第２話　プロセス召喚とシンバ・プライド社　作：提馬風

――軽多市、シンバ・プライド社 プライドタワー、モニタールーム――

？？？「神馬様、我が社のデュエルディスクシステムに不審なデュエルデータが確認されました。
　　　モンスターカード、『大いなる記憶の樹』。召喚情報……プロセス？」

青いスーツに身を包んだその男――大橋は、後ろの青年、神馬に報告をする。

神馬「プロセス召喚……？
　　　大橋、もう少し詳しくスキャンしてくれ」

神馬はその乱れた茶髪を掻きむしりながら、大橋にそう言った。

大橋「了解」

ピピピ……

大橋「場所はこの近くのゲームセンター前。
　　　ユーザーネーム『YUHI』によって召喚されています。
　　　『YUHI』といいますと、我が社のデュエルアーケードのトップランクデュエリストのことと思われます。
　　　現在のランキングは全国55位……」

神馬「大橋、そうじゃない。カードの解析だ」

大橋「かしこまりました」

ピピピ……

ポヨン

神馬「きたか！？」

巨大モニターに映された新たなタブに、そのカードの鮮明な画像が示された。

大いなる記憶の樹　レベル7
植物族／プロセス／効果
破壊されたレベル7モンスター
①：このカードがプロセス召喚に成功した場合、除外されている相手のカード４枚を相手の墓地に戻して発動できる。このカードの攻撃力・守備力は倍になる。②：１ターンに１度、自分メインフェイズに発動できる。自分フィールドに「エルシードトークン」（植物族・星１・攻／守０）を可能な限り特殊召喚する。その後、この効果で特殊召喚したトークンの数だけ、相手のデッキの上からカードを除外する。
攻撃力 2000　守備力 2500


神馬「……なんだ、これは。
　　　宮猫、猪上、見てみろ」

神馬は同室にいた2人に声をかけた。
小柄で小さく少し日に焼けたのが宮猫、太っていて大柄、さらに色黒なのが猪上だ。

宮猫「こいつは……やべぇな。とりあえずモンスターの色合いが気持ち悪ぃ。
　　　でもって、それを見せつけるように枠が半透明ってのもイヤだな」

猪上「よくもまあ趣味の悪いカード作るよなぁ」ﾌﾞｯ

神馬「ここを臭くするのはやめてくれないか？ 猪上」

猪上「ごめん。
　　　でもまあ、エラーを吐いたわけじゃないんだろ？
　　　心配ないっての。なぁ、宮猫？」

宮猫「その通り！ 心配ねぇって、な？」

神馬「エラーを吐いていないからこそ、だ。
　　　明らかに対応しそうもないのに。どうして順応している？
　　　大橋、エネルギーの波形を記録しておいてくれ」

大橋「とっくにやってますよ神馬様。
　　　わたくしの推測としては、プロセスモンスターのエネルギーが過剰であることが順応の原因だと思います。
　　　あまりにも強いエネルギーが、システムを歪めているのです」

神馬「そんな事が……。」

ピピッ
ヴィーン

神馬「おや、こんな時に来客か？」

モニタールームに入ってきたのは、神馬と同い年くらいの女性。
高校の制服を来ていて、薄桃色の髪を後ろ結びにしている。

「お邪魔しまーす！」

神馬「なんだ、奈良か」

奈良「せっかくあたしが来たのに。なんだか塩対応ね？」

神馬「どうしてもね。なにせ、未知のカードがシステムに入り込んでしまったんだから」

奈良「未知のカード？」

神馬「プロセスモンスター。除外ゾーンから突如現れる、奇怪な姿のモンスターだ。
　　　使っているのはなんと、アーケードユーザーの女子中学生。『YUHI』って知ってるか？」

奈良「ああ、『エルフ』と植物族の使い手ね。あの子がディスクでデュエルをしているの？」

神馬「変わったデッキだな」

奈良「アーケードで何度か当たったことがあるけど、腕前は確かね。
　　　デュエルモンスターズ界のパイオニア、と言っても過言じゃないかも」

神馬「プライドタワーのデュエル・キングに相応しい、とでも言いたげだね。
　　　でもそれでいいのか？ 彼女は危険因子ともなりうる」

奈良「キングの話になると、バカみたいに慎重なんだから。
　　　まあ、55位がキングというのも微妙な話ね」

神馬「順位も絶対ではない。順位が高いデュエリストより、才能のある者もいるかもしれない。
　　　それこそ、彼女を超えるデュエリストがいれば、その人がよりキングにふさわし……」


神馬「そうだ。優秀なデュエリストを、彼女と戦わせればいい！」

大橋「ひゃあっ！？
　　　まったく、いきなり大きい声出さないでくださいよもう……」

神馬「ごめんよ、大橋」

奈良「それで神馬、一体何を思いついたの？」

神馬「大会を開くんだよ。彼女を招待してね。いよいよキングを決めるんだ。
　　　そうと決まれば話は早い。奈良、彼女のところへ行って、大会に誘ってみてくれないか？
　　　彼女は今、近くのゲームセンターの前でデュエルしている」

奈良「もっちろん！
　　　わ〜、『YUHI』のデュエルを最前列で観られるんだ！ そうと決まれば、早速行ってきます！」ﾀﾀｯ


大橋「奈良様、驚異的な行動力ですね……」

神馬「単純なんだよ、彼女は」ﾌﾌｯ


―――


遊陽「私の、ターン！！」ｼｬｷﾝ

遊陽「私は手札から、儀式魔法『杜の化身の目覚め』を発動！
　　　フィールドの綿毛トークン2体とアイヴィ・ガードナーをリリースする！」

杜の化身の目覚め　儀式魔法
「杜の化身」儀式モンスターの降臨に必要。①：レベルの合計が儀式召喚するモンスターのレベルと同じになるように、自分の手札・フィールドのモンスターをリリースし、手札から「杜の化身」儀式モンスター１体を儀式召喚する。②：自分フィールドの「杜の化身」モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる。

遊陽「杜の怒りを司る一輪の花！
　　　儀式召喚！ 降臨せよ、レベル4！『杜の化身-ブルーム・ヴルム』！」

ブルーム・ヴルム「グジュウゥゥ！！」☆4 ATK2300

地面から勢いよく生えてきた植物は、やがてドラゴンの姿を成した。
花弁が襟巻きのように広がり、顔が花を貫いたようになっている。

杜の化身-ブルーム・ヴルム　レベル4　地
植物族／儀式／効果
「杜の化身」儀式魔法カードにより降臨。このカード名の②の効果は１ターンに１度しか使用できない。①：１ターンに１度、自分フィールドのレベル２以下の植物族モンスターを任意の数だけリリースして発動できる。このカードの攻撃力はリリースしたモンスターの数×２００アップする。②：このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「杜の化身」儀式モンスター１体を手札に加える。
攻撃力 2300　守備力 1300

遊陽「さらに、大いなる記憶の樹の効果を発動！
　　　『エルシードトークン』3体を特殊召喚し、ヒロのデッキを上から3枚除外する！」

『大いなる記憶の樹』から、それまた同じような色合いの、
果実のような種子のような、丸いものが3つ落とされた。

エルシードトークン「……」☆1 DEF0
エルシードトークン「……」☆1 DEF0
エルシードトークン「……」☆1 DEF0

遊陽「そしてっ！ ブルーム・ヴルムの効果でトークン3体をリリース！
　　　そして１体につき攻撃力200アップする！」

ブルーム・ヴルム「グジュウゥゥ！！」ATK2900

ヒロ「何かと思えば……、それじゃあ不滅の軍神の攻撃力には届かない！ 俺のこの布陣を突破することは不可能だ！」

遊陽「ならもし、『突破する必要がない』としたら？」

ヒロ「なっ……！？」

遊陽「私はエルフの守護術を墓地へ送り……『暴君の改心』を発動する！
　　　これにより、このターンにリリースされた通常モンスター……
　　　綿毛トークン2体、エルシードトークン3体の計5体の分だけ相手はデッキからドローする！」

暴君の改心　通常魔法
このカード名のカードは１ターンに１枚しか発動できない。①：自分フィールドの表側表示の罠カード１枚を墓地へ送って発動できる。このターンリリースされた通常モンスターの数だけ相手はデッキからドローする。このカードの発動後、自分はモンスターをリリースできない。

ヒロ「俺にドローさせるだと……？」

遊陽「さらに、魔法カード『手札抹殺』を発動！
　　　このカードの効果は知ってるよね。私は手札を捨てることはできない。そして、ヒロの手札は10枚！
　　　さらに10枚を引き直してもらうよ！」

ヒロ「まさか、デッキ破壊を狙ってくるとはな……。
　　　だが、詰めが甘い。俺のデッキはまだ残って……」

ヒロ「……いや、違う！」

遊陽「気付いたね。私は墓地からエルフ・ソーサラーを除外！
　　　これにより、墓地の通常魔法を『再生する』！ 私が選択するのは、手札抹殺！！」

遊陽「そして、それを発動！ ヒロは10枚の手札を捨て、10ドローする！」

HIRO デッキ0
デッキ枚数が不足しています

ヒロ「んなっ……！？」ｽｶｯ

WINNER　YUHI


パチパチ……

デュエルの勝者である遊陽に向けて、1人から拍手が贈られた。
もちろん、膝から崩れ落ちたヒロではない。

奈良「あたしはシンバ・プライド社からの使者、奈良だ。今のデュエル、途中からだけど見せてもらったよ。
　　　どうかな、神馬が主催するデュエル大会に出てみる気はない？」

遊陽「……えぇ〜〜～っ！？」