蓮華VSダニエル 武装侍女VS斬閃帝！⑧　作：はにわ改

　
「ーー嘘よ……あんなの嘘に決まってる」

ーー透矢たちの下から走り去った久遠は、一階ホールのベンチに腰掛けていた。

「あんなの……あたしたちの前だから体裁を振るったに決まってる！」

久遠は蓮華の言葉にショックを受けていた。
同時にその言葉を素直に受け止めきれない自分がいたのである。

ーープロに戻るよりも自分たちと一緒にいる事の方が大事？

ーー嘘だ！

少なくともそこには自分の存在は『入っていない』。

もし入っているなら、何故アメリカ留学の話の際に、自分の味方になって反対してくれなかった？

留学した方がいいってお姉ちゃんも蓮華さんも一緒になって賛成して、
本当は我が儘な私が鬱陶しかったに決まってる！

現に今だって離れて暮らしてーー私がどんなに……！
どんな思いでいるか！

ーー頭を掻きむしりながら心の中で必死に否定する。

「お父様もお母様も、全然家に帰ってこないし……っ！
みんなで……みんなで私を蔑ろにしてーーっ！」

人の姿はまばらとはいえ、感情と共に声を溢れ出させる。

ーー分かっている。

全ては自分の我が儘なのだ、と。

でもーーでも、やっぱり私はーー！

「ーー久遠、か？」

「え……？」

ふと呼び掛けられて我に返り、顔を上げる久遠。
すると目の前に立っていたのはーー。

「フレッド……」

「久遠、どうしたんだ？
泣いてた、のか……？」

いつの間に現れたのか、そこにいたのはアルフレッドであった。
自分の顔を見て心配する彼に、久遠は慌てて目の周りを乱暴に拭き取る。

「な、何でもない」

「何でもなくないだろ。
こんなところで独りで泣いてるなんて、何があったんだ」

「うるさいっ！
あなたには関係ないっ！」

「関係なくなんてない。
大事な友達が泣いてるのに、放っておけるわけがないだろ」

「友、達……？」

何気なく言ったアルフレッドのその言葉。
久遠はそれを聞いて、突然気持ちの中で何かが弾ける。

「あ、あはははははっ！」

「く、久遠っ？」

「あはははは、友達、友達か！
あはははは、あははははっ！
あーおかしい、可笑しすぎるよ、フレッド！」

「久遠、どうしたんだ、一体」

異常とも言えるその笑い方にアルフレッドは戸惑いつつも、久遠に手を伸ばす。
だが久遠はきっと眉を吊り上げると、その手を強く打ち払った。

「ーー触らないでっ！」

「久遠……」

今までにない久遠の拒絶。
先の笑いも含めて、アルフレッドはただ呆然とするだけだ。

「間違えないでよ。
私は久遠よ！
お姉さまじゃないっ！」

「く、久遠、何、言って……」

「お姉さまは今、透矢くんと一緒よ！
最近、ずっっっと一緒に居るわ！
あんたがモタモタしてるから、お姉さまはどんどん、透矢くんに入れ込んじゃうのよ！」

「久遠……」

「あんたみたいな甲斐性無しなんてもう知らないっ！
もう２度と話しかけないでっ！」

「久遠っ、待てっ！」

癇癪を起こしたとでも言うべきか激しい剣幕で叫んだ後、久遠は再び走り出した。
アルフレッドも久遠の叫びが身体に痺れとなって残っているのか、すぐに動けない。
久遠はそんなアルフレッドを当然のように待つはずはなく、エレベーターへと乗り込み、一人で行ってしまったのだった。






ーーホテル地下遊技場。

蓮華とダニエルのデュエルもいよいよ大詰め。
蓮華のフィールドに、彼女が持つ最強の能力を持つ『侍女（メイド・アームズ）』が召喚された。

ーー『聖皇侍女（ラ・ピュセル・ドルレアン） ジャンヌ・ダルク』。

透き通るかのような清麗な白色の髪。
青色の司祭服の上から銀色の肩・胸・腰当ての甲冑を装備し、その手には十字架を思わす細身の長剣を握る。
伝説に名を遺す麗しの聖女、その眼差しは力強く、そしてどこか優しさにも満ちている。

レベルは１０、攻撃力は４０００。
神に匹敵する攻撃力を持つ。

「『ジャンヌ』は場に『麗しき戦線』が表側表示で存在する時のみ特殊召喚が可能です」

「ーー最高だよ、レンゲ。
まさか実戦でそのカードを召喚されるなんて思わなかった」

ダニエルは自然と手を叩いていた。

伝説の神のカード然り、召喚条件の厳しいモンスターはそれ相応の能力を持っている。
それは他のカードを寄せ付けない程の絶対的な力だ。

「『ジャンヌ』の効果！
戦闘時、相手モンスターのレベル１につき４００ポイント、『ジャンヌ』の攻撃力をアップさせます」

蓮華はそう言いながら戦闘する相手に指定したのは、ダニエルの場の『カイゼル』。
そのレベルは８であり、合計３２００ポイント攻撃力アップ。
これにより『ジャンヌ』の攻撃力は７２００へと至る。

「ーーバトルです。
『ジャンヌ』で『カイゼル』を攻撃致します！」

攻撃力７２００の『ジャンヌ』に対して『カイゼル』は２８００。
ダニエルのライフは無傷だが、これが通れば一撃でそれも吹き飛ぶ。
ダニエルの場にはリバース・カードが１枚残されているがーー。

「（僕のリバースは『ブレイブ・フォース』。
相手の攻撃を無効にする罠カードだが……『ジャンヌ』には無意味なカードだーー）」

そう、何を伏せていようと、『ジャンヌ』に対してそれは発動『出来ない』。
それこそが『ジャンヌ』の持つ最大の能力だからである。

「『Ｑｕｅ ｄｉｅｕ ｖｏｕｓ ｂｅｎｉｓｓｅ（神のご加護があらんことを）』！」

一瞬である。
『ジャンヌ』がその場から動かずに剣を２度振るうと、『カイゼル』の身体は十字に引き裂かれ有無を言わさぬまま粉砕。
同時にダニエルのライフを０にしたのだった。

「ーー僕の敗けだ、レンゲ」

さばさばとした表情で負けを認めたダニエル。
すると蓮華に向かって歩き出し、その目の前に立つと、彼女に手を差し出した。

「やっぱり君には敵わないな」

「いえ……楽しいデュエルでした」

差し出された手を蓮華が握り、握手を交わす二人。

「負け惜しみに聴こえるかもしれないが、君に負けて少しホッとしたよ」

「え？」

「僕にとって君は永遠の憧れだからね」

「ダニー……ごめんなさい」

「謝らないでくれ。
付き合ってくれてありがとう。
君の気持ちも知る事が出来て、これで僕も踏ん切りを付けられそうだ。

ーーまぁ、未練はあるけどね」

照れ臭そうに笑うダニエルに、蓮華も笑みを返すが、どこか申し訳なさそうでもある。

「……プロでのご活躍、お祈りしております」

「ああ。
君に恥じないデュエルをするためにも努力を続けるよ」

最後にそう言葉を掛け合い、お互いの手が離れる。
同時にそれは二人の決別を意味していたーー。


「ーーすっげーっ！蓮華さんっ！
あのダニエル・スティーブンに本当に勝っちゃうなんてさ！」

「蓮華さん、重めのデッキなんだけどねー。
ああいう際どく凌ぐ芸当は本当、職人芸って感じね」

一部始終を見終えた透矢と刹那が蓮華を讃える。

「ったく、久遠の奴、いいところでいなくなりやがってさ。
本当にどうしちまったんだ？」

ふと透矢が久遠が去った方角をまた見ながらそんな事を言うが、刹那は何も答えない。
そうしていると蓮華・ダニエルの二人がデュエル・スペースから出てくる。
するとダニエルは刹那の前で立ち止まった。

『セツナ。
ご両親によろしく伝えてくれ』

『ええ、ダニー。
何ていうかその……蓮華さんを取ってしまったみたいで、ごめんなさい』

『ははは。
ま、君たち姉妹が早く結婚してレンゲを自由にしてくれれば、僕にもまだ目があるかもな？』

『くすくす……そうですね』

冗談交じりに言葉を交わす刹那とダニエル。
だが英語での会話であるため、透矢には何を言ってるのかさっぱり分からない。
そしてダニエルは手を振りながら、一同を置いて先に帰って行ったのだった。
その背中を見守る透矢と刹那、そして蓮華。

「ーーお嬢様、この度は私事で申し訳ございません」

「何を謝るの、蓮華さん。
それより、蓮華さんこそ本当にいいの？
私たちに遠慮する事なんてないのに」

「いいえ、私はお嬢様のお側にお仕えしとうございます」

「後悔……しない？」

「はい」

迷うことなくそう頷いた蓮華。
すると刹那は明るい笑顔を見せ、蓮華もそれに合わせて微笑んだ。

「あの……ところで、久遠お嬢様はどちらにーー」

「ああ、久遠ならいきなり出てっちゃって。
デュエル決着寸前のところで帰っちゃったんすよ、あいつ」

「左様でございますかーー」

透矢の返答を聞いて、若干沈んだ表情を見せる蓮華だが、刹那がその手を静かに繋ぐ。

「大丈夫、蓮華さん。
久遠もきっと蓮華さんの気持ちは分かってくれてるから」

「お嬢様……」

蓮華の腕にすがり付く刹那。
母親かあるいは姉に甘えるような刹那の姿が透矢には新鮮に映りつつも、仲の良さそうな二人に温かいものを感じずにはいられないのだった。