朝霧地影vs神楽坂刹那④　作：はにわ改

　
ーー大会準決勝第二節。
熱い勝負を期待する観客やマスコミとは裏腹に、
地味かつ奇妙な展開を見せた地影と刹那のデュエル。

「私のターン……カード、ドロー」

だがこの刹那のターン、そのドローカードを見るやその瞳に力が宿る。

「私は！
墓地から光属性モンスター２体を除外し！

手札から『神聖なる魂（ホーリーシャイン・ソウル）』を特殊召喚！」

手札枚数制限を利用する例にない戦術で墓地にカードを、いやモンスターを落としていた刹那。
その内の２枚を除外して特殊召喚されたのは、背中から逞しい翼を生やした美麗な女性型の天使。

ーー攻撃力は２０００。

「ま、待ってください！
リバースカード、か、『神の宣告』を発動し、モンスターの召喚・特殊召喚を無効にします！」

今まで手札を捨てるだけだった刹那が突如動いたためか、
地影の反応が完全に出遅れる。
まるで待ったをかけるかのように発動された『神の宣告』。
だがそれにより、『神聖なる魂』の特殊召喚は無効となり破壊。
ただ『神の宣告』はコストにライフの半分を支払わなければならず、
地影のライフは４０００から２０００へと落ち込む。

「ーー次に！
私は墓地から光属性・天使族１体と、闇属性・悪魔族モンスター３体を除外！

出でよ、『天魔神 ノーレラス』！」

『神聖なる魂』を破壊された事をものともせず、
むしろその『神聖なる魂』を直ぐ様除外し、新たにモンスターが特殊召喚される。

ーー『天魔神 ノーレラス』。
黒々とした巨大な体躯に、異様に湾曲した翼。
頭頂部から一本の長い角を生やした人間の頭蓋骨、その口が開かれて不気味な咆哮が会場を奮わす。

「の、ノーレラス……！」

３体存在する『天魔神』の中でも、特に強力な効果を持つ『ノーレラス』。
特殊召喚の条件がやや辛いのが難点だが、一度召喚されれば己をも巻き込む圧倒的かつ無情の『破壊』がフィールドを一掃する。

「ーー『ノーレラス』の効果！
ライフを１０００ポイント支払い！
互いの手札・フィールド上のカードを全て墓地へ送る！」

ーー手札・フィールドのカードを全て墓地へ送る。
すなわち発動されれば最後、何も残らない。
厳しい召喚条件を抜けて特殊召喚された自分をも消し去るというその様は、破壊神と呼んでも差し支えない。

「り、リバースカード、『天罰』！
手札を１枚捨てて、モンスター効果の発動を無効にして、破壊します！」

そんなことをされては堪らない、と地影が決死の表情でその蛮行を食い止める。
天から降り注いだ雷が『ノーレラス』を撃ち抜き、破壊を振り撒く寸前で消滅させる。

結果、刹那はコストであるライフ１０００だけを支払い、３０００ポイントへ。
地影は急にきびきびと動き出した刹那に、動悸が抑えられない。

「（お、落ち着いて……。
相手はもう墓地から５体ものモンスターを除外してる。
さ、さすがに『ノーレラス』のようなカードはーー）」

自分を納得させようとするように、地影は心で自身に語りかける。

ーーだがそんな中で刹那が。

「ーーくす」

笑った。
地影がそれを見て、今まで以上の脈動が強く心臓を打つ。

今の笑いは何か？
まるで計算通り、とでも言いたげである。

「手札からモンスターを通常召喚！
ーー『ファントム・オブ・カオス』！」

「あ、ああっ！？」

刹那が行った特殊召喚二回の後、行われた通常召喚。
黒く濁った水溜まりのような不定形の物体。

攻撃力・守備力共に０であるが、特筆すべきはその効果である。

「『ファントム・オブ・カオス』のモンスター効果！
墓地のモンスターを１体選択して除外！
ターン終了時までそのモンスターと同名モンスターとして扱い、同じ攻撃力と効果を得る！」

一言で表すなら、
墓地の効果モンスターの能力をコピーする『ファントム・オブ・カオス』。
コピーの対象となるのはーー。

「私は墓地から『ノーレラス』を除外。
その効果と攻撃力を得るわ」

不定形だった『ファントム・オブ・カオス』の質量が膨れ上がり、まるで粘土で象るかのように滅びたはずの『ノーレラス』が生み出される。
あくまで偽物、紛い物には違いないが、それでも本物の効果を１００パーセント使用する出来る。

すなわちーー。

「私は再びライフを１０００支払い、コピーした『ノーレラス』の効果を使用。
お互いの手札、フィールドのカードを全て墓地に送る。

ーーさて、何か対抗策はある？」

刹那のライフが２０００へ減少。
お互いのライフが並ぶ中、刹那の問いかけに地影は愕然とする。

「た、対抗策は……あり、ません」

地影のフィールドにはまだ２枚のリバースカード。
だがいずれもこの状況で発動出来るものではない。

「ではお互い、手札とフィールドのカードを墓地へ送りましょ」

「う、うう……」

天使の微笑み。
だが地影には悪魔の微笑みに映ったに違いない。
互いに手札とフィールドのカードは墓地へと送られ、
言うなればさっぱりとした風景になる。
地影の墓地へ送られたのは夥しい妨害カードの数々。
本来の役割を果たせずに、空しく積み重なるばかりだ。

「さて、『ノーレラス』の効果には続きがあるの。
お互いの手札・フィールドのカードを墓地に送ったあと、私はデッキからカードを１枚引くことが出来るわ」

完全なる破壊の後に生まれる、１枚のカード。
たかが１枚。
だがそれは決定的な差となって、雌雄を決するーーそれがデュエルモンスターズの、１枚の重み。

「私は墓地の光属性モンスターと闇属性モンスターを１枚ずつ除外して、『カオス・ソルジャー 開闢の使者』を特殊召喚」

「か、カオス、ソルジャー……」

『カオス』カード特有の召喚方法で召喚されたのは、かの伝説の決闘王（デュエル・キング）が使用していたとされる伝説の戦士と同名の名を持つカード。
金色の装飾で彩られた青色の甲冑で全身を包み込んだ彼の者は、攻撃力３０００を誇りながら、優れた効果を併せ持つ。

全てを消し去ったフィールドに立つ最強の戦士が今、地影の命運を断つ。

「ーーバトル！
『カオス・ソルジャー』でプレイヤーに直接攻撃！

ーー『開闢双破斬』！」

刹那の宣言に従い、伝説の戦士が無の荒野を駆け抜け、地影へ迫る。
手に持つ剣が鋭く振り下ろされて、その直接攻撃が決まった。

ダメージは３０００。
『神の宣告』によってライフを失っていた地影のライフは尽きた。