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人形と月 作:ほーがん
遊戯王ロストゲート:L 第1話「人形と月」
ねぇ、月には何があるの?
“何も、ないさ”
◇
――男の視界には今、数多の光景が浮かんでいた。月光が燃え盛るように赫赫と揺らぎ、視神経を通し脳髄を掻きまわす。
次の瞬間には、漆黒の沈黙が。また、ある時には極彩色の塔が今まさに崩れ落ちんとする中、藻搔くように天へと聳えていた。全てが永遠に等しく、同時に刹那でもあった。無数の世界…無数の次元…そして無数の物語。
繰り返される、月に狂う者たちの鎮魂歌。
これは罰か。あらゆる感情が、歓喜が、理論が、絶望が、生命が、尊厳が男をかき消すと言わんばかりに打ちのめす。幾度となく輪廻する破壊と再生、その狭間、男は極限の中で自我を繋いでいた。
“消えてなるものか”
醜く歪んだ四本の指を無窮の闇に掲げ、男は言葉を紡ぐ。
「我が名は…」
そして。目の前には最後のイメージが。月影より蘇りし狂乱の眼。覚醒した闇き龍は咆哮と共に翼を広げる。三千世界から光を奪い、魂を宇宙という永劫の檻へと誘うは、久遠の鎖。
その鎖に囚われ、肉体を引き裂かれてなお、男は龍を喰らうが如く睥睨する。その眼光は遥かなる信念を貫いて。
“従え”
満たされぬ器に、覚醒の残滓が滴る。
「…我が名は…ノ―ン」
――たった一つの小さな綻び。しかし、それは禁断の扉を開く鍵でもあった。
“神の鉄槌”
かつて人は、それをそう呼んだという。
◇
「ラグナロク…大層な呼び名だ。だが、先の大戦はそう呼ぶに相応しい戦いであったことは事実なのだろう」
瓦礫の隙間を縫うように歩く少年は、灰色に染まる空を見上げる。
街には冷たい風が吹き荒び、人々は這いまわるように暮らしていた。秩序と均衡を失った世界。
政府も、治安維持構造も崩壊したこの世界において、最後に信じられるのは己の力のみ。しかし、だとしても、人は手を取り合うことを諦めなかった。
他人を思う心こそが、人間が人間たる証左なのだから。
少なくとも、この少年『霧野遊牙』はその信念を心底に日々を生きていた。
背後より無愛想に去っていく風に、遊牙は羽織ったコートを握りしめる。
冷たい。まるで人の営みを感じさせない、無機質で無味乾燥な風。
哀愁が胸を襲う。だが、それはかつての街並みを思うからではない。遊牙には、記憶がないのだ。
10年前に勃発した大戦。突如として現れた謎の軍勢に、多くの決闘者が立ち向かいそして命を落とした戦い。
その傷は、生き残った人々の記憶に刻み込まれている。だが、遊牙にはその傷がない。故に仲間と痛みを分け合うことも、共感することもできない。
その孤独が、遊牙の哀愁を加速させた。心にこびり付き蝕む感情。それを振り払うように、遊牙は左腕のデュエルディスクを展開する。
「…居るのは分かっている」
遊牙の言葉に沈黙以外答えるものはいない。しかしその刹那、背後の闇より刃が光る。
透かさず振り向いた遊牙の手には明媚たる白きカードが。
「屍命騎士団デッドジャックを召喚…!」
ディスクがカードの力を取りこみ、その剣を具象化していく。鐵が力となりて、冥界の騎士が地に降り立つ…!
敵との間合いを一気に詰め、騎士は剣を振りかざした。
閃光と、それに続く激しい火花。だが、遊牙は鍔迫り合うその相手を視認するや否や、騎士を下げた。
「…いきなりやめてくれ、カケル」
遊牙の問いに、炎の刃を携えた鋼の巨人の前に一人の少年が躍り出る。
「まぁ、そうかっかすんなって。遊牙がボッチで大丈夫かなってさ」
「…どうということはない。ただの買い出しだ」
レンズの割れたゴーグルを首から下げる少年『仁ノ森カケル』は自分のモンスターを下げると、ニヤリと笑みを浮かべ遊牙を肘で小突く。
「とかなんとか言って、またあの顔になってたぜ」
「…気にするな。それよりカケル、わざわざ俺を追う為にリンカと姉さんから逃げて来たのか?」
「だってよ、メイコさんはともかく、リンカは俺に全部面倒ごと投げてくるからよ。こういう時はお前に着いて行くに限るぜ」
得意げに笑う友に、遊牙は微笑みながらため息をつく。
「俺は一緒に謝ってやらないぞ」
「ケッコー、ケッコー。もめたらデュエルで解決よ」
そんな他愛ないやり取りを終え、二人は歩き出した。
その道中、カケルが神妙な顔で口を開く。
「そういやよ、例の“人形”の件、遊牙はどう思う?」
「あの噂か」
今、街でまことしやかに囁かれている“人形”の噂。それは、突如『何かに』意識を奪われた人間が、夢遊病のそれのように自らの意思とは裏腹に行動し、別の人間を襲ってしまう現象。
まるで操り“人形”の如きふるまいから、いつしかそう呼ばれるようになったという。
「しかも、“人形”になっちまった奴は自分のデッキには無いカードを使うらしい。不思議な話だよな」
「実際にこの目で確認するまでは何とも言えないな」
「でもよ、色んな目撃情報とか整理したら、ある程度パターンが分かって来たぜ?」
「そうなのか?」
遊牙の問いに、カケルは人差し指を伸ばし、箇条書きをするように語った。
「まずさっきも言ったけど、自分のデッキには無いカードを使うこと。それと、夜にしか出ないこと、目が赤くなること、最後に1度でもデュエルに負けたら元に戻ることだ」
「いやに具体的だな」
「色々聞いて回ったからな。特に木島んとこに聞き込み行ったときは大変だったぜ」
やれやれと首を振るカケル。
「よく行ったな」
「そりゃ、腐っても街の住人だし。正義のヒーロー、街のお助け隊を名乗る以上は徹底的にな!」
街のお助け隊、というのはカケルの言い出した事だ。そのメンバーには遊牙も名を連ねているが、その実態は単なる便利屋稼業のようなものがほとんどだ。
「全く。相変わらずだな、カケルは」
「おうよ!っと、着いたぜ遊牙」
眼前に広がる露店の数々。ポケットからメモ紙を取り出し、遊牙はあたりを見回す。
「“最近野菜不足だから、いっぱい野菜買ってきてね遊牙。お姉ちゃんより”…か」
「メイコさんは料理好きだからなぁ、今晩何作ってくれるんだろ」
賑わう露店街の中をすり抜け、二人は青果を扱う店を目指した。だがその矢先、二人の耳に遠方から声が届く。
「か、勘弁してくれ!そんな値段で売ったら、俺ゃもう店出せねぇよ!」
「あぁ!?てめぇ、俺の要求が飲めねぇってか?」
遊牙とカケルは阿吽の呼吸で頷き合うと、雑踏をかき分け怒号の響いた元へと向かう。
「大丈夫かおっさん!おい、もめごとはやめろ木島!」
カケルの訴えに、露店の店主を掴み上げていた粗暴な男が、こちらを睨む。
「ちっ、カケルか。俺様に何の用だ?」
「と、とぼけやがって!おっさんが困ってんじゃねえか!」
「ふん、うるせぇガキだ…!」
店主を突き放し、その男『木島直斗』はデュエルディスクを構え、カケルに詰め寄る。
「いい加減うぜぇんだよカケル。今日はイライラしてんだ、お前を俺の昆虫デッキの生餌にしてやるぜ」
顔をしかめるカケル。しかし、その背後より現れた遊牙が、木島の前に立ちふさがった。
「待て、お前の相手は俺がする」
突き貫くような眼光に、木島は苦い顔をする。
「…ゆ、遊牙!!クソっ、命拾いしたなカケル!今日は遊牙に免じて多めに見てやるよ!」
捨て台詞を吐き、木島は冷や汗を浮かべながらそそくさと背を向けた。
その姿が人波に消えたのを見届けると、カケルはがっくりと肩を降ろす。
「はぁ、助かったぜ遊牙。やっぱうちの切り込み隊長は効果てきめんだな」
「俺は戦士族じゃないぞ」
真顔で冗談を口にする遊牙の前に、先刻の店主が歩み寄る。
「いや、遊牙くん助かったよ。おかげで店がつぶれずに済んだ」
「気にしないでくれ、俺は何も…」
「いやいや…助かったよ。全く、あの木島と来たら困ったもんだ!うちの店の野菜を全部9割引きで寄越せって言うんだから!」
憤慨する店主に、カケルが苦笑する。
「めちゃくちゃだな、あいつ…」
「そうだ、ちょいと待っててくれ!」
店主は自分の店に戻ると、隙間なく詰められた野菜籠を手に二人の前に差し出した。
「こいつはお礼だよ!今日もそうだけど、遊牙くんたちにはいつも助けられてるからね!」
「そんな、代金は支払わせてもらう」
「いやいや、むしろこっちが用心棒料を払いたいくらいだ。メイコちゃんにも、よろしく言ってくれ!たまにはうちの店に来てって!」
にやつく店主に、カケルが呟く。
「おっさん、メイコさんに好かれたいだけなんじゃ…」
遊牙は小さく微笑むと、その籠を受け取った。
「すまない、ありがとう」
◇
西空に傾いた陽に染まる、凹凸の瓦礫と廃墟。その中を必死で駆けずり回る一人の影。
白き少女は何かを振り切ろうとするように、ひたすらに走る。
しかし、恐怖から来る不注意が災いしてか、足元の小石に躓き少女はその場に倒れ込んでしまった。純白に近い透き通るような素足から血が滴る。
“来ないで…”
少女は怯え、迫り来る闇を見つめる。何もないはずのその暗がりに、深紅に滾る二つの光がぼんやりと浮かび上がる。
“逃げなきゃ…”
少女は歯を食いしばり立ち上がる。身を貫くような痛みと、傷口から溢れる鮮血に染まる地面。
痛みに震えながらも、少女は前を見据え走り出した。
“誰か…助けて…!”
◇
「せっかくタダでくれるって言ってたのによぉ~結局払っちまうなんて」
ぼやくカケルに、遊牙は両手に抱える籠を見つめて答える。
「いいんだ。俺たちはこれでいい」
「ま、メイコさんもきっとそう言うか。リンカはわかんねぇけど…」
買い物を済ませた二人は、瓦礫と廃墟によって象られた帰路へとついていた。
辺りは夜の闇に支配され、漆黒が生み出す怪しげな風だけが二人を撫ぜる。
「すっかり夜になっちまったな…早く帰らないと」
「ああ…」
口数も少なくなった頃、遊牙がふいに立ち止まる。
「ん?どうした遊牙」
問いには答えず、抱えた籠をカケルに押し付けると遊牙はディスクを展開する。
「誰だ」
怪訝な顔をするカケル。振り向いた先に動くものは見当たらない。
だが、次の瞬間。
「お願い、助けて…!」
虚空の闇より、突如としてそれは現れた。美しい白銀の長髪を靡かせるワンピース姿の少女。しかし、身体中は傷つき大粒の涙を浮かべ遊牙に縋りつく。
「な、なんだなんだ!?どうしたんだ一体!?」
仰天するカケル。遊牙は訝しげに少女の顔を覗き込む。
「あいつが来る…!助けて…!」
必死に闇を指さし訴える少女。遊牙はその肩に手を置き訊ねる。
「何があった?誰に襲われている?」
しかし少女は怯え切り、それ以上何も口にしない。どうしたものかと考えあぐねていた、その時。再び闇の中から人影が姿を現す。
その人物の姿を見て、カケルが叫んだ。
「てめぇ、木島!お前、こんな女の子にまで…!」
「いや、待て。様子がおかしい」
先刻とは打って変わって、俯き、ゆっくりと揺らめくように歩みだす木島。普段の粗暴さは微塵も感じられない、ひどく穏やかなその様子。それはまるで…
「操り“人形”…!」
遊牙の言葉に呼応するように、木島がゆらりと顔を上げる。その瞳は、深紅に染まり。
「マジかよ…!」
カケルが息を飲む。木島は天から糸で吊るされるが如く左腕を構えると、落ち着いた声色で告げた。
「月狂の巫女を差し出せ…鉄槌は蘇る…!」
「何言ってんだお前…マジで人形になっちまったのか木島!」
無表情のまま木島は紅い瞳を滾らせる。遊牙はデュエルディスクを構え、木島の前へと踏み出した。
「カケル、その娘を連れて教会へ!」
「お前はどうすんだよ、遊牙!」
「こいつは俺が引き受ける…!」
なぜだ?心がざわつく。直感が訴える…今から始まるデュエルは、今までのそれとは違う。別の次元へと魂を誘う、決死の戦いになる。
遊牙にはわからない。
“どうしてそれが分かったのか”
いずれにせよ、できることは盾を携え、剣を構えるのみ。
「…っ!わかったよ!けど、ぜってぇ帰って来いよ!」
「無論だ」
少女を連れカケルが去っていくのを確認した遊牙は、目の前の敵を睨み。
『デュエル!! (LP4000 VS LP4000)』
手札を確認し、先制を取った遊牙が叫ぶ。
「俺のターン!俺は手札から《屍命騎士団ウェイス》を攻撃表示で召喚する!」
《屍命騎士団ウェイス》
効果モンスター
星4 闇 アンデット族 攻1700・守0
黒き甲冑を身に纏う魂の盟友が、剣を手に遊牙の前へ降り立つ。
「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」
ターンが入れ替わり、木島はゆらゆらとデッキに手を伸ばす。
「俺のターン、ドロー。俺は《ネオバグ・シェル》を攻撃表示で召喚」
《ネオバグ・シェル》
効果モンスター
星3 地 昆虫族 攻800・守700
出現したのは禍々しく脈打つ、異星虫の蛹。
「モンスター効果発動。このカードの召喚に成功した時、デッキから同名カード以外の「ネオバグ」モンスター1体を墓地に送る」
「さらに手札の《ネオバグ・クロウラー》を除外し、墓地に送った《ネオバグ・スマッシャー》の効果を発動」
木島の墓地より緑光を放つ外骨格が目覚める。
「このカードを墓地から攻撃表示で特殊召喚」
《ネオバグ・スマッシャー》
効果モンスター
星7 地 昆虫族 攻2600・守2500
無数の多脚を頻りに蠢かせ、血生臭い臭素を放つ捕食者が地を揺るがす。その巨影を見つめ、遊牙は歯を食いしばる。
「《ネオバグ・スマッシャー》の効果発動。1ターンに1度、自分フィールドの他の「ネオバグ」モンスター1体をリリースすることで相手フィールドのカード1枚を破壊する。《ネオバグ・シェル》をリリースし、《屍命騎士団ウェイス》を破壊する」
獰猛なる捕食者は自らの味方であるはずの蛹を喰らうと、キリキリとした異様な咆哮を上げ、巨大な大顎を振るった。
その衝撃に騎士は吹き飛ぶも、遊牙は間髪入れずに場のカードを開く。
「リバースカード発動!速攻魔法《紡がれる意志》!自分フィールドのモンスター1体が戦闘・効果で破壊された時、そのモンスターと同じ種族・属性でレベルが1つ高いモンスター1体をデッキから守備表示で特殊召喚する!」
「盟友の意志を継ぎ、現れろ!《屍命騎士団フラーケン》!」
《屍命騎士団フラーケン》
効果モンスター・チューナー
星5 闇 アンデット族 攻2000・守2000
巨碗を震わす重戦士が、遊牙の前へ雄々しく立つ。
「この効果で特殊召喚されたモンスターは、このターン戦闘で破壊されず、相手の効果対象にならない!」
「…俺はカードを2枚伏せ、ターンエンド」
再びターンが遊牙へと渡る。
夜空を覆っていた黒雲が徐々に晴れ、月光がフィールドを照らし始めた。
「俺のターン、ドロー!一気に決めさせてもらう!」
ドローカードを確認し、遊牙は新たなカードを手札より取り出す。
「手札から魔法カード《砕けぬ信念》を発動!墓地の「屍命騎士団」1体を特殊召喚する!蘇れ、わが友『ウェイス』!」
舞い戻った騎士は、宵闇を切り裂くように剣を掲げた。
「《屍命騎士団ウェイス》の効果発動!自分フィールドに他の「屍命騎士団」が存在する場合、このカードをリリースし、デッキから同名以外のレベル4以下の「屍命騎士団」1体を特殊召喚する!」
「《屍命騎士団デイビット》を守備表示で特殊召喚!」
《屍命騎士団デイビット》
効果モンスター
星3 闇 アンデット族 攻100・守2000
新たなる黒き騎士は、場に降り立ちその手に携えた大盾を構えた。
「そして、《屍命騎士団フラーケン》の効果発動!1ターンに1度、自分フィールドの他の「屍命騎士団」1体のレベルを1から6までの任意のレベルに変更できる!この効果によって、《屍命騎士団デイビット》のレベルを3から2に変更!」
一瞬の静寂。明鏡止水の空間に、閃光の如く叫びが迸る。
「…俺は!レベル2の 《屍命騎士団デイビット》にレベル5の《屍命騎士団フラーケン》をチューニング!!」
豪然たる騎士は光輪となり、盟友を包む。調和する魂は一つと重なり、新たな鼓動の始原と変わる。
「闇の甲冑よ!!鋼の闘志をその身に宿し、敵を切り裂く騎士となれ!!シンクロ召喚!!」
「現れろ!!《屍命騎士団デッドジャック》!!」
《屍命騎士団デッドジャック》
シンクロモンスター
星7 闇 アンデット族 攻2500・守2000
顕現せしむるは、破邪の漆黒。決して折れぬ剣は魂の現身。天をも穿つその騎士こそが、切り札たる盟友の姿。
「俺はシンクロ素材として墓地に送られた《屍命騎士団デイビット》の効果発動!このカードが墓地に送られた時、このカードは装備カードとなり自分の「屍命騎士団」1体に装備できる!」
大地に手を伸ばした騎士は、引き抜くように戦友の盾を取った。
「『デイビット』の意志は紡がれる!この盾を装備したことにより、《屍命騎士団デッドジャック》の攻撃力は800アップする!(攻2500→3300)」
騎士の力が捕食者の牙を上回った。剣と大盾を手に、騎士は一直線に駆け出す。
「バトルだ!!《屍命騎士団デッドジャック》で《ネオバグ・スマッシャー》を攻撃!」
飛翔とも見紛う跳躍。その敵の姿に捕食者が気付くよりも遥かに疾く、騎士の一閃が舞い放たれる。
「殲滅のサイレントスラッシュ!!」
折り重なる無数の斬撃が、巨躯のことごとくを無に還す。断末魔すら許さぬその一撃に捕食者は消え去った。
「…(LP4000→3300)」
しかし、木島の表情は一向に虚無を示している。まるでその一撃を意に介していないかのように。
「俺は《屍命騎士団デッドジャック》の効果を発動!相手モンスターをバトルで破壊した時、墓地のアンデット族モンスター1体につき、200のダメージを与える!!」
「墓地に眠るアンデット族は2体!よって400のダメージだ!」
騎士が掲げた剣より黒き閃光が溢れ、敵の身を貫く。
「…(LP3300→2900)」
やはりというべきか、木島は一切の動揺を見せない。そればかりかより落ち着き払ったようにも見える。
「これが、“人形”のデュエル…俺はこれでターンエンドだ」
しかし、その瞬間。木島の口元が裂けたように微笑みを浮かべた。
「…月狂の巫女を差し出せ…月狂の……リバースカード発動、罠カード《ネオバグ大逆襲》!」
それまで無表情を貫いてきた木島が一気に反転する。紅の瞳は輝きを増し、上空に浮かぶ“月”を映しだす。
「自分フィールドの「ネオバグ」モンスターが戦闘破壊されたターン、このカードを発動できる!手札・デッキ・墓地から「ネオバグ」を可能な限り特殊召喚!」
「何っ!?」
《ネオバグ》
通常モンスター
星4 地 昆虫族 攻1800・守1700
異星から来たと言われる巨大な昆虫タイプのモンスター。
集団で行動してターゲットをとらえる。
地より這い出る、3体の異星虫。4つの翅と大顎を震わせ、威嚇の形態を取った。
「この効果で特殊召喚されたモンスターの攻撃力は0になり、このモンスターが存在している限り自分は昆虫族以外のモンスターを特殊召喚できない!(攻1800→0)」
「同名モンスターを3体…!エクシーズ召喚狙いか…!?」
そう口にしつつも、遊牙は今から始まる“それ”がさらに上の次元へと昇華された、別の何かであることを直感していた。
では、何が?一体何が始まるというのだ。
その答えを示すが如く、木島の声が轟く。
「俺のターン、ドロー!!」
月が、輝いていた。大きく、大きく、巨きく。赤き月は“狂鳴”を呼び、開かれぬはずの扉をこじ開ける。
「現れろ!!月影より魂を喰らう月狂回路!!」
明滅する閃耀に視界を奪われる。目を背ける遊牙だが、高鳴る鼓動を鎮めることができない。
「アローヘッド確認!!召喚条件は同名モンスター3体!!俺は3体の「ネオバグ」をリンクマーカーにセット!!サーキットコンバイン!!」
異星虫は光の粒となり、次元間の永劫回路へと閉ざされていく。
魂はエネルギーと具現し、再び開く永劫回路より、新たなる姿を象り蘇る。
「鳴り交わす無窮の嘆きを具象し、原罪の鎖を解きて産まれよ!!月へと狂い、無限煌を放つ傀儡の蟲!!リンク召喚!!リンク3《月狂拷蟲-アラクネラ》!!」
《月狂拷蟲-アラクネラ》
リンクモンスター
リンクマーカー 左上/上/右上
リンク3 光 昆虫族 攻3000
つづく。
~あとがき~
以前書いた遊戯王ロストゲートですが、更新が途絶え長い時間が経ってしまいました。今まで読んでくださった方々、応援してくださった方々には大変申し訳なく思っています。更新が途絶えてしまった理由はいろいろあるのですが、一番はかつての自分の文章力が拙すぎて、そのままの雰囲気を残して続けることが難しかったからです。もう一つはルールの変更。そして、一時期遊戯王コンテンツ自体から離れてしまっていたことです。
ただ、やはり自分の生んだキャラを書きたい衝動には勝てず、こうして未練がましくまた書いてしまいました。
例え短くても、どうにか一つの物語として完成させたいと思っています。
本当に図々しいですが、また読んでいただけると嬉しく思います。
ほーがん
ねぇ、月には何があるの?
“何も、ないさ”
◇
――男の視界には今、数多の光景が浮かんでいた。月光が燃え盛るように赫赫と揺らぎ、視神経を通し脳髄を掻きまわす。
次の瞬間には、漆黒の沈黙が。また、ある時には極彩色の塔が今まさに崩れ落ちんとする中、藻搔くように天へと聳えていた。全てが永遠に等しく、同時に刹那でもあった。無数の世界…無数の次元…そして無数の物語。
繰り返される、月に狂う者たちの鎮魂歌。
これは罰か。あらゆる感情が、歓喜が、理論が、絶望が、生命が、尊厳が男をかき消すと言わんばかりに打ちのめす。幾度となく輪廻する破壊と再生、その狭間、男は極限の中で自我を繋いでいた。
“消えてなるものか”
醜く歪んだ四本の指を無窮の闇に掲げ、男は言葉を紡ぐ。
「我が名は…」
そして。目の前には最後のイメージが。月影より蘇りし狂乱の眼。覚醒した闇き龍は咆哮と共に翼を広げる。三千世界から光を奪い、魂を宇宙という永劫の檻へと誘うは、久遠の鎖。
その鎖に囚われ、肉体を引き裂かれてなお、男は龍を喰らうが如く睥睨する。その眼光は遥かなる信念を貫いて。
“従え”
満たされぬ器に、覚醒の残滓が滴る。
「…我が名は…ノ―ン」
――たった一つの小さな綻び。しかし、それは禁断の扉を開く鍵でもあった。
“神の鉄槌”
かつて人は、それをそう呼んだという。
◇
「ラグナロク…大層な呼び名だ。だが、先の大戦はそう呼ぶに相応しい戦いであったことは事実なのだろう」
瓦礫の隙間を縫うように歩く少年は、灰色に染まる空を見上げる。
街には冷たい風が吹き荒び、人々は這いまわるように暮らしていた。秩序と均衡を失った世界。
政府も、治安維持構造も崩壊したこの世界において、最後に信じられるのは己の力のみ。しかし、だとしても、人は手を取り合うことを諦めなかった。
他人を思う心こそが、人間が人間たる証左なのだから。
少なくとも、この少年『霧野遊牙』はその信念を心底に日々を生きていた。
背後より無愛想に去っていく風に、遊牙は羽織ったコートを握りしめる。
冷たい。まるで人の営みを感じさせない、無機質で無味乾燥な風。
哀愁が胸を襲う。だが、それはかつての街並みを思うからではない。遊牙には、記憶がないのだ。
10年前に勃発した大戦。突如として現れた謎の軍勢に、多くの決闘者が立ち向かいそして命を落とした戦い。
その傷は、生き残った人々の記憶に刻み込まれている。だが、遊牙にはその傷がない。故に仲間と痛みを分け合うことも、共感することもできない。
その孤独が、遊牙の哀愁を加速させた。心にこびり付き蝕む感情。それを振り払うように、遊牙は左腕のデュエルディスクを展開する。
「…居るのは分かっている」
遊牙の言葉に沈黙以外答えるものはいない。しかしその刹那、背後の闇より刃が光る。
透かさず振り向いた遊牙の手には明媚たる白きカードが。
「屍命騎士団デッドジャックを召喚…!」
ディスクがカードの力を取りこみ、その剣を具象化していく。鐵が力となりて、冥界の騎士が地に降り立つ…!
敵との間合いを一気に詰め、騎士は剣を振りかざした。
閃光と、それに続く激しい火花。だが、遊牙は鍔迫り合うその相手を視認するや否や、騎士を下げた。
「…いきなりやめてくれ、カケル」
遊牙の問いに、炎の刃を携えた鋼の巨人の前に一人の少年が躍り出る。
「まぁ、そうかっかすんなって。遊牙がボッチで大丈夫かなってさ」
「…どうということはない。ただの買い出しだ」
レンズの割れたゴーグルを首から下げる少年『仁ノ森カケル』は自分のモンスターを下げると、ニヤリと笑みを浮かべ遊牙を肘で小突く。
「とかなんとか言って、またあの顔になってたぜ」
「…気にするな。それよりカケル、わざわざ俺を追う為にリンカと姉さんから逃げて来たのか?」
「だってよ、メイコさんはともかく、リンカは俺に全部面倒ごと投げてくるからよ。こういう時はお前に着いて行くに限るぜ」
得意げに笑う友に、遊牙は微笑みながらため息をつく。
「俺は一緒に謝ってやらないぞ」
「ケッコー、ケッコー。もめたらデュエルで解決よ」
そんな他愛ないやり取りを終え、二人は歩き出した。
その道中、カケルが神妙な顔で口を開く。
「そういやよ、例の“人形”の件、遊牙はどう思う?」
「あの噂か」
今、街でまことしやかに囁かれている“人形”の噂。それは、突如『何かに』意識を奪われた人間が、夢遊病のそれのように自らの意思とは裏腹に行動し、別の人間を襲ってしまう現象。
まるで操り“人形”の如きふるまいから、いつしかそう呼ばれるようになったという。
「しかも、“人形”になっちまった奴は自分のデッキには無いカードを使うらしい。不思議な話だよな」
「実際にこの目で確認するまでは何とも言えないな」
「でもよ、色んな目撃情報とか整理したら、ある程度パターンが分かって来たぜ?」
「そうなのか?」
遊牙の問いに、カケルは人差し指を伸ばし、箇条書きをするように語った。
「まずさっきも言ったけど、自分のデッキには無いカードを使うこと。それと、夜にしか出ないこと、目が赤くなること、最後に1度でもデュエルに負けたら元に戻ることだ」
「いやに具体的だな」
「色々聞いて回ったからな。特に木島んとこに聞き込み行ったときは大変だったぜ」
やれやれと首を振るカケル。
「よく行ったな」
「そりゃ、腐っても街の住人だし。正義のヒーロー、街のお助け隊を名乗る以上は徹底的にな!」
街のお助け隊、というのはカケルの言い出した事だ。そのメンバーには遊牙も名を連ねているが、その実態は単なる便利屋稼業のようなものがほとんどだ。
「全く。相変わらずだな、カケルは」
「おうよ!っと、着いたぜ遊牙」
眼前に広がる露店の数々。ポケットからメモ紙を取り出し、遊牙はあたりを見回す。
「“最近野菜不足だから、いっぱい野菜買ってきてね遊牙。お姉ちゃんより”…か」
「メイコさんは料理好きだからなぁ、今晩何作ってくれるんだろ」
賑わう露店街の中をすり抜け、二人は青果を扱う店を目指した。だがその矢先、二人の耳に遠方から声が届く。
「か、勘弁してくれ!そんな値段で売ったら、俺ゃもう店出せねぇよ!」
「あぁ!?てめぇ、俺の要求が飲めねぇってか?」
遊牙とカケルは阿吽の呼吸で頷き合うと、雑踏をかき分け怒号の響いた元へと向かう。
「大丈夫かおっさん!おい、もめごとはやめろ木島!」
カケルの訴えに、露店の店主を掴み上げていた粗暴な男が、こちらを睨む。
「ちっ、カケルか。俺様に何の用だ?」
「と、とぼけやがって!おっさんが困ってんじゃねえか!」
「ふん、うるせぇガキだ…!」
店主を突き放し、その男『木島直斗』はデュエルディスクを構え、カケルに詰め寄る。
「いい加減うぜぇんだよカケル。今日はイライラしてんだ、お前を俺の昆虫デッキの生餌にしてやるぜ」
顔をしかめるカケル。しかし、その背後より現れた遊牙が、木島の前に立ちふさがった。
「待て、お前の相手は俺がする」
突き貫くような眼光に、木島は苦い顔をする。
「…ゆ、遊牙!!クソっ、命拾いしたなカケル!今日は遊牙に免じて多めに見てやるよ!」
捨て台詞を吐き、木島は冷や汗を浮かべながらそそくさと背を向けた。
その姿が人波に消えたのを見届けると、カケルはがっくりと肩を降ろす。
「はぁ、助かったぜ遊牙。やっぱうちの切り込み隊長は効果てきめんだな」
「俺は戦士族じゃないぞ」
真顔で冗談を口にする遊牙の前に、先刻の店主が歩み寄る。
「いや、遊牙くん助かったよ。おかげで店がつぶれずに済んだ」
「気にしないでくれ、俺は何も…」
「いやいや…助かったよ。全く、あの木島と来たら困ったもんだ!うちの店の野菜を全部9割引きで寄越せって言うんだから!」
憤慨する店主に、カケルが苦笑する。
「めちゃくちゃだな、あいつ…」
「そうだ、ちょいと待っててくれ!」
店主は自分の店に戻ると、隙間なく詰められた野菜籠を手に二人の前に差し出した。
「こいつはお礼だよ!今日もそうだけど、遊牙くんたちにはいつも助けられてるからね!」
「そんな、代金は支払わせてもらう」
「いやいや、むしろこっちが用心棒料を払いたいくらいだ。メイコちゃんにも、よろしく言ってくれ!たまにはうちの店に来てって!」
にやつく店主に、カケルが呟く。
「おっさん、メイコさんに好かれたいだけなんじゃ…」
遊牙は小さく微笑むと、その籠を受け取った。
「すまない、ありがとう」
◇
西空に傾いた陽に染まる、凹凸の瓦礫と廃墟。その中を必死で駆けずり回る一人の影。
白き少女は何かを振り切ろうとするように、ひたすらに走る。
しかし、恐怖から来る不注意が災いしてか、足元の小石に躓き少女はその場に倒れ込んでしまった。純白に近い透き通るような素足から血が滴る。
“来ないで…”
少女は怯え、迫り来る闇を見つめる。何もないはずのその暗がりに、深紅に滾る二つの光がぼんやりと浮かび上がる。
“逃げなきゃ…”
少女は歯を食いしばり立ち上がる。身を貫くような痛みと、傷口から溢れる鮮血に染まる地面。
痛みに震えながらも、少女は前を見据え走り出した。
“誰か…助けて…!”
◇
「せっかくタダでくれるって言ってたのによぉ~結局払っちまうなんて」
ぼやくカケルに、遊牙は両手に抱える籠を見つめて答える。
「いいんだ。俺たちはこれでいい」
「ま、メイコさんもきっとそう言うか。リンカはわかんねぇけど…」
買い物を済ませた二人は、瓦礫と廃墟によって象られた帰路へとついていた。
辺りは夜の闇に支配され、漆黒が生み出す怪しげな風だけが二人を撫ぜる。
「すっかり夜になっちまったな…早く帰らないと」
「ああ…」
口数も少なくなった頃、遊牙がふいに立ち止まる。
「ん?どうした遊牙」
問いには答えず、抱えた籠をカケルに押し付けると遊牙はディスクを展開する。
「誰だ」
怪訝な顔をするカケル。振り向いた先に動くものは見当たらない。
だが、次の瞬間。
「お願い、助けて…!」
虚空の闇より、突如としてそれは現れた。美しい白銀の長髪を靡かせるワンピース姿の少女。しかし、身体中は傷つき大粒の涙を浮かべ遊牙に縋りつく。
「な、なんだなんだ!?どうしたんだ一体!?」
仰天するカケル。遊牙は訝しげに少女の顔を覗き込む。
「あいつが来る…!助けて…!」
必死に闇を指さし訴える少女。遊牙はその肩に手を置き訊ねる。
「何があった?誰に襲われている?」
しかし少女は怯え切り、それ以上何も口にしない。どうしたものかと考えあぐねていた、その時。再び闇の中から人影が姿を現す。
その人物の姿を見て、カケルが叫んだ。
「てめぇ、木島!お前、こんな女の子にまで…!」
「いや、待て。様子がおかしい」
先刻とは打って変わって、俯き、ゆっくりと揺らめくように歩みだす木島。普段の粗暴さは微塵も感じられない、ひどく穏やかなその様子。それはまるで…
「操り“人形”…!」
遊牙の言葉に呼応するように、木島がゆらりと顔を上げる。その瞳は、深紅に染まり。
「マジかよ…!」
カケルが息を飲む。木島は天から糸で吊るされるが如く左腕を構えると、落ち着いた声色で告げた。
「月狂の巫女を差し出せ…鉄槌は蘇る…!」
「何言ってんだお前…マジで人形になっちまったのか木島!」
無表情のまま木島は紅い瞳を滾らせる。遊牙はデュエルディスクを構え、木島の前へと踏み出した。
「カケル、その娘を連れて教会へ!」
「お前はどうすんだよ、遊牙!」
「こいつは俺が引き受ける…!」
なぜだ?心がざわつく。直感が訴える…今から始まるデュエルは、今までのそれとは違う。別の次元へと魂を誘う、決死の戦いになる。
遊牙にはわからない。
“どうしてそれが分かったのか”
いずれにせよ、できることは盾を携え、剣を構えるのみ。
「…っ!わかったよ!けど、ぜってぇ帰って来いよ!」
「無論だ」
少女を連れカケルが去っていくのを確認した遊牙は、目の前の敵を睨み。
『デュエル!! (LP4000 VS LP4000)』
手札を確認し、先制を取った遊牙が叫ぶ。
「俺のターン!俺は手札から《屍命騎士団ウェイス》を攻撃表示で召喚する!」
《屍命騎士団ウェイス》
効果モンスター
星4 闇 アンデット族 攻1700・守0
黒き甲冑を身に纏う魂の盟友が、剣を手に遊牙の前へ降り立つ。
「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」
ターンが入れ替わり、木島はゆらゆらとデッキに手を伸ばす。
「俺のターン、ドロー。俺は《ネオバグ・シェル》を攻撃表示で召喚」
《ネオバグ・シェル》
効果モンスター
星3 地 昆虫族 攻800・守700
出現したのは禍々しく脈打つ、異星虫の蛹。
「モンスター効果発動。このカードの召喚に成功した時、デッキから同名カード以外の「ネオバグ」モンスター1体を墓地に送る」
「さらに手札の《ネオバグ・クロウラー》を除外し、墓地に送った《ネオバグ・スマッシャー》の効果を発動」
木島の墓地より緑光を放つ外骨格が目覚める。
「このカードを墓地から攻撃表示で特殊召喚」
《ネオバグ・スマッシャー》
効果モンスター
星7 地 昆虫族 攻2600・守2500
無数の多脚を頻りに蠢かせ、血生臭い臭素を放つ捕食者が地を揺るがす。その巨影を見つめ、遊牙は歯を食いしばる。
「《ネオバグ・スマッシャー》の効果発動。1ターンに1度、自分フィールドの他の「ネオバグ」モンスター1体をリリースすることで相手フィールドのカード1枚を破壊する。《ネオバグ・シェル》をリリースし、《屍命騎士団ウェイス》を破壊する」
獰猛なる捕食者は自らの味方であるはずの蛹を喰らうと、キリキリとした異様な咆哮を上げ、巨大な大顎を振るった。
その衝撃に騎士は吹き飛ぶも、遊牙は間髪入れずに場のカードを開く。
「リバースカード発動!速攻魔法《紡がれる意志》!自分フィールドのモンスター1体が戦闘・効果で破壊された時、そのモンスターと同じ種族・属性でレベルが1つ高いモンスター1体をデッキから守備表示で特殊召喚する!」
「盟友の意志を継ぎ、現れろ!《屍命騎士団フラーケン》!」
《屍命騎士団フラーケン》
効果モンスター・チューナー
星5 闇 アンデット族 攻2000・守2000
巨碗を震わす重戦士が、遊牙の前へ雄々しく立つ。
「この効果で特殊召喚されたモンスターは、このターン戦闘で破壊されず、相手の効果対象にならない!」
「…俺はカードを2枚伏せ、ターンエンド」
再びターンが遊牙へと渡る。
夜空を覆っていた黒雲が徐々に晴れ、月光がフィールドを照らし始めた。
「俺のターン、ドロー!一気に決めさせてもらう!」
ドローカードを確認し、遊牙は新たなカードを手札より取り出す。
「手札から魔法カード《砕けぬ信念》を発動!墓地の「屍命騎士団」1体を特殊召喚する!蘇れ、わが友『ウェイス』!」
舞い戻った騎士は、宵闇を切り裂くように剣を掲げた。
「《屍命騎士団ウェイス》の効果発動!自分フィールドに他の「屍命騎士団」が存在する場合、このカードをリリースし、デッキから同名以外のレベル4以下の「屍命騎士団」1体を特殊召喚する!」
「《屍命騎士団デイビット》を守備表示で特殊召喚!」
《屍命騎士団デイビット》
効果モンスター
星3 闇 アンデット族 攻100・守2000
新たなる黒き騎士は、場に降り立ちその手に携えた大盾を構えた。
「そして、《屍命騎士団フラーケン》の効果発動!1ターンに1度、自分フィールドの他の「屍命騎士団」1体のレベルを1から6までの任意のレベルに変更できる!この効果によって、《屍命騎士団デイビット》のレベルを3から2に変更!」
一瞬の静寂。明鏡止水の空間に、閃光の如く叫びが迸る。
「…俺は!レベル2の 《屍命騎士団デイビット》にレベル5の《屍命騎士団フラーケン》をチューニング!!」
豪然たる騎士は光輪となり、盟友を包む。調和する魂は一つと重なり、新たな鼓動の始原と変わる。
「闇の甲冑よ!!鋼の闘志をその身に宿し、敵を切り裂く騎士となれ!!シンクロ召喚!!」
「現れろ!!《屍命騎士団デッドジャック》!!」
《屍命騎士団デッドジャック》
シンクロモンスター
星7 闇 アンデット族 攻2500・守2000
顕現せしむるは、破邪の漆黒。決して折れぬ剣は魂の現身。天をも穿つその騎士こそが、切り札たる盟友の姿。
「俺はシンクロ素材として墓地に送られた《屍命騎士団デイビット》の効果発動!このカードが墓地に送られた時、このカードは装備カードとなり自分の「屍命騎士団」1体に装備できる!」
大地に手を伸ばした騎士は、引き抜くように戦友の盾を取った。
「『デイビット』の意志は紡がれる!この盾を装備したことにより、《屍命騎士団デッドジャック》の攻撃力は800アップする!(攻2500→3300)」
騎士の力が捕食者の牙を上回った。剣と大盾を手に、騎士は一直線に駆け出す。
「バトルだ!!《屍命騎士団デッドジャック》で《ネオバグ・スマッシャー》を攻撃!」
飛翔とも見紛う跳躍。その敵の姿に捕食者が気付くよりも遥かに疾く、騎士の一閃が舞い放たれる。
「殲滅のサイレントスラッシュ!!」
折り重なる無数の斬撃が、巨躯のことごとくを無に還す。断末魔すら許さぬその一撃に捕食者は消え去った。
「…(LP4000→3300)」
しかし、木島の表情は一向に虚無を示している。まるでその一撃を意に介していないかのように。
「俺は《屍命騎士団デッドジャック》の効果を発動!相手モンスターをバトルで破壊した時、墓地のアンデット族モンスター1体につき、200のダメージを与える!!」
「墓地に眠るアンデット族は2体!よって400のダメージだ!」
騎士が掲げた剣より黒き閃光が溢れ、敵の身を貫く。
「…(LP3300→2900)」
やはりというべきか、木島は一切の動揺を見せない。そればかりかより落ち着き払ったようにも見える。
「これが、“人形”のデュエル…俺はこれでターンエンドだ」
しかし、その瞬間。木島の口元が裂けたように微笑みを浮かべた。
「…月狂の巫女を差し出せ…月狂の……リバースカード発動、罠カード《ネオバグ大逆襲》!」
それまで無表情を貫いてきた木島が一気に反転する。紅の瞳は輝きを増し、上空に浮かぶ“月”を映しだす。
「自分フィールドの「ネオバグ」モンスターが戦闘破壊されたターン、このカードを発動できる!手札・デッキ・墓地から「ネオバグ」を可能な限り特殊召喚!」
「何っ!?」
《ネオバグ》
通常モンスター
星4 地 昆虫族 攻1800・守1700
異星から来たと言われる巨大な昆虫タイプのモンスター。
集団で行動してターゲットをとらえる。
地より這い出る、3体の異星虫。4つの翅と大顎を震わせ、威嚇の形態を取った。
「この効果で特殊召喚されたモンスターの攻撃力は0になり、このモンスターが存在している限り自分は昆虫族以外のモンスターを特殊召喚できない!(攻1800→0)」
「同名モンスターを3体…!エクシーズ召喚狙いか…!?」
そう口にしつつも、遊牙は今から始まる“それ”がさらに上の次元へと昇華された、別の何かであることを直感していた。
では、何が?一体何が始まるというのだ。
その答えを示すが如く、木島の声が轟く。
「俺のターン、ドロー!!」
月が、輝いていた。大きく、大きく、巨きく。赤き月は“狂鳴”を呼び、開かれぬはずの扉をこじ開ける。
「現れろ!!月影より魂を喰らう月狂回路!!」
明滅する閃耀に視界を奪われる。目を背ける遊牙だが、高鳴る鼓動を鎮めることができない。
「アローヘッド確認!!召喚条件は同名モンスター3体!!俺は3体の「ネオバグ」をリンクマーカーにセット!!サーキットコンバイン!!」
異星虫は光の粒となり、次元間の永劫回路へと閉ざされていく。
魂はエネルギーと具現し、再び開く永劫回路より、新たなる姿を象り蘇る。
「鳴り交わす無窮の嘆きを具象し、原罪の鎖を解きて産まれよ!!月へと狂い、無限煌を放つ傀儡の蟲!!リンク召喚!!リンク3《月狂拷蟲-アラクネラ》!!」
《月狂拷蟲-アラクネラ》
リンクモンスター
リンクマーカー 左上/上/右上
リンク3 光 昆虫族 攻3000
つづく。
~あとがき~
以前書いた遊戯王ロストゲートですが、更新が途絶え長い時間が経ってしまいました。今まで読んでくださった方々、応援してくださった方々には大変申し訳なく思っています。更新が途絶えてしまった理由はいろいろあるのですが、一番はかつての自分の文章力が拙すぎて、そのままの雰囲気を残して続けることが難しかったからです。もう一つはルールの変更。そして、一時期遊戯王コンテンツ自体から離れてしまっていたことです。
ただ、やはり自分の生んだキャラを書きたい衝動には勝てず、こうして未練がましくまた書いてしまいました。
例え短くても、どうにか一つの物語として完成させたいと思っています。
本当に図々しいですが、また読んでいただけると嬉しく思います。
ほーがん
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勿体ないお言葉ありがとうございます。また一から物語を書かせていただきます。
ほとんどの流れは同じになるとは思いますが、設定および一部の登場人物を一新致しました。またお読み頂けると嬉しく思います。
ギガプラントさんコメントありがとうございます。
お覚え頂いて感激です。そして本当に久しぶりになってしまい申し訳ないありません。
コープスナイト改め屍命騎士団は、モンスター効果や戦術も含め新しいものになりました。ルールも現在のものに準拠し、リンク召喚も導入してみました。またよろしくお願い致します。 (2019-08-22 02:40)