごい。ドラゴン族に関する書物がこんなに。」
今まで限りなく無表情だった彼女も背丈の倍は悠にある本棚がラビリンス・ウォールのように立ち並ぶさまには驚きを隠せないようだ。
「これだけの量だ、2人で手分けして探しましょう。」
「……ええ、そうしましょう。けど、その前に、はなしてくれないかしら?」
「? まだ聞きたいことでもありましたか?」
「そうじゃなくて、手。」
ずっとつかんだままだった右手をあげて見せる。
「んなッ!///す、すみませんでした!!!」
なんでいままで黙ってたんだ!やっぱりこの人変わってるよ!表情読めないし!
「?、なにか謝ること?」
本探しを終え1階に戻る頃には、翌朝になっていた。
その資料は膨大で、中には聞いたこともないようなドラゴン族の名から能力まで記されたものや、ドラゴンに類似した外見を持つモンスターについての書物まであった。『銀河眼の書』、『ドラゴン族封印の壺の伝説』、『ドラゴンのメタファイズ化現象について』、『壊獣の出現記録』など、気になったタイトルの書物を片っ端から引き揚げた。
「しかし、すごい量ね!私の村にだってここまでの資料はなかった!これだけあれば村の人たちを救う手段がわかるかも!」
「……。」
その目に砂漠でオアシスを見つけたかのように喜々とした光が灯る。
俺は彼女の豹変ぶりにすっかりあっけにとられてしまった。
「何を見て……あっ、……ごめんなさい。不謹慎だったわね。」
恥ずかしそうに眼を伏せる。
「いや、いいんです。少しでもレイナさんの役に立てたら幸いですよ。」
『おにいちゃん!』
「!?」
「どうしたの?」
「今、また妹声がしたんッ…ぐふっ!」
腹になにかが勢いよくぶつかってきた。
「これは、あなたの仔竜!大丈夫!?」
「大丈夫です!かまれてもいません。しかし、こいつ、こんなに人懐っこいなんて」
白くふわふわしたしっぽを左右にブンブン振り回している。ホントに犬みたいだな。
『おにいちゃん!生きてたんだね!よかった、本当によかった!』
これは、この仔竜の……まさか
「リ、トル?」
『そうだよ!リトルだよ!どうしたの?おにいちゃん、リトルの顔忘れちゃった?』
仔竜が俺を見上げる。その様子は妹のリトルと重なって見えた。
「死んだって忘れるもんか……。」
どんな形であれ、生きていてくれたことがうれしいかった。
……俺にもまだ生きる意味があった。妹を守るんだ。
一緒に生き延びて元に戻す方法を探そう。
そして、倒すんだ。二度と俺のような者を生まないために、あの邪竜を!
俺は懐でじゃれる妹を強く抱きしめた。
「……父さん、母さん、リトルッ!、」
ズルッ
「!!」 雨でぬかるんだ地面に足を取られる。
「くそッ!」
「グオオオ~ッ!」
竜が雄叫びをあげ、巨体をうねらせながら、俺たちを喰わんと襲い掛かってきた。
剣を握る手に力がこもる。
「こうするしか、ないのか……?」
生と死と、理性と本能の間で揺らぐ俺の心を横目に、
1つの人影が竜の口めがけて飛び込んでいった。
ズシャアッ
影は手にしていた剣で、竜の口蓋から脳を串刺にし、一撃の内に竜を屠った。
「……ッお前!いまのは!」
里の仲間だったのに!荒々しく剣士の肩に手を掛ける。
「……助けたのに、なぜ?」
黒い鎧に掛かる蒼髪をなびかせ、静かに振り向いたのは、
「おん、な?」
「……悪い?」
感情の感じられない冷たい視線だった。
「助けてもらったのに、すみません。俺はバスター、バスター・ブレイダーと言います。」
俺はこれまでの経緯を掻い摘んで彼女に話し、先の非礼を詫びた。
「そう、私はレイナ、狩猟者よ。いいわ、そんなこと。それに、私も似たようなものだから。」
「似たようなって、まさかあなたの故郷も!?」
「えぇ、人を竜へと変え、意識をも蝕む竜化の病、それが2年前、私の村に蔓延したの。
今はその治療薬の材料になる角を持つ竜を探して旅をしているわ。
村の人が変化した竜は、この竜の姿とは違うから病と関わりがあるかはわからないけどね。……先輩としてひとつ、忠告してあげる、たとえ正体がなんであろうと
竜の斬るのをためらっては、ダメ。その大事そうに抱えている仔にだって、いつか牙を向けられる可能性だってあるのよ。」
今度は冷たいものの奥に何か決意めいた強さを秘めた目だった。
彼女自身、かつての同胞を斬り生き延びてきたのだろう。
確かに、あのままだったら俺は、
「……そうだ、助けてあげたうえに忠告までしたんだから、質問にこたえて。」
「破壊剣士の里、ってどこ?」
「ここが、俺の家です。」
やっぱり、残っていた。屋根が半分崩落している程度で、ここらの家の中では一番被害が少ない。彼女が求める情報があるかはわからないが、
ここには父さんの書庫がある。もしかしたら。
「まさか、破壊剣士の末裔がこんな腰の抜けた男の子だったなんて、意外。竜を斬ることに異常なほど興奮する竜姦の一族だなんて噂もあったのに。」
「竜姦ってなんですか。初めて聞いたんですけど……」
「知らないの?あれをあそこにこう……」
左の人差し指と親指で作った輪っかに、人差し指を差し込もうとする彼女の右手を
「やめてくだい。」
すんでの所でつかんで阻止した。
「そ、それじゃあ入りましょう。」
ガチャッ
内装はだいぶ荒れてるな……。人の気配は、ない、か。
書庫は地下にあったから、たぶん大丈夫そうだけど……。
「ここです。」 ギイッ
仔竜は妹の部屋がほとんど無事だったので、そこのベッドに寝かせてきた。
2人で薄暗く先の見えない階段を慎重に進んでいく、雨が降ったせいか、かび臭い。
「すごい。ドラゴン族に関する書物がこんなに。」
今まで限りなく無表情だった彼女も背丈の倍は悠にある本棚がラビリンス・ウォールのように立ち並ぶさまには驚きを隠せないようだ。
「これだけの量だ、2人で手分けして探しましょう。」
「……ええ、そうしましょう。けど、その前に、はなしてくれないかしら?」
「? まだ聞きたいことでもありましたか?」
「そうじゃなくて、手。」
ずっとつかんだままだった右手をあげて見せる。
「んなッ!///す、すみませんでした!!!」
なんでいままで黙ってたんだ!やっぱりこの人変わってるよ!表情読めないし!
「?、なにか謝ること?」
本探しを終え1階に戻る頃には、翌朝になっていた。
その資料は膨大で、中には聞いたこともないようなドラゴン族の名から能力まで記されたものや、ドラゴンに類似した外見を持つモンスターについての書物まであった。『銀河眼の書』、『ドラゴン族封印の壺の伝説』、『ドラゴンのメタファイズ化現象について』、『壊獣の出現記録』など、気になったタイトルの書物を片っ端から引き揚げた。
「しかし、すごい量ね!私の村にだってここまでの資料はなかった!これだけあれば村の人たちを救う手段がわかるかも!」
「……。」
その目に砂漠でオアシスを見つけたかのように喜々とした光が灯る。
俺は彼女の豹変ぶりにすっかりあっけにとられてしまった。
「何を見て……あっ、……ごめんなさい。不謹慎だったわね。」
恥ずかしそうに眼を伏せる。
「いや、いいんです。少しでもレイナさんの役に立てたら幸いですよ。」
『おにいちゃん!』
「!?」
「どうしたの?」
「今、また妹声がしたんッ…ぐふっ!」
腹になにかが勢いよくぶつかってきた。
「これは、あなたの仔竜!大丈夫!?」
「大丈夫です!かまれてもいません。しかし、こいつ、こんなに人懐っこいなんて」
白くふわふわしたしっぽを左右にブンブン振り回している。ホントに犬みたいだな。
『おにいちゃん!生きてたんだね!よかった、本当によかった!』
これは、この仔竜の……まさか
「リ、トル?」
『そうだよ!リトルだよ!どうしたの?おにいちゃん、リトルの顔忘れちゃった?』
仔竜が俺を見上げる。その様子は妹のリトルと重なって見えた。
「死んだって忘れるもんか……。」
どんな形であれ、生きていてくれたことがうれしいかった。
……俺にもまだ生きる意味があった。妹を守るんだ。
一緒に生き延びて元に戻す方法を探そう。
そして、倒すんだ。二度と俺のような者を生まないために、あの邪竜を!
俺は懐でじゃれる妹を強く抱きしめた。
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