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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第3話:凶雷の魔王

第3話:凶雷の魔王 作:氷色

律儀にフェイズ移行を宣言するエビル・デーモン。
なんだかデュエルのレクチャーを受けているような感覚になる。

先程こちらの話が終わるまで待っていてくれた件にしても、こいつはただの粗暴なだけの相手というわけではないらしい。
礼を尽くすべき時には尽くす。それは自らの力に対する誇り故か。1ターン目の戦い方を見ても、それに恥じない実力者なのは明らかだ。

「こいつは思ってたほど一筋縄じゃいかないかもな」

胸中に芽生え始めた危機感とは裏腹にユウヒは口の端を上げながらデッキからカードをドローする。

「俺のターン、ドロー!」

後攻であるユウヒにはドローフェイズにカードをドローする権利が与えられている。

これでユウヒの手札は6枚。
この6枚でエビル・デーモンの場に存在する《トラッシュ・デーモン》を攻略しなければならない。

デュエルの基本はモンスターのステータスによるぶつかり合いだ。
相手のモンスターを倒すには、そのモンスターの表示形式に応じた攻撃力・守備力を上回る攻撃力の高いモンスターでそれに攻撃するしかない。
如何にして相手モンスターのステータスを上回るかがデュエルの戦術の根幹だ。

しかしユウヒの手札に《トラッシュ・デーモン》の攻撃力2100を上回る攻撃力を持つモンスターはいなかった。
となればカードのコンビネーションでモンスターの攻撃力を上げるしかない。手札にはそのための強化カードがあった。



《黒魔術の呪文書》(*オリカ)
装備魔法
闇属性・魔法使い族モンスターのみ装備可能。
(1):装備モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。
(2):装備モンスターが戦闘で相手プレイヤーにダメージを与えた時、発動できる。自分はカードを1枚ドローする。
(3):フィールドに表側表示で存在するこのカードが墓地に送られた場合に発動できる。デッキから「マジシャンズ」魔法・罠カード1枚を手札に加える。



《黒魔術の呪文書》は攻撃力を500ポイントアップするだけではなく、更なるアドバンテージを得ることができる可能性を持つ強力な装備魔法カードだ。
しかし強力なカードにはそれに相応しい発動条件が課されることが多い。《黒魔術の呪文書》もまた使いこなすことができるのは闇属性の魔法使い族モンスターに限られていた。
そして残念ながらユウヒの手札にはその条件に合うカードはない。

ならば、とユウヒは手札から2枚のカードをデュエルディスクにセットする。

「俺はモンスターを裏側守備表示でセット。更にカードを1枚伏せてターンエンドだ」

守備表示のモンスターならば例え攻撃力の高いモンスターに攻撃され倒されてしまってもユウヒにダメージは届かない。
現状を打破できない以上、被害を最小限に留めつつ反撃の準備ができるまで持久戦を耐えるしかない。


◇ユウヒ(手札4・LP4000)

モンスター
セットモンスター×1
魔法・罠
セットカード×1

◇エビル・デーモン(手札5・LP4000)

モンスター
トラッシュ・デーモン/攻2100
魔法・罠
闇の二重魔法陣/永続


ユウヒがエンド宣言したことによりターンが移る。
エビル・デーモンがデッキからカードをドローし嗤う。

『ククク、打つ手なしか。儂のターン、ドロー』

引いたカードを確認し目を細める。
そしてフィールドの下僕に命を下す。

『まずは《トラッシュ・デーモン》の効果を発動する。デッキから再度《トリック・デーモン》を墓地に送り、その効果でデッキから《デーモンの雄叫び》を手札に加える』

《トラッシュ・デーモン》のモンスター効果は1ターンに1度発動させることができる。
墓地に送られればデッキから『デーモン』カードをサーチできる《トリック・デーモン》がある限り、《トラッシュ・デーモン》は毎ターンカードをサーチできることになる。

「くそ…」

ユウヒにはエビル・デーモンがこうして手堅くアドバンテージを広げていくのを忸怩たる思いで見送るしかない。

そしてその無力はエビル・デーモンに切り札の召喚を許してしまった。

『絶望を拝ませてくれるッ!儂はフィールドの《トラッシュ・デーモン》をリリースし、儂自身《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》をアドバンス召喚する!!』

《トラッシュ・デーモン》が稲光に吸い込まれるように消える。
と同時に日が傾き始めた空に暗雲が立ち込め始めた。

「ーー来る」

暗雲の隙間に稲光が走る。
それが吸い込まれるように一点に集束し、そして弾けた。
轟音と共に一筋の稲妻が両者の間に落ちた。
勢いよく砂埃が舞い上がり、ユウヒは思わず顔を伏せる。
その砂埃が収まると現れたのは、紅い瞳、白い外骨格、力強く巨大な体躯、そして稲妻を纏った濃密な瘴気、紛れもなくもう一人のエビル・デーモンー《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》であった。



《真紅眼の凶雷皇(レッドアイズ・ライトニング・ロード)-エビル・デーモン》
デュアル・効果モンスター
星6/闇属性/悪魔族/攻2500/守1200
(1):このカードはフィールド・墓地に存在する限り、通常モンスターとして扱う。
(2):フィールドの通常モンスター扱いのこのカードを通常召喚としてもう1度召喚できる。その場合このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。このカードの攻撃力より低い守備力を持つ、相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊する。



「くっ…!」

『フハーッハッハッハッハッ!』

ユウヒは苦虫を噛み潰したように唸り、エビル・デーモンは最早勝敗が決したかのように高笑いする。

ユウヒからすればエビル・デーモンが2体に増えたように見える。
放たれる圧力も単純に二倍。
しかも闇属性の《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》は《闇の二重魔法陣》によって更に強化される。


真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン/攻2500→3000


『あややー、出てきちゃいましたよぅマスター』

マナの言葉には字面ほどの焦りの色はない。
ユウヒならばあの程度のモンスター倒せるはず、と信じているのだろう。
その信頼がユウヒの背中を押してくれる。

「大丈夫だ」

そう言ってその信頼に答える余裕もまだある。
《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の攻撃力は3000。確かに強大な力だ。しかしそれに攻撃されても守備表示のモンスターが防いでくれるはず。このターンはユウヒにダメージはない。

『ーーと、そう考えているのだろうなぁ』

エビル・デーモンがユウヒの考えを見透かすように嗤いながら呟く。
見透かされた側のユウヒは背中に走るものを感じる。

『見え透いているぞ小童!言ったであろう!絶望を見せてやるとッ!儂は手札からアクション魔法《ヒート・アップ》を発動!貴様の貧弱な守備モンスターをあばいてくれるわッ!』



《ヒート・アップ》(オリカ)
アクション魔法
相手フィールド上に守備表示で存在するモンスター1体を選択して表側攻撃表示にする。



エビル・デーモンが先程手に入れたアクションカードをデュエルディスクにセットすると、ユウヒのセットモンスターが赤く光り、ゆっくりと翻っていく。

「なっ…!?」

カードが完全に表側となり、現れたのは清らかな姿の女性モンスター。



《祈りの聖女 ホーリー・エルフ》(*オリカ)
星4/光属性/魔法使い族/攻800/守2000
「祈りの聖女 ホーリー・エルフ」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか発動できない。
(1):手札・フィールドのこのカードをリリースし、自分フィールドのモンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターの攻撃力は800ポイントアップする。この効果は相手ターンにも発動できる。
(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。墓地から「祈りの聖女 ホーリー・エルフ」以外の攻撃力2000以下の魔法使い族モンスター1体を選んで特殊召喚する。



『《ヒート・アップ》は、どんなモンスターも強制的に興奮状態にしてしまうアクション魔法のようだな! 例え貧弱な攻撃力であろうと晒さずにはおれぬらしいわ!』

ユウヒの守備モンスターだった《祈りの聖女 ホーリー・エルフ》は高い魔法力で守備力は高いが、争いを好まない性質からその攻撃力は僅かに800。しかし今や《ヒート・アップ》の力で強制的に攻撃表示を取らされていた。清らかなイラストに反して、今は顔を赤らめてエビル・デーモンを睨み付けている。
しかしこれでは《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》にとっては格好の獲物。このままでは大ダメージは必至だ。

『だがまだ真の絶望はこれからよッ! 儂の分身である《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》は闇属性のデュアルモンスター!! よって《闇の二重魔法陣》上では再度召喚された状態として扱われる!! そして《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》には自身の攻撃力以下の守備力の相手モンスターを全て葬り去る効果があるのだッ!!』

「なんだって!?」

エビル・デーモンの放った言葉を、ユウヒはすぐに理解できなかった。
だがそれは次の瞬間にユウヒの眼前で表されることとなる。

『《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の効果発動ッ! 打ち払え“怒髪天昇撃”ィ!!』

主の命に呼応し、フィールド《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》が凶悪な声で吠える。獣の鳴き声など足下にも及ばない、まるで身体中の力を一気に放つような凄まじい声音。辺り一面がビリビリと震える。

そして次の瞬間、ユウヒのフィールドからいくつもの稲妻の柱が立ち上った。
それに巻き込まれる形で《祈りの聖女 ホーリー・エルフ》は断末魔もなく消滅してしまう。
ユウヒは悲鳴を上げる暇もなく、ただそれを刮目して見送るしかない。

振動と地面から天へと伸びる雷の柱が止むまで、ユウヒは一言も発せず一歩も動くことができなかった。
その様子を見てエビル・デーモンは満悦に酔う。

『ぐうの音も出ぬか。だがこの儂に歯向かうなどという愚かを今更嘆いても遅いわ。儂は手を緩めたりなどせぬぞッ。続いてバトルフェイズ、《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》でダイレクトアタック!!』

エビル・デーモンは手を止めたりはしなかった。すかさず指令を出す。
すると《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》が今度は自身の身体へと雷のエネルギーを貯め始める。


「マズイッ…!」

それまで仁王立ちで静観していたアスナが唸るように叫んだ。


それはユウヒにも解っていることだ。
すぐさまアクションカードを求めて駆け出す。

しかし《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の攻撃はそれよりも圧倒的に早かった。

『遅いわッ!! 終わりだ!! 所詮、小童は小童よッ!!』

《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》が雷を放った。

それは走るユウヒに一瞬で追いすがり、その体を駆け抜ける。

「ぐああああぁぁぁぁ!!」

身体中を電撃が走り、まるで中から焼かれているかのようだ。

ユウヒ/LP4000→1000

電撃の痛みと共にユウヒのLPもごっそりと削られてしまった。

『大丈夫ですかぁマスター?』

ぶすぶすと煙を上げるユウヒを心配そうに覗き込むマナ。
ユウヒはそれになんとか手を振って応えた。


リアルソリッドビジョンとは言え、受ける痛みは確かだ。
現実の雷を受けたと思えばまだ幾らかマシだが、それでも心臓の弱い人ならショック死しかねない威力。

「彼らのデュエルは、まるで遊びだわ……!」

憤るようにアスナは言う。

太古の昔ならいざ知らず昨今のデュエルは高速化が進み、1ターンで決着の付くワンターンキルも珍しくはない。そんな状況の中で、たった1体の守備モンスターでその場を凌ぐなどまるで素人の戦術だ。

アスナの目にはユウヒの戦い方はまるで稚拙な遊戯のようにしか映らなかった。

「……本当にそうでしょうか?」

ふと気付くと、隣に眼鏡をかけた少女が立っていた。
その少女ーー真崎アンリはまっすぐにユウヒを見つめている。

「どういう意味?」

その目にはユウヒに対する深い信頼が宿っているような気がして、アスナは思わずそう問うていた。

アンリは視線を移すことなくその問いに答える。

「敢えて、ではないでしょうか」

「敢えて?」

「彼ーー斯波ユウヒくんは敢えてピンチを招いているような気がするんです」

「え……?」

アンリの突拍子もない推測にアスナは目を点にする。

「貴女は彼の関係者なの?」

そんな推測はユウヒのことをよく知っていなければ出てこない発想だろう。
彼の名前を知っていたことも手伝って、アスナはそう予想した。

そこで初めてアンリは慌ててアスナに目を向けた。
そして恥じ入るように両手をぶんぶんと振る。

「斯波くんとはさっき会ったばかりです! そ、そんな関係者だなんて、私達まだそんな仲じゃありません!」

アスナの言った“関係者”という言葉をどう受け取ったのか、その頬はトマトのように真っ赤だ。

「そ、そう……」

そのあまりの剣幕にアスナも思わずたじろぐ。
しかし話の核心を見失うことはない。

「じ、じゃあなぜ彼がわざとやられているって思うの?」

アンリはその問いに努めて冷静に答える。

「演出ーーではないでしょうか」

「演出?」

「さっき斯波くんはエビル・デーモンに襲われそうになっている私を助けてくれたんです。それもかなりギリギリのタイミングで。そしてその理由をこう言ったんです。”演出だよ、演出。その方が劇的で盛り上がるじゃないか“」

アスナは眉を寄せる。

「貴女をギリギリのタイミングで助けることでこのデュエルを盛り上げようとした、ってこと?」

アンリはこくんと頷く。

「わざとピンチになり、そこから大逆転することでこのデュエルもまた劇的な内容にしようとしてる。私にはそう思えるんです」

「そんな、まさかッ!」

アスナはバッとデュエルフィールド内のユウヒを見る。
今まさに立ち上がろうとしているユウヒ。その口元は僅かではあるが笑んでいるように見える。

「エビル・デーモンはLDSがレート6+に指定している凶悪なモンスターよ!? それを相手にそんな馬鹿げたことを狙っているなんて……。そんなことがーー」

本当に心の底からそんなことができるはずがないと思う。
レート6+というエビル・デーモンの設定値は並ではない。下位の守護官で勝てるかどうかというところだ。
そのモンスターを相手にデュエルの流れさえもコントロールして勝つという、彼女の言うことがもし事実だとすれば、あのユウヒという少年の実力はLDSの守護官達を凌駕するものだということになる。
にわかには信じがたい話だ。

「そんなことが、あるはずがない……」

アスナはただそう呟くのがやっとだった。



立ち上がったユウヒは体に不調がないかどうか確かめていた。
手足に痺れるような痛みはまだ多少残ってはいるが、デュエル続行に問題はなさそうだ。

エビル・デーモンはそんなユウヒを腕組みして見下ろしている。

「ずいぶんと余裕だな、俺が立ち上がるのを待ってる間に次のアクションカードでも探しに行けばよかったのに」

ユウヒが挑発するように言うが、エビル・デーモンはそれには乗らずつまらなそうに答える。

『儂が求めているのは“戦い”だ。蹂躙ではない。貴様が戦士ならば、この言葉の意味は解るはずだ』

なるほど、とユウヒは笑む。

どうやらこの悪魔の本質は紳士というより歴戦の武人という方が近いのかもしれない。
好戦的ではあるが、最低限の礼は弁えている。
粗暴に見える態度は自分の力に誇りを持っているから。
求めているのは、強者同士が互いの全力をぶつけ合う燃えるような戦い。弱い相手では闘いがつまらない。互いの力が拮抗した闘いにこそ面白さを見出せるタイプなのだろう。

だからこそチャンスであるにも関わらず、敢えてアクションカードを取らずにこちらの出方を伺っていたということか。

「それってつまり今はまだ俺のこと舐めてるってことだよな」

拮抗した戦いを望むが故にアクションカードを取らなかったということは、つまりアクションカードを取れば一方的なデュエルになってしまい面白くないと考えたということだ。
彼我の力の差を歴然たるものと考えていないとそんなことはしない。力の差がない相手と認めているならば、形振り構わずチャンスを拾いにいくはずだ。

『マナはそれ、全然面白くないですぅ。ぷんぷん丸ですぅ~』

ユウヒの頭上でマナが頬を膨らませる。

「……だな」

それにユウヒも同意し、ぎらっと目に炎を灯す。

「んじゃ一丁、ここらで俺たちの力を見せてやるか!」

『はいッ!』

ユウヒとマナのそんな物言いを聞いて、エビル・デーモンは愉快げに嗤う。

『減らず口だな、小童共。ならば見せて見るがいいッ!貴様らの力とやらをッ!』

エビル・デーモンの咆哮のような声に応じてユウヒもテンションを上げる。

「ああ! そのための一手はすでに打ってる!」

『ほう?』

「忘れた?アンタの直接攻撃が決まる前、俺のフィールドには伏せカードが1枚残されていたのを」

確かにあの時ユウヒのフィールドにはセットされた魔法・罠カードが1枚残されていた。だが今はそのカードはない。
《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》にはモンスターを破壊する力はあっても魔法・罠カードを破壊する力はない。あの攻撃で吹き飛ばしてしまったということは絶対にありえない。

となれば可能性は一つだった。

「そう、アンタの攻撃を受けた瞬間に俺はあのカードを発動させていたのさ」

破壊されたわけでもない魔法・罠カードがフィールドになくなるのは、すでに発動された場合以外にはない。
あの落雷の直撃を受けながらも伏せカードを発動させていたとは。

「そのカードは、罠カード《ダーク・ホライズン》!!《ダーク・ホライズン》は自分がダメージを受けた時に発動でき、受けたダメージ値以下の攻撃力を持つ闇属性の魔法使い族をデッキから特殊召喚できる!」



《ダーク・ホライズン》
通常罠
(1):自分が戦闘・効果でダメージを受けた時に発動できる。受けたダメージの数値以下の攻撃力を持つ魔法使い族・闇属性モンスター1体をデッキから特殊召喚する。



ユウヒのフィールドに黒い光を放つ円が浮き上がる。

ユウヒが《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の直接攻撃で受けたダメージは2800。つまり攻撃力2800以下の闇属性・魔法使い族モンスターを自由にデッキから選んで特殊召喚できることになる。しかも攻撃力2800と言えば充分に最上級モンスター水準の攻撃力帯であり、闇属性・魔法使い族という基準さえクリアすればほとんどのモンスターを特殊召喚できる計算だ。

エビル・デーモンからすれば、この効果から出てくるモンスターならば、デッキのエース級モンスターと相対することを覚悟しなければならない。

『抜け目のない小僧よ…』

だがそれに反してエビル・デーモンの表情はやはりどこか愉快げである。

自らの分身である《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の雷撃の威力は分かっている。それをまともに喰らいながらも反撃のための一手をすでに打っていた。
その渋とさには素直に感嘆する。

ユウヒが条件に合うモンスターをデッキから抜き出し、デュエルディスクへとセットする。

「俺が特殊召喚するのはもちろんこのカードだッ! 頼むぞ《ブラック・マジシャン・ガール》!!」

ユウヒが反撃の狼煙として切った切り札。
それはユウヒのデッキで最も信頼を置く、相棒とも言えるモンスターだった。


『まぁ~てましたぁー!!』


ユウゴの背後から意気揚々と飛び出したのは、かなり天然の入った魔法少女であった。
マナはフィールドに飛び出すと、ビシッとポーズを取った。
そしてチラッとユウヒを振り返ると、またビシッと今度は違うポーズを取る。またチラッと反応を伺い、またポーズを変える。

「あの~マナさん?」

『はい♪』

ユウヒが様子を伺うと、マナはキラキラした目でそれに応える。
そのあまりの眩しさに目を細めるユウヒ。

「…何をしてらっしゃるんですか?」

訊くのも億劫だが、訊かなければいけない気がした。
マナはまだクネクネとポーズを吟味している。

『何って……王都の皆さんの前では初お目見えですよぉ? 一番強そうなポーズが良いじゃないですかぁ。あ、こういうのはどうですぅ? 可愛いですかぁ?』

さも当然と言わんばかりのマナ。
というか求めているポーズが強そう重視なのか可愛い重視なのか、もうブレブレだ。

これは無視して進めるとしよう。

エビル・デーモンが顎を掻いている。
その様子から読み取れるのは、《ブラック・マジシャン・ガール》を出すまでは上機嫌そうに見えたエビル・デーモンの明らかな落胆。

『何を出してくるかと思えば、精霊の小娘とは……。たかが攻撃力2000のモンスターで何ができる』



《ブラック・マジシャン・ガール》
効果モンスター
星6/闇属性/魔法使い族/攻2000/守1700
(1):このカードの攻撃力は、お互いの墓地の「ブラック・マジシャン」「マジシャン・オブ・ブラックカオス」の数×300アップする。



エビル・デーモンは期待していたのだ。
《ダーク・ホライズン》の効果で特殊召喚可能だったモンスターの最高攻撃力は2800。そんな最上級モンスターでなくとももう少し歯応えのある相手が出てくるものとばかり思っていた。
それが蓋を開けてみれば、大した効果も持たず、上級モンスターにしても低い攻撃力2000という小物。肩透かしもいいところだ。

「《ブラック・マジシャン・ガール》で良いのさ、この場面は。まぁちょっとばかり頭の方はお花畑だけどな」

『ああ~なんですかぁ、その言い方ぁ。またまるでマナがお馬鹿さんみたいな言い方してぇ!』

軽口のようなユウヒの返答に、マナが膨れる。

事実、彼のデッキには《ブラック・マジシャン・ガール》以上の攻撃力を持つ魔法使い族も入ってはいる。
だが考えもなく《ブラック・マジシャン・ガール》を選んだわけではない。大事なのは、彼女が《ブラック・マジシャン・ガール》であるということなのだから。

「まぁいいさ、魅せてやろうぜマナ。俺達の反撃をさ」

ユウヒがそう笑うと、口を尖らせていたマナもしぶしぶ賛同した。
そして二人、エビル・デーモンを射抜くように見据えた。

『ホウ、儂自身である《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》を倒す算段はもうついているという顔だな』

二人の顔には自信が表れている。

『面白い』とエビル・デーモン。

『その小娘一人で何ができるか、見せてもらおう!儂はカードを2枚伏せてターン終了だ』

エビル・デーモンのフィールドにセットカードが現れ、彼のターンは終了した。



◇エビル・デーモン(手札3・LP4000)

モンスター
真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン/攻3000
魔法・罠
闇の二重魔法陣/永続
セットカード×2


◇ユウヒ(手札4・LP1000)

モンスター
ブラック・マジシャン・ガール/攻2000
魔法・罠
なし
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氷色
クリボー登場回でした。まぁマスコットですからね。というかこの辺りで遊戯王らしさ出しとかないと…なのです。 (2016-09-05 22:48)
から揚げ
正に、ユウヒのデュエルはエンターテインメントでなければならない!という感じで、とても爽快感がありました!

アンリちゃんのユウヒに対する信頼が垣間見れまして、とても良かったです!顔を真っ赤にするアンリちゃんがとても可愛らしくて、最高でした!

アンリちゃんならユウヒにパイタッチされても、許してくれそうですね(ゲス顔)前回でも、胸に顔を埋めさせてくれましたし。
(2016-12-05 20:59)
氷色
コメント気付いてませんでした(--;)

デュエルパートも短くまとめて3話くらいで終わらせたかったんですが、僕の実力では書きたいこと書くとどうしても長くなっちゃいますね。

前回に比べてマナの可愛らしさがちゃんと描けているか心配です。その分出番の増えたアンリに頑張ってもらいます笑 (2016-12-12 12:01)

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