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HOME > 遊戯王SS一覧 > 無力なるもの

無力なるもの 作:ほーがん

遊戯王ロストゲートL 第3話「無力なるもの」


あるひ、なにもないじめんに おつきさまがやってきました。

おつきさまには、ひとりのおうさまがすんでいました。

おうさまはひとりのおんなのひとを、つくりあげました。

そのおんなのひとに、おうさまは「るな」となづけました。

るなとおうさまは、なにもないじめんで しあわせにくらしました。

おうさまは、いつまでもこのしあわせがつづけばいいと おもいました。


いつまでも、いつまでも、いつまでも、いつまでも。













やがてるなは しにました。




   ◇



 かの決闘の後、正気を取り戻した木島には、やはりその記憶はなかった。
困惑する木島を送り届け、塒へと戻った遊牙一行の間には物々しい空気が流れていた。遊牙自身、自らの身に起こったことへの整理がつかない。一体、自分は何者なのか。その問いはより一層遊牙の心を捕らえ続ける。
デュエル中に視た、謎のヴィジョン。まばゆき閃耀を放つ白い龍。そして、その光の中から手に入れた1枚のカード。それは、リンクモンスターという新たな力であった。そして、リンクモンスターの登場と共にヴィジョンの中に出現した、謎のゲート。魂はそれを無意識のうちに「永劫回路」と呼んだ。それらがなにを意味しているのか、遊牙には全く分からない。ただひとつ確かなのは、自らの意識がそれらの要素に強く呼応したという事だ。
その手に握った1枚のカード、『聖命騎士王 ジャックス・レイ』のカードを見つめ、遊牙は得も言われぬ不安感と高揚感が綯い交ぜとなった溜息を吐いた。

一方、操り人形の事件が現実であったことを実感し、カケルは戸惑いを隠せないでいた。しかし、デュエルで解決できるのであれば活路はある。そう自分を納得させつつ、教会内の長椅子に横になっている白い少女に目をやる。
安らかに寝息を立てていた彼女だが、しばらくするとおもむろに目を覚まし、起き上がった。
「大丈夫か、数時間は眠っていたが」
「んんっ…」
隣でずっと様子を見ていたリンカが、安堵した声で尋ねる。少女は自身に起こった顛末を思い出し、周囲にぺこりと頭を下げた。
「…私を助けてくれたんですね、えっと…」
何かを訪ねたそうに見つめる少女に、遊牙は応える。
「俺は遊牙、霧野遊牙だ。こっちは俺の姉の霧野メイコ。その隣が仁ノ森カケル。そして今君の隣に座っているのが牧瀬リンカ。皆ここに住む仲間たちだ」
紹介と共に皆軽く会釈をする。少女は丁寧に一人一人に小さく頭を下げた。
「皆さん…傷の手当まで…本当にありがとうございます。そういえば、あの男の人は…」
「木島…いや、あの男は去った、もう心配はない。それより君は何者なんだ」
少女は胸に手を当て、語る。
「私の名前はルナ。ごめんなさい、実は自分のことをよく覚えていなくて…」
「記憶喪失…ってことか?」
カケルの言葉に頷くルナ。
「記憶がない…俺と同じ…」
一同の視線がルナと、そして遊牙へと向かう。記憶喪失の少年と少女。偶然の共通点と思えたが、そこでメイコが口を開く。
「戦乱のあとだもの、ショックで記憶を失っていても不思議はないわ。10年前は、ルナちゃんは3歳か、4歳くらいかしら?」
「えっと、たぶん…?」
「きっと辛いことがあったのね…。今まではどうしていたの?」
「わかりません、気づいたらこの街に居て」
「それは、つまり記憶を失ったのは最近の話なのか?なぜ自分の名前は分かる?」
リンカの問いにルナはうつむいてしまう。そして、ゆっくりと左腕を差し出し、その手首にはまっている金属製のブレスレッドのようなものを見せた。
「ごめんなさい、何もわからないんです。ルナ、という名前は私がつけていたこの腕輪に書かれていました」
「それで、自分の名前をルナって名乗ることにしたのか」
「はい。気づいた時にはここに居て、あの男の人に追われていました…本当に、こわくて…」
包帯の巻かれた脚を抱えたルナの肩が震える。そっと寄り添い、肩を抱いたリンカの腕にしがみ付く彼女の口から嗚咽が漏れた。
「もう心配ない。俺たちがいる。行く当てがないのなら、ここに住めばいい。俺も記憶喪失だが、こうして生きている」
顔を上げたルナの目に、優しげに微笑む遊牙の顔が映る。そのうしろでカケルも腰に手を当て笑っていた。
「おうよ、みんなで力を合わせて生きていくんだ!な、いいだろメイコさん」
「…」
カケルの隣で、何か考え込むように顎に手を当てるメイコ。「なぁ、メイコさん?」と畳み掛けたカケルに、やっとメイコは我に返る。
「えぇ、ああそうね。もちろんよ。何かあったらいつでも私たちを頼ってね、ルナちゃん」
「皆さん、ありがとうございます…!」
「言葉遣いに気を使わなくてもいい、俺たちはもう仲間なんだ、ルナ」
「うん…ありがとう遊牙、みんな」
お互いに微笑みあう一同。リンカはもう少し様子を見た方が良いとして、彼女を再び横にしブランケットをかぶせている。年が近い女の子同士、通じるところがあるのだろうか。
そんな風に考えた遊牙は、ふとまた何かを考え込んでいる姉に目をやった。
「姉さん、何か考え事か…?」
「ええ、少しね。ところで遊牙は無事なの?なんともないの?」
「ああ、少し混乱していたが、今は別に」
「本当に?だって、あの光はあの時と…」
言いかけたメイコだったが、すぐにそれをひっこめた。
「いいえ、なんでもないわ…」
「姉さん、何か言いたいことがあるんじゃないのか」
「いいのよ。たぶん言っても、その遊牙は、その…ね」
“覚えていないから”そんな言葉が続くような気がして、遊牙はそれ以上深入りすることをやめた。きっと、姉は姉なりにこのメンバーの長として、思慮すべきことがあるのだろう。
そう考えた、あるいはそう思うことにした遊牙は姉から離れ、教会奥の個室へと戻っていった。

メイコは横たわっているルナの左腕を見つめる。
「なんで、あの文字なの…だってあの言語は…」



 
     ◇




 宵闇のトバリに舞う、漆い翼。その羽根持つ怪鳥を腕に乗せ、月光の下、男は立っていた。
「操り人形ね、言い得て妙か」
眼下に位置する古ぼけた教会を睥睨し、男の切り裂くような眼光が闇に光る。
「永劫回路か、考えたものだな」

男は言葉と共に闇へと消えた。





     ◇




 翌朝。朝一番に教会の扉をたたく音が響いた。
無論、神父もシスターも存在しないこの教会へ祈りを捧げに、あるいは懺悔をしに来たわけではないだろう。
ルナの手当をしたまま長椅子で眠りこけていたリンカは、そのノックの音に目を覚ますと、一度ルナの額の汗を手で拭い、頭を撫でてから扉の向こうの来客へ顔を出した。
「おはよう、リンカ。そこで寝てたのかい?」
「…ああ、まぁ野暮用でな。おはよう小太郎」
その爽やかな声の線の細い青年、大神 小太郎は、まだ寝ぼけ気味のリンカに苦笑する。
「お疲れみたいだね、はいこれ今日の分のミルク」
小太郎は街の外れで牛を飼っている青年だった。自給自足が常であるこの世にあって家畜を飼い育てる技術を持ちながら、それを惜しまず人々へ分け与える彼は、街の皆から慕われる存在であった。
「いつもすまないな」
「教会のみんなには助けてもらってるからね、主にデュエルで」
「私たちには、それしかないからな」
小太郎からミルク瓶のケースを受け取るリンカ。
「僕には羨ましいよ、僕はデュエルの腕はからっきしだからな…」
「そうか?小太郎のデッキは決して弱くはないはずだ」
「はは、リンカにそう言ってもらえると嬉しいな。それじゃあまだ次の配達があるから、またね。それと今日の件、遊牙とカケルによろしく言っておいて」
「ああ」
手製の自転車に跨り去っていく小太郎を見送り、リンカは扉を閉めた。振り向いた目の前には、いつの間にか目を覚ましていたルナの姿が。
「うぉっ!?あー…お、おはようルナ…」
「…おはようリンカ」
ルナはリンカが両手に抱えているミルクケースを凝視している。もしかして、牛乳好きなんだろうか。
「えっと、とりあえず1本飲むか?」
「…うん!」
ケースから瓶を一つとったルナはステップするように、椅子の方へと戻っていった。
やれやれと笑うリンカだったが、ひとつある疑問が浮かぶ。
(あれだけ脚を怪我していて、もう飛び跳ねることができるのか…?)

やがて起床した皆と食卓を囲む。朝食を取りつつ、遊牙はルナに体の調子について尋ねた。
「脚はどうだ?痛みは引いたか」
パンを口いっぱいにほおばりながら、ルナは右足を少し上げる。
「もう、はいひょうふみたい」
「すっげ、もう治ってんのかよ。まぁその食いっぷりじゃ回復力も強そうだな!」
素直に感心するカケル。しかしメイコの顔は困惑に満ちていた。
「まだ一晩しか経ってないのに…」
「なんにせよ、元気になったのならいいことだ。ルナ、今日はどうする?」
「ん、どうするって?」
咀嚼していたものを急いで飲み込んだルナ。
「俺とカケルは今日、小太郎の牧場に行って見張りをする予定だ。いわゆる用心棒だな」
「用心棒…?私が行ったら危ない?」
不安そうにする彼女へ、カケルが笑いかける。
「おっ来るか?ま、大丈夫だよ。結局何にも起きないことの方が多いし、俺も遊牙もいるしな」
「だが、病み上がりなんだぞ。いきなり連れまわすのはどうなんだ」
腕を組み鋭い視線を突き刺すリンカ。遊牙もその言葉にうなずく。
「確かにそうだな。今日はここで安静にしている方がいいかもしれない」
「あの、牧場って、このミルクを作った人がいるところ?だったらちょっと見てみたいかも」
手に持った瓶を見せ、ルナがリンカへ目を向ける。その瞳にたじろいだリンカは、少し溜息を付き諦めたように言う。
「わかった、なら私も行く。お前たちにルナを任せるのは心配だ」
「ほぉ、もうお姉ちゃん気分か、なぁリンカぁ?」
「う、うるさい!遊牙はともかく、カケルが特に心配なだけだ!」
煽るように笑うカケル。その様子に微笑み、メイコが話に入った。
「まぁいいんじゃない?家のことは私がやっておくから、今日は親睦を深めるってことで」
「ありがとう姉さん。じゃあルナ、朝食が終わったら支度をして、小太郎のもとへ出発だ」
「うん!」
まぶしい笑顔を見せるルナ。本来ならこんな風に明るく笑うのだな、と遊牙もつられて笑みを浮かべた。




    ◇




 未だ配達中の小太郎は、鼻歌を歌いながら自転車を進ませる。
よく晴れた空のもと、少し荷物が減り軽くなったペダルを漕ぎ、ふと周囲に目をやった。
「…本当に、変わってしまったな」
街から少し外れた区域。そこはかつて“本当の街”があった。その残骸たちは瓦礫の山となり、無造作に放置された鉄骨やコンクリートの隙間を縫うように植物が茂っている。思わず小太郎は足を止めていた。
―まさに、それは営みの滅びそのものだ。この街で生まれ、幼少期を過ごした小太郎にとって、それは戦後10年の時を経てなお心を締め付ける風景であった。
しかしそれと同時に、だからこそ生き残った自分はこの街を、この街に生きる人々を見捨てないことを誓ったのだ。
幸い実家が経営していた牧場は、街の外れに位置し辛うじて戦火を逃れていた。そこで小太郎は祖父と共に生き残った家畜たちの世話をし、そこで得たものを人々に分けることにした。
少しでも、大好きだったこの街の記憶を残しておきたい一心で、街の人々を家族と思い助けることにしたのだ。
瓦礫の凹凸を眺め、再びその決意を固くした小太郎はペダルを踏みこもうとしたが、不意に眼前に現れた人影に車輪をとめられる。
「な、何かようかな」
見るからに人相の悪い男二人組。その男たちはデュエルディスクを既に展開した状態で、小太郎へ詰め寄る。
「お前、この辺で食料を配ってるらしいな」
2人のうちの一人、背の高い男の問いに小太郎はハンドルを握る手に汗がにじむのを感じる。
「そうだよ、それが何か」
「寄越せよ」
もう一人の男が小太郎の腕を掴む。
「や、やめてくれ!僕は、この街の人たちのために、配ってるんだ。街の人たちの顔はみんな知ってるが、僕は君たちを知らない!」
「街だぁ?ここのどこに街があんだよ、なんもねぇクズの山じゃねえか」
「俺たちさ腹減ってんだよね、いいから寄越せよ」
強引に腕を引っ張る男。だが小太郎はその腕を振り払い、むりやり自転車を進まそうとした。が、その時。
「こいつ、逃げんじゃねえっての!」
背の高い男が側面から小太郎ごと自転車を蹴り飛ばした。バランスを崩し転倒する小太郎。それと同時に荷台からミルクケースが落下し、地面に激突した瓶が粉々になる。
「うわぁっ!!あ、僕の牛乳が…!」
「なんだ?牛乳?いらねぇよこんなもん、酒はねぇのか?」
「せっかくてめぇの噂を聞いてここまで来てやったのに、期待させやがって!」
男たちはカードデッキを手に取り、ディスクへと装填。今モンスターを実体化されれば、命はない。
小太郎は拳を震わせ、立ち上がると自らもデュエルディスクを装着した。
「お、やんのか?2対1だぞ」
「お前ら…僕の前から消えろ…!」
「消えて欲しかったら、お前のデュエルでやってみな!」
怒りに震える小太郎がカードデッキをセットし、ディスクを展開する。
「僕が勝ったら、二度とこの街に現れるな…!」


「「デュエル!!」」(LP4000&LP4000 VS LP4000)


まず動いたのは背の高い男の方だった。
「俺のターン!俺は魔法カード《おろかな埋葬》を発動!デッキから《亡龍の戦慄-デストルドー(闇/星7/ドラゴン族/チューナー/攻1000・守3000)》を墓地に送るぜ!」

男のデッキから骸の竜が墓地へと落とされる。

「さらに俺は手札から《ランス・リンドブルム(風/星4/ドラゴン族/攻1800・守1200)》を召喚し、墓地の《デストルドー》の効果を発動!ライフ半分と引き換えに、俺の場のモンスターのレベル分だけ自身のレベルを下げ、このモンスターを特殊召喚する!(星7→星3/LP4000→2000)」

槍持つ騎兵と骸の竜が戦場に並び立つ。自らを眼下に捉える竜の目に小太郎は息をのんだ。

「兄貴、さっさと終わらせようぜ」
「ああ、雑魚の相手は面倒だからな。俺はレベル4の《ランス・リンドブルム》にレベル3の《デストルドー》をチューニング!」

舞い上がる一対の竜が光に包まれ、その姿を新たにする。

「魂を喰らう幻惑の竜、穢れし現世に滅びをもたらせ!シンクロ召喚!現れろ、《幻狼竜ドラグサウザー(闇/星7/ドラゴン族/シンクロ/攻2400・守1000》!」

光の中より現出したのは、おびただしい瘴気を纏った獣の如き竜。飢えた瞳は常に血走り、獲物を求め臭素を撒き散らす。

「し、シンクロモンスター・・・」

強力無比な敵を前にし、小太郎の脳裏によぎる記憶。蔑まれ、虐げられ、馬鹿にされ続けた日々。自分は弱者であり、強者から逃げるしか術はないのだと痛感した体験。浮かんだそれらをかき消すように首を振り、歯を食いしばる。まだ勝負は始まったばかりだ。そう自分に言い聞かせ、小太郎は手札を持つ手を握りしめた。

「俺はカードを1枚セットし、ターンエンド。よし、次はおめえのターンだ」
「おうよ、じゃあいくぜ。おい雑魚、よく見ておくんだな。俺のターン!」

もう一人、小柄で下品な笑みを浮かべる男が動く。

「俺は魔法カード《雷雲の轟き》を発動!手札からレベル7以上の雷族モンスター1体を特殊召喚する!《大狼雷鳴(光/星7/雷族/攻2500・守2000)》を攻撃表示で特殊召喚!」

明滅する雷雲より稲妻の餓狼が出現する。男はさらに言葉を続けた。

「《雷雲の轟き》の効果はまだ続く!相手フィールドに特殊召喚されたモンスターが存在する場合、さらに同名モンスターを1体デッキから効果を無効にして特殊召喚できるのさ!」
「相手の場にって、僕はまだ何も・・・」

言いかけた小太郎を遮るように、背の高い男が嗤う。

「何言ってんだ、ちゃんといるじゃねえか!俺の《ドラグサウザー》が!」
「そんな…!」
「そういうことだ。俺はデッキから2体目の《大狼雷鳴》を特殊召喚!そして、この効果でデッキから特殊召喚した場合、相手はライフを2000回復する!兄貴、払った分のライフはこれでチャラだぜ」
「おう、ありがとよ(LP2000→4000)へっ、俺らはなんもルール違反なんてしてねぇぜ?」

男の場に並んだ二頭の餓狼は、スパークを散らしながら小太郎を威圧していた。そして、その獣たちは次の瞬間、渦巻く光となって合身してゆく。

「さていくぞ、俺はレベル7の《大狼雷鳴》2体でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」
「轟雷の如く駆け巡り、天よりの一閃で大地を砕け!エクシーズ召喚!来い、《大狼雷神(光/星7/雷族/エクシーズ/攻2500・守2000)》!」

凄まじい巨躯を誇る雷神は、双頭の狼を象り天より舞い降りた。あまりにまばゆい閃耀に小太郎は顔をしかめる。

「《大狼雷神(オオカミライジン)》の効果を発動!1ターンに1度、このカードのオーバーレイユニットを1つ使うことで、相手の手札をランダムに1枚墓地に送る!」
「なにっ!?」
「そして、そのカードがモンスターカードだった場合、相手に1000のダメージを与える!」

雷神の鬣より出でた雷撃が小太郎の手札を貫通する。無惨に墓地へと捨てられたそのカードを目にし、男は嘲った。

「なんだ!?《闇を司る影》ェ!?お前、そんな雑魚カード使ってんのかよ!」
「ぼ、僕のカードを馬鹿にするな…!」
「へっ、モンスターカードってことは、ダメージ発生だな」

再び放たれた雷撃を喰らい、小太郎は膝をつく。

「ぐあっ・・・!(LP4000→3000)」
「俺はターンエンド。今だ兄貴!」
「ああ、俺はこの瞬間リバースカードを発動!永続罠《竜の束縛》!自分フィールドの攻撃力2500以下のドラゴン族を対象に発動!そのモンスターが場に居続ける限り、互いにそのモンスターの攻撃力以下のモンスターを特殊召喚できない!《ドラグサウザー》が居る限り、てめぇは攻撃力2400以下のモンスターは特殊召喚できねぇってことだ」

「…っ!どこまでも…!僕のターン!」

立ち上がった小太郎へとターンが回る。だが、手札を既に1枚減らされた上に、敵の場には強力なモンスターが2体。己の中に沸いてくる恐怖を押さえつけながら、小太郎は手札のカードを取り出す。

「ぼ、僕は…魔法カード《ツイスター》を発動!ライフを500払い、フィールドの表側表示の魔法・罠を1枚破壊する!(LP3000→2500)」
「ぬかせ!《ドラグサウザー》の効果を発動!こいつは1ターンに1度、相手が魔法の効果を発動した時、場か墓地のドラゴン族モンスター1体をデッキに戻すことで、その効果を無効にし、さらに除外までできるのよ!墓地の《ランス・リンドブルム》をデッキに戻し、《ツイスター》を除外!《竜の束縛》は破壊させねぇぞ!」

ほんの刹那、舞い上がった竜巻はむなしく無散する。小太郎は震える指で次のカードを手に取った。

「そんな…!っ!僕はっ手札から《キラー・ザ・クロ―(闇/星3/悪魔族/攻1000・守800)》を召喚!」

小太郎の場に躍り出たのは、鋭利な鉤爪を携えた風変りな悪魔。その姿に男たちは再び嘲りの声を上げる。

「また弱小通常モンスターかよ!こいつ、思った以上にやべぇぞ」
「兄貴、ちょっと可哀そうになってきたぜ!へへっ!」

その言葉に小太郎の中から怒りが湧き出でる。

「…僕のモンスターを、キラー・ザ・クロ―を馬鹿にするな…!」

堂々と佇むしもべの悪魔の背中を見つめ、小太郎は思い返す。かつてこのカードを、このデッキを預けてくれた兄の存在を。
…自分を守るために戦火に散り、デッキだけを残して逝った兄の顔を。

「そうだ…諦めなければ、勝機はかならず…僕はカードを1枚セットして、ターンエンド」
「なにをぶつぶつと、喧嘩を売る相手を間違えたな!俺のターン!このターンからドローとバトルが解禁される!ドロー!」

大柄な男へとターンが巡り、男は手にしたカードを確認するとほくそ笑んだ。

「お前がどんなカードを伏せていようが関係ねぇ、俺は《ワイバーン・ストライダー(闇/星4/ドラゴン族/攻1900・守100)》を召喚!」

紅蓮のスカーフを巻いた竜人が風と共に出でる。

「《ワイバーン・ストライダー》の効果発動!自分メインフェイズに表側表示の魔法・罠カードを墓地に送ることで、このターン中相手はそのカードと同じ種類のカードを発動できない!さらに自分フィールドに他のドラゴン族がいる場合、相手はこの効果にチェーンもできない!俺は《竜の束縛》を墓地に送り、この効果を使うぜ!」
「なっ…!?」

勝ち誇ったように笑う男。

「どうだ、これでてめぇは《ドラグサウザー》で魔法を封じられ、罠も使えない!バトルだ!《ワイバーン・ストライダー》で《キラー・ザ・クロ―》を攻撃!」

疾風の如く駆けだした竜人は、その手に持つ刃でいとも容易く悪魔を屠った。

「ぐうっ!(LP2500→1600)」
「終わりだなァ、《ドラグサウザー》でダイレクトアタック!」

咆哮を上げ、獣の竜が進撃する。頭上に鈍く光る牙が小太郎の下へと振り下ろされ…。

「…生き残れ、生き残るんだ…リバースカード発動!速攻魔法《アヴェレイジング・ライズ》!」

瞬間、小太郎の場に伏せられていたカードが正体を現した。だが、男の余裕が崩れることはない。

「雑魚が!何度も言わせるな!!《ドラグサウザー》の効果発動!フィールドの《ワイバーン・ストライダー》をデッキに戻し、魔法を無効にする!!」
「…《アヴェレイジング》カードは、墓地にレベル3以下の通常モンスターが居る限り、効果を無効化されない…!」
「なんだとっ!?」
「《アヴェレイジング・ライズ》の効果により、僕は墓地に同名モンスターが存在しないレベル3以下の通常モンスター1体をデッキから守備表示で特殊召喚する!来い、《死神ブーメラン(炎/星3/悪魔族/攻1000・守400)》!」

小太郎のデッキが輝き、新たなモンスターが出現する。その姿はまたしても奇怪な武器を象る悪魔であった。

「けっ、なにかと思えばまた雑魚を呼んだだけか!沈め!《ドラグサウザー》で攻撃!『グリードバイト』!!」

竜の牙が振り下ろされ、刃の悪魔が砕け散る。小太郎は心の中で自らの僕へ侘びを入れた。

(すまない、死神ブーメラン…)

「クソッ、俺はターンエンドだ。だがこれで、てめぇの場にカードはない。次で決まりだ」
「おう兄貴、さっさとぶっ殺して他んとこ探しに行こうぜ。俺のターン!ドロー!」

もう一人の敵へと順番が回る。このターンを凌がなければ、小太郎に次はない。

「殴りゃあそれで終わりだが、使うに越したことはねぇ。《大狼雷神》の効果発動!オーバーレイユニットを使い、敵の手札を捨てさせる!」

雷撃が再び小太郎の手札を貫く。

「《アヴェレイジング・スキル》…クソッ、罠カードか。だが、どっちにしろこれで終わりだ!バトル、《大狼雷神》でダイレクトアタック!」

双頭の餓狼が火花を散らし猛進を始めた。一直線に敵を目指し、その姿が閃光に包まれていく。
だが、小太郎の目にはまだ闘志が宿っていた。

「まだだ!《アヴェレイジング・スキル》の効果を発動!このカード以外の《アヴェレイジング》カード1枚と共に墓地から除外し、レベル3以下の通常モンスターをデッキから特殊召喚できる!墓地から《アヴェレイジング・ライズ》をとこのカードを除外し、《ダークシェイド(風/星3/悪魔族/攻1000・守1000)》を守備表示で特殊召喚!」

三度、出現する新たな悪魔。機械仕掛けのコウモリの如きモンスターがどこからともなく小太郎の眼前へ飛来する。

「なにっ、俺が捨てさせた罠カードをっ…!ならそいつを攻撃だ《大狼雷神》!」

間髪入れず雷鳴が轟き、天より降り注いだ一撃に、翼の悪魔が消滅した。

「《大狼雷神》の効果!《大狼雷神》が場に存在する限り、自分フィールドの雷族モンスターは守備モンスターを攻撃した場合、貫通ダメージを与える!」
「!?」

稲妻の余波が小太郎へと迫り、その身を刺し貫いた。衝撃に耐えきれず、後方へと吹き飛ばされる。

「うぅっ…はぁ…はぁっ(LP1600→100)」
「雑魚のくせに無駄に粘りやがって、カードを1枚セット、ターンエンドだ」

寸前で命の灯を守りきったが、小太郎にもう手札はない。場にもカードはなく、もはや逆転のカードを引き当てるしか、生き残る術はなかった。

小太郎の、彼の心に“死”が迫っていた。この地獄において決闘に敗北することは、文字通り「死」を意味する。
敗者は全てを失い、その命すらも奪われるのだ。変わってしまった世の中で、小太郎は嫌というほどそれを痛感してきた。
負けたくない…死にたくない。倒れ込んだままの小太郎の脳裏にただその言葉だけが流れていく。

「兄さん…」

その刹那。大地に仰向けになったままの小太郎の眼前に、漆い翼が映った。それは闇そのものとも言うべき暗黒に満ちた一羽の巨鳥。その背に立つ男…小太郎にはそう見えた…が、透き通るような声で、小太郎の意識に語りかける。
「生きるとは殺戮であり、故に世は地獄である…そうは思わないか?」
唐突な問い。小太郎にその意味は理解できない。少し頭を起こし敵の男達を見るが、この漆い翼に反応を返している様子はない。
小太郎の返事を待つでもなく、男は続けた。
「テサラクトの闇がお前を試す。永劫回路を開き、命の価値を証明しろ」
「お、お前は…だれだ…」
辛うじて声をひねり出す。しかし、やはりと言うべきか男は応えない。
「ノーンがそれを待っている、まずは…」


『生きろ』


身体が闇に包まれた気がした。そして、その瞳が朱く、赤く、紅く染まり。


月が輝いていた。





      ◇




「小太郎が、帰ってない?」
牧場へと到着した遊牙一行だったが、依頼主である小太郎の姿はない。
彼と同居している唯一の肉親である彼の祖父「大神 六郎太」に話を聞くが、朝の配達から帰宅していないのだという。
「もう配達はとっくに終わってる時間なんじゃがな」
「何かあったのかもしれない、迎えに行こう」
遊牙の言葉にカケルたちも頷く。
「六郎じいさん、小太郎の配達ルートは?」
「ああ、地図を用意しよう。古い地図じゃから分かりづらいかもしれんが…」
「助かります」
さっそく出発しようと牧場を後にした遊牙たちだったが、ルナは一人不安そうな面持ちで遊牙の袖を引っ張る。
「どうした、ルナ?」
「なにか…嫌な予感がする」
「ん、どうした?早く行こうぜ」
カケルに急かされ、遊牙は「みんな一緒だから、大丈夫だ」とルナをたしなめた。ルナもそれに頷き一行は歩みを進める。


その時、ルナの腕輪が何かに呼応するように小さな光を放っていたが、誰もそれに気づくことはなかった。





     ◇





男たちは狼狽えていた。無理もない、まだ午前だというのに突然辺りが闇に包まれたのだから。
その天上には月が輝いていた。その光は大きく、巨きく、紅蓮にたぎっていて。
「なんだ、なにが起こった?」
「どうなってんだこいつは…!」

倒れ込んでいた小太郎は、まるで亡霊の如くゆらりと立ち上がると口から吐瀉物のようなものを漏らした。
それを目撃し、男たちは目を丸くする。それは、見たこともない未知の漆黒。まるで闇そのもののようにすべての光を吸収する、真の黒。
小太郎は余裕の表情を浮かべ、それを手の甲で拭い去ると紅に染まった瞳で敵を睥睨した。
「我のターン、ドロー」

小太郎は引いたカードを確認することなく、ディスクの上にセットする。

「我は魔法カード《アヴェレイジング・バーサーク》を発動。自分の場にモンスターが存在しない場合、墓地に眠るレベル3以下の通常モンスターを可能な限り特殊召喚する」

禍々しいヴェールに包まれた魔法カード。それを見た大柄な男は「なら《ドラグサウザー》を…」と言いかけたが、小太郎がそれを遮る。

「何度も言わせるな、《アヴェレイジング》カードの効果は無効化されない。我は墓地から《闇を司る影》《死神ブーメラン》《ダークシェイド》そして、《キラー・ザ・クロ―》を召喚」

墓地から昏い影たちが這い出ると、怒号を上げ戦場へ並び立った。

小柄な男は冷や汗をかきながらも、対抗策を打ち出した。

「リバースカード発動!罠カード《戦線復帰》!墓地のモンスターを守備表示で特殊召喚する!俺は墓地の《大狼雷鳴》を特殊召喚!そして、その効果を発動!こいつは墓地から特殊召喚された時、相手の表側表示モンスターを全て破壊する!」

轟雷の餓狼が蘇り雷を放ったが、悪魔の隊列には届かない。

「な、なんでだ…!?」
「《アヴェレイジング・バーサーク》の効果で召喚されたモンスターは、このターン戦闘と効果では破壊されない」

大柄な男は仲間に対し声を荒げる。

「おい、お前!俺のモンスターが!」
「あ、兄貴!すまねぇ!」

餓狼の放った雷撃は、《ドラグサウザー》をも貫いていた。断末魔を上げ、獣の竜が虚しく沈んでゆく。

殺気立ち闇のヴェールを纏う悪魔らを連れ、小太郎は瞬間、天を突き貫くような声で宣言する。



「現れろ!!月影より魂を喰らう月狂回路(ルナティックサーキット)!!」

黒き閃光が大地を穿ち、その扉(ゲート)は現れた。テサラクトの導きにより、次元間に流れる膨大なエネルギーを秘めたその回路がこの世の理を越えた力を現世へ齎す。

「アローヘッド確認!召喚条件はトークン以外のレベル3以下の通常モンスター4体!我は我が同胞(はらから)たる、4柱の悪魔をリンクマーカーへセット!サーキットコンバイン!!」

力無き魔物たちの怒りは粒子となり、次元間の永劫回路へと閉ざされていく。
その魂はエネルギーと具現し、再び開く永劫回路より、新たなる姿を象り、その怨嗟の翼が産まれ出る。


「怨獄の扉開きし時、無力なる者達の慟哭が昇華する。愚鈍なる豪者を一粒たりとも残さず屠り、その翼で天を舞え!!!リンク召喚!!」

「現出せよ!!!《月狂怨竜 アヴェレイジング・ドラゴン(闇/L4/リンク/幻竜族/攻?)》!!!」



次回 第4話「怨獄の翼」



登場オリカ詳細

・《幻狼竜ドラグサウザー》
闇/星7/ドラゴン族/シンクロ/攻2400・守1000
ドラゴン族チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:相手が魔法カードの効果を発動した時、自分のフィールド・墓地のドラゴン族モンスター1体を持ち主のデッキに戻して発動できる。その効果を無効にして除外する。

・《ワイバーン・ストライダー》
闇/星4/ドラゴン族/攻1900・守100
①:1ターンに1度、自分フィールドの表側表示の魔法・罠カード1枚を墓地に送って発動できる。このターン、相手は墓地に送ったカードと同じ種類(魔法・罠カード)の効果を発動できない。自分フィールドにこのカード以外のドラゴン族モンスターが存在する場合、相手はこの効果の発動に対してカードの効果を発動できない。

・《雷雲の轟き》
通常魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分は雷族モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。
①:手札からレベル7以上の雷族モンスター1体を特殊召喚する。相手フィールドに特殊召喚されたモンスターが存在する場合、さらに特殊召喚したモンスターの同名モンスター1体をデッキから効果を無効にして特殊召喚できる。この効果でデッキからモンスターを特殊召喚した場合、相手は2000LP回復する。

・《大狼雷神》
光/星7/雷族/エクシーズ/攻2500・守2000
雷族レベル7モンスター×2
このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分メインフェイズにこのカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。相手の手札をランダムに1枚選んで墓地に送る。この効果で墓地に送ったカードがモンスターカードだった場合、相手に1000ダメージを与える。
②:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分の雷族モンスターが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ相手に戦闘ダメージを与える。

・《アヴェレイジング・ライズ》
速攻魔法
自分の墓地にレベル3以下の通常モンスターが存在する場合、このカードの効果は無効化されない。このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:デッキから自分の墓地に同名モンスターが存在しないレベル3以下の通常モンスター1体を特殊召喚する。②:自分メインフェイズに墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキからレベル3以下の通常モンスター1体を墓地に送る。

・《アヴェレイジング・バーサーク》
通常魔法
自分の墓地にレベル3以下の通常モンスターが存在する場合、このカードの効果は無効化されない。このカード名のカードは1ターンに1度しか発動できない。
①:自分フィールドのモンスターが、存在しない場合またはトークン以外のレベル3以下の通常モンスターのみの場合に発動できる。自分の墓地のレベル3以下の通常モンスターを可能な限り特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターは、このターン戦闘・効果では破壊されない。この効果の発動後、ターン終了時まで自分はモンスターを1回しか特殊召喚できない。

・《アヴェレイジング・スキル》
通常罠
自分の墓地にレベル3以下の通常モンスターが存在する場合、このカードの効果は無効化されない。このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドのトークン以外のレベル3以下の通常モンスター1体を対象として発動できる。このターン、そのモンスターが相手に戦闘ダメージを与える度に、デッキから「アヴェレイジング」魔法カード1枚(同名カードは1枚まで)を手札に加える。②:自分メインフェイズまたは相手バトルフェイズに墓地のこのカードと「アヴェレイジング・スキル」以外の「アヴェレイジング」カード1枚を除外して発動できる。デッキからレベル3以下の通常モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターは、エンドフェイズに持ち主の手札に戻る。
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ギガプラント
嘘だろ……?数年振りに戻ってきたらまさかの更新だと!?
よ、読み返さなきゃ (2023-04-30 11:58)

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