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1-8:デュエルモンスターの精霊(*未修 作:氷色
それは見紛うことなく、先程喫茶店で遭遇した空飛ぶ少女だった。
露出度の高い魔法少女ものアニメコスプレのようなワンピースミニドレスに身を包み、手には短めの魔法の杖らしきものを握っている。帽子も魔女や魔法使いが被っていそうなとんがり帽子をオマージュしたような作りだ。
その衣装も相まってか綺麗というよりは可愛らしい印象。少なくとも見た目の年齢はユウゴ達と同年代くらいだろう。大きく愛嬌のある瞳が少し幼さを感じさせるが、それに反して豊かな胸がドレスの上からこぼれ落ちそうになっている。
「助…けてくれたのか…」
まだ放心状態から抜け出せ切れないユウゴが呟くように問うと、少女はにっこりと微笑んだ。
そしてずいずいと近付き、顔を寄せてじろじろとユウゴを見回したり鼻をくんくんして匂いを嗅いだり。
「近い近い近い!ちょ…距離感ッ!」
ユウゴが思わず赤面するほどの近さ。
この緊迫した状況が分かっているのかいないのか、少女は恐ろしいくらいにマイペース。
普段なら苦笑で済むのかもしれないが、今まさに自分の命が秤にかかっているこの状況では、もうちょっと引く。
『やっぱり良い感じ♪』
この子に悪魔とは別の恐怖心が湧き出したユウゴを尻目に、少女は何やら得心したようにうんうん頷いている。
とにかく今は状況を整理しなければならない。まずは彼女の正体からだ。
ユウゴはおずおずと少女に近寄る。
「あの…君は一体…」
『マナは…マナは長い間旅をしていたわァ!』
しかし少女は唐突に、まるで舞台女優のように大仰な身振りで語りを始めた。
『野を越え山を越え…!時には海を渡り!時には紛争地帯を駆け抜け!辛いことも泣きたくなることも何度もあったわ!でもマナの心は決して!決して折れたりはしなかった!使命が…マナに天から与えられた使命がマナを支えてくれていたから!この心が例え傷だらけになろうとも!この身体が例え恥辱に汚れようとも!』
まるでミュージカルだ。
少女は宙に浮いたまま、ロンドを踊るかのようにくるくると回っている。
駄目だこの子は。全く会話にならない。完全に自分の世界だ。
呆然とそう結論付けようとした時、少女がバッとユウゴに手を伸ばした。
『そうッ!全ては今日アナタに出逢うためッ!』
マズイ巻き込まれた。
少女が軽くウィンク。まるでノッてこいと言わんばかり。
もしかして自分もあんな風に喋らなければ話が続かないとでも言うのだろうか。
躊躇っていると、少女は差しのべた手をくいくい動かしてなおもユウゴを誘う。
ゾッとした気持ちながら、おずおずと誘われるまま手を取りそうになる。
しかし羞恥に悶えるユウゴを助けたのは、意外な人物だった。
『いい加減にせんかァ!!』
地鳴りのような怒号。
発したのは当然あの悪魔だ。
見ると怒りに顔を赤らめ、真紅の瞳は燃えたぎるように爛々としている。
『儂を無視してごちゃごちゃとなぁにをやっとるかァ!!』
今回ばかりはユウゴも悪魔に同調したい気分だ。
先程までの緊張感は何処へ行ってしまったのか。
叱られた形となる少女は唇を尖らせる。
『何ですかぁ?イマ良いところなのにぃ。ちょっと待っててくれてもいいじゃないですかぁ。空気読んで下さいよぅ。特撮ヒーローの敵とかも変身中は待っててくれるでしょう?』
『知るかッ!!というか貴様がまず空気読めッ!!』
少女は『ケチですねぇ…』とか言いながらしぶしぶユウゴに近付く。
そして小声で話し始めた。
『もうとっくに気付いてると思いますけど、マナ達は人間じゃありません。マナ達は【デュエルモンスターの精霊】です』
*
その頃、商店街を疾走する小柄な影があった。
「全くあの馬鹿娘が!飛べるからといってとんでもないスピードで飛び出しおって!」
セキュリティのバッジを付けたその少女は人目も憚らずに悪態をつく。
クリボーを頭に乗せた少年を見た途端飛び出していった連れがその悪態の対象だ。
その様子からはあたかも怒り心頭という風に見えるが、しかし頭は冷静だった。
自身の知覚を網のように周囲に張り巡らし、付近の『魔力』を探る。
そしてその知覚は少し離れた場所に巨大な魔力が集まっているのをすでに捉えていた。
「なぜこんな魔力の精霊がDMCDの網にも引っ掛からずこんなところにッ…」
彼女の正式な所属先である『決闘管理課(通称:DMCD)』からは未だ何の連絡もない。
本来ならばレート4以上の強力な野良精霊が出現した場合、すぐに区内の守護官(ガーディアン)に連絡が入るようになっているはずなのだ。
しかも彼女の感覚が確かならば、この先で待っている相手はレート4では済みそうもない大物。悪態の一つもつきたくなるというものだ。
しかし今彼女の心を占めている感情は決して怒りではなかった。
「早まるなよマナ…!」
彼女はそう口に出し、なお一層強くアスファルトを蹴り込んだ。
*
「デュエル…モンスター…」
ユウゴはその言葉を咀嚼するようにもう一度呟く。
「それってこのクリボーやあの悪魔も…?」
「はい♪」
マナが頷き、クリボーもそれを肯定するようにユウゴの周りをくるくると舞う。
「一体キミ達デュエルモンスターの精霊ってどういう存在なんだ?」
『デュエルモンスター』という聞き慣れない言葉。そして精霊というあまりに現実とかけ離れた存在。
実際に目の当たりにしているとは言え、そう容易に理解し受け入れられるものではない。
その答えを求められたマナは、しかし頭を抱えていた。
「え、えーっと…」
「どうした?」
「マナは人に何かを説明するとかちょっと苦手なんですよぅ…」
そうだった、この子はちょっとアレな子だった。
「まぁその辺の難しいことはアスナちゃんが来てから説明してもらいます♪」
結果、マナはそういう面倒事は他人に丸投げすることにした。適材適所というやつだ。
アスナというのはあのタツヤがセキュリティだと言っていた方の子のことだろう。
その彼女が来れば、色々とこの不可解な状況について説明してくれるということか。
マナは肝心なところがアレではあったが、それでもクリボーやあの悪魔がデュエルモンスターの精霊という存在であるという一定の解答は示してくれた。それだけでも分かったことが二つある。
一つは、このユウゴにしか見えない存在達がユウゴの妄想などではなく確かに実在しているということ。
そしてもう一つは、彼らが実在しているのならばあの悪魔もまた幻などではなく、確かに実在する脅威であるということだ。
ユウゴがそれを理解したのを見て取り、マナは持っている杖で悪魔を指し、そして笑う。
「まずはこの悪魔さんをやっつけちゃいましょ♪」
露出度の高い魔法少女ものアニメコスプレのようなワンピースミニドレスに身を包み、手には短めの魔法の杖らしきものを握っている。帽子も魔女や魔法使いが被っていそうなとんがり帽子をオマージュしたような作りだ。
その衣装も相まってか綺麗というよりは可愛らしい印象。少なくとも見た目の年齢はユウゴ達と同年代くらいだろう。大きく愛嬌のある瞳が少し幼さを感じさせるが、それに反して豊かな胸がドレスの上からこぼれ落ちそうになっている。
「助…けてくれたのか…」
まだ放心状態から抜け出せ切れないユウゴが呟くように問うと、少女はにっこりと微笑んだ。
そしてずいずいと近付き、顔を寄せてじろじろとユウゴを見回したり鼻をくんくんして匂いを嗅いだり。
「近い近い近い!ちょ…距離感ッ!」
ユウゴが思わず赤面するほどの近さ。
この緊迫した状況が分かっているのかいないのか、少女は恐ろしいくらいにマイペース。
普段なら苦笑で済むのかもしれないが、今まさに自分の命が秤にかかっているこの状況では、もうちょっと引く。
『やっぱり良い感じ♪』
この子に悪魔とは別の恐怖心が湧き出したユウゴを尻目に、少女は何やら得心したようにうんうん頷いている。
とにかく今は状況を整理しなければならない。まずは彼女の正体からだ。
ユウゴはおずおずと少女に近寄る。
「あの…君は一体…」
『マナは…マナは長い間旅をしていたわァ!』
しかし少女は唐突に、まるで舞台女優のように大仰な身振りで語りを始めた。
『野を越え山を越え…!時には海を渡り!時には紛争地帯を駆け抜け!辛いことも泣きたくなることも何度もあったわ!でもマナの心は決して!決して折れたりはしなかった!使命が…マナに天から与えられた使命がマナを支えてくれていたから!この心が例え傷だらけになろうとも!この身体が例え恥辱に汚れようとも!』
まるでミュージカルだ。
少女は宙に浮いたまま、ロンドを踊るかのようにくるくると回っている。
駄目だこの子は。全く会話にならない。完全に自分の世界だ。
呆然とそう結論付けようとした時、少女がバッとユウゴに手を伸ばした。
『そうッ!全ては今日アナタに出逢うためッ!』
マズイ巻き込まれた。
少女が軽くウィンク。まるでノッてこいと言わんばかり。
もしかして自分もあんな風に喋らなければ話が続かないとでも言うのだろうか。
躊躇っていると、少女は差しのべた手をくいくい動かしてなおもユウゴを誘う。
ゾッとした気持ちながら、おずおずと誘われるまま手を取りそうになる。
しかし羞恥に悶えるユウゴを助けたのは、意外な人物だった。
『いい加減にせんかァ!!』
地鳴りのような怒号。
発したのは当然あの悪魔だ。
見ると怒りに顔を赤らめ、真紅の瞳は燃えたぎるように爛々としている。
『儂を無視してごちゃごちゃとなぁにをやっとるかァ!!』
今回ばかりはユウゴも悪魔に同調したい気分だ。
先程までの緊張感は何処へ行ってしまったのか。
叱られた形となる少女は唇を尖らせる。
『何ですかぁ?イマ良いところなのにぃ。ちょっと待っててくれてもいいじゃないですかぁ。空気読んで下さいよぅ。特撮ヒーローの敵とかも変身中は待っててくれるでしょう?』
『知るかッ!!というか貴様がまず空気読めッ!!』
少女は『ケチですねぇ…』とか言いながらしぶしぶユウゴに近付く。
そして小声で話し始めた。
『もうとっくに気付いてると思いますけど、マナ達は人間じゃありません。マナ達は【デュエルモンスターの精霊】です』
*
その頃、商店街を疾走する小柄な影があった。
「全くあの馬鹿娘が!飛べるからといってとんでもないスピードで飛び出しおって!」
セキュリティのバッジを付けたその少女は人目も憚らずに悪態をつく。
クリボーを頭に乗せた少年を見た途端飛び出していった連れがその悪態の対象だ。
その様子からはあたかも怒り心頭という風に見えるが、しかし頭は冷静だった。
自身の知覚を網のように周囲に張り巡らし、付近の『魔力』を探る。
そしてその知覚は少し離れた場所に巨大な魔力が集まっているのをすでに捉えていた。
「なぜこんな魔力の精霊がDMCDの網にも引っ掛からずこんなところにッ…」
彼女の正式な所属先である『決闘管理課(通称:DMCD)』からは未だ何の連絡もない。
本来ならばレート4以上の強力な野良精霊が出現した場合、すぐに区内の守護官(ガーディアン)に連絡が入るようになっているはずなのだ。
しかも彼女の感覚が確かならば、この先で待っている相手はレート4では済みそうもない大物。悪態の一つもつきたくなるというものだ。
しかし今彼女の心を占めている感情は決して怒りではなかった。
「早まるなよマナ…!」
彼女はそう口に出し、なお一層強くアスファルトを蹴り込んだ。
*
「デュエル…モンスター…」
ユウゴはその言葉を咀嚼するようにもう一度呟く。
「それってこのクリボーやあの悪魔も…?」
「はい♪」
マナが頷き、クリボーもそれを肯定するようにユウゴの周りをくるくると舞う。
「一体キミ達デュエルモンスターの精霊ってどういう存在なんだ?」
『デュエルモンスター』という聞き慣れない言葉。そして精霊というあまりに現実とかけ離れた存在。
実際に目の当たりにしているとは言え、そう容易に理解し受け入れられるものではない。
その答えを求められたマナは、しかし頭を抱えていた。
「え、えーっと…」
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そうだった、この子はちょっとアレな子だった。
「まぁその辺の難しいことはアスナちゃんが来てから説明してもらいます♪」
結果、マナはそういう面倒事は他人に丸投げすることにした。適材適所というやつだ。
アスナというのはあのタツヤがセキュリティだと言っていた方の子のことだろう。
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マナは肝心なところがアレではあったが、それでもクリボーやあの悪魔がデュエルモンスターの精霊という存在であるという一定の解答は示してくれた。それだけでも分かったことが二つある。
一つは、このユウゴにしか見えない存在達がユウゴの妄想などではなく確かに実在しているということ。
そしてもう一つは、彼らが実在しているのならばあの悪魔もまた幻などではなく、確かに実在する脅威であるということだ。
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