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第7話:1-1 作:光芒
○前書き
今回は第一部最終盤のネタバレを含みます。
「なー、仁。お前連休中どっか行ったりするのー?」
「生憎そう言った予定はない。学校に残って勉強に集中するつもりだ」
「……損してんなお前」
「休み中ずっと部活動のお前に言われるに筋合いはないな」
大型連休の間、アカデミアも他の学校と同じようにお休みになる。授業がない分、陸のように部活動に取り組む生徒もいれば、仁のようにひたすら勉強っていう生徒もいる。連休中にどのように過ごすかもまた学生たちが自分で決めなくてはいけなかった。
「ま、俺たちよりもよっぽど充実してるのがそこにいるけどな」
「……確かに」
二人の羨むような目線が支度を済ませた俺に突き刺さる。連休中は基本的に生徒会の活動の休みになるため、俺がどこで何をしていようと自由と言えば自由なのだけど。連休中の予定が予定だけに、周りからはどうしても奇異の目で見られてしまう。
「で、お前はどこで新婚生活を送るんだよー」
「からかわないでよ。そんなんじゃないってば」
「……遊大が一月ごとに数日間天都先輩と過ごすことは星乃校長も認めたことだぞ。まあ、どんなことをしているのか気になるのは同意だが」
別に俺は遊希さんとは何もしていないんだけどなぁ。でも仁の言ったことはその通りで、俺は一月ごとに学校をしばらく離れて遊希さんと一緒にいる必要がある。授業や生徒会のことをベアトリス会長や美鈴さんに任せてしまうのは後ろめたいけど、このことの必要性に関しては星乃校長にもミハエル教頭にも認めてもらったが故のことだった。
「……遊希さんが軽井沢に別荘を買ったんだ。連休中はそこで過ごすつもり」
「おお、さすが伝説のプロデュエリスト。スケールが違うな!」
「閑静な別荘地で夫婦水入らず、か。まあ日々の疲れはそこで癒してこい。お前も色々と大変だったろうしな」
仁のその言葉に俺はただ頷くことしかできなかった。遊希さんが務めていたデュエル委員を引き継ぐ形で生徒会に残った俺だけど、引き継いでみて改めて遊希さんのしていたことの難しさを思い知らされた形だ。そして何より、一人の女の子の存在が俺の脳裏をよぎる。
「風花 遊舞ちゃんだっけ? あの子のことはどんくらいわかったんだ?」
「……正直に言うとそんなに。児童養護施設にいた、ってくらいかな」
色々と素性の知れなかった遊舞さんだけど、アカデミアの調査力は相当なもので、彼女のだいたいの経歴はわかるようになっていた。
幼くしてご両親を失った彼女は国内の児童養護施設で育っており、セントラル校の入学にあたって施設を出てここまでやってきたという。施設の人とも連絡が取れており、彼女の経緯はその施設の人から聞いたことでもあるため、まず間違いないと見ていいだろう。それでも一番気になる【ゲイルアイズ】というカードの出どころは相変わらずわからず終いだったけれど。
「そうか。調査はそこで打ち切ったのか?」
「……うん。あまり掘り返されるのは彼女にとっていいことではないだろうしね。もちろんゲイルアイズについても調査はI2社や海馬コーポレーションとも協力して継続するようだけど」
「ま、あの子いい子なんだろ? だったら必要以上に傷つけない方がいいって」
陸の言葉に俺は小さく頷いた。
*
二人と別れた俺はセントラル校の屋上にいた。時間は日付が変わろうとしている時。俺以外の人間はここにはいない。誰も見ていないことを確認した俺はふぅ、と息を一度吐くと、自分の中で渦巻いている力を解放した。
―――誰も見ていないとはいえ、ここでこの姿になるのはやっぱり慣れないかな。
俺の立っていた場所には一体の紅のドラゴンが立っていた。オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを彷彿とさせる容姿に紅水晶のように輝く鋭い鱗。刃のような鋭い翼を閃かせ、そのドラゴンは星が煌めく天を見上げた。このドラゴンは俺のもう一つの姿。俺は人の姿をしていて、高海 遊大という名前を持っているけれど、厳密に言うと人間じゃない。
俺は義父・遊厳の手によってデュエルモンスターズの精霊《覇王龍ズァーク》の残滓から生み出された存在であり、人間の姿こそしていても、人間ではなく、デュエルモンスターズの精霊だ。
去年までの俺は元々持っていた《オッドアイズ》の力すらろくに活かすことができなかった。しかし、幾度かの戦いを経て《ダーク・リベリオン》《クリアウィング》《スターヴ・ヴェノム》という内に眠る精霊の力を取り戻していった俺は《アストログラフ・マジシャン》《クロノグラフ・マジシャン》という最後の鍵を得たことで封じられた力を取り戻し、覇王龍ズァークとしての力を取り戻した。
ただ、今の俺には覇王龍ズァークの力はほとんど残っておらず、精霊としての力を解放した結果今の俺は俺の持つ【覇王】の力と遊希さんの持っている【星龍皇(ドラグリステル)】という二つの精霊の力が合わさった他に例のない精霊―――《覇王星竜ドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴン》という存在になった。
―――電車で行くのが乙な楽しみ方というけれど……この姿ならひとっ飛び。
俺はまず雲よりもはるかに高く飛び上がった。ここからなら地上からは精々流れ星くらいにしか見えないはずだ。でも空気が薄いからそんなに長くいたくはない。それに遊希さんももう向かっていると言っていた。遊希さんは一度国内の空港に降り立ってから俺と同じようにここに向かう。それなら少し早く行って暖かい料理と共に彼女を出迎えてあげたかった。
「……到着っと。うん……やっぱり風情がないなぁ」
俺が思っている以上に精霊の力は強くなっているのか、セントラル校の屋上から30分経たずして別荘に到着した。遊希さんから事前に渡された合鍵を使って中に入ってみると、真っ暗な世界が俺を出迎える。購入してからそれほど日が経っていない別荘は新品そのもので、部屋の中には使われた形跡のない家具が並べられている。綺麗と言えば綺麗だけど、人のいない建物というものはどうにも味気ないものだった。
(遊希さんはまだか。ちょっと早く来すぎたかな?)
早すぎたかもしれないけど、遅れるよりかはだいぶマシだ。遊希さんは海外から戻ってくるからきっと疲れているはず。そんな彼女の身体に優しい料理を作ってあげておけば喜んでもらえるだろう。最も遊希さんからは「もう少しで着く」という連絡が来ていたから下ごしらえもできないだろう―――しかし、遊希さんは中々姿を現さなかった。
「……遊希さん、何かあったのかな」
スマートフォンを開くも、何の連絡もない。事故に巻き込まれたのだろうか、とインターネットで調べてみるも幸い航空事故などの報道はなかった。そうなると遊希さん自身に何かがあったと見るべきだろう。彼女ほどのデュエリストが何か災厄に巻き込まれているとしたら、助けられるのは俺しかいない。俺は作った料理を冷蔵庫にしまい、戸締りを確認すると勢いよく外に飛び出た。
「!?」
外に出ると同時に、俺の身体にはビリビリ、という強い力が流れ込む。俺の身体にこれほどまで強く響き渡る力の出どころなど一つしか思い当たらない。デュエルモンスターズの精霊。この世界にはもう俺と遊希さんにしか残っていないはずの力。俺は再度覇王星竜の力を解放すると、力の痕跡を辿って飛んでいった。
段々と近づいてくる力。近づくにつれて力が二つあることに気付く。片方はよく知っている遊希さんの力で間違いない。では、もう一つの力は何なのか。最初は見当もつかなかったけれど、俺はその力を知っている。俺や遊希さんの中に眠るのと同じような力―――まさか、どうして。なぜそんなことが。
俺の双眸に映ったのは星空を背に対峙する精霊だった。片方は蒼水晶のような鱗に身を包んだ光の竜。かつて遊希さんが死に瀕した時、俺の中に眠る覇王龍ズァークの力を分け与えたことで遊希さんの中に宿った星龍皇の力と合わさって生まれた精霊《覇王星竜ドラグリステル・フォトン・ドラゴン》。生まれながらの精霊である俺に対し、人間として生まれながら後天的に精霊となった遊希さんの姿だ。
そしてそんな遊希さんと対峙していたのは、翠玉をまるで羽衣のようにまとった竜のような、鳳のような精霊だった。精霊は俺に気付くと、何処か悪戯っぽく小首を傾げてみる。
―――あら? まさかあなたまでやってくるとは。
―――……ゆうだ、覇王星竜ドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴン……
遊希さん、もとい覇王星竜ドラグリステル・フォトン・ドラゴンはところどころ負傷している。どうやら対峙している翠玉の精霊の急襲を受けたのだろう。ただ、不意を突かれたとはいえ、遊希さんの身体に傷を負わせるということはそれだけで強い力を秘めているということがわかる。
―――……お前は何者だ。お前の行動次第では俺はお前を打ち倒さなければならない。
―――……申し訳ありませんが、私はここで打ち倒されるわけには参りませんの。私には来るべき脅威に備えなくてはならないので。
まるで令嬢のような喋り方をする精霊はそう言ってふわりと舞って俺と距離を取る。彼女は俺とはやり合うつもりはないようだけど、遊希さんが傷つけられたとあってはこのまま逃がすわけには行かない。
―――いずれ相まみえる時が来るでしょう。その時を楽しみにしておりますわ。
―――っ、待て!!
逃がすものか、と追いかけようとした俺を強風が阻む。精霊をも怯ませるほどの風は台風でも着ていない限り自然発生するものではない。風をなんとか振り払った俺の前からその翠玉の精霊は消えていた。何一つの痕跡も残さずに。
(……あの精霊は、一体)
―――っ、遊希さん!
気になることは山積みだったけれど、今は遊希さんの方が優先だ。俺は傷ついている遊希さんを優しく抱きしめる。
―――……ごめんなさい、迷惑をかけてしまって。
―――気にしないでください。それよりも戻りましょう。調子、良くないんでしょう?
遊希さんはどこか恥ずかしそうに頷くと、俺に身を任せてきた。俺は遊希さんを抱き抱えたまま別荘の手前まで戻り、着地と同時に精霊の姿から人間の姿に戻った。
「遊大……」
人の姿に戻った遊希さんは俺の名を呼ぶと、そのまま俺の唇を遊希さん自身の唇でふさいできた。彼女の唇を通じて、俺の身体には彼女の身体で抑えきれなくなった力が流れ込んでくる。このままでは本当に抑えが利かなくなってしまうだろう。俺は数度深呼吸すると、遊希さんと共に別荘の中へと入っていった。
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>そしてお楽しみはこれからという模様。
お楽しみってなんなんですかね(白目
(2019-12-15 22:05)