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第一話 奇術師の現状 作:そうじ☆屋
質量を持った|立体映像《ソリッド・ビジョン》の実現により生まれた【アクションデュエル】。
フィールド、モンスター、そして|決闘者《デュエリスト》が一体となったこの|決闘《デュエル》は人々を熱狂の渦に巻き込んだ。
(アニメ「遊戯王ARC-V」第一話オープニングから抜粋)
★
★
アメリカ・ラスベガス。
デュエルモンスターズの生みの親である男の出身地であり、現在では社会を構成する重要な要素の一つとなっているデュエルモンスターズの始まりの地であるだけあり、アクションデュエルの発祥の地として有名な|舞網《まいあみ》市と並びデュエリストの聖地とされている。
夜も光が絶えず、多くの人間の熱気と欲望が行きかうそんな煌びやかな街の中央部に、その建造物はあった。
その名は『ペガサスドーム』。
デュエル史に残る最も偉大な人物の1人である男の死を悼いとんで建てられたこのスタジアムでは、本日、とある大会の決勝戦が行われていた。
「○○○○でダイレクトアタック!!」
「ぐあッ!?」
デュエリストA
LP:1200→0
真紅を基調とした燕尾服のような舞台服を身に纏った少年のモンスターの一撃が、彼と相対していたデュエリストのライフポイントを0にすると、会場は少しの間時が止まったように静かになったが、その数秒後、驚くほどの歓声に包まれる。
『決まったあー!アメリカチャンピオンシップ優勝は、クオン・遊灯。日本からやってきた|奇術師《トリックスター》。クオン選手の優勝だー!!』
MCの熱の入った実況に、会場のボルテージがさらに上がる。
クオンと呼ばれた紅の衣に身を包んだその少年は、そんな観客たちの歓声に答えるために、観客席に手を振りながら会場を後にする。
彼の名は”クオン・遊灯”。
ここ最近、アメリカ各地でさまざまな大会を総なめにしてアメリカデュエル界でも注目されている若干16歳ほどの少年だ。
決して強力なパワーを持っているとはいえないが、多彩な効果を持つ魔法使い族を中心に華麗に使いこなし、魔法や罠とのコンボを重視したそのトリッキーな戦術から『|奇術師《トリックスター》』の異名を持つ、この年齢では考えられないほどの実力者だ。
その見ている者を|楽しませる《・・・》というデュエルスタイルから、既にここアメリカで多くのファンを得始めている新進気鋭のデュエリスト。しかしそんな彼にはある秘密があった。
それは彼に『前世の記憶』というものがあるということ。
彼がいまだ少年の身でありながら、多くの人間に認められるほどの実力者である理由の大部分が、前世で彼があの決闘王とも戦ったことがある、超一流のデュエリストであったからだ。
彼がはその経験を生かして現世でこうして活躍しているというわけだ。………最も前世の彼は、こうして日向で活動できる存在ではなかったのだが。
前世のデュエリストとしての彼を知るものは、彼のことをこう呼び、嫌悪し、憎み、そして恐れた。
グールズのレアハンター№2
”|災厄《パンドラ》”と。
★
私の名前はクオン・遊灯。
日本人とフランス人とのハーフで、現在はデュエル留学のため、ここアメリカで本場のデュエルを学びながらも。賞金付きの大会を回りながら賞金稼ぎの真似ごとをして生活している。ちなみに今年で16歳になった。
そんな少し普通とは違う私ではあるが、実は人にはいえないある秘密があったりする。
その秘密とは、所謂「前世の記憶」というものがあったりするというもの。
前世の私は「パンドラ」というコードネームで、グールズというデュエルマフィアに所属しており、その尖兵であるレアハンターの一人として、多くのデュエリストのレアカードやデッキを刈り取ってきた。
なぜそんなことをしてきたのかというと、それはいいわけになってしまうかもしれないが、このグールズの所持している超常の道具である千年アイテムの一つである「千年ロッド」の力によって洗脳されていたためだ。
私は元々アシスタントとして私を支えていてくれた恋人のカトリーヌとともに、フランスを拠点としてマジシャンとして活動しており、自分でいうのもなんだが、世間ではそれなりに名が知れていたと思う。
だが、ある大掛かりな脱出マジックに失敗してしまい、その事故のせいで顔に大火傷を負ってしまった私は今まで積み上げてきた名声。そして私を助けようと炎の中へと飛び込んだ最愛の恋人を失ってしまう。
この世で最も大切なものを失ってしまった私は、人生のどん底に突き落とされ、自暴自棄な生活を送っていたのだが、そんな私の前に現れたのが当時グールズを結成したばかりのグールズの首領、マリク・イシュタールだったのだ。
後に知ったのだが、自身の目的を達成させるために有能な駒を捜していたマリクは、フランスの全国大会で優勝したこともある私を手下にするために、千年ロッドの力を使いカトリーヌが死んでしまったのではなく私を見放して離れていったと誤認させ、そのカトリーヌの愛を千年ロッドの力で再び取り戻させるという理由で私を洗脳し、私自身の組織に入るように誘導したのだ。
そして私はそんな彼の企みにまんまと乗ってしまい、グールズのレアハンターの一人として活動を続け、やがてレアハンターの中でも№2の位置に来るまで戦い続けたのだが、しかし、3枚の神のカードの行方を巡る大会であるバトルシティ。そこで後の決闘王《デュエルキング》となる武藤遊戯と戦った私は、しかし敗北。私はその罰として、マリクの千年ロッドの力により心を壊させかけられたが、後のデュエルシティ決勝で私に勝った遊戯がマリクを倒したことにより千年ロッドの力が消えたためになんとか精神崩壊は免れた。
しかし、洗脳が解けてしまったことにより再び絶望のふちに立たされてしまった私は、また昔のような生活を送ることとなる。恋人が死んでしまったことに気づいただけではなく、自分の意思だけではないとはいえ、最愛の恋人を理由にして、悪の限りをつくしてきたことを知ってしまったのだから。
もうこの命を終えてしまおうかと考えながらも、しかし踏ん切りがつかないためにだらだらと毎日を生き延びている、そんな毎日を送っていたある日のことだった。私に転機が訪れたのは。
その日私は、特に理由もなくなんとなしに外に出てとある公園に出かけてみたのだが、そこで一組の姉弟に出会ったのだ。
その姉弟はなにが嬉しいのか、公園を勢いよく走り回っていたのだが、その姉弟のうちの弟のほうがなにかに躓いて転んでしまい、そのまま盛大に泣き出してしまった。
そして姉の方ははじめは弟をなんとか泣き止ませようと、その弟の周りをおろおろしながらも必死で弟に話しかけていたのだが、結局その姉はもらい泣きしてしまい、そのまま一緒に泣き出してしまった。
周りのことなんてまるで目に入らないかのように大声で泣き叫ぶ姉弟。本来ならそんな姿など放っておいてもよかったのだが、なぜかその姿が若いころの私とカトリーヌの姿にダブって見えてしまい、そのためか姉弟を慰めるために、職業柄かあらかじめ用意したマジックの種を使い、その子供たちの目の前でマジックショーを披露することに。
そして手持ちの種を全て使い果たし、マジックショーを終了すると、いつの間にか集まっていた通行人の人々が、子供たちといっしょに盛大な拍手を私に送ってくれたのを見て、私は思い出した。自分がマジシャンになることを志したきっかけを。
それは私が幼いころ。恋人であり幼馴染であるカトリーヌの誕生日パーティの時に披露した拙いマジックで彼女が凄く喜んでくれたのがきっかけで、もっと自分のマジックで多くの人たちを笑顔にしたいと考え、やがてマジックにさらにのめり込んでいくと、それが世界中の人々を笑顔にしたいという考えに変わっていった。そんな私の夢を応援してくれ、そして支えてくれていたのがカトリーヌだったのだ。
それを思い出した私は思わず涙する。ああ、私はそんなことも忘れていたのかと。
それからの私は一念発起、かつての夢を叶えるために行動を開始した。
はじめはなかなか理解してもらえず苦労はしたが、やがて私の夢に賛同してくれる方々が増え、スポンサーが何人かつき、活動を共にしてくれる同志が何人も活動してくれることとなり、私の夢は少しづつ、しかし着実に実現へと近づいていったのだ。
そしていく年かの歳月が過ぎ、その間活動を続けていった結果、その活動が認められたのか、私たちの団体はノーベル平和賞を受賞、そして私個人はなんと、マジシャンの最高の栄誉でもある『マジック・オブ・ザ・イヤー』を受賞することが決まり、私はこの時あまりの歓喜に思わず涙を浮かべたのを覚えている。
ああ、これで今までの苦労が報われたと。これで天国にいる彼女に顔向けができるのだと。……しかしそんな気持ちも長く続くことはありませんでした。
授賞式の日、私が突如現れた暴漢にナイフで滅多刺しにされてしまったからだ。
ずたずたにされて朦朧とした意識の中その男が喚き散らしていた言葉でわかったのだが、その男はどうやら私がグールズ時代にデッキごとレアカードを奪い取ったデュエリストであり、私と戦うまではそれなりに猛者として名の知れたデュエリストだったのだが、その男曰く私が奪い取ったカードたちは、その男が今までの人生を賭けて作り上げたデッキであり、そのデッキを奪い取られてしまったために、彼のデュエリスト生命は終わってしまったのだという。
そして、それからの男はアルバイトでその日暮らしをしていたらしいのだが、そんなある日私が今回の賞を受賞することを知り、自分の人生を滅茶苦茶にした私がこのような栄誉を受けるのが我慢できず、このような凶行に及んでしまったのだという。
それを聞いた私の感想はただ一つ。「ああ、とうとうこの時が来たのか」。ただそれだけだった。
私もわかってはいたのだ。確かに、私がグールズでレアハンターをしていたのはマリクに洗脳されていたからというのが理由としては多い。
しかし、例え洗脳下にいたとしても、それが誘導されていたとしても私が進んで悪事を行っていたというのは事実。いずれ自分の罪を裁こうとするものがくるだろうと、天罰がくだるだろうと、私はなんとなしに予測していたのだ。
そんなことを考えながら、私は自嘲の笑みを浮かべながら自らの死を受け入れようとしていたのだが、そんな私には一つの心残りがあった。
それは、私のパフォーマンスでもっとたくさんの人々を笑顔にしたかった。ただそれだけの思いだった。
やっと幼いころの夢が、彼女が支えてくれていた私の想いが形になってきたというのに………。
そんな思いからだろうか、気づけば私はなんとなしにこう呟いていた。
『ああ、できればまた人生をやり直したいですねえ……』
それができれば、恋人も失わず、このような最後を迎えずに済んだのにと。
そして私はそのまま人生を終えた………はずだった。
『ここは………?』
まさか本当にその願いが叶うとは思わずに。
★
★
暴漢に襲われて死んだはずの私が再び意識を取り戻した私は、自分がどこか清潔な印象を受ける白い部屋で横たわっていることに気づく。
知らない天井に戸惑う私は、なんとなく部屋を見渡し、そこがおそらく病院の一室だとあたりをつける。
ひょっとして自分はあの状態から助かったのだろうかと、首を傾げながらもとりあえず枕元にあったナースコールを押して誰かを呼んで状況を確認しようとしたところで、そこで初めて自分の現在の状況に気づいた。………なぜか自分の体が子供の頃の状態に戻ってしまっているということに。
『なんじゃこりゃあ!?!』
さすがにこれには驚いた。たぶん人生で一番動揺したかもしれない。思わず叫び声を上げてしまったほどだ。
その後、その叫び声を聞いてやってきた看護師や医者から話を聞いた結果、どうやら私の名前、というよりこの体の持ち主である子供の名前が遊灯久遠ということ。未だ小学生にもならない年齢だったいうこと。そして両親と車に乗って出かけている最中に事故に遭ってしまい、自分を残し両親は二人とも死んでしまったということまで教えられた。(もっとも事が事なので両親のことを教えるときはかなりいいづらそうにしていたから)
その話を聞いて行くうちに、私は全く知らない人物の記憶が自分の頭の中にどんどん流れ込んでくるのを感じ、やがて気づいた。それが遊灯久遠という少年の記憶だということに。
そして私は理解したのだ。私は輪廻転生というものを、記憶を持って果たしたということを。
輪廻転生。昔気紛れに読んだとあるオカルト本に乗っていた言葉で、元々は仏教の言葉で、簡単にいうと人は死んでも生まれ変わり別の存在へとなって再び現世に舞い戻ることができるというもの。そのオカルト本によれば、中には転生した人間の中には前世の記憶を持っている者もいるらしいことも書かれていた。
その本を読んだ時には、ただの与太話だと思って鼻で笑ったものだが、今の自分の現状。そして流れ込んできた遊灯久遠という少年の記憶、そして両親の死を聞いて自然と胸が締め付けられ、頬から涙が流れてくることから、私は自分がこの記憶を持った転生を果たしたことを確信したのだ。(意識が戻った時に既にある程度成長していたのは、おそらく交通事故の衝撃が原因で前世の記憶が戻ったのだろう)
前世の記憶を思い出した影響か、割と早く両親の死から立ち直り、現状を理解すると、とりあえずこれからどうするか考えた。
医者の話では、両親はそれなりの遺産を残してくれており、生活にはしばらく困らないようであったが、それでも当時の私は小学生にすらなっていないほど幼かった。一人で生活するなど無理であろうし、まず周りがさせてくれないだろう。………まあその心配は全くの無駄だったわけであったのだが。
★
★
明日の生活を心配ながら、リハビリに励んでいた私の前にその男性が現れたのは、私が意識を取り戻して1週間ほどが経った頃だった。
『君が久遠君だね』
そういって現れたその男性の名前は”|榊遊勝《さかきゆうしょう》”。
前世の私が来ていたような燕尾服のような衣装を身に纏い、シルクハットを被った特徴的な服装で現れた彼は、同行してきた看護師や医者の話では、この世界のデュエルチャンピオンであるらしい。
久遠の記憶を探ってわかったことなのだが、どうやらこの世界は私の生きていた世界から100年ほど経った未来の世界だったらしく、私がかつて戦ったデュエルキング、武藤遊戯は史上最強のデュエリストとして歴史上の偉人の一人としての扱いを受けており、科学技術も著しく発展し、今ではなんと質量を持ったソリッド・ヴィジョンも開発されて、そのソリッド・ヴィジョンを使用したアクションデュエルというものが現在の流行りとなっているらしい。
そして、前世ではできたばかりのプロリーグも、この世界では既にできてから100年以上が経っているために制度も発展、確立しており、そのためか前世の頃より多くのプロデュエリストがこの世界にはいるのだが、その頂点にいるのがこの榊遊勝という人物だというのだ。
そんな人物がなぜ私の前に現れたのかというと、なんでもこの世界の私の両親とは親戚関係だったらしく、仲もよかったということで、私の身元を引き取りに来たのだという。
これには驚いた。元々、誰か親戚かなにかが引き取ってくれないかなと淡い期待を抱いていたが、まさか当代のデュエルチャンピオンが自分の身元引き受け人になってくれるとは、夢にも思っていなかったからだ。
だからこそ、突然現れた彼の言葉に戸惑ったが、しかし中身はともかく外見が子供の私には他に頼れる人がいるわけでもなく、ありがたく彼の申し出を受けることにした。
★
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そうして榊一家の一員となった私。奥さんとお子さんもいらっしゃると聞いていたので少し心配ではあったが、彼らは快く私のことを受け入れてくれた。
どうやら遊勝さんはあらかじめに私を引き取ることを家族に相談してから決めていたらしく、彼らの元々の人柄の良さもあって、私が彼らの家族に馴染むのはそう時間がかからなかった。
少しミーハーなのが玉に瑕だが、明るく料理上手な遊勝さんの奥さんの榊|洋子《ようこ》さん。二人の息子で、泣き虫だが思いやりのある子である、弟分となる榊|遊矢《ゆうや》。二人とも両親を失った私のことをよく気遣ってくれて、このような温かい空間はカトリーヌと一緒に暮らしていた時以来だった私は、いつの間にか、すっかり彼らのことを本当の家族同然と思うようになっていった。
そして、そんな一家の大黒柱である遊勝さんの仕事。つまりデュエルの試合を見に行った私はそこで衝撃を受ける。
【エンタメデュエル】
遊勝さんがその信念としている、相手や観客、見ている人全てを笑顔にしようというデュエルスタイル。
純粋なデュエルの強さもさることながら、質量を持つソリッド・ヴィジョンが開発されたことにより産まれたアクションデュエルならではの、体を張った華麗なパフォーマンス。遊勝さんがデュエルチャンピオンであり、最も人気のあるプロデュエリストとして、その手のランキングで長年トップにいる理由がこれにあった。
そして初めて彼のこのデュエルを見た私は、自分に電流が走るのを感じた。遊勝さんのデュエルを見て得た感覚。そして彼のデュエルを見て歓声を上げる観客たちの姿を見て、それが前世、私が追い求めていた理想の光景だということに気づいたからだ。
『………これだ!私が求めていたのはこれだったんだ!!』
これなら前世のマジシャンとしてのパフォーマンスやデュエリストとしての経験を生かすことができるだろうし、マジシャンとしての舞台ではないが、デュエルモンスターズが前世とは比べ物にならないほど日常と密接に関わっているこの現代。これなら世界中の人々を笑顔にするという自分の夢を果たせるかもしれない。
そう考えた私は遊勝さんに頭を下げ、彼が自身のエンタメデュエルを他に伝えるために創設したデュエル塾『遊勝塾』に入塾し、そして遊勝さんにエンタメデュエルについて教えを受けることに。
そして私は、遊矢や遊矢の友人である|柊柚子《ひいらぎゆず》や権現坂道場の跡取り息子である|権現坂昇《ごんげんざかのぼる》たちの面倒を見ながら、遊勝さんや彼の後輩である遊勝塾の塾長、|柊修三《ひいらぎしゅうぞう》さんたちにエンタメデュエルについてのなんたるかを教わる日々を送ることとなる。
忙しく、とても騒がしい日々であったが、カトリーヌと過ごしてきた日々とはまた違った、暖かい毎日。………しかし、神様はよほど私のことが嫌いなようで、そんな幸福な日々もある日唐突に終わることとなる。
榊遊勝の『失踪』という出来事によって。
★
★
それはちょうど幾度目かのタイトルマッチ防衛線。
堅実で、それでいて豪快な戦術を得意とすることで有名なストロング石島を挑戦者として迎えたその一戦。しかしチャンピオンである遊勝さんはその戦いの場には現れず、そのまま行方を晦ましてしまったのだ。
ここ一番の試合を前に、家族にすらなにもいわずにどこかに消えてしまった遊勝さんのことを、「勝負から逃げた卑怯者」「臆病者のチャンピオン」として、世間は今までの評価から一転。彼のことを罵り、そして蔑んだ。
そんな世間の悪意は遊勝さんに親しかった人物にまで及び、そのせいか遊勝塾の生徒たちは次々と辞めていき、そして、さらにそれは、当然私たち家族にまで襲い掛かった。
罵り蔑みの視線は当然のこと、酷いときは石を投げつけられるときもあった。
遊勝さんがプロとして有名になる前までいくどかの嫌がらせを受けたことがあり、なにげに要領がいい洋子さんや、前世で一度名声を失い裏世界に生きてきたために、その手の嫌がらせに対してある程度対処法を心得ていた私にはそれほど被害が来ることはなかったが、しかし正真正銘、まだ幼かった遊矢にはそんな悪意に対しての対抗手段があるわけがなく、さらに大人であるならばある程度は自重するものであるが、純粋であるがゆえに残酷な子供たちの嫌がらせを直接受けていた遊矢は、私が出会ったころのような明るさがどんどん陰りを見せ日に日に暗く落ち込んでいった。
幸い、遊矢の親友である権現坂君のおかげで酷いイジメを受けることはなかったが、そのせいで遊矢は以前とは違って、むりやりひょうきんな。それでいて常にどこか陰のある表情を見せるようになる。
遊勝さんの名声は地に落ち、遊勝塾には殆ど人が寄り付かなくなっていった。
私は再び遊勝塾に活気を取り戻させるために、多くの大会に出場して注目を集めようとしたり、ビラを配ったり、インターネットなどで宣伝したりしたのだが、未だ遊勝さんの失踪の件が尾を引いているのかあまり効果は出ず、苦悩の日々を送っていた。
そんなある日のことだった。その話を私が聞いたのは。
それは舞網市を拠点として活動しているとある企業が開いた大会。その大会の優勝者は、その会社の援助を受けてデュエルモンスターズの本場であるアメリカへデュエル留学することができる権利を得ることができるというのだ。
私はこれを見て閃いた。今の状況の舞網市では、例え私がプロになったとしても受け入れられるのは難しい。少なくとももっと時間をおかなければ無理かもしれない。
そう考えた私は、ならばいっそのこと舞網市と並ぶデュエルの聖地であるアメリカ。そこで私が活躍できればエンタメデュエルをもっと広めることができるし、遊勝さんの、そして遊勝塾の名誉回復の一助になることができるかもしれない。
そして私は中学1年生の時その大会に優勝し、それから3年間。私はこうして様々な大会に出場し、エンタメデュエリストとしての腕を磨いているというわけである。
ちなみに学校には殆ど行っていない。流石に前世と合わせて中身が中年を既に超えている身としては今さらジュニア・ハイスクールに通うっというのも気がひけたので、通信教育で既に中学卒業の資格はもう既にとっているからだ。(まあ、この国にいる名目が一応「留学」なので籍だけはその会社が指定した学校においているが)
そして今回の大会を見てくれればわかると思うが、この3年でどうやら私の努力もなんとか実を結んだようで、今では私はここアメリカでは、結構名が知られるようになった。それと同時に、今ではエンタメデュエルを志すデュエリストたちも少なからず出てきているので、私の努力も無駄ではなかったと胸をはってもいいと思う。
「ふう。なんとかここまで来ることができました」
今の住居としている、ラスベガスにあるとあるアパートの一室に帰ってきた私は、ソファに深く身を沈めながら、ここまで来るまでの苦労を思い返し、深く溜息を吐いた。
我ながら、まるで人生に疲れた中年サラリーマンのような姿だと思わないでもないが、できれば許してほしい。ここまで来るのに本当に苦労したのだから。
何が苦労したかといわれれば、特に、エンタメデュエルがどういうものかを理解してもらうのに苦労した。「皆を笑顔にする」というエンタメデュエルの信念が、真剣勝負を愚弄しているだとか、舐めプ乙(笑)だとかいわれてしまうことがあったのだ。
それは違う、誤解だと理解してもらうために、何回もその相手にデュエルで勝利し、根気よく説明して理解してもらったのは今ではいい思い出だ(黒笑)
「(修三さんから、義父さんが日本でエンタメデュエルを理解してもらい、そして広めるのも大分苦労したと聞きましたがあの人もこんな苦労をしたんですかねえ………)」
と、そこで私は机の上にある写真盾へとなんとなく視線を向ける。そこには遊勝さんに洋子さん。そして遊勝塾の仲間たちと、この世界での私の家族たちともいえる存在が映っていた。
「皆元気にしていますかねえ?一応賞金で仕送りはしているから、塾生がいなくてもなんとか塾の経営はできているはずですが」
確か最近年少の塾生が新たに入ったとこの間メールがきたので、一度帰って見るのもいいかもしれないな。
そんなことを考えていると、
PiPiPiPiPiPiPiPi……
「ん?メールですか?」
唐突に聞こえてきた電子音に気づき、それが携帯のメールの着信音だと理解した私は、なんだろうと訝しげに思いながら携帯を手に取り操作して誰からメールが来たのか確かめると、そこには『柊修三』。自身が籍を置いている遊勝塾の塾長の名が表示されていた。
噂をすればなんとやらとはこのことかと思いながら、私は早速メールの内容を確認したのだが、先ほどまでの気楽な気持ちはそこに書かれていた衝撃の内容にすぐに吹き飛んでしまう。
「……なん…だと……!?」
メールの内容に私はしばし硬直していた私だったが、ふと我に帰ると急いでパソコンを立ち上げて日本のデュエルニュースを確認する。
そして私はそこに目当てのニュースを見つけると思わず自身の頬が思わず緩むのを感じた。
「………なるほど、随分成長したようですね遊矢」
私が見つけたそのニュース欄には、でかでかとこう書かれていた。
【榊遊勝の息子、榊遊矢君。因縁の相手ストロング石島を撃破!!】
フィールド、モンスター、そして|決闘者《デュエリスト》が一体となったこの|決闘《デュエル》は人々を熱狂の渦に巻き込んだ。
(アニメ「遊戯王ARC-V」第一話オープニングから抜粋)
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アメリカ・ラスベガス。
デュエルモンスターズの生みの親である男の出身地であり、現在では社会を構成する重要な要素の一つとなっているデュエルモンスターズの始まりの地であるだけあり、アクションデュエルの発祥の地として有名な|舞網《まいあみ》市と並びデュエリストの聖地とされている。
夜も光が絶えず、多くの人間の熱気と欲望が行きかうそんな煌びやかな街の中央部に、その建造物はあった。
その名は『ペガサスドーム』。
デュエル史に残る最も偉大な人物の1人である男の死を悼いとんで建てられたこのスタジアムでは、本日、とある大会の決勝戦が行われていた。
「○○○○でダイレクトアタック!!」
「ぐあッ!?」
デュエリストA
LP:1200→0
真紅を基調とした燕尾服のような舞台服を身に纏った少年のモンスターの一撃が、彼と相対していたデュエリストのライフポイントを0にすると、会場は少しの間時が止まったように静かになったが、その数秒後、驚くほどの歓声に包まれる。
『決まったあー!アメリカチャンピオンシップ優勝は、クオン・遊灯。日本からやってきた|奇術師《トリックスター》。クオン選手の優勝だー!!』
MCの熱の入った実況に、会場のボルテージがさらに上がる。
クオンと呼ばれた紅の衣に身を包んだその少年は、そんな観客たちの歓声に答えるために、観客席に手を振りながら会場を後にする。
彼の名は”クオン・遊灯”。
ここ最近、アメリカ各地でさまざまな大会を総なめにしてアメリカデュエル界でも注目されている若干16歳ほどの少年だ。
決して強力なパワーを持っているとはいえないが、多彩な効果を持つ魔法使い族を中心に華麗に使いこなし、魔法や罠とのコンボを重視したそのトリッキーな戦術から『|奇術師《トリックスター》』の異名を持つ、この年齢では考えられないほどの実力者だ。
その見ている者を|楽しませる《・・・》というデュエルスタイルから、既にここアメリカで多くのファンを得始めている新進気鋭のデュエリスト。しかしそんな彼にはある秘密があった。
それは彼に『前世の記憶』というものがあるということ。
彼がいまだ少年の身でありながら、多くの人間に認められるほどの実力者である理由の大部分が、前世で彼があの決闘王とも戦ったことがある、超一流のデュエリストであったからだ。
彼がはその経験を生かして現世でこうして活躍しているというわけだ。………最も前世の彼は、こうして日向で活動できる存在ではなかったのだが。
前世のデュエリストとしての彼を知るものは、彼のことをこう呼び、嫌悪し、憎み、そして恐れた。
グールズのレアハンター№2
”|災厄《パンドラ》”と。
★
私の名前はクオン・遊灯。
日本人とフランス人とのハーフで、現在はデュエル留学のため、ここアメリカで本場のデュエルを学びながらも。賞金付きの大会を回りながら賞金稼ぎの真似ごとをして生活している。ちなみに今年で16歳になった。
そんな少し普通とは違う私ではあるが、実は人にはいえないある秘密があったりする。
その秘密とは、所謂「前世の記憶」というものがあったりするというもの。
前世の私は「パンドラ」というコードネームで、グールズというデュエルマフィアに所属しており、その尖兵であるレアハンターの一人として、多くのデュエリストのレアカードやデッキを刈り取ってきた。
なぜそんなことをしてきたのかというと、それはいいわけになってしまうかもしれないが、このグールズの所持している超常の道具である千年アイテムの一つである「千年ロッド」の力によって洗脳されていたためだ。
私は元々アシスタントとして私を支えていてくれた恋人のカトリーヌとともに、フランスを拠点としてマジシャンとして活動しており、自分でいうのもなんだが、世間ではそれなりに名が知れていたと思う。
だが、ある大掛かりな脱出マジックに失敗してしまい、その事故のせいで顔に大火傷を負ってしまった私は今まで積み上げてきた名声。そして私を助けようと炎の中へと飛び込んだ最愛の恋人を失ってしまう。
この世で最も大切なものを失ってしまった私は、人生のどん底に突き落とされ、自暴自棄な生活を送っていたのだが、そんな私の前に現れたのが当時グールズを結成したばかりのグールズの首領、マリク・イシュタールだったのだ。
後に知ったのだが、自身の目的を達成させるために有能な駒を捜していたマリクは、フランスの全国大会で優勝したこともある私を手下にするために、千年ロッドの力を使いカトリーヌが死んでしまったのではなく私を見放して離れていったと誤認させ、そのカトリーヌの愛を千年ロッドの力で再び取り戻させるという理由で私を洗脳し、私自身の組織に入るように誘導したのだ。
そして私はそんな彼の企みにまんまと乗ってしまい、グールズのレアハンターの一人として活動を続け、やがてレアハンターの中でも№2の位置に来るまで戦い続けたのだが、しかし、3枚の神のカードの行方を巡る大会であるバトルシティ。そこで後の決闘王《デュエルキング》となる武藤遊戯と戦った私は、しかし敗北。私はその罰として、マリクの千年ロッドの力により心を壊させかけられたが、後のデュエルシティ決勝で私に勝った遊戯がマリクを倒したことにより千年ロッドの力が消えたためになんとか精神崩壊は免れた。
しかし、洗脳が解けてしまったことにより再び絶望のふちに立たされてしまった私は、また昔のような生活を送ることとなる。恋人が死んでしまったことに気づいただけではなく、自分の意思だけではないとはいえ、最愛の恋人を理由にして、悪の限りをつくしてきたことを知ってしまったのだから。
もうこの命を終えてしまおうかと考えながらも、しかし踏ん切りがつかないためにだらだらと毎日を生き延びている、そんな毎日を送っていたある日のことだった。私に転機が訪れたのは。
その日私は、特に理由もなくなんとなしに外に出てとある公園に出かけてみたのだが、そこで一組の姉弟に出会ったのだ。
その姉弟はなにが嬉しいのか、公園を勢いよく走り回っていたのだが、その姉弟のうちの弟のほうがなにかに躓いて転んでしまい、そのまま盛大に泣き出してしまった。
そして姉の方ははじめは弟をなんとか泣き止ませようと、その弟の周りをおろおろしながらも必死で弟に話しかけていたのだが、結局その姉はもらい泣きしてしまい、そのまま一緒に泣き出してしまった。
周りのことなんてまるで目に入らないかのように大声で泣き叫ぶ姉弟。本来ならそんな姿など放っておいてもよかったのだが、なぜかその姿が若いころの私とカトリーヌの姿にダブって見えてしまい、そのためか姉弟を慰めるために、職業柄かあらかじめ用意したマジックの種を使い、その子供たちの目の前でマジックショーを披露することに。
そして手持ちの種を全て使い果たし、マジックショーを終了すると、いつの間にか集まっていた通行人の人々が、子供たちといっしょに盛大な拍手を私に送ってくれたのを見て、私は思い出した。自分がマジシャンになることを志したきっかけを。
それは私が幼いころ。恋人であり幼馴染であるカトリーヌの誕生日パーティの時に披露した拙いマジックで彼女が凄く喜んでくれたのがきっかけで、もっと自分のマジックで多くの人たちを笑顔にしたいと考え、やがてマジックにさらにのめり込んでいくと、それが世界中の人々を笑顔にしたいという考えに変わっていった。そんな私の夢を応援してくれ、そして支えてくれていたのがカトリーヌだったのだ。
それを思い出した私は思わず涙する。ああ、私はそんなことも忘れていたのかと。
それからの私は一念発起、かつての夢を叶えるために行動を開始した。
はじめはなかなか理解してもらえず苦労はしたが、やがて私の夢に賛同してくれる方々が増え、スポンサーが何人かつき、活動を共にしてくれる同志が何人も活動してくれることとなり、私の夢は少しづつ、しかし着実に実現へと近づいていったのだ。
そしていく年かの歳月が過ぎ、その間活動を続けていった結果、その活動が認められたのか、私たちの団体はノーベル平和賞を受賞、そして私個人はなんと、マジシャンの最高の栄誉でもある『マジック・オブ・ザ・イヤー』を受賞することが決まり、私はこの時あまりの歓喜に思わず涙を浮かべたのを覚えている。
ああ、これで今までの苦労が報われたと。これで天国にいる彼女に顔向けができるのだと。……しかしそんな気持ちも長く続くことはありませんでした。
授賞式の日、私が突如現れた暴漢にナイフで滅多刺しにされてしまったからだ。
ずたずたにされて朦朧とした意識の中その男が喚き散らしていた言葉でわかったのだが、その男はどうやら私がグールズ時代にデッキごとレアカードを奪い取ったデュエリストであり、私と戦うまではそれなりに猛者として名の知れたデュエリストだったのだが、その男曰く私が奪い取ったカードたちは、その男が今までの人生を賭けて作り上げたデッキであり、そのデッキを奪い取られてしまったために、彼のデュエリスト生命は終わってしまったのだという。
そして、それからの男はアルバイトでその日暮らしをしていたらしいのだが、そんなある日私が今回の賞を受賞することを知り、自分の人生を滅茶苦茶にした私がこのような栄誉を受けるのが我慢できず、このような凶行に及んでしまったのだという。
それを聞いた私の感想はただ一つ。「ああ、とうとうこの時が来たのか」。ただそれだけだった。
私もわかってはいたのだ。確かに、私がグールズでレアハンターをしていたのはマリクに洗脳されていたからというのが理由としては多い。
しかし、例え洗脳下にいたとしても、それが誘導されていたとしても私が進んで悪事を行っていたというのは事実。いずれ自分の罪を裁こうとするものがくるだろうと、天罰がくだるだろうと、私はなんとなしに予測していたのだ。
そんなことを考えながら、私は自嘲の笑みを浮かべながら自らの死を受け入れようとしていたのだが、そんな私には一つの心残りがあった。
それは、私のパフォーマンスでもっとたくさんの人々を笑顔にしたかった。ただそれだけの思いだった。
やっと幼いころの夢が、彼女が支えてくれていた私の想いが形になってきたというのに………。
そんな思いからだろうか、気づけば私はなんとなしにこう呟いていた。
『ああ、できればまた人生をやり直したいですねえ……』
それができれば、恋人も失わず、このような最後を迎えずに済んだのにと。
そして私はそのまま人生を終えた………はずだった。
『ここは………?』
まさか本当にその願いが叶うとは思わずに。
★
★
暴漢に襲われて死んだはずの私が再び意識を取り戻した私は、自分がどこか清潔な印象を受ける白い部屋で横たわっていることに気づく。
知らない天井に戸惑う私は、なんとなく部屋を見渡し、そこがおそらく病院の一室だとあたりをつける。
ひょっとして自分はあの状態から助かったのだろうかと、首を傾げながらもとりあえず枕元にあったナースコールを押して誰かを呼んで状況を確認しようとしたところで、そこで初めて自分の現在の状況に気づいた。………なぜか自分の体が子供の頃の状態に戻ってしまっているということに。
『なんじゃこりゃあ!?!』
さすがにこれには驚いた。たぶん人生で一番動揺したかもしれない。思わず叫び声を上げてしまったほどだ。
その後、その叫び声を聞いてやってきた看護師や医者から話を聞いた結果、どうやら私の名前、というよりこの体の持ち主である子供の名前が遊灯久遠ということ。未だ小学生にもならない年齢だったいうこと。そして両親と車に乗って出かけている最中に事故に遭ってしまい、自分を残し両親は二人とも死んでしまったということまで教えられた。(もっとも事が事なので両親のことを教えるときはかなりいいづらそうにしていたから)
その話を聞いて行くうちに、私は全く知らない人物の記憶が自分の頭の中にどんどん流れ込んでくるのを感じ、やがて気づいた。それが遊灯久遠という少年の記憶だということに。
そして私は理解したのだ。私は輪廻転生というものを、記憶を持って果たしたということを。
輪廻転生。昔気紛れに読んだとあるオカルト本に乗っていた言葉で、元々は仏教の言葉で、簡単にいうと人は死んでも生まれ変わり別の存在へとなって再び現世に舞い戻ることができるというもの。そのオカルト本によれば、中には転生した人間の中には前世の記憶を持っている者もいるらしいことも書かれていた。
その本を読んだ時には、ただの与太話だと思って鼻で笑ったものだが、今の自分の現状。そして流れ込んできた遊灯久遠という少年の記憶、そして両親の死を聞いて自然と胸が締め付けられ、頬から涙が流れてくることから、私は自分がこの記憶を持った転生を果たしたことを確信したのだ。(意識が戻った時に既にある程度成長していたのは、おそらく交通事故の衝撃が原因で前世の記憶が戻ったのだろう)
前世の記憶を思い出した影響か、割と早く両親の死から立ち直り、現状を理解すると、とりあえずこれからどうするか考えた。
医者の話では、両親はそれなりの遺産を残してくれており、生活にはしばらく困らないようであったが、それでも当時の私は小学生にすらなっていないほど幼かった。一人で生活するなど無理であろうし、まず周りがさせてくれないだろう。………まあその心配は全くの無駄だったわけであったのだが。
★
★
明日の生活を心配ながら、リハビリに励んでいた私の前にその男性が現れたのは、私が意識を取り戻して1週間ほどが経った頃だった。
『君が久遠君だね』
そういって現れたその男性の名前は”|榊遊勝《さかきゆうしょう》”。
前世の私が来ていたような燕尾服のような衣装を身に纏い、シルクハットを被った特徴的な服装で現れた彼は、同行してきた看護師や医者の話では、この世界のデュエルチャンピオンであるらしい。
久遠の記憶を探ってわかったことなのだが、どうやらこの世界は私の生きていた世界から100年ほど経った未来の世界だったらしく、私がかつて戦ったデュエルキング、武藤遊戯は史上最強のデュエリストとして歴史上の偉人の一人としての扱いを受けており、科学技術も著しく発展し、今ではなんと質量を持ったソリッド・ヴィジョンも開発されて、そのソリッド・ヴィジョンを使用したアクションデュエルというものが現在の流行りとなっているらしい。
そして、前世ではできたばかりのプロリーグも、この世界では既にできてから100年以上が経っているために制度も発展、確立しており、そのためか前世の頃より多くのプロデュエリストがこの世界にはいるのだが、その頂点にいるのがこの榊遊勝という人物だというのだ。
そんな人物がなぜ私の前に現れたのかというと、なんでもこの世界の私の両親とは親戚関係だったらしく、仲もよかったということで、私の身元を引き取りに来たのだという。
これには驚いた。元々、誰か親戚かなにかが引き取ってくれないかなと淡い期待を抱いていたが、まさか当代のデュエルチャンピオンが自分の身元引き受け人になってくれるとは、夢にも思っていなかったからだ。
だからこそ、突然現れた彼の言葉に戸惑ったが、しかし中身はともかく外見が子供の私には他に頼れる人がいるわけでもなく、ありがたく彼の申し出を受けることにした。
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そうして榊一家の一員となった私。奥さんとお子さんもいらっしゃると聞いていたので少し心配ではあったが、彼らは快く私のことを受け入れてくれた。
どうやら遊勝さんはあらかじめに私を引き取ることを家族に相談してから決めていたらしく、彼らの元々の人柄の良さもあって、私が彼らの家族に馴染むのはそう時間がかからなかった。
少しミーハーなのが玉に瑕だが、明るく料理上手な遊勝さんの奥さんの榊|洋子《ようこ》さん。二人の息子で、泣き虫だが思いやりのある子である、弟分となる榊|遊矢《ゆうや》。二人とも両親を失った私のことをよく気遣ってくれて、このような温かい空間はカトリーヌと一緒に暮らしていた時以来だった私は、いつの間にか、すっかり彼らのことを本当の家族同然と思うようになっていった。
そして、そんな一家の大黒柱である遊勝さんの仕事。つまりデュエルの試合を見に行った私はそこで衝撃を受ける。
【エンタメデュエル】
遊勝さんがその信念としている、相手や観客、見ている人全てを笑顔にしようというデュエルスタイル。
純粋なデュエルの強さもさることながら、質量を持つソリッド・ヴィジョンが開発されたことにより産まれたアクションデュエルならではの、体を張った華麗なパフォーマンス。遊勝さんがデュエルチャンピオンであり、最も人気のあるプロデュエリストとして、その手のランキングで長年トップにいる理由がこれにあった。
そして初めて彼のこのデュエルを見た私は、自分に電流が走るのを感じた。遊勝さんのデュエルを見て得た感覚。そして彼のデュエルを見て歓声を上げる観客たちの姿を見て、それが前世、私が追い求めていた理想の光景だということに気づいたからだ。
『………これだ!私が求めていたのはこれだったんだ!!』
これなら前世のマジシャンとしてのパフォーマンスやデュエリストとしての経験を生かすことができるだろうし、マジシャンとしての舞台ではないが、デュエルモンスターズが前世とは比べ物にならないほど日常と密接に関わっているこの現代。これなら世界中の人々を笑顔にするという自分の夢を果たせるかもしれない。
そう考えた私は遊勝さんに頭を下げ、彼が自身のエンタメデュエルを他に伝えるために創設したデュエル塾『遊勝塾』に入塾し、そして遊勝さんにエンタメデュエルについて教えを受けることに。
そして私は、遊矢や遊矢の友人である|柊柚子《ひいらぎゆず》や権現坂道場の跡取り息子である|権現坂昇《ごんげんざかのぼる》たちの面倒を見ながら、遊勝さんや彼の後輩である遊勝塾の塾長、|柊修三《ひいらぎしゅうぞう》さんたちにエンタメデュエルについてのなんたるかを教わる日々を送ることとなる。
忙しく、とても騒がしい日々であったが、カトリーヌと過ごしてきた日々とはまた違った、暖かい毎日。………しかし、神様はよほど私のことが嫌いなようで、そんな幸福な日々もある日唐突に終わることとなる。
榊遊勝の『失踪』という出来事によって。
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それはちょうど幾度目かのタイトルマッチ防衛線。
堅実で、それでいて豪快な戦術を得意とすることで有名なストロング石島を挑戦者として迎えたその一戦。しかしチャンピオンである遊勝さんはその戦いの場には現れず、そのまま行方を晦ましてしまったのだ。
ここ一番の試合を前に、家族にすらなにもいわずにどこかに消えてしまった遊勝さんのことを、「勝負から逃げた卑怯者」「臆病者のチャンピオン」として、世間は今までの評価から一転。彼のことを罵り、そして蔑んだ。
そんな世間の悪意は遊勝さんに親しかった人物にまで及び、そのせいか遊勝塾の生徒たちは次々と辞めていき、そして、さらにそれは、当然私たち家族にまで襲い掛かった。
罵り蔑みの視線は当然のこと、酷いときは石を投げつけられるときもあった。
遊勝さんがプロとして有名になる前までいくどかの嫌がらせを受けたことがあり、なにげに要領がいい洋子さんや、前世で一度名声を失い裏世界に生きてきたために、その手の嫌がらせに対してある程度対処法を心得ていた私にはそれほど被害が来ることはなかったが、しかし正真正銘、まだ幼かった遊矢にはそんな悪意に対しての対抗手段があるわけがなく、さらに大人であるならばある程度は自重するものであるが、純粋であるがゆえに残酷な子供たちの嫌がらせを直接受けていた遊矢は、私が出会ったころのような明るさがどんどん陰りを見せ日に日に暗く落ち込んでいった。
幸い、遊矢の親友である権現坂君のおかげで酷いイジメを受けることはなかったが、そのせいで遊矢は以前とは違って、むりやりひょうきんな。それでいて常にどこか陰のある表情を見せるようになる。
遊勝さんの名声は地に落ち、遊勝塾には殆ど人が寄り付かなくなっていった。
私は再び遊勝塾に活気を取り戻させるために、多くの大会に出場して注目を集めようとしたり、ビラを配ったり、インターネットなどで宣伝したりしたのだが、未だ遊勝さんの失踪の件が尾を引いているのかあまり効果は出ず、苦悩の日々を送っていた。
そんなある日のことだった。その話を私が聞いたのは。
それは舞網市を拠点として活動しているとある企業が開いた大会。その大会の優勝者は、その会社の援助を受けてデュエルモンスターズの本場であるアメリカへデュエル留学することができる権利を得ることができるというのだ。
私はこれを見て閃いた。今の状況の舞網市では、例え私がプロになったとしても受け入れられるのは難しい。少なくとももっと時間をおかなければ無理かもしれない。
そう考えた私は、ならばいっそのこと舞網市と並ぶデュエルの聖地であるアメリカ。そこで私が活躍できればエンタメデュエルをもっと広めることができるし、遊勝さんの、そして遊勝塾の名誉回復の一助になることができるかもしれない。
そして私は中学1年生の時その大会に優勝し、それから3年間。私はこうして様々な大会に出場し、エンタメデュエリストとしての腕を磨いているというわけである。
ちなみに学校には殆ど行っていない。流石に前世と合わせて中身が中年を既に超えている身としては今さらジュニア・ハイスクールに通うっというのも気がひけたので、通信教育で既に中学卒業の資格はもう既にとっているからだ。(まあ、この国にいる名目が一応「留学」なので籍だけはその会社が指定した学校においているが)
そして今回の大会を見てくれればわかると思うが、この3年でどうやら私の努力もなんとか実を結んだようで、今では私はここアメリカでは、結構名が知られるようになった。それと同時に、今ではエンタメデュエルを志すデュエリストたちも少なからず出てきているので、私の努力も無駄ではなかったと胸をはってもいいと思う。
「ふう。なんとかここまで来ることができました」
今の住居としている、ラスベガスにあるとあるアパートの一室に帰ってきた私は、ソファに深く身を沈めながら、ここまで来るまでの苦労を思い返し、深く溜息を吐いた。
我ながら、まるで人生に疲れた中年サラリーマンのような姿だと思わないでもないが、できれば許してほしい。ここまで来るのに本当に苦労したのだから。
何が苦労したかといわれれば、特に、エンタメデュエルがどういうものかを理解してもらうのに苦労した。「皆を笑顔にする」というエンタメデュエルの信念が、真剣勝負を愚弄しているだとか、舐めプ乙(笑)だとかいわれてしまうことがあったのだ。
それは違う、誤解だと理解してもらうために、何回もその相手にデュエルで勝利し、根気よく説明して理解してもらったのは今ではいい思い出だ(黒笑)
「(修三さんから、義父さんが日本でエンタメデュエルを理解してもらい、そして広めるのも大分苦労したと聞きましたがあの人もこんな苦労をしたんですかねえ………)」
と、そこで私は机の上にある写真盾へとなんとなく視線を向ける。そこには遊勝さんに洋子さん。そして遊勝塾の仲間たちと、この世界での私の家族たちともいえる存在が映っていた。
「皆元気にしていますかねえ?一応賞金で仕送りはしているから、塾生がいなくてもなんとか塾の経営はできているはずですが」
確か最近年少の塾生が新たに入ったとこの間メールがきたので、一度帰って見るのもいいかもしれないな。
そんなことを考えていると、
PiPiPiPiPiPiPiPi……
「ん?メールですか?」
唐突に聞こえてきた電子音に気づき、それが携帯のメールの着信音だと理解した私は、なんだろうと訝しげに思いながら携帯を手に取り操作して誰からメールが来たのか確かめると、そこには『柊修三』。自身が籍を置いている遊勝塾の塾長の名が表示されていた。
噂をすればなんとやらとはこのことかと思いながら、私は早速メールの内容を確認したのだが、先ほどまでの気楽な気持ちはそこに書かれていた衝撃の内容にすぐに吹き飛んでしまう。
「……なん…だと……!?」
メールの内容に私はしばし硬直していた私だったが、ふと我に帰ると急いでパソコンを立ち上げて日本のデュエルニュースを確認する。
そして私はそこに目当てのニュースを見つけると思わず自身の頬が思わず緩むのを感じた。
「………なるほど、随分成長したようですね遊矢」
私が見つけたそのニュース欄には、でかでかとこう書かれていた。
【榊遊勝の息子、榊遊矢君。因縁の相手ストロング石島を撃破!!】
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