EP:9 異世界の姉　作：暁

奴隷商人はサンスクリットの手によって成敗され、王都の王宮兵士らによって牢へと運ばれていった。因みに、囚われていた子供たちは既に捜索願が出ていたため、簡単に親元に返すことができた。

そして、そのまま王都へと辿り着いた。

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大陸北部、地球で例えると南北アメリカ大陸のような形をした大陸の北部に位置する王国、《ノースザック》の王都、《ノースウェース》は活気に溢れている。
ノースザックは軍事面の発達が大きく遅れる国ではあるが、観光業、輸出入などの中心となる貿易国家の地位を確立している。
物の出入りが激しいノースザックの露店は、一日とて同じ商品が並ぶことはない。そのため、毎日の如く人がごった返している、常に騒がしい都だ。

そんな街を、サンスクリットと並んで歩く。
乗って来た馬車は既に宿に預けてあり、サンスクリットの提案で観光及び、いつぞやか聞いていた、王都に留学しているという姉に会うためである。

姉は当時一人娘だったため、もしメイデン家に男子が生まれなかった場合にもメイデン家を継ぐために騎士としての訓練を幼い時から積んできた。ユーリイットの誕生は、メイデン家の存亡を確立させた存在として、姉及びその周囲のメイデン家の存亡を案ずる者たちへの朗報となった。
ユーリイットが誕生し、騎士としての訓練も必要がなくなろうとも、彼女は訓練を続けた。

「精神の成長は、身体の成長に比例する。しかし、訓練を積めば、精神が肉体を追い越すことなど容易い。」

このメイデン家の家訓を胸に、いざという時のための精神力を養っていたのだ。
彼女の名を、『アウェーリティア・メイデン』というらしい。

「父さん、姉さんはどんな人なんですか？」
「ああ、ティアはとても強く、優しい子だ。小っちゃい時から正義感が強く、勇気に溢れた子だった。全く、誰に似ちゃったんだろうな〜？」
「そのドヤ顔すごいウザいです。」
「相変わらず辛辣だなお前…そういえば、ティアは凄いお前のことを可愛がってたな。久しぶりに会ったらどんな反応するか楽しみだな！」

アウェーリティアは内面的にも外見的にも完成された前世の姉のような人間のようだ。

（僕はつくづく身内に恵まれているな…幸せな限りだ。）

ユーリイットは歩きながらしみじみ思う。
前世でも、親のことはあまり好きではなかったが、衣食住の面倒を見てくれたこと、学校に通わせてくれたことなどは感謝しているし、何より姉と同じ家庭で育ててくれたことは感謝してもしきれない。

前世の姉とは本当の姉弟ではなかった。
身寄りをなくした親戚の子で、ユーリイットの叔母にあたる存在だが、歳もそこまで離れていたわけでもなかったので、本当の姉弟のように育った。
姉からは数えきれないほどの『強さ』を学んだ。
せめて死ぬ前にはありがとうと一言言いたかったな、と今更センチメンタルになる。

「じゃあ、俺は王宮に行って定期報告してくるから、一時間くらいしたら中央露店市場の噴水前で待っててくれ。それまで渡した金とかで都を見回ってろ。」
「あ、はい。それじゃあ、一時間後に。」

ほとんど聞き流していたが、サンスクリットが中央露店市場の説明をしながら噴水前に連れられていた。
やや感情が別のところにいっていたが、サンスクリットの姿が遠ざかると共に、どこへ行こうか、という考えが生まれるが、そもそも何があるのかわからない。
とりあえず、惚けて歩き回ることにした。

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適当に歩き回ると、碁盤目の住宅街に出てきた。
帰り道は覚えているので、そのままフラフラ歩いていると、



路地裏から伸びた手に腕を掴まれた。
なんだかデジャヴを感じながら引っ張られていくと、男が一人立っていた。

「おいガキ、有り金全部置いていけ。」
「この辺治安悪いですね。驚きですよ。」

二日連続で妙なトラブルに巻き込まれた。
とはいえ、人さらいからカツアゲにまでグレードは下がっているのは不幸中の幸いだが。

「はあ！？意味ワカンネェこと言ってねぇで早く出せ！」

目の前のうるさい男を、さあどうしてやろうかとユーリイットが思案しているところ、突如後ろから女性の声がかかる。

「待ちなさい！弱いものからの搾取は、この私が許しません！」

それは、細い金属製の鎧に身を包んだ、黒髪を短く切り揃えた美少女だった。