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HOME > 遊戯王SS一覧 > 4th days 入学式と新たな出会い

4th days 入学式と新たな出会い 作:蓮木

「さて、今日がアカデミアの始業式でしたね。準備はちゃんと済ませてありますか?」

「もっちろん! ちゃんと済ませてますよー!」

「必要な物もちゃんと用意してありますし、問題ありませんよ。」

ある日の朝、私達にとっては大事な日だ。店長さんが私達の朝食用のパンやスクランブルエッグを用意しながら、私達に話しかけてきた。今日はアカデミアの入学式。試験デュエルから見ると約2週間ほど時間は経っている。入学式の日が来るまでの間、私達は朝方から夕方ぐらいまでは喫茶店の手伝いをして、夕方から夜までは2人で修理して貰ったデュエルテーブルを用いてひたすらにデュエルというそれなりにハードかつ密度の濃い生活をしていた。その間に新しく制服の採寸や必要な教科書データ等の購入等も済ませていた。

「なら大丈夫ですね、私も後で入学式の方に向かいますので先に行っていて下さい。」

「・・・? もしかして店長さんもわざわざ私達の為に来てくれるんですか?」

「ええ、もしかして来たらダメでしたか? もしイヤでしたらやめておきますけど・・・折角ここに住んでもらってますし、参加した方がよろしいのかなと思いましてね。」

店長さんの顔が少し曇る。私達が此処でお世話になっているから、という事で折角だったら華々しい姿を手元にあるカメラに収めようとしていたみたいだ。それも余計なお世話であったというのなら取り止めるという話を切り出した。

「別に問題ないですよー! だったらやっぱり・・・今までの店長さんじゃダメですね、これからは『お父さん』と呼ぶことにします! それで祈ちゃんも大丈夫ですよね?」

「ええと、それはそれで別の問題が・・・」

「じゃあ『お父さん』、私達はご飯を食べたら先に出発しますね。」

こっちからして見れば、大歓迎だった。別に問題は無かったのだが折角だったらよそよそしく呼ぶのではなくもっと親しい名前で呼ぼうと考えた。そうした時にすぐに頭が回り行動出来るのが、私の友人である雛だ。颯爽と店長さんではなく、お父さんと呼ぶことを提案した。こういう時の雛は私以上に頭が回る。私は雛の意見に乗り、お父さんと呼ぶことにした。店長さん改めてお父さんはかなり恥ずかしそうにしながらも、この提案を受け入れた。初めて出会ってから、2週間近くたって、ようやく私達との距離が縮まった気がした。

「そうしたら二人の事も祈さんや雛さんではなく、呼び捨てにした方が良いですかね?」

「もっちろーんだよ、おとーさん。」

「はい、そう呼んで下さい。お父さん。」

お父さんの方も私達の事を呼び捨てで呼んで良いかと尋ね、私達に提案した。勿論、私達が拒否する理由も存在しない。

「じゃあ・・・祈 雛、二人ともこの鍵を受け取って下さい。ここの鍵です。あの時デュエルテーブルに置いてあったカードから青眼の白龍と真紅眼の黒竜のキーホルダーも作ってみて見ましたが、どうですか?」

「おとーさんすごーい! やっぱり手先が器用なんだね! じゃあ、真紅眼の黒竜の方は私のにして祈ちゃんには青眼の白龍をプレゼントしよう。」

「そういえば私達ここの鍵持っていませんでしたよね。ありがとうございます・・・って雛! そろそろ時間だから行かなくちゃ!」

「それじゃあ先に行ってくるねー!」

私達はお父さんからこの家の鍵を受け取ると、雛が真紅眼の黒竜のキーホルダー付きのやつを選んだ。もう一つの青眼の白龍のキーホルダー付きの鍵を私に雛が投げ渡してきた。それを受け取ると、手元に付けている腕時計を見る。新入生の受付時間まで時間がもうない。入学式の時間までが刻一刻と迫って来ているから急がないと。そう思い隣のテーブルに置いていた荷物とデュエルディスクを急いで回収して、アカデミアへと急いで向かった。


「何とか間に合った・・・次からは家を出る時間にも気を付けていかないとね。」

「あっははー、いやー大変だった大変だった。でもやっぱり祈は運動というか体力がないねえ。」

私達はそれなりに急いで向かったおかげか、新入生が集合する時間の10分前程に到着する事が出来た。ギリギリという程ギリギリでは無かったものの、当初の余裕がある感じで行こうと思ったら実際は最後間に合わなさそうで走るというかなりの本末転倒な行動になってしまった。

「仕方ないでしょ・・・雛と違ってそこまで運動得意じゃないし、体力もそんなにないし、そしてデュエルディスクも重いし。どう考えても万人向けじゃないのよ、デュエルディスクって。」

余裕そうな雛を少し恨みつつ、息も切れ切れながら話す。隣の雛は身体能力が抜群に高く、スポーツ全般も得意だ。走る、飛ぶ、泳ぐといった事が大得意で憧れる。地元にいた頃は大体何処かの部活動の手伝いであったり、個人で勝手に大会にエントリーして入賞して帰って来たりと友人ながらハチャメチャしてるなぁと思う。反面私はてんでスポーツも運動もダメだ。嫌いではないが、運動神経が悪いというか、小学生の頃からほとんど成長してない体では運動も出来ようにもやりにくい。反面、どんなに飲み食いしてもほとんど変化のないのが年頃の女性としては嬉しい限りなのだが。成長しない、変化しないというのは羨ましいと思う人もいるが、私は辛いだけだと思う。現状、小学生の後半頃からほとんど成長していない私が思ってるし、みんなが当たり前に身に付けているデュエルディスクだって、正直私にとっては非常に重い。デュエルディスクの大きさは変わらないのに、身に付ける人の体格に合わせて設計とかしてくれれば良いのにと、愚痴も零したくなる。

「まぁ、昔からその体つきから変わってないものねー。疲れるのも仕方ないか・・・あっ、私達同じクラスみたいだよー!」

私の事をいつものように心配しながら、入口付近にあった端末に学生証を読み込ませる。登下校口にある端末に学生証を翳すことで、いつ登校したか下校したかなどといった情報が反映される。先に学生証を翳していた雛が私達が同じクラスである事や、これから始まる入学式の席について教えてくれた。私も雛と同じく登下校口にある端末に学生証を読み取らせると、入学式へと急いで向かう。


「ーーこれにて、本年度のデュエルアカデミア入学式を終わります。新入生の皆様が退出します。皆様拍手でお送り下さい!」

パチパチパチと多くの拍手に包まれながら私達新入生は退出し、入学式は無事に終わった。途中校長先生からの話や生徒会長・・・の代理で生徒会副会長の人からの話もあった。そして教職員紹介も大きな役職の所だけは紹介されたが、驚くのは私の実技デュエルを審査していた押枝先生がデュエルアカデミアでの実技最高責任者だった事だ。昔読んだ雑誌とかでは、かなり個性的な先生等が担当しているイメージがとても強く、隣にいた雛もかなりふつーな人だねと私に聞こえるくらいの声の大きさで呟いていた。

「ーーはい、ではホームルームを始めさせて貰いましょうか。という前に先にセンセの自己紹介からやらんとアカンな。俺は関戸 貫紀(せきど たかのり)と言います、専門は地理だからか他のセンセや生徒からも赤道センセなんか呼ばれたりもするけど、みんな気楽にやってこーなー!」

私達の入学式が無事に終わり、先生に引率して貰うことでこれから1年お世話になる教室へと案内された。取り敢えず好きに座って座ってと指示されたので私達は好き好きに椅子に座った。全員が席に座ったのを確認して、若い男性教諭が自分の名前や専門科目について話し始めた。

「それじゃあ、席に座ってるそっからこうダーッと自己紹介をして貰お思いましたけどーーやっぱりやめるわ。」

先生の軽い自己紹介が終わると右端の方から順番に自己紹介してくれ・・・・・・という流れだったが、急に止めた。自己紹介もせずにこのクラスは進んでいくのだろうか?

「関戸先生、自己紹介しなくて良いんですか?」

メガネを掛けた男性が先生に質問する。

「自己紹介はして貰おと思うけどフツーな感じは何かイヤやしな。そんじゃ、今からホームルーム改め1-Cのみんなの事がよーく分かるオリエンテーションを開始するぞ!」

「「「「ーーーーはい?」」」」

この日、初めてあった人達ばかりだが、私や雛を含めてここに居たクラスメイト40人が同じ反応をした。

「ルールは簡単、みんなに入学する前に書いてもらった筆記試験の結果を用いてやるんやけどーー」

「関戸先生、オリエンテーションはまたの機会にして普通に自己紹介を進めて下さい。」

私達の先生はこんな破天荒な先生かと誰もが思っていたが途中で遮られた。入学式で紹介されていた押枝先生だ。

「このクラスの副担任を担当します、押枝 学(おしえだ がく)と言います。担当は基礎デュエル概論 基礎デッキ構築理論などと言った1年生で行う座学理論全般と、中間考査や期末考査で行われる実技デュエルで良く会うことになるかと思います。皆さんのこれからの成長を期待していますよ。」

「・・・と、折角昨日ぐらいから考えてたオリエンテーションは中止になったので前の方の扉に近い方の人からドンドン自己紹介しちゃってくださーい。好きなカードとかゆーてくれた方がより仲良ーなれるんじゃない? という訳でさっき質問してくれたメガネ君からどーぞ。」

もしかしてこの緩い関戸先生の手網取りの為に押枝先生が選ばれたのではないのか? 初めてあった生徒達でも察せられるようなイメージを与えつつ、緩い感じは変えることなく自己紹介を促す。そうして指名された人からドンドン自己紹介をしていく。

「遊儀 祈 です。好きなカードは色々ありますが、儀式のカードが特に好きです。これからよろしくお願いします。」

「遠見 雛 です! 好きなカードは真紅眼の黒竜! 使うデッキも真紅眼デッキです! みんなよろしくねー」

「ほな、みんな自己紹介ありがとな。一応今日やらなアカン事は済ませたけど、こっからはこれからの大まかな予定について教えるからなー。デュエルディスクに送った資料見てくれ。」

私達も自己紹介を終えるとちょうど最後であったため先生が緩く締めた。今日はこれで解散でも良いのだけど、と言いながらも私達のデュエルディスクに資料を送ってくる。デュエルディスク1つで資料の送付や簡単な連絡も済ませられるのだから便利だと思うしかない。

「一応大きな予定だけ言うけど、大体今から3ヶ月後に中間考査、その後からすぐに1ヶ月くらいの夏休みや。そして夏休み終わってすぐに適正テストをやる予定やで。」

「適正テストってなんですかー? 中間考査と何が違うんです?」

私達に送った資料を先生も見つつ、これからの予定を説明していく。途中で気になることがあったのか、雛が質問をする。

「あー、それは実技試験か筆記試験かで大きく分けてるんや。うちのガッコでは最初に筆記試験をやって休みの後に実技試験ってなる。で、その結果を見ながら授業でやる内容とかも調整するって訳や。」

「なるほどー、でもなんで筆記が先で実技試験が休み挟んだ後なんです?」

「それは、みんな休みで遊び呆けて前期にやった内容すっぽかさないようにやで。」

理由は分かったが嫌らしい理由だ。生徒達が遊び呆けない策だったとは。それでも遊ぶ人は遊ぶだろうが、何も言わないよりはマシなのかも知れない。

「と言うわけでこれで本当にホームルームはおしまいや。みんなこの後は自由にしてくれて問題ないで。その代わり帰る時にはきちんと端末に学生証タッチしといてなー。ほな、解散で!」

他に質問はないかと尋ねて雛以外に無かったため、早々と関戸先生はホームルームを切り上げて解散とした。後は自由してくれて大丈夫だが帰る時の学生証タッチだけ忘れないでな、と告げて颯爽と立ち去っていった。残ったクラスメイトはそれぞれ近くの人と話したり、早々と帰る人もいる。私はこれからどうするかなあ。学校の中を見るのもアリだし、早めに帰るのもアリだ。個人的には少し学校を探索したいと思った。まだ隣にいるはずだから取り敢えず声を掛けよう。

「ーー雛、これからどうす・・・る?」

「分かる分かる! 確かにストリートを駆け抜ける時特有の気持ち良さが感じられるよね!」

「分かってくれるか! オレの周りだとこの喜びを分かってくれる人が少なくてさー!」

雛が隣の席にいる。そこまでは良い、知らない女性と話している。オレと言ってるから男子かと思ったら女子だ。綺麗な翡翠色の髪が綺麗にショートカットされていて思わず見惚れた。身長は雛と同じぐらいだから170センチ後半台っぽそう、そんな女性が雛と話していた。

「この子が私の大親友の祈ちゃんだよー! ちっちゃくて可愛いんだー」

「おおっ! この子がヒナの言っていたイノリかー! 本当にちっちゃくて可愛いなぁーー!」

私の姿が目に入ったのか、今話してる人に私の事を伝えた。そうするとその女性は振り返り、私の事をぎゅっと抱きしめながらわしゃわしゃと頭を撫でてきた。この女性も女性で力強いし、雛と比べてわしゃわしゃと頭を撫でてくるし・・・小動物か何かだと間違えてないか?

「あーー気持ち良かった! お前がイノリだろ? オレは立花 想(たちばな そう)だ! 好きなように呼んでくれよな!」

「え、まぁ・・・はい。遊儀 祈です。では想さん、出来れば強く抱きしめたり頭をわしゃわしゃとしないようにして下さい。」

「おう、分かった!」

絶対分かってない。想さんは雛と同じイケイケタイプの様な予感がする。これは私が諦めるしかなさそうかも・・・と内心で思いながら話をする。

「この後なんだけど、もし想さんも良ければ学校内を散策しない?」

「おおっ! いいぞ! せっかくだからイノリ、ヒナ、デュエルしないか!」

「いいねー! それじゃ、デュエルスペースにGOだよGO!」

私が学校内を散策しないかと提案すると、学校内散策はいきなりデュエルに変わった。雛もノリノリで受けてるし、想さんと二人で勢い良く出ていった。

「ああもう、どうしてこう勢いとかで突き進みそうな強い人ばかりが私の周りには集まりやすいんだ・・・」

私は自分の周りの友人を見て、そういう人しか集まらないのかなあと少し思う。だが、こんな友人たちがいればこの先何があっても大丈夫だろう。取り敢えずまずは、デュエルスペースに向かった直球勝負な友人二人を、追いかける事にする。
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