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第一話 ユニバース・ドラゴン 作:アーケード
薄暗く狭い部屋の中。彼は無言で目の前のキーボードを叩いていた。
時折、マウスの乾いた音が機械で敷き詰められた無機質な部屋にこだまする。
別段疲れてもいないのか、彼は一心不乱な様子でパソコンに向かっていた。
画面に書かれた膨大なプログラムを、一つずつ直している。
すぐ隣には完全に冷めてしまっているコーヒーが置かれていたが、そんなことを気に留めていなかった。
遠慮がちにドアが開かれ、光が差し込んでくる。
彼は仕方がない、といった様子で部屋の外へ出た。
「ノア。仕事中悪いけど…新しい依頼。」
「はあ…。分かったよ。でもまだ前のが完成していないんだけど…。」
「それがね…急を要するからこっちを優先してくれる?」
依頼人…SOLOテクノロジー社の社員、ルネは、大きめの封筒に入った書類を渡しながらそう言ってくる。
秋の夕焼けが窓から差し込んでくるが、彼にとっては眩しくて不快なだけだった。
「…分かったよ。いつまで?」
「今日中」
「嘘だろ?」
「本当よ。詳しいことはそれを見れば分かるわ。」
「はあ…。」
封筒を貰い受けた彼は、再び暗い仕事場へ戻っていった。
その後。彼は仕事場に戻り、依頼書を見渡す。
どうせ催促状かなんかだろう、と勘ぐっていた彼は、その紙に書いてあったことを見て目を疑った。
「危険端末にあったカードを取り返してこい…だって?」
危険端末、それはリンクヴレインズ上にいくつか存在する、強大な力を持つカードが置かれた場所。そこにあるカードは、一枚でも悪意のある人間に使われたらそれだけでネット世界が崩壊するほどの代物だ。書状によると、そのカードがある犯罪者に奪われたらしい。
「久々の大仕事か…」
待っていろ。すぐ助けてやる。
彼は心の中でそうつぶやくと、高揚する気持ちを抑えながらキーを打ち始めた。
そして、約一時間後、彼はそのカードを取り戻すことに成功した。
それが、彼…市谷夏目とそのカード”ユニバース・メリー・ドラゴン”との出会いだった。
「お前!今すぐ画面から消えろ!邪魔だ!」
[ふん!やだね!私に構ってくれるまでどかないもん!]
…順を追って説明しよう。なぜ僕が今、目の前のパソコンを睨みつけながら、手前に置いたスピーカーから流れてくる声と言い合う羽目になっているか。
僕の名前は市谷夏目、ネットでの名前は”ノア”。高校生兼SOLOテクノロジー社専属のハッカーだ。近頃活動が活発な犯罪組織「トロイ」を抑えるために雇われた僕は、古くからの知り合いで、今はSOLOテクノロジー社の社員をしているルネって奴からもらい受ける依頼をこなす日々を送っている。
そんな中、とある依頼の途中で手に入れたカード…いや、カードに宿っていた精霊とやらがスピーカーを通じて突然喋りだし、うるさいので努めて無視しようとしたものの、使っていたパソコンをあっけなくロックされてしまった。
…大迷惑だ。依頼なんて断れば良かった。
「ああもう、駄々っ子かお前は!いい加減にしろ、意地でも話してやらない!」
[出来るもんならやってみなさい!]
「‥‥。」
[‥‥。]
「…分かった。僕の負けだ。話してやるからロックを外してくれ。あと声を小さくしてくれ」
[あら、ずいぶん早かったじゃない。]
「…で?何話せばいい?」
[初対面なんだから話すことなんて山ほどあるでしょ。]
「うーん…それじゃお前、名前は?」
「メリー・ユニバース。こっちが本名よ。…私のカードに書いて無かった?」
「一応聞いてみただけ」
[あっそ。まあ私のことはメリーって呼び捨てでいいから。]
「あと、そうだな…種族は?」
[何よ。カードにドラゴンってちゃんと書いてあったでしょ。…竜っぽく見えないとでも?]
「いや、そういうわけじゃない。ドラゴンって言いながら機械族、なんてのはよくある話だから…。」
[ああ、そういうことね。私はれっきとしたドラゴンよ。]
そう言うとそいつは自分の姿をちょっとだけ大きく画面に映した。
羊と同じような白い体毛に覆われていて、人間の肌に当たるところが薄い桃色。その後ろに小さい羽がふわふわと浮いている。体格はがっしりとしているけども、かぎ爪は丸いし鋭い牙は無いしであんまり強そうに見えない。むしろどこかのマスコットとしていそうな雰囲気を醸し出している。
…危険端末に入れられたほどに力のある竜とはとても思えなかった。
「…確かにドラゴンと見えなくもない。けど、あんまり強そうじゃないな。」
[見えなくもないって何よ…。そうだ、まだ名前聞いてなかった。あんた、名前は?]
「僕?ノア。」
「そう。それじゃ、ノア、よろしくね。」
それを最後に喋り続けるのに飽きたのか、その竜はそっぽを向くと勝手にパソコンを操作しだした。…結局ロックは解除してくれないまま。
隣に小さなウィンドウが開き、リンクヴレインズ内の中継が流れ始める。
派手な衣装を着てデュエルをしている二人。その周りに集まり、息をのんで勝負の行方を見ている人々。モンスター同士がぶつかり合い、攻撃し合う。どちらかのモンスターが破壊されるたびに、大きな歓声が起こる。
…かつては僕もあの場に立っていた。だがもう二度と立つことはないだろう。僕にとってのトラウマ…あの時の僕のエースが生きている限り…
[…ねえ、ノア。あれ何?]
「え、あれ…?」
メリーの声で急に思考が現実に呼び戻される。画面の中の空に一つの黒い点が浮かんでいる。拡大して映し出されたそれを見て…別に見たくて見た訳じゃないが、僕は驚いた。黒い服を着た男が、機械仕掛けの竜に乗っている。
そしてすぐにそれは近づいてきて…
[…え?]
手当たり次第に周辺の人々に襲い掛かった。声は聞こえなかったが、黒い服を着た男は何かを探しているように周囲を見渡している。
デュエルの邪魔をするとはデュエリストとしても気に食わないが…何より、これでネットワークが破壊されたら修復が面倒だ。
「…メリー、たぶんお前狙いだろうな。いなくなったのに気づいて探しているんだろう…。」
まあ、こちらで持ってるから見つかることはない。
…そう考えていると、突然目の前のパソコンがプルプルと震えだした。
「なんだ…地震?」
そう言いかけて、僕は目の前のウィンドウの中にいる、先ほどまであんなに無駄に明るくてうるさかった竜から殺気のような気配を発しているのに気が付いた。
「おい、メリー、どうしたんだ…?」
[…ねえ、あんた。あれの名前、知ってる?]
怒気を含んだ低い声が流れる。さっきまでのと別人(?)のようだ。
「あれ?クラッキング・ドラゴンって言うやつだ。というより質問を質問で返すな」
[ドラゴン、だって…?許さない…]
「は…?」
[あいつ!あんな、罪のない、抵抗すら出来ない人間たちを攻撃するだなんて!ドラゴンの風上にも置けないわ!人間に命令されてそんなことをやってるなら尚更よ!私が更生してやる!ノア、あいつを叩き潰しに行くわよ!]
「おい、落ち着け…」
[うるさい!デッキ持ってるでしょ、リンクヴレインズに入れるでしょ!早くして!]
こいつに落ち着けは逆効果だったのかもしれない。彼女は凄まじい剣幕でまくし立てた。
…今からなだめてもどうしようもなさそうだ。もうどうにでもなれ。
そう考えて、僕は渋々しばらく使ってなかったデュエルディスクを引っ張り出した。長いこと使ってなかったのでほこりをずいぶん被ってはいたが、機能自体は使えそうだ。カードもある。
[御託はいいわ。こっちに来なさい!あいつとデュエルして、あれを止めさせるのよ!]
…かくして僕は、世にも不思議なモンスター、メリー・ドラゴンと出会い、そして共に戦うことになった。後々明らかになる彼女の正体を、このころの僕が知る由もない。
ー次回予告ー
メリー「勝負よ、クラッキング・ドラゴン!私たちが勝ったら…その…ええと、 どうしよう?」
ノア 「…乱暴止めて出てけ、でいいんじゃない?」
メリー「そうね。でももうちょっとカッコよく言えないかしら?「おい、デュエ ルしろよ」みたいに」
ノア 「…管轄外。」
「次回!一人と一匹の前に立ちはだかるのは、とってもやっかいな機械竜!バーンダメージにギリギリまで追い詰められるけど…突破口は?そしてメリー、彼女の能力とは?タイトル”リンク始動 宇宙竜VS機械竜”!」
ー登場オリカのテキスト詳細ー
ユニバース・メリー・ドラゴン 闇・ドラゴン族・リンク・効果
link 4 左上、左、右、右下 ATK2500
LINK2以上のモンスター二体以上
①「ユニバース・メリー・ドラゴン」と名の付くカードは場に一体しか存在できない。
② ? ? ?。
③ ? ? ?。
④ ? ? ?。この効果で特殊召喚したモンスターは以下の効果を得る。
●このカードが特殊召喚されたターンのエンドフェイズまで、このカードの④の効果は発動できない。
時折、マウスの乾いた音が機械で敷き詰められた無機質な部屋にこだまする。
別段疲れてもいないのか、彼は一心不乱な様子でパソコンに向かっていた。
画面に書かれた膨大なプログラムを、一つずつ直している。
すぐ隣には完全に冷めてしまっているコーヒーが置かれていたが、そんなことを気に留めていなかった。
遠慮がちにドアが開かれ、光が差し込んでくる。
彼は仕方がない、といった様子で部屋の外へ出た。
「ノア。仕事中悪いけど…新しい依頼。」
「はあ…。分かったよ。でもまだ前のが完成していないんだけど…。」
「それがね…急を要するからこっちを優先してくれる?」
依頼人…SOLOテクノロジー社の社員、ルネは、大きめの封筒に入った書類を渡しながらそう言ってくる。
秋の夕焼けが窓から差し込んでくるが、彼にとっては眩しくて不快なだけだった。
「…分かったよ。いつまで?」
「今日中」
「嘘だろ?」
「本当よ。詳しいことはそれを見れば分かるわ。」
「はあ…。」
封筒を貰い受けた彼は、再び暗い仕事場へ戻っていった。
その後。彼は仕事場に戻り、依頼書を見渡す。
どうせ催促状かなんかだろう、と勘ぐっていた彼は、その紙に書いてあったことを見て目を疑った。
「危険端末にあったカードを取り返してこい…だって?」
危険端末、それはリンクヴレインズ上にいくつか存在する、強大な力を持つカードが置かれた場所。そこにあるカードは、一枚でも悪意のある人間に使われたらそれだけでネット世界が崩壊するほどの代物だ。書状によると、そのカードがある犯罪者に奪われたらしい。
「久々の大仕事か…」
待っていろ。すぐ助けてやる。
彼は心の中でそうつぶやくと、高揚する気持ちを抑えながらキーを打ち始めた。
そして、約一時間後、彼はそのカードを取り戻すことに成功した。
それが、彼…市谷夏目とそのカード”ユニバース・メリー・ドラゴン”との出会いだった。
「お前!今すぐ画面から消えろ!邪魔だ!」
[ふん!やだね!私に構ってくれるまでどかないもん!]
…順を追って説明しよう。なぜ僕が今、目の前のパソコンを睨みつけながら、手前に置いたスピーカーから流れてくる声と言い合う羽目になっているか。
僕の名前は市谷夏目、ネットでの名前は”ノア”。高校生兼SOLOテクノロジー社専属のハッカーだ。近頃活動が活発な犯罪組織「トロイ」を抑えるために雇われた僕は、古くからの知り合いで、今はSOLOテクノロジー社の社員をしているルネって奴からもらい受ける依頼をこなす日々を送っている。
そんな中、とある依頼の途中で手に入れたカード…いや、カードに宿っていた精霊とやらがスピーカーを通じて突然喋りだし、うるさいので努めて無視しようとしたものの、使っていたパソコンをあっけなくロックされてしまった。
…大迷惑だ。依頼なんて断れば良かった。
「ああもう、駄々っ子かお前は!いい加減にしろ、意地でも話してやらない!」
[出来るもんならやってみなさい!]
「‥‥。」
[‥‥。]
「…分かった。僕の負けだ。話してやるからロックを外してくれ。あと声を小さくしてくれ」
[あら、ずいぶん早かったじゃない。]
「…で?何話せばいい?」
[初対面なんだから話すことなんて山ほどあるでしょ。]
「うーん…それじゃお前、名前は?」
「メリー・ユニバース。こっちが本名よ。…私のカードに書いて無かった?」
「一応聞いてみただけ」
[あっそ。まあ私のことはメリーって呼び捨てでいいから。]
「あと、そうだな…種族は?」
[何よ。カードにドラゴンってちゃんと書いてあったでしょ。…竜っぽく見えないとでも?]
「いや、そういうわけじゃない。ドラゴンって言いながら機械族、なんてのはよくある話だから…。」
[ああ、そういうことね。私はれっきとしたドラゴンよ。]
そう言うとそいつは自分の姿をちょっとだけ大きく画面に映した。
羊と同じような白い体毛に覆われていて、人間の肌に当たるところが薄い桃色。その後ろに小さい羽がふわふわと浮いている。体格はがっしりとしているけども、かぎ爪は丸いし鋭い牙は無いしであんまり強そうに見えない。むしろどこかのマスコットとしていそうな雰囲気を醸し出している。
…危険端末に入れられたほどに力のある竜とはとても思えなかった。
「…確かにドラゴンと見えなくもない。けど、あんまり強そうじゃないな。」
[見えなくもないって何よ…。そうだ、まだ名前聞いてなかった。あんた、名前は?]
「僕?ノア。」
「そう。それじゃ、ノア、よろしくね。」
それを最後に喋り続けるのに飽きたのか、その竜はそっぽを向くと勝手にパソコンを操作しだした。…結局ロックは解除してくれないまま。
隣に小さなウィンドウが開き、リンクヴレインズ内の中継が流れ始める。
派手な衣装を着てデュエルをしている二人。その周りに集まり、息をのんで勝負の行方を見ている人々。モンスター同士がぶつかり合い、攻撃し合う。どちらかのモンスターが破壊されるたびに、大きな歓声が起こる。
…かつては僕もあの場に立っていた。だがもう二度と立つことはないだろう。僕にとってのトラウマ…あの時の僕のエースが生きている限り…
[…ねえ、ノア。あれ何?]
「え、あれ…?」
メリーの声で急に思考が現実に呼び戻される。画面の中の空に一つの黒い点が浮かんでいる。拡大して映し出されたそれを見て…別に見たくて見た訳じゃないが、僕は驚いた。黒い服を着た男が、機械仕掛けの竜に乗っている。
そしてすぐにそれは近づいてきて…
[…え?]
手当たり次第に周辺の人々に襲い掛かった。声は聞こえなかったが、黒い服を着た男は何かを探しているように周囲を見渡している。
デュエルの邪魔をするとはデュエリストとしても気に食わないが…何より、これでネットワークが破壊されたら修復が面倒だ。
「…メリー、たぶんお前狙いだろうな。いなくなったのに気づいて探しているんだろう…。」
まあ、こちらで持ってるから見つかることはない。
…そう考えていると、突然目の前のパソコンがプルプルと震えだした。
「なんだ…地震?」
そう言いかけて、僕は目の前のウィンドウの中にいる、先ほどまであんなに無駄に明るくてうるさかった竜から殺気のような気配を発しているのに気が付いた。
「おい、メリー、どうしたんだ…?」
[…ねえ、あんた。あれの名前、知ってる?]
怒気を含んだ低い声が流れる。さっきまでのと別人(?)のようだ。
「あれ?クラッキング・ドラゴンって言うやつだ。というより質問を質問で返すな」
[ドラゴン、だって…?許さない…]
「は…?」
[あいつ!あんな、罪のない、抵抗すら出来ない人間たちを攻撃するだなんて!ドラゴンの風上にも置けないわ!人間に命令されてそんなことをやってるなら尚更よ!私が更生してやる!ノア、あいつを叩き潰しに行くわよ!]
「おい、落ち着け…」
[うるさい!デッキ持ってるでしょ、リンクヴレインズに入れるでしょ!早くして!]
こいつに落ち着けは逆効果だったのかもしれない。彼女は凄まじい剣幕でまくし立てた。
…今からなだめてもどうしようもなさそうだ。もうどうにでもなれ。
そう考えて、僕は渋々しばらく使ってなかったデュエルディスクを引っ張り出した。長いこと使ってなかったのでほこりをずいぶん被ってはいたが、機能自体は使えそうだ。カードもある。
[御託はいいわ。こっちに来なさい!あいつとデュエルして、あれを止めさせるのよ!]
…かくして僕は、世にも不思議なモンスター、メリー・ドラゴンと出会い、そして共に戦うことになった。後々明らかになる彼女の正体を、このころの僕が知る由もない。
ー次回予告ー
メリー「勝負よ、クラッキング・ドラゴン!私たちが勝ったら…その…ええと、 どうしよう?」
ノア 「…乱暴止めて出てけ、でいいんじゃない?」
メリー「そうね。でももうちょっとカッコよく言えないかしら?「おい、デュエ ルしろよ」みたいに」
ノア 「…管轄外。」
「次回!一人と一匹の前に立ちはだかるのは、とってもやっかいな機械竜!バーンダメージにギリギリまで追い詰められるけど…突破口は?そしてメリー、彼女の能力とは?タイトル”リンク始動 宇宙竜VS機械竜”!」
ー登場オリカのテキスト詳細ー
ユニバース・メリー・ドラゴン 闇・ドラゴン族・リンク・効果
link 4 左上、左、右、右下 ATK2500
LINK2以上のモンスター二体以上
①「ユニバース・メリー・ドラゴン」と名の付くカードは場に一体しか存在できない。
② ? ? ?。
③ ? ? ?。
④ ? ? ?。この効果で特殊召喚したモンスターは以下の効果を得る。
●このカードが特殊召喚されたターンのエンドフェイズまで、このカードの④の効果は発動できない。
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