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第1話 狙われた少女 作:ハントラ
「くそっ、中々抜けねーなこいつ…」
フリエンの東端にぽつんと存在する小さな農村サヒ村。その土地にて草むしりをする少年がいた。少年の名はユーラ。ユーラ=ギス=オウディナ。ツリ目の三白眼で火のように真っ赤な髪のこの少年は、現在一つの雑草と格闘中である。
「こんなに強く根ぇはりやがって…スコップでも持ってくるんだった…頼むよ、抜けてくれ!オラァッ!」
ユーラはここぞ、というタイミングで右手に力を込めて雑草を引っこ抜いた!……はずだったが、ユーラの手に握られていたのは根っこのない二、三枚の葉っぱ。当の雑草は「今何かしたか?んんー?」と言わんばかりにピンピンしている。
「チクショー、なんで抜けねーんだよこいつー!」
ユーラがうなだれていると、そこに40代くらいの女性がやって来た。
「ごめんねぇユーラちゃん、ホントはウチの旦那にやらせるべきなんだけど…」
女性が手を合わせてユーラに謝罪する。
「いいえ、気にしてませんよエレナさん。…旦那さん、ギックリ腰なんですよね?」
「そうなのよねぇ…いい歳して重い木箱を一度に5箱も運ぼうとするから…でも、あなたみたいな若い人がいてくれてよかったわぁ〜。そうだ、一つ頼まれて欲しいのだけど…」
「なんでしょうか?」
女性は東の方向を指差す。それに追随するようにユーラもその方向を見る。
「お昼ごはん作ったから、カレンちゃんを呼んで来てくれないかしら〜。」
「カレンですね、わかりました…あっ、そうだ!」
ユーラは二、三歩歩いてから思い出したかのように振り返った。
「俺、もう18ですよ。さすがに名前にちゃん付けはよしてくださいよ…恥ずかしいんで。」
「あらそう?ごめんねぇユーラちゃん、今後は気をつけるわ。」
「……………」
「……あらやだ!ごめんね違うのよ、わざとじゃないのよ!」
「はあ…もう諦めました。それじゃあ呼びに行ってきますね。」
「ユーラちゃんかぁ、思えば俺とカレンは随分周りの人に愛されて育ってきたんだな…」
ユーラは、緩やかな風に運ばれる白雲を見ながら呟く。
「………あの雲の上に、父さんと母さんが暮らしているのかな?おっと、教会はここか。」
うっかり教会を素通りしそうになったユーラは、教会の扉を開ける。六個程度の長椅子、所々ボロボロになったカーペット、少し霞んだ色のスタンドグラス、そして最奥部にぽつんと立っているフリエンのほとんどが信仰していると言われるステーニア教の象徴である女神ステーニアの像。決して立派な教会とは言えないが、それでもこの村唯一の教会だ。
「……女神ステーニアよ、運命に抗い、運命に挑み、運命を変えんとする我らに加護を与えたまえ…」
その奥の女神像にてひざまづき祈りを捧げる少女がいた。年はユーラと同じくらいで、髪は緑。右手の人差し指に直径2センチ程度の青い宝玉がついた指輪をしていた。
「……カレン、お邪魔だったか?」
「あら、ユーラ?お祈りのことでしたらもう終わりましたので大丈夫ですよ。」
左手で髪をかきあげながら、カレンと呼ばれた少女は振り返る。
「今日も神父さんの手伝いか?」
「はい、ユーラは神父さんにご用事が?」
「いや、カレンに用事。エレナさんが昼ごはん作ったから呼んできてくれって頼まれたんだ。」
「なるほど、そうでしたか。ですが今から教会の中を掃除しなければなりませんので、外でお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
「わかった、待ってるぜ。」
そんな軽い会話を交わした後、ユーラは教会の外へ向かう。背後から箒の音と、ゆったりとしたメロディの鼻歌が聞こえてきた。元の曲が何なのかはユーラには分からなかったが、聖歌か何かだろうとユーラは思った。
(俺もカレンも、理由は違えど両親がいないのは同じだ。カレンは確かこの村のはずれに捨てられていたのを神父さんが拾って。俺は…)
そこまで考えたユーラの脳裏に浮かんだのは、両親が一つの墓石の下に眠ったあの日の記憶。
(…墓参り、行こうかな。)
少し暗い気持ちで教会の扉を開けるユーラ。その時の扉が何故か軽かった。
「んっ?」
扉の反対側には女の子がいた。右手が扉の取っ手をしっかり握っている。どうやらユーラが外へ出ようとした時と同じタイミングで教会の中に入ろうとしていたらしい。
「あっ、すいませんです、サヒ村の教会ってここであってるですか?」
女の子はユーラにぺこり、と頭を下げる。…いや、女の子と言うべきなのだろうか。髪は紫色の右側サイドテール。服の種類はよくわからなかったが、少なくとも農村で買えるような代物ではない。身長も168センチのユーラよりも少し高く、大人っぽい雰囲気すら感じる。…ただ少々、『です』の使い方がおかしいような気もするが。
「えっ、ああ、ここで合ってますよ。(この辺じゃあ見ない顔だな…観光客?珍しいな〜)」
「あ〜よかったです!それじゃあ、カレンちゃんもここにいるですか?」
「ええ、奥の方にいますよ。」
「ありがとです〜。」
そう言って女は教会の中に入り、カレンを探す。それとすれ違うようにユーラは教会の外に出る。
(キレ〜な人だったな…この辺の人じゃないよな?服もこの辺じゃ買えないヤツだし…カレンも、修道女のカッコだけじゃなくてもっと色々オシャレした方がいいと思うんだけど……ん?)
(『この辺の人じゃない』……なのに『カレンの名前を知っている』…?あいつ、この村から出た事あったっけ?)
事実、カレンは産まれて間もない頃にこの村に捨てられ、一度も村の外に出た事は無い。外の世界が気になる事もたまにあるとユーラに話した事もあった。交友関係も、村の人以外には持っていない。じゃあ先ほどの女は『どこでカレンを知ったのだ?』
「カレン、さっき入っていった女の人だけど…」
そう言いながら教会の中に入ったユーラ。
「………!?」
その時、とんでもない光景を見てしまった。カレンが先ほどの女の腕の中で、力無く倒れ込んでいた。かといって殺されたわけではなさそうだ、何故わかるのかというと、ユーラには、カレンがほんの僅かに呼吸をしているのが見えたからである。女はユーラがまた入ってくるのは予想外だったのか、目をパッチリ開けてユーラを凝視していた。が、2、3秒位で元の顔に戻る。
「……お前、カレンをどうする気だ!」
教会の中に響き渡るほどの声でユーラは叫んだ。
「どうする……ですか?…どうするでしょうねえ…?」
女のすっとぼけた返答。ユーラの怒りのボルテージがぐんぐん上がっていく。
「答えろ!カレンをどうするつもりだ!答えなければ…」
「答えなければぁ?どうするっていうんですかぁ?」
どうあっても答えるつもりは無いらしい。ならば、ユーラはとっておきの切り札を切る。
「デュエルだ!俺が勝ったら、お前の目的を教えてもらうぞ!ついでにカレンも返してもらう!」
「欲張りさんですねぇ…じゃあ、私が勝ったらこの子は好きにさせてもらうですよ」
条件は決まった。ユーラはポケットの中から、女は胸の谷間の中から円盤のようなものを取り出し、手の甲に置く。すると、突然ベルトのようなものが出てきて円盤を固定する。そして次の瞬間、円盤の中からプレートのようなものが飛び出す。『決闘盤(デュエルディスク)』の完成だ。
「「デュエル!!」」
人気の無い教会の中で、今、戦いの火蓋が切って落とされた。
ユーラLP8000
女LP8000
「先攻は貴方に譲ってあげるです。」
「バカにしやがって…!俺のターン!まずは手札からレベル4の『ボムソルジャー』召喚!」
『ボムッ!』
ボムソルジャー ATK1600
黒い爆弾にデフォルメされた手足がくっついたモンスター。そのちっちゃな手足でシャドウボクシングを始めた。やる気は十分のようだ。
「カードを一枚セットし、ターンエンド!」
「それじゃ私のターン…と言いたいところですけど、ちょっとこの子寝かしてきてもいいです?」
「え?」
「だからー、このカレンちゃんを安全な場所に置いてきてもいいです?ってことですよ。女の子の柔肌は資本ですよ資本。傷がついちゃったら大変です。」
「……誘拐犯のクセにそんなこと気にするんだな、いいぜそれくらいは」
「ではこの長椅子に失礼して、と…これでよし。改めて見るとカワイイ顔してるですねぇ〜。胸は私ほどじゃないですけど、腰も引き締まってるいい女です。」
「それじゃ気を取り直して私のターンです!ドロー!手札からレベル3『アサシネート・サイレント』召喚です!」
アサシネート・サイレント ATK900
闇に溶け込みやすくするためか、全体的に黒い衣装を纏い、顔も見えない。右手に携えたナイフがキラリと光る。
「そして永続魔法、『暗殺契約』発動!一ターンに一度、私の『アサシネート』モンスターが相手モンスターを戦闘破壊した時、私はデッキからカードを一枚ドローできる!」
「バトル!『アサシネート・サイレント』で『ボムソルジャー』に攻撃!」
「なっ!?(攻撃力は『ボムソルジャー』の方が上…何かある!)」
「この時、『サイレント』の効果発動!攻撃宣言時に戦闘を行う相手モンスターの攻撃力を半分にする!」
ボムソルジャー ATK1600→800
「やはり……!」
サイレントがボムソルジャーに向かって真っ直ぐに突っ込んでいく。ボムソルジャーが迎え討とうとしたその瞬間、驚異的な速度でサイレントが背後に回り込み、必殺の一閃を放つ。
ユーラLP8000→7900
「『ボムソルジャー』暗殺完了です!私は一枚ドロー!メインフェイズ2、私はカードを1枚セットし、ターンエンドです」
「俺のターン!ドロー!手札からレベル4『ボムバード』を召喚!」
ボムバード ATK1500
黒い胴体にダイナマイトがくくりつけられた羽、尻尾が導火線になっているモンスターが現れる。まだ状況がわかってないのかキョロ、キョロ、とあたりを見回している。
「このカードが召喚に成功した時、デッキから『ボム』『バクダン』『エクスプロード』と名のついたモンスターを一枚墓地へ送る!そしてその後、このカードの攻撃力を500ポイントアップさせる!俺は『ボムソルジャー』を墓地に送り、『ボムバード』の攻撃力を500ポイントアップ!」
ボムバード ATK1500→2000
「バトル!『ボムバード』で『アサシネート・サイレント』に攻撃!」
「あら残念です。罠カード、『暗殺者の隠れ蓑』発動!このターン相手は私のフィールドの『アサシネート』モンスターを攻撃対象にできず、ダメージを与えることができないです!(とは言っても、私にダメージを与えるのは『ついで』…本当の狙いはおそらく『ボムバード』による墓地肥やし!)」
「俺はこれでターンエンドだ!(よし、目的は果たした!)」
「それじゃあ私のターンです!ドロー!手札から『アサシネート・ウルフ』召喚!」
アサシネート・ウルフ ATK700
「レベル3『アサシネート・サイレント』にレベル3『アサシネート・ウルフ』をチューニング!」
「チューニング…シンクロ召喚!?」
「時は今、天が下知る、皐月かな!黒き弾丸、闇を舞い飛べ!」
3つの降臨をくぐり抜け、『アサシネート・サイレント』はその姿を変化させていく、人の手に余る大きさの銃を携え、その鎧には桔梗の紋所が刻まれていた。
「シンクロ召喚!『アサシネート・ミツヒデ』!」
アサシネート・ミツヒデ ATK2400
「ミツヒデの効果!一ターンに一度、相手フィールド上のモンスター一体を対象に発動できる!そのモンスターを破壊する!『ボムバード』狙撃開始!」
ミツヒデが銃を構え、両目を開き狙いを定める。そしてタイミングを見切り引き金をいく。その瞬間『ボムバード』は破壊された。だが弾丸はそこで止まらずユーラにまで飛んでくる。
「ぐっ!?」
ユーラ LP7900→6700
「弾丸が貫通したようですねえ…実はミツヒデの効果には続きがあるんですよ、『その後相手に1200のダメージを与える』とね!」
「…なるほどね」
「そしてバトル!ミツヒデでプレイヤーにダイレクトアタックです!ブラックバレット!」
『ボムバード』を破壊した時と同じように銃を構えてユーラに向けて弾丸を発射するミツヒデ。ユーラは反射的に避けようとするが弾丸が髪の毛を掠めた。
ユーラ LP6700→4300
「別に映像なんですから避けなくても死にはしないですよ?」
「わかってても心臓に悪いんだよ!」
「ま、気持ちはわからんでもないですけどね。カードを一枚伏せ、ターンエンドです。」
「(…こいつ、なんか調子狂うな…普通誘拐犯とかだったらこんなに余裕持って会話なんてしないと思うんだけど…)俺のターン!ドロ…」
ユーラがドローしようとしたその瞬間、女が高らかに宣言する。
「ドローフェイズ時!罠カード『暗殺警戒』発動!自分フィールドにレベル5以上の『アサシネート』モンスターが存在する時に発動できるです!このターン、相手は通常召喚を行えないです!」
「なんだって!?……くっ、ならば魔法カード『手投げ爆弾』発動!手札の『ボム』、『バクダン』、『エクスプロード』モンスターを2枚まで捨てて発!俺は『ボムソルジャー』を墓地に捨てる!そして捨てた枚数分、相手に500ポイントのダメージを与える!」
女 LP8000→7500
「さらに魔法カード『廃棄条約』発動!自分のデッキから『ボム』または『バクダン』と名のついたモンスターを一体墓地へ送る!『バクダンディー』を墓地へ!」
「ふっ、やけっぱちになったんですか?墓地にどれだけモンスターを送ろうが、あなたの手札はゼロ!これ以上何もできないです!」
「……ターンエンド!」
「私のターンです!ドロー!」
(あの眼は勝利を諦めていない眼…その根拠は最初のターンに伏せているカード?恐らくミラーフォースのようなカード…!ならば!)
「手札から『サイクロン』発動!相手の魔法・罠カードを一枚破壊する!(これで後は手札の『アサシネート・ダーク』を召喚し、追い込みをかける!)」
「なあ!」
突然、ユーラが女に呼びかける。
「はい?」
「お前のそのモンスター、『アサシネート』っていうのか、確かどっかの国の言葉で『暗殺する』って意味なんだっけ?暗殺ってもっと素早く華麗に仕留めるもんだと思ってたんだけど、実際はこんなにいやらしく追い詰めるもんなのか?」
「そういうもんですよ、暗殺者は標的の情報、侵入経路、警備の配置、退路…いろんな下準備を済ませてからじっくり『コロシ』を行うんです。女性の暗殺者なら尚更、ですね。」
「へえ……!でも知ってるか?爆弾っていうのはな、一度爆発するか解体するかしねえと死なねえってことを!」
(……?………!!!まさか、墓地にいるモンスター達!)
「暗殺者でも『死んでる奴』は殺せないみたいだな!おかげでたっぷり味わってもらえそうだぜ、爆弾の真の脅威をな!」
「『サイクロン』にチェーンし、罠カード『不発弾の惨劇』発動!墓地の『ボム』または『バクダン』モンスターを全て除外し、除外した数×500ポイントのダメージを相手に与える!墓地に存在するのは『ボムソルジャー』三体、『ボムバード』そして『バクダンディー』!よって2500のダメージ!」
「さらにその後!相手フィールド上のモンスターを全て破壊する!(その代わりデュエル中に一度、しかも相手ターンにしか使えないけどな)喰らえ!」
『ボムソルジャー』が、『ボムバード』が、『バクダンディー』が相手のフィールドに飛び上がりそれぞれの導火線に点火する。2、3秒後火が火薬部分に到達し、大爆発を起こす!
「キャアアアーッ!くっ!」
女 LP7500→5000
「はあ…してやられたです。しかし私のターンが終わったわけではないです!手札から『アサシネート・ダーク』召喚!」
アサシネート・ダーク ATK500
「バトル!ダークでダイレクトアタック!この時ダークの効果発動!このカードがダイレクトアタックを行う時、その攻撃力を二倍にする!」
アサシネート・ダーク ATK500→1000
二本のナイフを引き抜いた暗殺者はそのまま真っ直ぐそして素早く突っ込みユーラの体を十字に斬る。
「っ!これ『不発弾の惨劇』引いてなかったらやばかったかもな…」
ユーラ LP4300→3300
「私はこれでターンエンドです…」
「エンドフェイズ時!除外されている『バクダンディー』の効果発動!このカードが除外されたターンのエンドフェイズ時、デッキから『ボム』『バクダン』『エクスプロード』モンスターを一枚、手札に加えるか墓地に送る!俺はデッキから『エクスプロード・ウィザード』を手札に加える!」
(ッ!ここまで効果を活用するとは…それに今加えたカード、何かやばいです!)
「行くぜ、相棒!」
ユーラはたった今加えたカードを手に決意を固める。教会の女神像が、微笑んだ気がした。
次回予告
遂に姿を見せるユーラのエースモンスター。謎の女は何が目的でカレンを狙ったのか!?
「俺の導火線に火を点けた…あんたは絶対許さねえ!行くぜ!俺の『エクスプロード・ウィザード』!」
「悪いですけど、こっちも簡単にやられてやるわけにはいかないんですよ!」
次回、第2話 『爆風の魔術師』
フリエンの東端にぽつんと存在する小さな農村サヒ村。その土地にて草むしりをする少年がいた。少年の名はユーラ。ユーラ=ギス=オウディナ。ツリ目の三白眼で火のように真っ赤な髪のこの少年は、現在一つの雑草と格闘中である。
「こんなに強く根ぇはりやがって…スコップでも持ってくるんだった…頼むよ、抜けてくれ!オラァッ!」
ユーラはここぞ、というタイミングで右手に力を込めて雑草を引っこ抜いた!……はずだったが、ユーラの手に握られていたのは根っこのない二、三枚の葉っぱ。当の雑草は「今何かしたか?んんー?」と言わんばかりにピンピンしている。
「チクショー、なんで抜けねーんだよこいつー!」
ユーラがうなだれていると、そこに40代くらいの女性がやって来た。
「ごめんねぇユーラちゃん、ホントはウチの旦那にやらせるべきなんだけど…」
女性が手を合わせてユーラに謝罪する。
「いいえ、気にしてませんよエレナさん。…旦那さん、ギックリ腰なんですよね?」
「そうなのよねぇ…いい歳して重い木箱を一度に5箱も運ぼうとするから…でも、あなたみたいな若い人がいてくれてよかったわぁ〜。そうだ、一つ頼まれて欲しいのだけど…」
「なんでしょうか?」
女性は東の方向を指差す。それに追随するようにユーラもその方向を見る。
「お昼ごはん作ったから、カレンちゃんを呼んで来てくれないかしら〜。」
「カレンですね、わかりました…あっ、そうだ!」
ユーラは二、三歩歩いてから思い出したかのように振り返った。
「俺、もう18ですよ。さすがに名前にちゃん付けはよしてくださいよ…恥ずかしいんで。」
「あらそう?ごめんねぇユーラちゃん、今後は気をつけるわ。」
「……………」
「……あらやだ!ごめんね違うのよ、わざとじゃないのよ!」
「はあ…もう諦めました。それじゃあ呼びに行ってきますね。」
「ユーラちゃんかぁ、思えば俺とカレンは随分周りの人に愛されて育ってきたんだな…」
ユーラは、緩やかな風に運ばれる白雲を見ながら呟く。
「………あの雲の上に、父さんと母さんが暮らしているのかな?おっと、教会はここか。」
うっかり教会を素通りしそうになったユーラは、教会の扉を開ける。六個程度の長椅子、所々ボロボロになったカーペット、少し霞んだ色のスタンドグラス、そして最奥部にぽつんと立っているフリエンのほとんどが信仰していると言われるステーニア教の象徴である女神ステーニアの像。決して立派な教会とは言えないが、それでもこの村唯一の教会だ。
「……女神ステーニアよ、運命に抗い、運命に挑み、運命を変えんとする我らに加護を与えたまえ…」
その奥の女神像にてひざまづき祈りを捧げる少女がいた。年はユーラと同じくらいで、髪は緑。右手の人差し指に直径2センチ程度の青い宝玉がついた指輪をしていた。
「……カレン、お邪魔だったか?」
「あら、ユーラ?お祈りのことでしたらもう終わりましたので大丈夫ですよ。」
左手で髪をかきあげながら、カレンと呼ばれた少女は振り返る。
「今日も神父さんの手伝いか?」
「はい、ユーラは神父さんにご用事が?」
「いや、カレンに用事。エレナさんが昼ごはん作ったから呼んできてくれって頼まれたんだ。」
「なるほど、そうでしたか。ですが今から教会の中を掃除しなければなりませんので、外でお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
「わかった、待ってるぜ。」
そんな軽い会話を交わした後、ユーラは教会の外へ向かう。背後から箒の音と、ゆったりとしたメロディの鼻歌が聞こえてきた。元の曲が何なのかはユーラには分からなかったが、聖歌か何かだろうとユーラは思った。
(俺もカレンも、理由は違えど両親がいないのは同じだ。カレンは確かこの村のはずれに捨てられていたのを神父さんが拾って。俺は…)
そこまで考えたユーラの脳裏に浮かんだのは、両親が一つの墓石の下に眠ったあの日の記憶。
(…墓参り、行こうかな。)
少し暗い気持ちで教会の扉を開けるユーラ。その時の扉が何故か軽かった。
「んっ?」
扉の反対側には女の子がいた。右手が扉の取っ手をしっかり握っている。どうやらユーラが外へ出ようとした時と同じタイミングで教会の中に入ろうとしていたらしい。
「あっ、すいませんです、サヒ村の教会ってここであってるですか?」
女の子はユーラにぺこり、と頭を下げる。…いや、女の子と言うべきなのだろうか。髪は紫色の右側サイドテール。服の種類はよくわからなかったが、少なくとも農村で買えるような代物ではない。身長も168センチのユーラよりも少し高く、大人っぽい雰囲気すら感じる。…ただ少々、『です』の使い方がおかしいような気もするが。
「えっ、ああ、ここで合ってますよ。(この辺じゃあ見ない顔だな…観光客?珍しいな〜)」
「あ〜よかったです!それじゃあ、カレンちゃんもここにいるですか?」
「ええ、奥の方にいますよ。」
「ありがとです〜。」
そう言って女は教会の中に入り、カレンを探す。それとすれ違うようにユーラは教会の外に出る。
(キレ〜な人だったな…この辺の人じゃないよな?服もこの辺じゃ買えないヤツだし…カレンも、修道女のカッコだけじゃなくてもっと色々オシャレした方がいいと思うんだけど……ん?)
(『この辺の人じゃない』……なのに『カレンの名前を知っている』…?あいつ、この村から出た事あったっけ?)
事実、カレンは産まれて間もない頃にこの村に捨てられ、一度も村の外に出た事は無い。外の世界が気になる事もたまにあるとユーラに話した事もあった。交友関係も、村の人以外には持っていない。じゃあ先ほどの女は『どこでカレンを知ったのだ?』
「カレン、さっき入っていった女の人だけど…」
そう言いながら教会の中に入ったユーラ。
「………!?」
その時、とんでもない光景を見てしまった。カレンが先ほどの女の腕の中で、力無く倒れ込んでいた。かといって殺されたわけではなさそうだ、何故わかるのかというと、ユーラには、カレンがほんの僅かに呼吸をしているのが見えたからである。女はユーラがまた入ってくるのは予想外だったのか、目をパッチリ開けてユーラを凝視していた。が、2、3秒位で元の顔に戻る。
「……お前、カレンをどうする気だ!」
教会の中に響き渡るほどの声でユーラは叫んだ。
「どうする……ですか?…どうするでしょうねえ…?」
女のすっとぼけた返答。ユーラの怒りのボルテージがぐんぐん上がっていく。
「答えろ!カレンをどうするつもりだ!答えなければ…」
「答えなければぁ?どうするっていうんですかぁ?」
どうあっても答えるつもりは無いらしい。ならば、ユーラはとっておきの切り札を切る。
「デュエルだ!俺が勝ったら、お前の目的を教えてもらうぞ!ついでにカレンも返してもらう!」
「欲張りさんですねぇ…じゃあ、私が勝ったらこの子は好きにさせてもらうですよ」
条件は決まった。ユーラはポケットの中から、女は胸の谷間の中から円盤のようなものを取り出し、手の甲に置く。すると、突然ベルトのようなものが出てきて円盤を固定する。そして次の瞬間、円盤の中からプレートのようなものが飛び出す。『決闘盤(デュエルディスク)』の完成だ。
「「デュエル!!」」
人気の無い教会の中で、今、戦いの火蓋が切って落とされた。
ユーラLP8000
女LP8000
「先攻は貴方に譲ってあげるです。」
「バカにしやがって…!俺のターン!まずは手札からレベル4の『ボムソルジャー』召喚!」
『ボムッ!』
ボムソルジャー ATK1600
黒い爆弾にデフォルメされた手足がくっついたモンスター。そのちっちゃな手足でシャドウボクシングを始めた。やる気は十分のようだ。
「カードを一枚セットし、ターンエンド!」
「それじゃ私のターン…と言いたいところですけど、ちょっとこの子寝かしてきてもいいです?」
「え?」
「だからー、このカレンちゃんを安全な場所に置いてきてもいいです?ってことですよ。女の子の柔肌は資本ですよ資本。傷がついちゃったら大変です。」
「……誘拐犯のクセにそんなこと気にするんだな、いいぜそれくらいは」
「ではこの長椅子に失礼して、と…これでよし。改めて見るとカワイイ顔してるですねぇ〜。胸は私ほどじゃないですけど、腰も引き締まってるいい女です。」
「それじゃ気を取り直して私のターンです!ドロー!手札からレベル3『アサシネート・サイレント』召喚です!」
アサシネート・サイレント ATK900
闇に溶け込みやすくするためか、全体的に黒い衣装を纏い、顔も見えない。右手に携えたナイフがキラリと光る。
「そして永続魔法、『暗殺契約』発動!一ターンに一度、私の『アサシネート』モンスターが相手モンスターを戦闘破壊した時、私はデッキからカードを一枚ドローできる!」
「バトル!『アサシネート・サイレント』で『ボムソルジャー』に攻撃!」
「なっ!?(攻撃力は『ボムソルジャー』の方が上…何かある!)」
「この時、『サイレント』の効果発動!攻撃宣言時に戦闘を行う相手モンスターの攻撃力を半分にする!」
ボムソルジャー ATK1600→800
「やはり……!」
サイレントがボムソルジャーに向かって真っ直ぐに突っ込んでいく。ボムソルジャーが迎え討とうとしたその瞬間、驚異的な速度でサイレントが背後に回り込み、必殺の一閃を放つ。
ユーラLP8000→7900
「『ボムソルジャー』暗殺完了です!私は一枚ドロー!メインフェイズ2、私はカードを1枚セットし、ターンエンドです」
「俺のターン!ドロー!手札からレベル4『ボムバード』を召喚!」
ボムバード ATK1500
黒い胴体にダイナマイトがくくりつけられた羽、尻尾が導火線になっているモンスターが現れる。まだ状況がわかってないのかキョロ、キョロ、とあたりを見回している。
「このカードが召喚に成功した時、デッキから『ボム』『バクダン』『エクスプロード』と名のついたモンスターを一枚墓地へ送る!そしてその後、このカードの攻撃力を500ポイントアップさせる!俺は『ボムソルジャー』を墓地に送り、『ボムバード』の攻撃力を500ポイントアップ!」
ボムバード ATK1500→2000
「バトル!『ボムバード』で『アサシネート・サイレント』に攻撃!」
「あら残念です。罠カード、『暗殺者の隠れ蓑』発動!このターン相手は私のフィールドの『アサシネート』モンスターを攻撃対象にできず、ダメージを与えることができないです!(とは言っても、私にダメージを与えるのは『ついで』…本当の狙いはおそらく『ボムバード』による墓地肥やし!)」
「俺はこれでターンエンドだ!(よし、目的は果たした!)」
「それじゃあ私のターンです!ドロー!手札から『アサシネート・ウルフ』召喚!」
アサシネート・ウルフ ATK700
「レベル3『アサシネート・サイレント』にレベル3『アサシネート・ウルフ』をチューニング!」
「チューニング…シンクロ召喚!?」
「時は今、天が下知る、皐月かな!黒き弾丸、闇を舞い飛べ!」
3つの降臨をくぐり抜け、『アサシネート・サイレント』はその姿を変化させていく、人の手に余る大きさの銃を携え、その鎧には桔梗の紋所が刻まれていた。
「シンクロ召喚!『アサシネート・ミツヒデ』!」
アサシネート・ミツヒデ ATK2400
「ミツヒデの効果!一ターンに一度、相手フィールド上のモンスター一体を対象に発動できる!そのモンスターを破壊する!『ボムバード』狙撃開始!」
ミツヒデが銃を構え、両目を開き狙いを定める。そしてタイミングを見切り引き金をいく。その瞬間『ボムバード』は破壊された。だが弾丸はそこで止まらずユーラにまで飛んでくる。
「ぐっ!?」
ユーラ LP7900→6700
「弾丸が貫通したようですねえ…実はミツヒデの効果には続きがあるんですよ、『その後相手に1200のダメージを与える』とね!」
「…なるほどね」
「そしてバトル!ミツヒデでプレイヤーにダイレクトアタックです!ブラックバレット!」
『ボムバード』を破壊した時と同じように銃を構えてユーラに向けて弾丸を発射するミツヒデ。ユーラは反射的に避けようとするが弾丸が髪の毛を掠めた。
ユーラ LP6700→4300
「別に映像なんですから避けなくても死にはしないですよ?」
「わかってても心臓に悪いんだよ!」
「ま、気持ちはわからんでもないですけどね。カードを一枚伏せ、ターンエンドです。」
「(…こいつ、なんか調子狂うな…普通誘拐犯とかだったらこんなに余裕持って会話なんてしないと思うんだけど…)俺のターン!ドロ…」
ユーラがドローしようとしたその瞬間、女が高らかに宣言する。
「ドローフェイズ時!罠カード『暗殺警戒』発動!自分フィールドにレベル5以上の『アサシネート』モンスターが存在する時に発動できるです!このターン、相手は通常召喚を行えないです!」
「なんだって!?……くっ、ならば魔法カード『手投げ爆弾』発動!手札の『ボム』、『バクダン』、『エクスプロード』モンスターを2枚まで捨てて発!俺は『ボムソルジャー』を墓地に捨てる!そして捨てた枚数分、相手に500ポイントのダメージを与える!」
女 LP8000→7500
「さらに魔法カード『廃棄条約』発動!自分のデッキから『ボム』または『バクダン』と名のついたモンスターを一体墓地へ送る!『バクダンディー』を墓地へ!」
「ふっ、やけっぱちになったんですか?墓地にどれだけモンスターを送ろうが、あなたの手札はゼロ!これ以上何もできないです!」
「……ターンエンド!」
「私のターンです!ドロー!」
(あの眼は勝利を諦めていない眼…その根拠は最初のターンに伏せているカード?恐らくミラーフォースのようなカード…!ならば!)
「手札から『サイクロン』発動!相手の魔法・罠カードを一枚破壊する!(これで後は手札の『アサシネート・ダーク』を召喚し、追い込みをかける!)」
「なあ!」
突然、ユーラが女に呼びかける。
「はい?」
「お前のそのモンスター、『アサシネート』っていうのか、確かどっかの国の言葉で『暗殺する』って意味なんだっけ?暗殺ってもっと素早く華麗に仕留めるもんだと思ってたんだけど、実際はこんなにいやらしく追い詰めるもんなのか?」
「そういうもんですよ、暗殺者は標的の情報、侵入経路、警備の配置、退路…いろんな下準備を済ませてからじっくり『コロシ』を行うんです。女性の暗殺者なら尚更、ですね。」
「へえ……!でも知ってるか?爆弾っていうのはな、一度爆発するか解体するかしねえと死なねえってことを!」
(……?………!!!まさか、墓地にいるモンスター達!)
「暗殺者でも『死んでる奴』は殺せないみたいだな!おかげでたっぷり味わってもらえそうだぜ、爆弾の真の脅威をな!」
「『サイクロン』にチェーンし、罠カード『不発弾の惨劇』発動!墓地の『ボム』または『バクダン』モンスターを全て除外し、除外した数×500ポイントのダメージを相手に与える!墓地に存在するのは『ボムソルジャー』三体、『ボムバード』そして『バクダンディー』!よって2500のダメージ!」
「さらにその後!相手フィールド上のモンスターを全て破壊する!(その代わりデュエル中に一度、しかも相手ターンにしか使えないけどな)喰らえ!」
『ボムソルジャー』が、『ボムバード』が、『バクダンディー』が相手のフィールドに飛び上がりそれぞれの導火線に点火する。2、3秒後火が火薬部分に到達し、大爆発を起こす!
「キャアアアーッ!くっ!」
女 LP7500→5000
「はあ…してやられたです。しかし私のターンが終わったわけではないです!手札から『アサシネート・ダーク』召喚!」
アサシネート・ダーク ATK500
「バトル!ダークでダイレクトアタック!この時ダークの効果発動!このカードがダイレクトアタックを行う時、その攻撃力を二倍にする!」
アサシネート・ダーク ATK500→1000
二本のナイフを引き抜いた暗殺者はそのまま真っ直ぐそして素早く突っ込みユーラの体を十字に斬る。
「っ!これ『不発弾の惨劇』引いてなかったらやばかったかもな…」
ユーラ LP4300→3300
「私はこれでターンエンドです…」
「エンドフェイズ時!除外されている『バクダンディー』の効果発動!このカードが除外されたターンのエンドフェイズ時、デッキから『ボム』『バクダン』『エクスプロード』モンスターを一枚、手札に加えるか墓地に送る!俺はデッキから『エクスプロード・ウィザード』を手札に加える!」
(ッ!ここまで効果を活用するとは…それに今加えたカード、何かやばいです!)
「行くぜ、相棒!」
ユーラはたった今加えたカードを手に決意を固める。教会の女神像が、微笑んだ気がした。
次回予告
遂に姿を見せるユーラのエースモンスター。謎の女は何が目的でカレンを狙ったのか!?
「俺の導火線に火を点けた…あんたは絶対許さねえ!行くぜ!俺の『エクスプロード・ウィザード』!」
「悪いですけど、こっちも簡単にやられてやるわけにはいかないんですよ!」
次回、第2話 『爆風の魔術師』
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63 | 設定集その1 | 624 | 1 | 2017-09-27 | - | |
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