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第八話:陰謀 作:粉玉采
「ねえ希ちゃん。藤原先生、遅いね。もう帰りのホームルームの時間なのに…」
「あのみかん箱を運ぶのに手間取っているんじゃない?」
「それはないと思うけど…」
約六時間の授業が終わり生徒の誰もが待っているであろう帰りのホームルーム。その進行を務めるはずの教師がまだ来ないため、生徒たちは席を離れ友達同士で放課後どこへ行くか会議している。
ホームルーム開始からもう15分経過している。さすがに誰か藤原先生を呼びに行った方がいいんじゃないか(自分は行かないが)と希が思ったその時。
「すまぬ!遅くなった!」
引き戸が勢いよく開き、小さな教師が入ってくる。愛用のみかん箱も一緒だ。藤原の来訪とともに生徒たちが自分の席に戻る。
「センセー遅かったすねー、何かあったんすか?」
男子の一人が問う。15分も遅れての登場だというのに不満を全く感じさせないが実際は早く帰りたい気持ちでいっぱいだろう。実際希ももう帰りたいと思っていた。
「実はの…この華札町全体を会場にしてデュエル大会が開かれることになったのじゃ!」
「その関係でしばらく学校が休校になるぞ!」
とんでもない一報。
生徒たちは驚き隣の友達と顔を見合わせたり、一人ガッツポーズしたりしていた。
「おっと浮かれるのはまだはやいぞ!何せこの大会には学校行事として生徒全員を参加させるからな!無論教師も参加するから覚悟するんじゃぞ!」
『だとさ、お前的にはどう見る?』
「面白そうかそうでないかで見ると…面倒くさそうかな?成績に響かないなら一回戦あたりでさっさと負けてこようかな…」
『おいおい…』
「一緒に頑張ろうね!希ちゃん!」
「え」
「え?」
歴史上でも滅多にないであろうイベントに歓喜する生徒たちを見て、藤原がぼそりと呟く。
「しかし、エンゼルウィング社とやらも面白い事をするもんじゃのう。町全体をデュエル会場にするとは…」
一瞬の、誰に聞かせるわけでもない独り言のつもりだったのだが、偶然それが希の耳に届く。
「!?今先生、エンゼルウィングって!?」
希が勢いよく立ち上がる。
それによって教室の空気が一変し、生徒の注目が一気に希に移る。
「う、うむ。確かにそう言ったがエンゼルウィング社がどうかしたのか?」
「エンゼルウィングって…希ちゃん…」
『神愛人の親父が社長やってるとこだよな…』
(アルコを操った張本人にして、アデスを狙う奴ら…これはまさか奴らの…)
「と、とにかく、ルールを記した紙がここにあるから各自確認しておくように!それではホームルームを締めるぞ!」
その後、希、真矢、アルコ、神愛人の四人とアデス、アイエルの二人?は校庭に集合し作戦を練り始めた。
「神愛人、これどう思う?」
「十中八九罠だろうな、このルールを見てくれ、刺客を送るにはうってつけだ。」
・予選ではお互いに『エンゼルウィング』バッジを賭け、デュエルの敗者は勝者にバッジを差し出さなければならない。
「?これのどこがうってつけなの?」
「トーナメント方式じゃなく、こうしたサバイバル方式にしておけば、公衆の目に届かないところで俺たちを始末できるからだな、しっかし日本には騎士道ならぬ武士道を貫く男はいないのか!?」
「だが、逆に刺客を倒すことができれば父の…いや、聖道 志門の情報を聞き出せるかもしれない。」
「要は向かってきたら倒せってことでしょ?単純ね、面倒がなくていいわ。」
『ただ、志門が普通のデュエリストを用意してくるとは思えません。』
「だろうな…志門は本当に幅広くデュエリストを集めては洗脳カードを使って操っていた。もしかしたら犯罪者も混じっているかも…」
「あー。なんか急に面倒になってきたわね。」
力なく空を見上げる希。
「おい!あの時快諾した君はどこいったんだ!」
『まあ気を悪くしたなら謝っておくぜ。こういうやつなんだよ希は。それに本当にやる気なかったら黙って帰ってるさ。』
結局、特にこれといった策が浮かぶわけもなく、『刺客に気をつけろ』これだけ覚えて帰ることになった。
所変わってエンゼルウィング社のとある一室。四方をガラスケースに囲まれた部屋で、女性社員達が二人の少女の着替えを、いや、『着せ替え』を行なっていた。
目を開けず、ただただじっと機械の椅子に座る少女の下着、上着を取り替え、髪を整え、肌の手入れを行う。これだけやっても少女はまだ目覚めない。
それもそのはず。
『この二人の少女はすでに死んでいる』のだ。
「社長、終わりました。」
一人の女性社員がガラスの向こうでその着せ替えの様子を見ていたスーツの男性に報告する。
「ご苦労、下がっていい。」
「失礼します。」
社長、聖道志門の指示に従い、女性社員はその部屋から出て行く。
「…藍(あい)、絵留(える)、今日も綺麗だな。すぐに生き返らせてあげるからな。早く…また、お父さんと呼んでおくれ。」
ガラスの向こうの少女は何も答えない。
ここに愛など存在しない。
あるのは、空気と、死と、人間と。
静かな狂気だけであった。
「あのみかん箱を運ぶのに手間取っているんじゃない?」
「それはないと思うけど…」
約六時間の授業が終わり生徒の誰もが待っているであろう帰りのホームルーム。その進行を務めるはずの教師がまだ来ないため、生徒たちは席を離れ友達同士で放課後どこへ行くか会議している。
ホームルーム開始からもう15分経過している。さすがに誰か藤原先生を呼びに行った方がいいんじゃないか(自分は行かないが)と希が思ったその時。
「すまぬ!遅くなった!」
引き戸が勢いよく開き、小さな教師が入ってくる。愛用のみかん箱も一緒だ。藤原の来訪とともに生徒たちが自分の席に戻る。
「センセー遅かったすねー、何かあったんすか?」
男子の一人が問う。15分も遅れての登場だというのに不満を全く感じさせないが実際は早く帰りたい気持ちでいっぱいだろう。実際希ももう帰りたいと思っていた。
「実はの…この華札町全体を会場にしてデュエル大会が開かれることになったのじゃ!」
「その関係でしばらく学校が休校になるぞ!」
とんでもない一報。
生徒たちは驚き隣の友達と顔を見合わせたり、一人ガッツポーズしたりしていた。
「おっと浮かれるのはまだはやいぞ!何せこの大会には学校行事として生徒全員を参加させるからな!無論教師も参加するから覚悟するんじゃぞ!」
『だとさ、お前的にはどう見る?』
「面白そうかそうでないかで見ると…面倒くさそうかな?成績に響かないなら一回戦あたりでさっさと負けてこようかな…」
『おいおい…』
「一緒に頑張ろうね!希ちゃん!」
「え」
「え?」
歴史上でも滅多にないであろうイベントに歓喜する生徒たちを見て、藤原がぼそりと呟く。
「しかし、エンゼルウィング社とやらも面白い事をするもんじゃのう。町全体をデュエル会場にするとは…」
一瞬の、誰に聞かせるわけでもない独り言のつもりだったのだが、偶然それが希の耳に届く。
「!?今先生、エンゼルウィングって!?」
希が勢いよく立ち上がる。
それによって教室の空気が一変し、生徒の注目が一気に希に移る。
「う、うむ。確かにそう言ったがエンゼルウィング社がどうかしたのか?」
「エンゼルウィングって…希ちゃん…」
『神愛人の親父が社長やってるとこだよな…』
(アルコを操った張本人にして、アデスを狙う奴ら…これはまさか奴らの…)
「と、とにかく、ルールを記した紙がここにあるから各自確認しておくように!それではホームルームを締めるぞ!」
その後、希、真矢、アルコ、神愛人の四人とアデス、アイエルの二人?は校庭に集合し作戦を練り始めた。
「神愛人、これどう思う?」
「十中八九罠だろうな、このルールを見てくれ、刺客を送るにはうってつけだ。」
・予選ではお互いに『エンゼルウィング』バッジを賭け、デュエルの敗者は勝者にバッジを差し出さなければならない。
「?これのどこがうってつけなの?」
「トーナメント方式じゃなく、こうしたサバイバル方式にしておけば、公衆の目に届かないところで俺たちを始末できるからだな、しっかし日本には騎士道ならぬ武士道を貫く男はいないのか!?」
「だが、逆に刺客を倒すことができれば父の…いや、聖道 志門の情報を聞き出せるかもしれない。」
「要は向かってきたら倒せってことでしょ?単純ね、面倒がなくていいわ。」
『ただ、志門が普通のデュエリストを用意してくるとは思えません。』
「だろうな…志門は本当に幅広くデュエリストを集めては洗脳カードを使って操っていた。もしかしたら犯罪者も混じっているかも…」
「あー。なんか急に面倒になってきたわね。」
力なく空を見上げる希。
「おい!あの時快諾した君はどこいったんだ!」
『まあ気を悪くしたなら謝っておくぜ。こういうやつなんだよ希は。それに本当にやる気なかったら黙って帰ってるさ。』
結局、特にこれといった策が浮かぶわけもなく、『刺客に気をつけろ』これだけ覚えて帰ることになった。
所変わってエンゼルウィング社のとある一室。四方をガラスケースに囲まれた部屋で、女性社員達が二人の少女の着替えを、いや、『着せ替え』を行なっていた。
目を開けず、ただただじっと機械の椅子に座る少女の下着、上着を取り替え、髪を整え、肌の手入れを行う。これだけやっても少女はまだ目覚めない。
それもそのはず。
『この二人の少女はすでに死んでいる』のだ。
「社長、終わりました。」
一人の女性社員がガラスの向こうでその着せ替えの様子を見ていたスーツの男性に報告する。
「ご苦労、下がっていい。」
「失礼します。」
社長、聖道志門の指示に従い、女性社員はその部屋から出て行く。
「…藍(あい)、絵留(える)、今日も綺麗だな。すぐに生き返らせてあげるからな。早く…また、お父さんと呼んでおくれ。」
ガラスの向こうの少女は何も答えない。
ここに愛など存在しない。
あるのは、空気と、死と、人間と。
静かな狂気だけであった。
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