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第六話 バベルの塔 作:ぬる
エジプトからプライベートジェットで空を行く。目指すはイラク――その昔、最古の文明であるシュメールや、バビロニア王国などが興った地である。
初めての飛行機ということもあってか、アズハは空の旅を存分に満喫した後、そのまま寝てしまった。
目的地であるバグダッド国際空港に着く1時間ほど前に、ラゴスから映像通信が入った。
ラゴス「旅の調子はどうだ? ペガサス」
リュウガ「おかげさまで、それなりに快適だよ」
アズハ「……スピー……」
ラゴス「嬢ちゃんはお疲れか」
リュウガ「ああ。魂がどうであれ、その体は至って普通の、10代前半の少女だからな」
ラゴス「……そうだな」
俺はちらりと隣に座る少女に目を向ける。その寝顔はとても健やかであり、そして、どこか嬉しそうでもあった。
ラゴス「さて、もうあちらさんの状況は送っているが、ここで最終確認だ」
さっきまでとは打って変わっての真剣な顔でラゴスが切り出す。
ラゴス「顕現異世界ケース2・バベルの塔は、イラク・バビロンに2日前に発生――」
リュウガ「その顕現異世界ってネーミング、どうにかならない?」
ラゴス「こっちで出した結論だ。その領域にモンスターが存在するとされる異世界と同じ波長を観測した。つか、もう異世界そのものと言えるだろう。こっちの世界に表出した異世界。故の命名だ。今後同じようなケースが確認されることもあるだろうからな。名前を付けておくに越したことはない」
リュウガ「はいはい、茶々入れて悪かったよ」
ラゴス「――2日前に発生。その際には現実世界の物質が、それに重なるような状態で発生した塔、そして異世界の空間に、徐々に上書きされたらしい。浸食という表現の方が正しいか? 既に都市バビロンはその機能を放棄。イラク国内も大混乱だ」
リュウガ「前回のケースと同じだとすると、やはりモンスターが存在している……?」
ラゴス「ああ。観測結果だとそうなっているが、肉眼でも衛星写真でもモンスターの姿は確認できない」
リュウガ「つまり、俺のように精霊を見ることができる人間でなければ、モンスターは見えない……」
ラゴス「そして、対処も不可能」
アズハ「むにゃむにゃ」
この点に関しては、前回とは異なる。前回のケースではピラミッドに侵入した時点で、どのような人間であろうとモンスターの存在を捉えることができた。これは――?
ラゴス「恐らく、空間としての完成度の関係だろう。前回ならばピラミッドの内部が異世界として完結、完成されていた。だが、今回はまだ未完成なのだろう。閉じた空間、開いた空間という違いもある。規模もこちらの方が段違いだ」
リュウガ「だが時間が立てば、その未完成の空間も完成へと近づく……?」
ラゴス「その通りだ。実際、その空間は僅かずつではあるが拡大している。バベルの塔の建設進行に伴って」
リュウガ「建設だと? 今も、天に向かって伸び続けているのか」
ラゴス「そうだ。そしてこのまま放っておけば、この世界そのものが異世界に浸食されるぞ」
リュウガ「そんな最悪の事態、俺たちの力で防ぐ」
ラゴス「ああ。こちらも最大限の支援を行う。頼むぞ、リュウガ」
リュウガ「ああ、任せてくれ……って――!!」
視界の端に映る、天へと届かんばかりの塔。窓の外に、その壮大な世界が、姿を見せていた。
リュウガ「これがバベルの塔か!!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
イラクの玄関口・バグダッド国際空港から、車で南下する。前方には、件の塔が迫るように大きくなっていく。
暫くのドライブの後、車は停車する。
運転手「……車で近付けるのはここまでです。後は徒歩での接近をお願いします」
あの不安定な空間の中では、車を走らせることすら危険行為だ。なにせ異世界なのだから、どのようなトラブルが起きるかはわからない。なるべく危険要素を排斥する、という判断の結果だ。
リュウガ「わかった。ありがとう」
クリボー「クリクリ!」
アズハ「ありがとうございました!」
ハネクリボー「クリ!」
運転手「ええ。……後は頼みます、ペガサスさん。それと――」
彼は非常に申し訳なさそうな顔を浮かべ、言葉に詰まる。
リュウガ「まだ何か?」
運転手「……非常に申し訳ないのですが、これが解決したら、是非私と決闘して頂きたくて……」
リュウガ「……ああ、そんなことか。……わかった。俺も楽しみにしているよ」
運転手「! はい。では、どうかお気をつけて」
彼の送別を受けて、俺たちは塔に向かって歩きだした。その先には、ただ荒野の道が続いていた。
★ ☆ ★ ☆ ★
次回予告!
バベルの塔へやってきた私たち。だけど、塔は色んななモンスターたちによる建設事業の真っ最中! リュウガが機転を利かせて無事潜入に成功するけど、はてさて。これからどうしたらいいんだろう。
次回、「働くモンスター」
アズハ「お楽しみに!」
ハネクリボー「クリー!」
初めての飛行機ということもあってか、アズハは空の旅を存分に満喫した後、そのまま寝てしまった。
目的地であるバグダッド国際空港に着く1時間ほど前に、ラゴスから映像通信が入った。
ラゴス「旅の調子はどうだ? ペガサス」
リュウガ「おかげさまで、それなりに快適だよ」
アズハ「……スピー……」
ラゴス「嬢ちゃんはお疲れか」
リュウガ「ああ。魂がどうであれ、その体は至って普通の、10代前半の少女だからな」
ラゴス「……そうだな」
俺はちらりと隣に座る少女に目を向ける。その寝顔はとても健やかであり、そして、どこか嬉しそうでもあった。
ラゴス「さて、もうあちらさんの状況は送っているが、ここで最終確認だ」
さっきまでとは打って変わっての真剣な顔でラゴスが切り出す。
ラゴス「顕現異世界ケース2・バベルの塔は、イラク・バビロンに2日前に発生――」
リュウガ「その顕現異世界ってネーミング、どうにかならない?」
ラゴス「こっちで出した結論だ。その領域にモンスターが存在するとされる異世界と同じ波長を観測した。つか、もう異世界そのものと言えるだろう。こっちの世界に表出した異世界。故の命名だ。今後同じようなケースが確認されることもあるだろうからな。名前を付けておくに越したことはない」
リュウガ「はいはい、茶々入れて悪かったよ」
ラゴス「――2日前に発生。その際には現実世界の物質が、それに重なるような状態で発生した塔、そして異世界の空間に、徐々に上書きされたらしい。浸食という表現の方が正しいか? 既に都市バビロンはその機能を放棄。イラク国内も大混乱だ」
リュウガ「前回のケースと同じだとすると、やはりモンスターが存在している……?」
ラゴス「ああ。観測結果だとそうなっているが、肉眼でも衛星写真でもモンスターの姿は確認できない」
リュウガ「つまり、俺のように精霊を見ることができる人間でなければ、モンスターは見えない……」
ラゴス「そして、対処も不可能」
アズハ「むにゃむにゃ」
この点に関しては、前回とは異なる。前回のケースではピラミッドに侵入した時点で、どのような人間であろうとモンスターの存在を捉えることができた。これは――?
ラゴス「恐らく、空間としての完成度の関係だろう。前回ならばピラミッドの内部が異世界として完結、完成されていた。だが、今回はまだ未完成なのだろう。閉じた空間、開いた空間という違いもある。規模もこちらの方が段違いだ」
リュウガ「だが時間が立てば、その未完成の空間も完成へと近づく……?」
ラゴス「その通りだ。実際、その空間は僅かずつではあるが拡大している。バベルの塔の建設進行に伴って」
リュウガ「建設だと? 今も、天に向かって伸び続けているのか」
ラゴス「そうだ。そしてこのまま放っておけば、この世界そのものが異世界に浸食されるぞ」
リュウガ「そんな最悪の事態、俺たちの力で防ぐ」
ラゴス「ああ。こちらも最大限の支援を行う。頼むぞ、リュウガ」
リュウガ「ああ、任せてくれ……って――!!」
視界の端に映る、天へと届かんばかりの塔。窓の外に、その壮大な世界が、姿を見せていた。
リュウガ「これがバベルの塔か!!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
イラクの玄関口・バグダッド国際空港から、車で南下する。前方には、件の塔が迫るように大きくなっていく。
暫くのドライブの後、車は停車する。
運転手「……車で近付けるのはここまでです。後は徒歩での接近をお願いします」
あの不安定な空間の中では、車を走らせることすら危険行為だ。なにせ異世界なのだから、どのようなトラブルが起きるかはわからない。なるべく危険要素を排斥する、という判断の結果だ。
リュウガ「わかった。ありがとう」
クリボー「クリクリ!」
アズハ「ありがとうございました!」
ハネクリボー「クリ!」
運転手「ええ。……後は頼みます、ペガサスさん。それと――」
彼は非常に申し訳なさそうな顔を浮かべ、言葉に詰まる。
リュウガ「まだ何か?」
運転手「……非常に申し訳ないのですが、これが解決したら、是非私と決闘して頂きたくて……」
リュウガ「……ああ、そんなことか。……わかった。俺も楽しみにしているよ」
運転手「! はい。では、どうかお気をつけて」
彼の送別を受けて、俺たちは塔に向かって歩きだした。その先には、ただ荒野の道が続いていた。
★ ☆ ★ ☆ ★
次回予告!
バベルの塔へやってきた私たち。だけど、塔は色んななモンスターたちによる建設事業の真っ最中! リュウガが機転を利かせて無事潜入に成功するけど、はてさて。これからどうしたらいいんだろう。
次回、「働くモンスター」
アズハ「お楽しみに!」
ハネクリボー「クリー!」
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