第5話：1‐1　作：光芒

「それでは、始めさせて頂きます」

　今日、俺は大勝負に臨んでいた。去年、デュエル委員だった遊希さんも通った道。校長先生をはじめとした先生方に生徒の代表・デュエル委員として新一年生のテストを兼ねた特別なデュエルの内容をプレゼンするからだ。
　去年新入生だった俺たちが経験した地下施設でのラビリンスデュエル。あれは遊希さんが提案し、プレゼンをすることで実現に至ったもので、俺は書類作りだけだけど関わっていた。ただ、去年と今年とでは色々と訳が違っていた。
　そもそも去年のラビリンスデュエルに関しては、元々星乃校長が暖めていた案を遊希さんが発展させたものであるということを忘れてはいけない。校長先生がかつてペガサス・J・クロフォード主催のデュエル大会『決闘者の王国』で行われた地下迷宮のデュエルに憧れて企画したのが去年のラビリンスデュエルだけど、実現の難しさからミハエル教頭を始め皆に反対されて立ち消えになっていたものだった。それに目を付けた遊希さんはその案を発展、実現に移すことで校長先生を味方に付けることに成功した。だからこそすんなり賛成を得ることができた。この学校において理事長に次いで力を持った星乃校長の鶴の一声を得るために。

「今回の説明にあたり、改めて自己紹介をさせて頂きます。私は今年度、生徒会の一員としてデュエル委員を務めさせて頂いております、高海 遊大と申します。まだまだお聞き苦しい点等多数あると思われますが、宜しくお願い致します」

　そう言って俺は頭を下げる。校長先生は「そう緊張しないでいいよ」と優しく声をかけてくれるものの、ミハエル教頭をはじめ他の先生方は皆真剣な表情をしている。確かにこれがなんてことない雑談ならともかく、予算や新入生たちの成績に関わるのだから当然だろう。それだけに俺も身が引き締まる思いだ。

「今年度、生徒会として提案させて頂く新入生対象のデュエルは―――」





＊





「ねー、ゆいゆ～い！」
「……何ですか」
「なんでアタシたちもデュエル委員なのにセンパイのプレゼンに付き合っちゃいけないのー！」

　素直に疑問の言葉を投げかけるアタシに対してゆいゆいはムスっとした表情を向ける。ねえ、可愛い顔が台無しだよ。って言うともっと怒るのがゆいゆい。

「ちょっと考えればわかることじゃないですか。遊大さんが今プレゼンしているのは今度私たちが受ける試験の内容についてです。受ける私たちが同席したら意味がないでしょう」
「でもどうせ試験の前にルールとかが説明されるんだしそんな変わんないんじゃない？ 黙ってればアタシたちだって同席してもいいっしょ☆」
「あなたがそれを黙っていられるほど口が堅いとは思えないからですよ」

　ゆいゆいって意外と毒舌だよね。プロデュエリストってそうじゃなきゃいけないのかな？ 今の時代、口が悪いとSNSで《昼夜の大火事》になっちゃうよ。

「そもそもそんなに時間を持て余しているならデュエルをすればいいじゃないですか」
「まー、そーなんだけどね。でも相手がさ……」
「皆さんもう少しで来るから待っていてください。って噂をすれば来ましたよ」

　アタシとゆいゆいの視線の先には複数の人影。その正体はあたしやゆいゆいがこの学校で初めて「友達」と呼べるほど仲が良くなった子たちだった。

「そのの～ん！ リスり～ん！ よみみ～ん！ こっちこっちー！」
「あ～、遊舞さーん、結衣さーん。お待たせしました～」

　間の伸びたほんわかした喋り方が印象に残るこの子は柊 苑香（ひいらぎ そのか）ちゃん。明るい茶髪のサイドダウンをお姉ちゃんからもらった蝶がついたデザインのヘアゴムでくくっていて、喋り方からわかるようにのんびり屋さんだけどとっても優しい子。

「申し訳ありません、私が少々体調を崩してしまいまして……」
「……私たちでストラスバーグさんを保健室に連れて行ったの」

　ちょっと辛そうにしながらも綺麗な笑顔を浮かべるのはアメリカからの留学生、アリシア・ストラスバーグちゃん。キラキラした金髪と碧眼が際立つザ・欧米のお嬢様っていう見た目だけど、生まれつき身体が弱くてあんまり激しい運動ができない子。この子との出会いも、授業の後に辛そうにしていたのをアタシが保健室まで連れて行ってあげたのがきっかけ。
　そんなリスりんに手を貸しているのは桜小路 詠（さくらこうじ よみ）ちゃん。女の子だけど身長が177㎝もあって、グラマラスなスタイルが際立つ大人っぽい子。でもそんな外見とは裏腹に優しいけど大人しい性格をしている。苑香ちゃんことそののんと、詠ちゃんことよみみんはアタシとゆいゆいの隣の部屋に入っていて、アタシとゆいゆいが色々と揉めてると仲裁に入ってくれたりするんだよね。

「そうだったんだ！ ごめんね、リスりんの体調まで気遣ってあげられなくて……」
「いえ、お気を悪くしないで下さい。私も一角のデュエリストになるためにこの学校まで留学してきたのですから……」
「……プロデュエリストの白幡さんと、首席入学の風花さん……二人からいっぱいデュエルを学びたいから」
「この出会いは大事にしたいですからねー」

　そう言って三者三葉、形の違う笑顔を見せてくれる三人。人と人の縁は時に運命的なもの、っていうのはよく聞くけど、ここでアタシたちとみんなが出会えたこともまた何かの運命からなるものなのかな。

「じゃあさじゃあさ、早速だしデュエルと行こうよ！」
「待ってください。アリスさんの体調を考えないと……」
「そうですね……無理をしてご迷惑をかけるわけにも参りませんので私はこちらで見学とさせて頂きますわ」
「では私と詠さんでやりましょうかー」
「……うん、じゃあそうしようか」

　この学校のデュエルスペースは消灯時間を除いていつでも使えるように解放されている。そのため、使っている人がいなければ自由に使うことができる。暇な時間、ここでデュエルをし放題っていうのはいいことだよね。
　アタシとゆいゆいでリスりんを挟むように座ってそののんとよみみんのデュエルを見学することになった。そういえば二人が直接対決するデュエルはアタシまだ見たことないんだよね。どんなデュエルになるのかな？

「では、デュエルですー」
「……うん、デュエル」

　えーと……二人の性格上、デュエルの開始が盛り上がりにくいのはご愛敬ってことで。










○後書き
　過去に例のない超大型の台風19号が日本に接近しています。私のところはまだ大丈夫なのでこうしてSSを更新できていますが、思わぬ被害を受ける可能性も多々ありますので、皆さまこの週末どうかお気を付けてお過ごし下さい。