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第2話:1-3 作:光芒
今から一年前のことである。高海 遊大が《覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン》という世界で彼だけが持つモンスターをデュエルで使用したことで、多くの人間に衝撃を与えたのは。遊大はその時は未知のモンスターを使用することで周囲を驚かさせていたが、一年たった今では自分が驚かされる側になるとは想像もしていなかった。
「ゲイルアイズ・アトモスフィア・ドラゴン……? 見たことも聞いたこともないモンスターだ。あのモンスターはいったい……」
I2社のデュエルディスクに反応し、ソリッドビジョンが浮かび上がっていることから違法カードではないのだろう。しかし、データベースにないカードがデュエルで使用されていることから自然とこのデュエルを見ている他の学生や来賓からはどよめきの声が上がり始めた。
遊舞 LP5000→4500
「っ、そのモンスターがどんなモンスターかは知りませんが、たったモンスター1体で何ができるというんですか!」
「……そう。この子はたった1体。だけど、1体で全てを変えられるだけの力を秘めているよ。自身の効果で特殊召喚に成功したゲイルアイズ・アトモスフィア・ドラゴンの効果を発動」
《ゲイルアイズ・アトモスフィア・ドラゴン》
効果モンスター(オリジナルカード)
星8/風属性/幻竜族/攻3000/守2000
「ゲイルアイズ・アトモスフィア・ドラゴン」の(1)~(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか発動できない。
(1):自分フィールドに存在する特殊召喚されている風属性モンスター2体を手札に戻して発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。この効果で特殊召喚に成功したこのモンスターは1度のバトルフェイズに2回攻撃できる。
(2):このカードが(1)の効果で特殊召喚に成功した場合に発動できる。フィールドに存在するこのカード以外の全てのモンスターを持ち主の手札に戻す。その後、このカードの攻撃力はこのターンの終了時までこの効果で手札に戻したモンスターの数×200ポイントアップする。
(3):このカードが「ゲイルアイズ」カードによって手札に戻った場合に発動できる。自分のデッキ・墓地から「ゲイルアイズ・アトモスフィア・ドラゴン」以外の「ゲイルアイズ」モンスターを2体まで選んで表側守備表示で特殊召喚する。
遊舞 LP4500→4000
「ゲイルアイズ・アトモスフィア・ドラゴンの2つ目の効果。フィールドに存在するこのカード以外の全てのモンスターを手札に戻す」
「モンスター全バウンス……!?」
「アトモスフィア・ドラゴン以外にフィールドに存在するモンスターは4体。その4体には戻ってもらうね。“ゲイルアイズ・マニピュレイト・ウインド”」
ゲイルアイズ・アトモスフィア・ドラゴンが4枚の翼から放った風によって、アトモスフィア・ドラゴン以外の4体のモンスターが何もできずにフィールドから消滅する。
この全バウンス効果は当然破壊する効果でもなければ、対象を取る効果でもない。オーバーレイユニットを持つ真紅眼の鋼炎竜は効果では破壊されないが、バウンスに対して抗する手段を持っていない。そして墓地の水属性モンスターの数が5枚以上になることで、手札に戻ったムーラングレイスも死に札同然となってしまった。
「そしてターン終了時までこの効果で手札に戻ったモンスターの数×200ポイント、ゲイルアイズ・アトモスフィア・ドラゴンの攻撃力はアップする。戻ったモンスターは4体だから、800ポイントのアップだね」
ゲイルアイズ・アトモスフィア・ドラゴン ATK3000→ATK3800
「攻撃力3800……中々の攻撃力ですが、私にはまだ除外されているPSYフレームロード・Ωも残っています。それにそのモンスターの攻撃力アップはターン終了時まで。何の耐性も持っていないモンスター1体に押し負ける私ではありません!」
「うん、確かにゲイルアイズ・アトモスフィア・ドラゴンは効果に対する耐性を持っていないから《サンダー・ボルト》とか《ブラック・ホール》であっさり除去されちゃうね。でもね、ゆいゆい」
「……?」
―――ゆいゆいに、もう次なんて無いんだよ?
「!?」
この時、結衣は背中に冷たいものを感じた。軽い言動が目立つ遊舞であるが、今の最後通告の一瞬だけ、遊舞はとても冷たく、切ない顔を見せたのだ。
(い、今のは……)
「自身の効果で特殊召喚に成功したゲイルアイズ・アトモスフィア・ドラゴンはね……1度のバトルフェイズに2回まで攻撃できる!!」
「2回攻撃……攻撃力3800の!?」
「わかったみたいだね、アタシの言葉の意味。いつでも次があるって思っちゃいけないんだよ。何ごとにも、ね。バトル! ゲイルアイズ・アトモスフィア・ドラゴンで1度目の攻撃!“烈風のアトモスフィア・バースト”!」
ゲイルアイズ・アトモスフィア・ドラゴン ATK3800
結衣 LP7500→3700
「きゃあっ!!」
「これで終わり。またデュエルできる機会があるんだったら、ゆいゆいの本気見てみたいな☆」
―――“烈風のアトモスフィア・バースト・ブロウバック”―――!!
結衣 LP3700→0
*
デュエルが終わった後、結衣はしばらくその場を動けなかった。プロの世界に入ってからは憧れの遊希のように連戦連勝とは行かなかったが、負ける時でもある程度は善戦できていた。しかし、ここまで一方的に、何の実績もない未知のデュエリスト相手に惨敗することなど今までなかった。
「デュエル、ありがとね☆ ゆいゆいの先攻4ハンデスすごかったよ☆」
「あなたは……」
「?」
「人を食ったような態度からは想像できないタクティクスに未知のカード……あなたは、一体何者なんですか?」
故に気になってしょうがなかったのだ。この風花 遊舞という少女が何者なのかが。
「アタシはアタシだよ? 他の誰でもないよ☆」
「真面目に答えて下さい!」
「真面目もなにも、それが事実なんだから答えようもないんだけどなぁ……でも、今はまだ教えてあげられない」
「何故ですか?」
「それはね……遊大センパイたちに捕まると色々とメンドイからー!!」
まるで漫画の悪役キャラのように遊舞はぴゅー、とその場から逃げ出した。よく考えなくても当然だ。I2社のデータベースに載っていないカードを使ってデュエルをしたのだから、このデュエルの後に待っているのは竜司たち教師陣からの取り調べである。
「白幡君、身体に異常はないかい?」
「えっ、あっ。はい」
「そうか……いや、未知のカードを使った彼女……風花君のデュエルだったからね。体調に影響が出てしまう恐れがあったけれど……」
「おかげ様で体調に問題はありません。あれ、遊大さんは?」
「……高海君かい? そう言えば、彼は我々とは別の方に行ったような」
*
「ふーっ、今はあんまり問い質されたくないんだよねー」
「どうして?」
「いや、だってアタシのカードはデータに無いカードで……ってうわっ!」
追っ手を撒いたと思って安堵していた遊舞の前には真剣な顔をした遊大が現れる。どうして追いつかれてしまったのか、と目を白黒させる彼女を遊大は袋小路に追い込んだ。
「データに無いカード、ゲイルアイズ・アトモスフィア・ドラゴン。君はあのカードをどこで手に入れたのか、教えてもらえないかな?」
「教えろ、って言われて素直に教えるほど、アタシ素直じゃないよーだ。べー☆」
そう言ってあっかんべー、とばかりに舌を出す遊舞。先ほどのデュエルの時もそうだが、愛らしい外見と軽妙な口調の割に随分と性根の据わったところも見せてくる。遊大はいつの間にかこの一人の美少女のことをもっと知ってみたいと思ってしまっていた。
「そうか。まあ無理に聞き出すつもりはないよ。どちらにせよ俺が見逃しても他の人が動く。出身地、家族構成、経歴とか……受験の時に出したよね」
「うん、というかそういうの出さないと受けれないしね。どうぞ調べてください。アタシは清廉潔白、不純物の一切ない美少女ですので」
「そういうことを自分で言ってしまう人ほど胡散臭いんだよね」
「……むー、センパイ意地悪」
「意地悪でもいいよ。俺は君を、風花 遊舞という名のデュエリストのことを知ってみたいからね」
「……真剣な顔でそういうこと言っちゃうの、ほんとズルい。ま、今のアタシに言えることは一つだけだよ☆」
そう言って、怪しい笑みを浮かべた遊舞はぐっと顔を遊大に近づけてくる。年頃の少女らしい香水もしくはヘアスプレーの甘い香りが香ってくる。二人はあの時キスされた時と同じくらいの近さまで接近していた。
「アタシは、この世界で一番高海 遊大のことが好き。誰よりも近くにいたい、あなたのファンだよ?」
「……そういうことを気軽に言うものじゃないと思うけど?」
「気軽じゃないし、本気だもん」
「そう。それだったら残念。俺には君よりも大事にしたい人がいるから」
「うん、知ってる。でもアタシはそんなあなただからずっと傍にいたいと思ってるし、大好きなんだ☆ ま、ちょっと謎の多い生徒が一人くらいいた方が面白いじゃん。それじゃ、アタシはここで退散させてもらいますね☆ おやすみなさい、センパイ?」
そう言いながら遊大の脇をすり抜けて走り去っていく遊舞。まさにその名が示す通り、風の如く掴みどころのない少女だった。
(……はっきり言って怪しさしかない。でも、気になるのも事実だし、何より彼女のデュエルタクティクスは結衣さんを前にしても見劣りしていなかった。遊希さんが俺を育ててくれたのと同じように、俺も彼女のようなデュエリストを育てていければ……)
*
「はぁ……情けないです」
デュエルが終わった後、結衣は一人寮の自室へと向かっていた。自分より上の成績を修めていたとはいえ、何の実績のない遊舞にワンターンキルを決められるなどプロデュエリストにあるまじき失態ではないか。結衣はそんなネガティブな気持ちに捉われていた。
「いやいや、負けても引きずらないのが大事です。遊希さんやエヴァさんも下は向いていませんでしたから。同室の方にも迷惑をかけないようにしないと」
しかし、かつての自分とはもう違う。結衣は困難に直面しても下を向かない強さを身につけた。故に彼女は今プロデュエリストとして生きている。プロとは常勝ではいられないし、負けが込むこともある。そんな時に腐らずやっていけるかどうかが大事なのだ。
「部屋はここですね、もう同室の人は来ているでしょうか」
そう言って寮の自室のドアを開ける結衣。ドアを開けた彼女の眼に写り込んできたのは―――
「やっほー☆ さっきぶりだね、ゆいゆい♪」
結衣の中にあった緊張および気遣いの気持ちがパーン、と音を立てて吹き飛んだ。
○後書き
前回更新から早くも一か月経ってました。リアルでの人事異動とかいろいろありましたので、更新が遅くなってしまいました。以前ほどの更新ペースは保てないかもしれませんが、月に数回のペースで更新を続けていければ、と思っているのでよろしくお願い致します(別サイトで更新してる作品の影響? ハハッ、関係ないですよ(棒))
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>遊舞の遊大に対する言動が一種のヤンデレに見えるのは気のせいでしょうか?
まあそう見えますよね。もちろんこのヤンデレにも理由があるわけでして。それが明らかになるのはだいぶ先になります。
ヒラーズさん
ちょっと効果を盛りすぎた感がありますね。召喚条件もよく考えると特殊召喚された風属性モンスター2体なのでかなりゆるゆるです。
(2019-08-03 23:07)