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HOME > 遊戯王SS一覧 > 時空門

時空門 作:エスカル

居間は畳が敷かれ、少し古い机が置いてあった。
その机の上にはドラゴン族や魔法使い族のイラストが描かれた雑誌が置かれていた。

「あっ、これラドリーですの」

ラドちゃんをお膝の上に乗せながら雑誌を読んでいたら、ラドリーのイラストが書かれたページが開かれた。
今まではこうやってカードイラストだけでしか見ることが出来なかったけど、今はどういうわけかこうやってラドちゃんの触り心地を堪能できる。
リアルソリッドビジョンでしか叶わないと思っていたが、『Card Spirit』という存在としてラドちゃんは今こうやって存在している。
不破君が知ってそうだから、説明してもらわないと。

「お待たせしましたよっと」

不破君がお盆の上にお茶を載せて居間に入ってきた。
そしてお茶が置かれるなりラドちゃんがお茶をくんかくんか。
ああ、可愛い。

「……変な物は入って無いですの」
「そりゃ入っていないが、においだけでわかるのか?」
「私は水の力を使うことが出来るメイドですの。水周りに関しては負けない自信があるですの」
「ラドちゃん、すごーい」

ドヤ顔してたラドちゃんを抱きしめると、ラドちゃんがにこっと笑顔を向けてくれる。
この笑顔は私の心にどストライク。
おっと、落ち着かないと。
まずはお茶を一口。
こ、これはほうじ茶!

「おいしいですの」
「うん、そうだね」

ラドちゃんもお茶を飲みつつ、少し熱かったのか時折舌をぺろっと出して、ふーふーとお茶に息を吹きかける。
これが心に響く光景というものね……

「せんべいとかもあるけど、食べるか?」
「それは大丈夫。さっきクレープ食べたし」
「あ、ラドリーはいただくですの。あの化け物から逃げて物食べてなかったですの」

不破君からせんべいの入った袋を受け取り、ラドちゃんがそれを開けてぱりっといい音を響かせて食べ始める。
そしてせんべいが食べ終わったのを見届け、不破君がごほんと咳をする。
あんまり言いたく無い話なのだろうか。

「さてと……まず何から聞きたい?」
「ラドちゃんが実体化してる理由から」

お膝の上のラドちゃんの頭を撫でてから尋ねる。
もしかしたらラドちゃん以外にもこうやって触れるドラゴンがいるかもしれない。
そう考えただけで胸のわくわくどきどきが止まらないよ。

「さっきも説明したけどラドリーちゃんは『Card Spirit』。物語などに出てくる『カードの精霊』に本質的には近いけど、このカードが実体化して欲しいという数多くの人間の想いが生み出す生命体、それが『Card Spirit』だ」

もし現実に存在していたらという想いが生み出した命、か。
そう考えるとなんか素敵だ。

「ラドリーは生まれたときからこの姿で、ラドリーよりも小さな女の子の傍にいたですの。そしてその小さい女の子はラドリーをはじめて見て、愛流お嬢様と同じぐらい喜んでくれたですの」

その小さい女の子がラドちゃんが前に仕えていたご主人様なのだろう。
ラドちゃんの表情を見る限り、仕えることそのものが幸せだと感じさせてくれるいいご主人様だったのだろう。
私もラドちゃんの傍にいると決めた以上、ラドちゃんには常に笑顔でいてもらいたい。
なかなかに責任重大だ。

「だけどある日、その子と両親ごと化け物の襲撃に遭って、殺されちゃったですの。で、そのとき生き延びていた私を付け狙っていろいろなところへ逃げたですの。そしてこの世界に落ちてきて、2人に助けてもらったですの。そのご恩は愛流お嬢様の傍にいて返すつもりですの」

ラドちゃんが私のほうをじっと見てくる。
そんな顔しなくてもラドちゃんが傍にいてくれるのなら私は常にウェルカム状態だよ。

「でも、あの輪はなんだったんですの? 逃げてる途中でいきなり現れて、そこに逃げ込んだらあの場所にやってきたですの」

それもそうだ。
確かにいきなり出てきたあのわっかはなんだったんだろう。

「それは『時空門』だな」

時空門?
確かにこの世界にいない生命体が降りてきたから別の時空につながる門だとしたら納得は出来るけど。

「出現するメカニズム自体未だによくわかってない」
「よくわかって無いのに正体は分かってるんだ?」
「父さんが研究していたテーマだからな」

不破君のお父さん?
そのお父さんが知っていたから話すことが出来るんだろうか。

「なら、不破君のお父さんに話を聞けばもっと詳しいことが分かりそうだね」
「……俺が小学3年生ぐらいだったか。父さんと母さん、それから梓姉さんは俺の目の前で開かれた、さっきのとは別の時空門に吸い込まれ、消えていった」

……やってしまった。
明らかな地雷を踏み抜いてしまった。

「いや、別に愛流さんは悪くない」

そして顔に出てしまってたのだろう、不破君が慌てて首を横に振る。

「元々じいちゃんとこの家で家族全員で暮らして、じいちゃんは俺が中学2年生のときに他界して一人暮らしをし始めた」
「他に誰か身寄りは」
「父さんの会社の研究者の一人で父さんの旧友だった古賀さんって人が俺を養ってくれようとはしたけど、さすがに迷惑をかけるんじゃないかってことで断った。お金なら父さんやじいちゃんが残したお金があるから大丈夫だよって」
「そうだったんだ」

結構軽いノリしてた不破君がなんか重い話をしてる。
学校のときのあの態度と今ではまったく違う。

「でもまあ実際の話、そのお金にはほとんど手をつけて無いけどな。当時中学生にしては割と大人びた顔つきしてたからな、年齢を偽って新聞配達のバイトをやりはじめてお金を稼いでたんだ」

年齢を偽ってバイト?
そんなの報告がいってばれるんじゃ。

「意外とバイトの面接ってそこらへんは緩いんだよ。まあアカデミアへの受験と入学費用だけはじいちゃんの残してくれたお金を使わざるを得なかったけど」

あの受験の裏ではそんなことが……
私なんて、両親にねだってお金を出してもらって受験したのに。

「も、もしもだよ? 不破君が受験に落ちてたら」
「無論進学は諦めて、新聞配達のバイト以外にもバイトを掛け持ちして食いつないでいくつもりだったさ」

そ、そんな重い覚悟をしてたんだ。
そんなことも知らずに私は受験のとき、不破君のオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンに抱きついて、しかもノーダメージで不破君を倒して……

「知らなくて当然。それとリアルソリッドビジョンの技術自体、父さんの研究の賜物で生まれたものだ」

そうだったの!?
じゃ、デュエルディスクは不破君は最初からもらえたはずじゃ。

「生憎だけど父さんは自分がそういった開発をしたことで有名になって周りに被害が及ぶのではないかと危惧して身元は明かしてなかったからな。当然父さんに息子がいるなんてことを知ってるのはそれこそ古賀さんぐらいのものだ」
「あの、聞いていいですの?」
「ラドリーちゃん、どうした?」

ラドちゃんの聞きたいことってなんだろ?
私も黙り込み、ラドちゃんの言葉を待つ。

「どうしてご両親やおじいさんが残してくれたお金を使わないでバイトをしてるんですの?」
「父さんたちは時空門の先で生きてると信じてる。帰ってきたときに父さんたちのお金を使ったなんて知られたら幻滅されそうでさ」
「……では、おじいさんのほうは?」
「おじいちゃんは工事現場で働いていた人でさ。小学生のころにじいちゃんが働いてたときの背中を見てたんだけど、汗水たらして必死に働いてさ。そうやって苦労を重ねて稼いだお金を使うのはなんか嫌だったんだ」

……不破君。

「それに新聞配達のバイトを始めて分かったんだけど、1ヶ月、毎日朝に早起きして新聞を配る。いろいろな家に新聞を届けるために自転車を必死に走らせてさ。それで相当大変な思いをして、貰ったお金はなんかすげぇ嬉しかったんだ。で、その稼いだお金で手に入れた雑誌は今まで以上に大事に出来るし、食事だって段違いにおいしく感じるんだ」

……不破君は私なんかよりもずっとずっと大人だ。
自分でお金を稼ぐことの大変さも理解して、そのお金の大事さも良く分かってる。
私なんてまだバイトもしたこともなく、未だに両親からお小遣いを貰ってる。
自分は何も苦労しないで、貰ったお金でクレープ食べたり雑誌を買ったり。
それに比べて不破君は自分が稼いだお金でやりくりして……

「まあ実際世間から見たらやらなくてもいい苦労してる馬鹿なんだろうな、俺は」

再び私が何を考えてるのか悟ったのか、それとも口に出してしまっていたのか。
不破君がきっぱりと告げ、お茶を一口飲む。
もしかしたらこのお茶も不破君が自分で稼いだお金で……大事に飲まなきゃ。

「質問は以上か?」
「不破君がなんか変身した時に使ったあのカード、一体何?」
「ああ『χ card』のことか。あれは所持者を異端の存在に変えるために必要な媒介だな」

異端の存在……
確かにドラゴンはもちろんのこと、魔法使いだって普通の人間からしてみたら異端な存在だ。

「それをどこで手に入れたの?」
「……中学3年生のとき、一度だけたまたま別の『時空門』が俺の目の前で開いたんだ。当時の俺からしたら、家族のいる場所へとつながる場所に思ったんだ。だから無謀に飛び込んだんだ。その先は……時間も空間もありとあらゆるものがねじれてる場所だった」

時間も空間もねじれてる世界。
まさに異次元らしいというかなんというか。

「どうやら普通の人間は潜り抜けることが出来ない場所だったらしく……なんの対策もなく人間が飛び込めば間違いなくあの空間に取り残され、永遠にさまようことになってたかもしれない。だけどそんなときだった。その空間の中に、人間がいたんだ」

そんな場所に人間が?
半信半疑になって質問したくなる気持ちを抑え、不破君の話の続きを待つ。

「その人間は……父さんと同じ顔をしていた。俺はそのとき父さんは生きていたんだってすごく喜んだよ。残念ながら、別人だったけど」
「別人?」
「ああ。なんでも、かつて俺と似た空気を纏った3人が同じように時空のねじれにやってきて、そのときはこのままでは死ぬかと思い、別の時空へ飛ばしたといってた」

ってことはつまり。

「それを聞いて、少なくとも時空のねじれが原因で死んだわけではないとは確信できた。流れ着いた別の時空で死んでないかと不安は残ってるけどな」
「良かったですの。きっと生きてるですの」

ラドちゃんが不破君の手をぎゅっと握る。
同じく家族を亡くしてしまったかもしれない身として思うところがあったのだろう。
不破君も払いのけるようなことはせず、優しく握り返した。

「ありがとな。で、そのときは俺も同じ時空に飛ばせといったが、なんせ時間も空間もねじれまくってるから、同じ力の持ち主でもそれは不可能だといわれた。ただし、いつか時が来たのなら、人間であっても時空門を通り抜けることが出来る力をつけることが出来るようになるこれらを渡されたんだ」

不破君が机の上に『χ card』と黒いブレスレットを置く。
これが時空を渡ることを可能にし、何よりもドラゴンとの合体を可能にする力を秘めている道具……興味をそそられて仕方ない。

「これを手にしたとき、使い方などが頭の中に流れ込んでいって……実のところああやって戦ったのはあれが初めてってわけじゃないんだ」

つまり、不破君は何度か変身してこの世界に流れ着いた異端な存在と戦ってたんだね。
でも、それよりも私の興味をそそるのは。

「ねぇ不破君、これって私も使ったりすることできるかな?」
「そうですの。ラドリーも愛流お嬢様と合体して、戦う力を身につけたいですの」

私の膝の上に乗っていたラドちゃんも目を輝かせ、お互い不破君を見る。
だけども不破君は困ったような顔をしていた。

「もしかしたら使えるかもしれないけども、渡したら俺の家族を探しにいく手段がなくなっちゃうな。一応古賀さんにこれらの道具のことを調べてもらったけど、どうやらこの星に存在して無い物質で出来てるらしく、再現は不可能だって言ってた」

つまり、一点だけの超レアって奴だね。
でも、不破君がこれを使わなければ家族と再会できることはない。
誰かの心の支えを奪ってまで変身したいなんて思わないよ。

「愛流さんとラドリーちゃんには申し訳ないけども」
「そういう事情があるならしょうがないよ」
「そうですの」

不破君が謝る必要は無い。
もともと無茶なお願いをしたのは私たちだもん。

「ところで、どうやって異世界へと渡る力を身につけるですの?」

ラドちゃんが尋ねる。
確かに異世界へとわたることが出来るなら学校生活を送らず、家族を探しにいけばいいじゃないか。

「どうやら人間ではない異端の者と戦ってこのブレスレットにエネルギーをためなきゃいけないみたいだ。ただ、この世界じゃそうそう異端の者とは戦えないし、まだエネルギーは足りないんだ。だからアカデミアに合格して高校生として学校生活を送って、父さんが開発研究したリアルソリッドビジョンを使ったデュエルをしてみたかったんだ。で、俺のお気に入りの『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』が実際に目の前に現れたときは興奮したけど、まさか人目を気にせず堂々と抱きつきにいく子がいるなんて思わなかった」

それってもしかしなくても私のことですね。
あの時は奇行を晒して本当にすみませんでした。

「だから先を越されたと悔しい感情が出ちゃったよ」
「そんなことがあったんですの。愛流お嬢様って本当にドラゴンが好きですの」

当然ラドちゃんだって大好きだよ。
じゃなかったこうやって膝の上に乗せてないよ。

「そういや、この世界では『Card Spirit』って呼ばれてる私も異端の者と呼べなくも無いですの。私と戦ったらエネルギーが溜まるですの?」

……あ。
そういわれてみたら確かにラドちゃんも人間ではない『異端の存在』だ。
あんまりにも自然と人間の言葉をしゃべって馴染んでいたからすっかり忘れてた。

「確かに」

不破君もどうやら気づいてなかったみたいだ。

「で、でも……痛いのは嫌ですの」
「大丈夫。デュエルでも溜まるみたいだから」
「なら、ラドリーのお手製デッキで不破君とデュエルをすればいいですのね」

良かった。
もしリアルファイトでしかたまらなくて不破君がラドちゃんを傷つけようものなら、私の持てる全力で不破君を屠るところだったよ。

「た、ただお願いがあるですの」
「お願い?」

ラドちゃんが真剣な顔をして不破君に話しかける。
一体何をお願いするというのだろうか。
私も不破君も真剣な顔でラドちゃんの次の声を待つ。

「もし私がデュエルで勝てたら、さっきのおせんべいをもう1枚、いや、2枚欲しいですの。ラドリーと愛流お嬢様とで分け合って食べたいですの」
「…………」
「…………」

なんだこの生き物くっそ可愛いなおい。
不破君も私と同じ心境なのか、無言のいい笑顔のまませんべいの入った袋をラドちゃんと私に手渡した。

「ありがとうですの」

このおせんべいもおそらく不破君が稼いだお金で買ったもの。
ちゃんと味わって食べようっと……醤油風味がいい味出してるね。
2人しておせんべいを食べ終わった後、ふとした疑問を述べる。

「でも、この居間じゃ狭くない?」
「そこは心配後無用」

不破君が黒いブレスレットを左腕に装着し、そのまま天井めがけて掲げる。
その瞬間、ブレスレットから闇が放たれ、私たち3人が闇に飲み込まれていく。


気づいたとき、星が空に綺麗に輝く荒野に立っていた。
幻想的な空間でありながら、お互いの姿が確認できる。

「ほわわ~」

ラドちゃんも感激したようにあたりを見渡してる。
そして不破君もデュエルディスクを構えて私とラドちゃんの前に立っていた。

「ここなら思う存分やりあえる。さっきの公園のときもこの空間に引きずり込めればよかったんだが、あの姿になったら高揚感が出てしまうらしく、空間に引きずるよりも前に戦いたい欲が出ちゃってさ」

なるほど。
確かにドラゴンと合体するなんていう魅力的な経験をしたらそんなことは些細なことだろう。

「では、私もやるですの」

ラドちゃんが目を閉じると、ラドちゃんの左腕の部分に『ドラゴンメイド・フルス』の頭部を模したデュエルディスクらしきものが現れ……なにあのデュエルディスク欲しい。

「それと、どうやら新しいルール……EXデッキから特殊召喚されるモンスターはリンクモンスターとペンデュラムモンスター以外はメインモンスターゾーンに特殊召喚できるようになるルールが制定される。それでいいかな?」

なにそれ初耳。
でも、それが本当なら私の融合真紅眼たちが更に活躍できそうだよ。

「いいですの。では、お相手よろしくお願いしますですの」


「「デュエル」」

不破 修輔 LP8000 VS ラドリー LP8000
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