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HOME > 遊戯王SS一覧 > 04 Ryzin’

04 Ryzin’ 作:Ales



1st.Turn
蘭 LP:8000 D:35 H:5 G:0 V:0 Ex:15

  □□□□□
  □□□□□□
   □ □
 □□□□□□
  □□□□□

遊士 LP:8000 D:35 H:5 G:0 V:0 Ex:15


 「わたしのターン、まずはペンデュラムゾーンに《XD-G ライトニング・ショット》をセットして効果発動、800LP払ってデッキから《XD-G コンティニュアル・モルター》を手札に加えてそのままペンデュラムゾーンにセットするよ!」


蘭 LP:8000 → 7200


 「ペンデュラムモンスター……って、それじゃあスケールが同じ……」

 ペンデュアル召喚は、ペンデュアルゾーンあるモンスターのスケールの間のレベルを持つモンスターを特殊召喚する召喚法である。2と3といった隣接するスケールはもちろんの事、同じスケールではペンデュラム召喚は行えない。

 「もっちろん、策はあるよ!モルターの効果、手札1枚を捨ててデッキから「XD」モンスター1体を、効果無効で特殊召喚!《XD-G ヒドゥン・スナイパー》を特殊召喚、更に魔法カード《XD・緊急召集令》を発動!ペンデュラムゾーンの「XD」を全てデッキに戻してシャッフル、更に戻した数+1枚のカードをドローするよ!」

 ペンデュラムゾーンのカードを能動的に入れ替えられる手段は意外と少ない。それを知っての遊士の先の言であったが、蘭もそれは承知している。が、彼女も馬鹿ではない。ペンデュラム召喚が出来ない状況を作るのは、デッキパワーを減衰させているのと同義である。よって入れ替えの手段は確保しており、確保しているからこその一手であった。

 「ライトニングとモルターをデッキに戻して3枚ドロー、再びライトニングをセットして効果発動!デッキから《XD-G アサルト・ショット》を手札に加えてモルターをペンデュラムゾーンにセット、モルターの効果発動!手札1枚を捨てて、デッキからライトニングを特殊召喚!」


蘭 LP:7200 → 6400


 「結局、また同じスケールに……いや、リンク召喚?」
 「あーうん、そう、リンク召喚!召喚条件は戦士族モンスター2体、《XD-G ヒドゥン・スナイパー》と《XD-G ライトニング・ショット》をリンクマーカーにセット、リンク召喚!《聖騎士の追想 イゾルデ》!リンク召喚成功したにイゾルデの効果でデッキからアサルトを手札に加えてもうひとつの効果発動、《最強の盾》《やりすぎた埋葬》《ゴーストアーマー》《ライトプラズマ・ライフル》の4枚を墓地に送ってレベル4の戦士族モンスター、スナイパーを特殊召喚!」





 「……うーん。」

 遊士と蘭が火花を散らす最中、観覧席で妹に腕を絡め取られながら観戦していた信は、意せず声を上げた。

 「どしたの、信君?」

 腕に胸やら頬やら、とにかく密着した希実が斜め下から顔を覗き見るようにして訊ねる。

 「いや、蘭が全開で様子見するって、珍しいと思って。」
 「どこまで見えてる?」
 「バズーカかな。エクストラジョーカーの弾を補充しつつ先攻制圧すると見てる。」
 「ペンデュラム召喚は?どうするの?」

 一度デッキに戻してカード交換をした蘭であるが、結局全く同じモンスターをセットしている為、現在のスケールではペンデュラム召喚は出来ない。

 「んー、破壊するかバウンスするか……いや、そもそもする予定はないんじゃないかな、蘭の場合。」

 イゾルデのリンク召喚により蘭のエクストラデッキには2体のペンデュラムモンスターが存在する。だがそもそもペンデュラム召喚は必須ではないし、現状ペンデュラムゾーンに存在する2体を考えれば、ペンデュラム召喚なしで十二分に立ち回れる布陣であると言える。展開力に関してもこのターンのこれまでの動向が証明しており、ペンデュラム召喚を絡めずとも立ち回りに支障を来す程ではない。

 「うん、それは知ってるけど……らんらんのことだから、後先考えず突っ込んだりしてないかな、って。」
 「それはないと思うよ……」
 「だよね、うん。」

 はははと笑いながら、ふたりはフィールドに視線を戻した。





 「速攻魔法、《衛生兵出動》を発動!デッキから「XD」1体を攻撃力0にして特殊召喚するよ。《XD-G ホバークラフト・オートマタ》を特殊召喚して、《XD-G アサルト・ショット》、《XD-G ライトニング・ショット》の2体でオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!《竜巻竜》!
《竜巻竜》の効果発動、オーバーレイ・ユニットを1つ使用してペンデュラムゾーンのライトニングを破壊、手札のアサルトを空いたペンデュラムゾーンにセットしてペンデュラム召喚!エクストラデッキから《XD-G アサルト・ショット》を召喚、手札のホバーを通常召喚して2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!
‘‘舞い上がれ白煙、響け轟音!その一撃で全てを爆破せよ!’’
 《XD-G エクストリーム・バズーカ》!バズーカの効果、墓地のアサルトとホバーをデッキに戻してシャッフル、そして2枚ドローするよ。‘‘エクストリーム・バレットチャージ!’’っと、うん、よし!私はこれでターンエンドだよっ!」





 「最初から全開……ですね。」

 もう一方、信を先頭に希実と遊士がデュエルフィールドに向かったのを見た紅那とエリカは、観覧席の別の場所から観戦していた。

 「《サイクロン》持ちの《竜巻竜》、《神の摂理》持ちのエクストラジョーカー、そしてアドバンテージの塊とも言えるバズーカ……先攻封殺のお手本のような動きですが、さて遊士さんはそこまで警戒すべき相手なのでしょうか?」
 「私にはわかりませんよ……というか、私たちも彼のことはらんらんからしか聞いてないですから。」

 そういえばそうでした、と言って髪をかき上げたエリカは、フィールドから眼をそらさずに呟いた。

 「あの方もまた、同じなのでしょうか……お父様たちと……」


 呟きを漏れ聞いた紅那はしばしの後、同じようにひとり呟いた。

 「…………同じ、ですか。」

 紅那は腰のホルダーから自分のデッキを取り出すと、上の1枚を手に取ってひとこと、囁くように言った。

 「確か遊士さんのカードは幻竜族、ではあの人は何を考えて……?」

 紅那はデッキを元に戻すと、エリカ同様フィールドに目を移した。





2nd.Turn

蘭 LP:6400 D:27 H:4 G:4 V:0 Ex:12(+1)

Ⅰ:XD-G アサルト・ショット(Scale:3)
Ⅱ:XD-G コンティニュアル・モルター(Scale:6)
Ⅲ:XD-G エクストリーム・バズーカ(X:1)
Ⅳ:竜巻竜(X:1)
Ⅴ:アルカナ エクストラジョーカー

  Ⅰ□□□Ⅱ
  Ⅲ□Ⅳ□□□
   Ⅴ □
 □□◇□□□
  □□□□□

遊士 LP:8000 D:35 H:5 G:0 V:0 Ex:15


 「僕のターン、ドロー!さて、と。どうしようかな……」

 信の予想に反してペンデュラム召喚を行った蘭のフィールドは、エクストラデッキからの特殊召喚モンスターで埋まっている。そのどれもが厄介な効果を持ち、遊士はさてどれから除去したものかと手を止めて考えるのであった。
 相手のフィールドで最も厄介なのは、《神の摂理》と同じ効果を持つエクストラジョーカーである。しかし、竜巻竜を残したままでは満足にカードをセットすることも出来ないし、バズーカを残しておいては返しのターンに手痛い反撃を食らいそうである。

 (となると、エクストラジョーカーの読み次第か……)

 こればかりは相手次第、と割り切った遊士は、一枚のカードをフィールドに置いた。

 「手札から《幻朧燈-泡夢》を発動。チェーンは?」
 「サーチカード……いや、とりあえず通す、かな。」

 自分のターンの時とは打って変わって慎重な様子を見せる蘭。一挙一動を見極め、決して無駄撃ちはすまいとばかりに固さが見えた。

 「じゃあデッキから《幻朧竜ヘリオ》を手札に、そのまま召喚。効果を発動。召喚または特殊召喚に成功したとき、デッキから同名モンスター以外の「幻朧」を特殊召喚できるよ。チェーンは?」
 「ぐぬぬ、増殖するとは小癪な……って、確定除外で除外されたら攻守0の上に効果無効!?何それ意味わかんない!」

 蘭が驚いたように声を上げる。「幻朧」もまた、「XD」同様に強烈なシナジーで勝負するデッキである。個々の戦闘力こそ「XD」に劣るものの、展開力は引けを取らない。

 「にゃー、エクストラジョーカーの効果、手札の《XD-G メカナイズド・エンジニア》を捨てて無効にするよ!」

 しばし悩んだ後、蘭は効果を発動した。

 「じゃあ除外されたヘリオの効果、バズーカの攻守を0、効果を無効にするよ。《幻朧燈-響光》を発動、手札の《幻朧竜クリプト》を捨てて2枚ドロー。更に儀式魔法《レアケース・ディスカバー》を発動!手札の《幻朧竜ラディ》と《幻朧竜ネオ》をリリース
 ‘‘舞い上がれ光翼、極彩色の旋律は勝利への道程!’’
 儀式召喚、《ディオクト・ノブレール・ドラゴン》!さて、と。バトルフェイズ、良いかな?」
 「はにゃ?良いけど……」

 蘭が不可思議そうに首を傾げた。

 「じゃあバトルフェイズ、《ディオクト・ノブレール・ドラゴン》で《XD-G エクストリーム・バズーカ》を攻撃!‘‘ホロスケープ・ナイトレイ!’’」


《ディオクト・ノブレール・ドラゴン》 ATK:2500 ATK:0《XD-G エクストリーム・バズーカ》
蘭 LP:6400 → 3900


 「ぐぬ、中々に良い攻撃……でも、この程度!」

 光線に一瞬目元を覆った蘭であるが、すぐに向き直って威嚇する。だが遊士はそんな蘭を見て、苦笑混じりに言った。

 「うん、じゃあノブレールの効果発動。戦闘で相手モンスターを破壊した場合、フィールドまたは墓地のモンスター1体を除外して発動、攻守をそれぞれ除外したモンスター分アップして、続けて攻撃できる。僕は《幻朧竜クリプト》を除外するよ。」

《ディオクト・ノブレール・ドラゴン》 ATK:2500 → 4100

 「あれ?クリプトより攻撃力高いラディが墓地にいるよね……って、あっー!マジか!これマジか!」

 蘭が何かを思い出したように、突如声を上げる。

 「うん、マジ。クリプトの効果、このカードが除外された場合、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター2体を破壊できる。《竜巻竜》と《アルカナ エクストラジョーカー》を破壊!‘‘ホワイト・ライトパルス!’’」

 一瞬の閃光と共に、2体のモンスターが姿を消した。

 「って、事は……まじかおい。攻撃力4100でダイレクトアタックか。」
 「うん、マジ。《ディオクト・ノブレール・ドラゴン》でダイレクトアタック!‘‘ホロスケープ・ナイトレイ・セカンドウェイブ!’’」

《ディオクト・ノブレール・ドラゴン》 ATK:4100
蘭 LP:3900 → 0

Win:遊士





---





 「ありがとうございました……にゃう。」

 デュエル後、暫し放心していた様子の蘭が小さく呟いた。

 「うん、ありがとう。結局はエクストラジョーカーの使い所だったね。」
 「そだったね……はぁ、わたし、かっこ悪いなぁ。」
 「何が?どうして?」

 突如として呟かれた言葉に、遊士は全く理解を得なかった。

 「だってさ、入学前からだよ?デュエルしよう、デュエルしようって言い続けて、みんなにも楽しみだーとかなんとか言ってさ……いざデュエルしたらこれだもん。おにーさんもさ、期待してたより弱かった、って思ったでしょ?」
 「……そんなことはない、かな。」

 遊士は暫し考えた後、しかし正面を切ってはっきりと答えた。

 「正直、あそこまでの展開力をどうやって崩すか、いや崩せるのかどうか不安だったよ。でも、偶々引きが良くって、偶々全力を出せた。それだけだよ。」
 「ほんとに?幻滅してない?」
 「してないよ?むしろ、次戦う時にはこっちが幻滅させちゃうかもしれないし。」

 ぺちん、と自分の頬を軽く叩いた蘭は、実に晴れやかな表情で遊士を見た。

 「ふっふふ、私を幻滅させてくれたまえよ……?」
 「それ、駄目じゃないか……」



 遊士もつられて笑う。そんな彼らの元に、観戦していた4人がやってきた。

 「お二人とも、お疲れ様でした。良いデュエルでしたよ。」

 まずはじめに口を開いたのはエリカだった。

 「蘭は……うん、そういう日もあるんじゃないかな?まあほら、時の運ってヤツだよ。」
 「信くん、ありがと。でも、次は絶対に勝つ。華麗に後攻ワンキルどころか倍返しぐらいでオーバーキル決めてやる!」
 「いや、蘭のデッキでそれは無理……いや、出来なくはない、か。」

 松野兄妹は蘭と話をしていた。その陰で、紅那がおずおずと声を上げた。

 「あの、それで……なんですけど、その、関先生が……」

 全員が顔を上げると、そこには十数分ほど前に教室で見た顔の教師が立っていた。

 「あの、新田さん?デュエルスペースの許可の制度が変わった、という話は昨年しましたよね?」
 「うぇ?そんな話しあったっけ……?」

 察した風の4人と、何が何だかわかっていないひとりを置いて、蘭もまた本気でわかっていない顔をしていた。、

 「ええ、タブレットに利用状況や予約の状況が表示されるので、使用するならそこから予約しておくように、という制度に今年度から変更になりました。まだ初日で誰も使用していなかったから良かったようなものの、デュエルスペースの占有は大きな問題となっていて、その対策である、という話は……」
 「いつでも、誰でも使えるとさ、チーム内で回して他を排除しちゃうでしょ?」

 わかっていない様子の遊士に、信がそっと耳打ちした。

 「ああ、なるほど……」

 信の言う通り、アカデミアのデュエルスペースはグループでの占領が目立ち、その対策として事前許可制が施行されたのだ。とは言っても深琴の言う通り今年度からであり、在校組はこのように間違って無許可で使用してしまうこともある、という訳で見回りの教員が居たのだ。

 「とりあえず、新田さんは反省文を……」
 「いやにゃ!反省文はもういやにゃ!がるるる……」
 「ほら、あんたも何か言いなさいよ。同罪でしょ?」

 希実に言われ、遊士は一歩前に出た。

 「あの、すみません。てっきり新田さんが許可を取っているものと思って、僕も確認が出来ていませんでした。」

 威嚇する蘭の隣に立った遊士を見て、深琴は軽く溜息を付いた。

 「はぁ……一応今日のところはまだ罰則規定を整備していないという実情がありますし、適用初日に過度に罰するつもりはありません。ただ新田さん、あなたはただでさえ問題となる行動が多いのですから、後先考えない行動は慎んで……」
 「Yes, mom!ってことで、今日はこの辺で!ね?ね!?」

 深琴の溜息が、少し深くなった。

 「はぁ……反省してますか?」
 「勿論!海よりも高く、山よりも深く……ってあれ?」

 溜息が更に深くなった。ついでに眉間に皺も出来た。

 「新田さん…………?」
 「にゃは、間違えた。てへぺろ……」
 「あー……僕らからもしっかり言っておきますので、今日はこの辺で鉾を収めてくれませんか?」

 助け船を出したのは信だった。

 「……ええ、お願いします。」

 明らかに苛立った様子で、深琴は背を向けて歩き去った。

 「蘭、気をつけなよー?そのうち擁護出来なくなるからさー……って、いつも言ってるか。」
 「うん、いつも言われてる!でもいつも忘れる!」
 「胸張るな!この関東平野!」
 「おう?のぞみんに言われたかないですな。私が関東平野ならのぞみんはあれか?えっと……マリアナ海溝?」
 「それ、凹んでるじゃないですか……」

 紅那の一言は、喧噪の中に消えた。

 「は?悪いけど私、あんたよりはあるわよ?毎日信君におっきくしてもらってるから。」
 「うん、してないからね。」

 信の呟きもまた、蘭の声にかき消された。

 「ほほう、そんな迷信を未だに信じる人がいるとはね。いいだろう、どっちが大きいかここで……にゃう!」

 服を脱ごうとブレザーに手をかけた蘭であったが、突然後ろから首を掴まれて宙に浮いた。

 「新田、また騒いでいるのか……」

 そこには、如何にも厳い表情と体格をした男子学生が、蘭の奥襟を掴んで立っていた。

 「おっす、シゲ先輩!とりあえず話してくだせい!」
 「……騒がないか?」
 「わたしから煩さを取ったら何が残るって……はい、おとなしくします。」

 うなずいた男は、ぱっと手を離した。

 「むむぅ、あらぬ横槍が入った……のぞみん、この勝負は帰り道に……」
 「あほか!大体信君以外の男の前でぬ……脱ぐ、とか、そんなの舌噛み切った方がマシよ!」
 「希実さん……あ、繁野先輩、お久しぶりです。」
 「お久しぶりです……」

 二人のフォローもそこそこに、エリカと紅那は件の闖入者に頭を下げた。

 「休みを挟んでいるから、見知った顔は皆久しぶりだろう。と、君が前原君か?」
 「はい、そうですけど……もしかして、新田さんが?」
 「ああ。入学試験で出会った男が強そうだから、デュエルしたいと多くの人に言って回っていた。」
 「繁野先輩とらんらん、割と仲良いですからね……」
 「あいつの性格とぶつからないだけだ。何も言わなくても勝手に向こうが喋り続けるし、俺も煩いとは思わない。それだけだ。と、改めて、俺は繁野豪侍(しげのごうじ)と言う。」
 「あ、どうも。前原遊士です。よろしくお願いします。」



 確かに、一般に言う-希実と蘭のような-仲の良さとは、趣が違うのかもしれない。そんな事を考えている遊士の隣で、エリカが声を出した。

 「ところで、繁野先輩はどうしてこちらに……?」
 「ああ、そろそろチームに加入しようと思ってな。去年もそうだが、そろそろ一人では限界だ。それで足を運んでみたが……」

 ここデュエルアカデミアジャパン・ウエスト校では、チームによる交流会の予選参加を認めている。これは個人同士の純粋な実力だけだと毎年のように同じ人物が交流戦に参加することになっていた旧来の風潮を変えるものであり、また学年ごとに選定していた場合、3番手以下の優れた生徒が涙を呑んでいた経歴を変える為でもあった。

 「確かに、去年のルールは単独では厳しったですね。でも、何だかんだ先輩は代表入りしてましたよね?」
 「去年以上に厳しくなったら、それこそ代表入りは無理だろう。現状維持ではまずい。」
 「ん、じゃあさ。ここにいるみんなでチーム組んじゃえば良いんじゃないですか?」

 会話にふらりと入ってきたのは、またしても信であった。

 「みんなって、私も……ですか?」

 自分を指さして、紅那が誰にとなく訊ねた。

 「うん。紅那もさ、いい加減に本気出したら代表いけるんだから、ちょっとは頑張ってみなよ。お母さん、皆勤賞だったんでしょ?」
 「母は……朱理さんは別次元ですから……でも、確かに見知った人の方が気が楽ですね。」
 「私は構いません。もし、皆様に異存がなければ。」
 「わたしもオッケーだよ!何せ、永劫の宿敵の弱点を知るチャンスだし!」
 「私は……信君がいるところに、一緒にいるから。」

 6人の目が、遊士に向いた。

 「え、僕も?」
 「そのつもりだったけど……もしかして、嫌だったかな?」

 さも当然そうに信が答えた。

 「いえ、嫌じゃないです……ただ、その……足引っ張らないかな、って。」
 「それは大丈夫!お前がリーダーやってみんなの足を引き摺る側に回ればいいんじゃい!」

 満面の笑顔と共に、蘭は遊士に飛びかかった。

 「いでで……リーダー?僕が?」
 「良いんじゃないですか。冷静ですし、何より蘭さんを止められるのは大きいです。」
 「私は……リーダーなんて無理ですから、お譲りします。」
 「僕はリーダーの柄じゃないからね。机の端っこで蕎麦茶が飲めれば何でも良いさ。」
 「私は信君のお茶汲み役だから、リーダーなんてやってる余裕ないわ。あんたがやりなさい。」

 四人から推され、遊士の目は自然と繁野先輩の方に向いた。

 「俺も、リーダーは性に合わん。やるだけやってみて、どうしても辛いならエリカに変わってもらえば良い。こっちは昨年まで、折り紙付きのリーダーだったからな。」

 取り付く島もないとはこのことだろうか。既定路線のようなので、遊士は他の話題に舵を向けた。

 「名前、どうします?チーム名。」
 「星!星の名前で!」

 いち早く手をあげたのは蘭だった。

 「アバウトねぇ……星って言うと、SpicaとかSiriusとか?」
 「でも、チーム7人いるのに星の名前だと……その、何だかちぐはぐじゃないですか?」
 「んー、それもそっか!じゃあ星でいいや!Starで!」

 それだけ言うと、蘭はタブレットを取り出してそちらに目を向けた。要は飽きたのだろう。

 「Star……って、あまりに寂しすぎないかしら。」
 「そうだねぇ……ただ、こういうときに何か良いアイデアを出すのって、大抵らんらんなんだけどね……」

 信の言葉に、皆が一斉に蘭を向いた。少女はタブレットを叩いてブラウザを起動させると、どうやら通販サイトに向いたようである。

 「おー、らいぜんくんまーた値段下がってますなぁ。欲しいなぁ、でもパパは絶対駄目って……」



 「それでいこうか。「Ryzin’」。」

 遊士が呟くと、皆が無言で頷いた。

 「じゃあ、えっと……チーム、「Ryzin’ Stars」、結成ってことで……」
 「ほら蘭、名前、決まったわよ。」
 「おう、そうかい。じゃあ結成式やらんとな!」

 タブレットを鞄に仕舞った蘭も改めて皆を向き、誰とが言うともなく自然と円陣を組んだ。

 「じゃあ、えっと……チーム「Ryzin’ Stars」、結成ってことで……」

 その時、丁度遊士の後方から大きな声が飛んできた。

 「ちょーっとまった、私も仲間に入れて下さい!です!」

 遊士が振り返ると、おそらくは中等部のものと思われる制服を着た少女が立っていた。身長的にも恐らく中等部の生徒であろう。

 「お?ひびきーじゃん。新聞部はいいの?」

 その少女を見て、蘭が変わらぬ挨拶をした。

 「改めまして玄田響、新聞部のスパイとして皆様を徹底的に取材してやるのです!あ、勿論デュエルで手は抜いたりしませんのでご安心を。」
 「スパイって言っちゃってる……」
 「はわ!いいい今のはなし、今のはなし!スパイじゃなくてその、密着取材!そう密着取材!期待のつわものたちを24時間365日徹底取材!我ながら胸が高鳴りますな!」

 ひとり勝手に自爆して復活する響を見て、もう一度皆を向き直って遊士は訊ねた。

 「どうする?」
 「良いんじゃないかな。どうせ希実がスパイも出来ないぐらい徹底的に調教するだろうから。」
 「え、うん、信君がそう言うのなら徹底的にやるわ……よ?」
 「躾云々はさておいて、リーダーが良いというなら従おう。」
 「私も同意見ですわ。」
 「私も……」

 ひと通り皆の意見を総合したところ、反対意見は0のようである。スパイ発言から警戒した遊士であるが、考えてみればこちらにもメリットはある。

 「えっと、玄田さん?」
 「響と呼んで下さい。名字、厳つくて苦手なのですよ。」
 「じゃあ響さん、もしかしたら新聞部で得た情報をリークしてもらうことになるかも知れないけど、それでもいいかな?」
 「お、そうきましたか……」

 情報は大事である。孫子などは敵を知り己を知れば百選危うからずと言ったぐらいであり、間諜を行ってこちらの情報は秘匿せよと説いたほどに情報を重要視していた。

 「私自身が得られる範囲で、でしたら構いませんよ。但し私もまだ下っ端ですから、あまり無茶すると新聞部をクビになってしまいますので……その辺りは、なんというか、お察し頂きたいのです!」
 「うん、じゃあ決まり。歓迎するよ、チーム「Ryzin’ Stars」に。」



正体不明の幻竜使い、前原遊士。
栗色アンテナ超特急、新田蘭。
のらりくらりの懐刀、松野信。
胸部マリアナ海溝、松野希実。
ブロンドの騎士団長、ヴィクトル・エーリカ。
北の大地の文学少女、籐篠紅那。
最強最終防衛線、繁野豪侍。
馬鹿と天才を足して二で割った少女、玄田響。

8つの星が、空に輝かんと集結した。





《あとがき》
 あけましておめでとうございます(激遅)。正月から風邪でダウンという最悪のスタートを切ったAlesです。おかげでお礼……げふん、とにかく本年もよろしくお願いいたします。
 さて序章はこれで終わり、次回から1章「Limited」がはじまる予定であります。流石に風邪がぶり返さない限りはまともなペースで更新できると思いますので(フラグ)、あまり過度に期待せずにゆるりと読んで頂ければ幸いです。
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ヒラーズ
ヒラーズです。ここまで読ませて貰いました。
正直、次回が気になります(つまり面白い)。
幻竜族ってこんなに強いんだなっと思いました。 (2018-01-17 22:44)
光芒
マスタールール4で逆風があるはずなのにここまで回るんですからペンデュラムって相当ですよね(実際リアルでも魔術師強いですし)。まあ父親譲りの回転力を持つ蘭ちゃんが使ったからこそではあるとは思いますが。ただそんな【XD】を普通に退けるんだから【幻隴】はまた格が違う。
さて、早速4話にして結成されたチーム『Ryzin’ Stars』。一癖も二癖もありそうなメンバーばかりですが、船出した彼らがこの後どのようなデュエルを行うのかが楽しみです。

追伸:体調の方は大丈夫ですか? 寒暖差も激しいため体調にはくれぐれもお気を付けください。健康でなければ、文を書くことすらできませんからね。
(2018-01-21 15:28)
Ales(from PC)
ヒラーズさん
閲覧頂き有難う御座います。面白いと言って頂けることが何よりの励みです。

>幻竜族ってこんなに強いんだなっと思いました
こ、こんなに強い予定はありませんでした。何分オリカなもので、調整が……^^


光芒さん
ペンデュラム(ペンデュラム召喚するとは言っていない)でも、本家「XD」よろしく回ってしまいます。らんらんは父親似ではなく母親に似ている設定なのですが、デッキがデッキだけに。はい。

>ただそんな【XD】を普通に退けるんだから【幻隴】はまた格が違う
主人公補正ってやつですね!多分!

>一癖も二癖もありそうなメンバーばかりですが、船出した彼らがこの後どのようなデュエルを行うのかが楽しみです
今回は好戦的な奴らが揃っているので、色々構想しやすくて助かっています。いやぁ、あっちがスピンオフになりそうですよ、ははは……


体調は9割方直ったようで、今では大分良くなっております。お気遣い感謝します。 (2018-01-23 19:27)

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