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001―疾走の決闘者― 作:青き眼の俺氏
世界が滅亡するまで、あと一年。
人々は何のために生きるのか、分からなくなっていた。
ある者は絶望して自らの命を断ち、ある者は自暴自棄になり罪を犯し、ある者はわずかな希望を見出そうとしていた。だから、世界は荒れていた。
風間遊紀はどうなのか、と言うと、希望を見出そうとしている者だった。…もっとも、彼は記憶を失っていた。
気づいた頃には、彼は1つのデッキと、服と、デッキケースしか持ち合わせていなかった。彼は自分の名前も、デッキケースに書かれた文字から初めて知ったのだった。
そして彼は、世界が滅亡するまであと一年であるという情報を得たのだった。…記憶を取り戻したい、という本能的欲求があったのだろうか、彼はその情報を信じず、世界は続くものだと思っていた。
ある日のこと。
世界の荒廃は日本も例外ではなく、人通りは少なくなっていた。その数少ない人通りの一部となっていた遊紀は、とある路地に入った。
「ここか…」
遊紀の目の前には、ボロボロのビル。その壁には、「世界を救います」と書かれた紙が貼ってあった。
すると遊紀が来たのを察したのか、そのビルの階段を、一人の男が降りてきた。
「世界、救いたいのか?」
「ああ!」
男の、今にしてみれば不自然極まりない言葉に、遊紀はあろうことか乗っかってしまった。
「それなら…」
男は腰の左側のデッキケースを取り出した。
「俺とデュエルしろ!」
「デュエル?」
「お前が俺に勝ったら、世界を救ってやる。だが負けたら…お前のデッキをもらう!」
「デッキを?」
「そうだ。…まさかお前、俺達の正体に気づいてないのか? 俺達は、泣く子も黙る窃盗団、『スリーパーズ』だ!」
男の声で、ビルの窓から二人の男が降りてきた。
「兄貴、いっちょやっちゃって下さい!」
「こんな奴のデッキなんざ取るにたらねぇかもしれませんがね、イヒヒヒヒ…」
「確かにそうかもな…さて、始めるぜ! デッキをくれる、ありがたい取引先さんよぉ!」
記憶をなくした遊紀にだって、善悪の判断くらいはついた。
「俺が勝ったら、世界を救うんじゃなくて、今までお前が奪ったデッキを、全部元の持ち主に返してもらうぜ!」
「へへっ、そいつぁいいや。それでこそ奪い甲斐があるってもんよ! デュエル!」
息つく間もなく、男はデュエルを開始した。
「先攻は俺が貰う! 俺はモンスターをセット、カードを2枚セットしてターンエンドだ!」
「行くぜ、俺のターン! ドロー!」
男のターンが終わり、遊紀は勇ましくターンを始めた。
「俺は《剣を持つQC》を召喚! バトルフェイズ! お前のモンスターに攻撃だ!」
「俺のモンスターの守備力は1200! よって破壊だ」
「《剣を持つQC》の効果発動! デッキから《鎖を解くQC》を手札に加える!」
「へへっ、チェーンさせてもらうぜ。戦闘破壊された《レム》の効果発動! デッキから《ノンレム》を特殊召喚する!」
「…何だ…? まあいい、俺は突き進むだけだ! カードを2枚セットしてターンエンドだ!」
「俺のターン、ドロー!」
男はドローすると、気味の悪い笑みを浮かべた。
「俺は通常魔法《睡魔》を発動! フィールドに《ノンレム》がいるので、墓地から《レム》を特殊召喚する! そして、デッキから《ナイトメア・スリーパー》を手札に加える! 俺は《ノンレム》と《レム》をリリースし、アドバンス召喚を行う! …眠りへいざなう悪魔よ、アイツに悪夢を見せてやれ! レベル8、《ナイトメア・スリーパー》!」
「《ナイトメア・スリーパー》…それがお前のキーカードか…」
「ずいぶん察しがいいなぁ! だが、そんなことを考えてる余裕もなくしてやるよ! 《ナイトメア・スリーパー》の効果発動! 《ノンレム》と《レム》でアドバンス召喚に成功した場合、お前のモンスターを1体破壊する!」
「何っ!?」
「まだ終わらねぇぜ! このターンの終了時に、そのモンスターを俺のフィールドに特殊召喚する! そいつは《ナイトメア・スリーパー》がいる限り、俺がコントロールを得る! …さあ攻撃だ、《ナイトメア・スリーパー!》」
「ぐっ…!」
4000のうち、減少したLPは2400。LPへのダメージが身体に影響を及ぼすこのゲームの性質上、遊紀の体はかなりのダメージを受けたことになる。
「俺はターンエンドだ! お前の《剣を持つQC》を奪うぜ! さあどうする!」
「…」
遊紀は目を閉じた。このターンで決めないと、確実に、負ける。
「…俺のターン! ドロー!」
遊紀も男と同じように、笑みを浮かべた。
「まずは俺のモンスターゾーン1つを封印する!」
「封印だと?」
「ああ。そして《鎖を解くQC》を、封印したモンスターゾーンの隣に通常召喚! …フィールドを解放せよ、《鎖を解くQC》! リリース!」
その時、遊紀の目が緑色に光ったのを、男は見逃さなかった。
「風よりも速き魔法戦士よ! 封印を解かれた今、フィールドに嵐を巻き起こせ! 解放召喚! 《ソニカル・パラディン》!」
「へっ、《ソニカル・パラディン》か…。たかだか攻撃力2500! 《ナイトメア・スリーパー》を破壊した所で100ダメージだろぉ? 勝てるわけねぇんだよ!」
「それはどうかな?」
「何…?」
「《ソニカル・パラディン》で《ナイトメア・スリーパー》に攻撃!」
「100ダメージなんざへでもねぇって言ったばっかだろぉ!?」
「《ソニカル・パラディン》の効果発動! 俺は手札から《矢を放つQC》を捨てる!」
「ふん、何かと思ったら自分の手札を捨てやがった! 頭がおかしくなったのか? まあいい。《ナイトメア・スリーパー》と100ダメージ、くれてやるぜ! …ほらよ、お前の欲しがってた《剣を持つQC》だ!」
「《剣を持つQC》でダイレクトアタック!」
「少々痛いが受けてやるよ! …だが、俺のLPはまだ2300も残ってる! お前はこのターンで決められない! 俺の手にはまだ逆転の手もあるんだよ!」
「…《ソニカル・パラディン》でダイレクトアタック!」
「何だと!?」
「《ソニカル・パラディン》は攻撃宣言時、手札を1枚捨てることでもう1度だけ攻撃できる! 切り裂け、風の刃! 勝負を決めろ! 『ソニック・ソリッド』!」
「なっ…ぐっ…あああ!」
「決まったぜ! 俺はもう止められない!」
デュエルに敗北した男は、左腕を痛そうに押さえながら逃げるように言った。
「ほ、ほらよ! 持って行け!」
ビルから飛び降りた男達が、袋詰めしたたくさんのデッキを道に置き、デュエルをした男について行った。
「…何だったんだ、アイツら…」
遊紀が首をかしげると、後ろから話しかける声がした。
「やっぱり君、強いね~。さすが、6人目って感じだ。…僕の仲間にならないか?」
人々は何のために生きるのか、分からなくなっていた。
ある者は絶望して自らの命を断ち、ある者は自暴自棄になり罪を犯し、ある者はわずかな希望を見出そうとしていた。だから、世界は荒れていた。
風間遊紀はどうなのか、と言うと、希望を見出そうとしている者だった。…もっとも、彼は記憶を失っていた。
気づいた頃には、彼は1つのデッキと、服と、デッキケースしか持ち合わせていなかった。彼は自分の名前も、デッキケースに書かれた文字から初めて知ったのだった。
そして彼は、世界が滅亡するまであと一年であるという情報を得たのだった。…記憶を取り戻したい、という本能的欲求があったのだろうか、彼はその情報を信じず、世界は続くものだと思っていた。
ある日のこと。
世界の荒廃は日本も例外ではなく、人通りは少なくなっていた。その数少ない人通りの一部となっていた遊紀は、とある路地に入った。
「ここか…」
遊紀の目の前には、ボロボロのビル。その壁には、「世界を救います」と書かれた紙が貼ってあった。
すると遊紀が来たのを察したのか、そのビルの階段を、一人の男が降りてきた。
「世界、救いたいのか?」
「ああ!」
男の、今にしてみれば不自然極まりない言葉に、遊紀はあろうことか乗っかってしまった。
「それなら…」
男は腰の左側のデッキケースを取り出した。
「俺とデュエルしろ!」
「デュエル?」
「お前が俺に勝ったら、世界を救ってやる。だが負けたら…お前のデッキをもらう!」
「デッキを?」
「そうだ。…まさかお前、俺達の正体に気づいてないのか? 俺達は、泣く子も黙る窃盗団、『スリーパーズ』だ!」
男の声で、ビルの窓から二人の男が降りてきた。
「兄貴、いっちょやっちゃって下さい!」
「こんな奴のデッキなんざ取るにたらねぇかもしれませんがね、イヒヒヒヒ…」
「確かにそうかもな…さて、始めるぜ! デッキをくれる、ありがたい取引先さんよぉ!」
記憶をなくした遊紀にだって、善悪の判断くらいはついた。
「俺が勝ったら、世界を救うんじゃなくて、今までお前が奪ったデッキを、全部元の持ち主に返してもらうぜ!」
「へへっ、そいつぁいいや。それでこそ奪い甲斐があるってもんよ! デュエル!」
息つく間もなく、男はデュエルを開始した。
「先攻は俺が貰う! 俺はモンスターをセット、カードを2枚セットしてターンエンドだ!」
「行くぜ、俺のターン! ドロー!」
男のターンが終わり、遊紀は勇ましくターンを始めた。
「俺は《剣を持つQC》を召喚! バトルフェイズ! お前のモンスターに攻撃だ!」
「俺のモンスターの守備力は1200! よって破壊だ」
「《剣を持つQC》の効果発動! デッキから《鎖を解くQC》を手札に加える!」
「へへっ、チェーンさせてもらうぜ。戦闘破壊された《レム》の効果発動! デッキから《ノンレム》を特殊召喚する!」
「…何だ…? まあいい、俺は突き進むだけだ! カードを2枚セットしてターンエンドだ!」
「俺のターン、ドロー!」
男はドローすると、気味の悪い笑みを浮かべた。
「俺は通常魔法《睡魔》を発動! フィールドに《ノンレム》がいるので、墓地から《レム》を特殊召喚する! そして、デッキから《ナイトメア・スリーパー》を手札に加える! 俺は《ノンレム》と《レム》をリリースし、アドバンス召喚を行う! …眠りへいざなう悪魔よ、アイツに悪夢を見せてやれ! レベル8、《ナイトメア・スリーパー》!」
「《ナイトメア・スリーパー》…それがお前のキーカードか…」
「ずいぶん察しがいいなぁ! だが、そんなことを考えてる余裕もなくしてやるよ! 《ナイトメア・スリーパー》の効果発動! 《ノンレム》と《レム》でアドバンス召喚に成功した場合、お前のモンスターを1体破壊する!」
「何っ!?」
「まだ終わらねぇぜ! このターンの終了時に、そのモンスターを俺のフィールドに特殊召喚する! そいつは《ナイトメア・スリーパー》がいる限り、俺がコントロールを得る! …さあ攻撃だ、《ナイトメア・スリーパー!》」
「ぐっ…!」
4000のうち、減少したLPは2400。LPへのダメージが身体に影響を及ぼすこのゲームの性質上、遊紀の体はかなりのダメージを受けたことになる。
「俺はターンエンドだ! お前の《剣を持つQC》を奪うぜ! さあどうする!」
「…」
遊紀は目を閉じた。このターンで決めないと、確実に、負ける。
「…俺のターン! ドロー!」
遊紀も男と同じように、笑みを浮かべた。
「まずは俺のモンスターゾーン1つを封印する!」
「封印だと?」
「ああ。そして《鎖を解くQC》を、封印したモンスターゾーンの隣に通常召喚! …フィールドを解放せよ、《鎖を解くQC》! リリース!」
その時、遊紀の目が緑色に光ったのを、男は見逃さなかった。
「風よりも速き魔法戦士よ! 封印を解かれた今、フィールドに嵐を巻き起こせ! 解放召喚! 《ソニカル・パラディン》!」
「へっ、《ソニカル・パラディン》か…。たかだか攻撃力2500! 《ナイトメア・スリーパー》を破壊した所で100ダメージだろぉ? 勝てるわけねぇんだよ!」
「それはどうかな?」
「何…?」
「《ソニカル・パラディン》で《ナイトメア・スリーパー》に攻撃!」
「100ダメージなんざへでもねぇって言ったばっかだろぉ!?」
「《ソニカル・パラディン》の効果発動! 俺は手札から《矢を放つQC》を捨てる!」
「ふん、何かと思ったら自分の手札を捨てやがった! 頭がおかしくなったのか? まあいい。《ナイトメア・スリーパー》と100ダメージ、くれてやるぜ! …ほらよ、お前の欲しがってた《剣を持つQC》だ!」
「《剣を持つQC》でダイレクトアタック!」
「少々痛いが受けてやるよ! …だが、俺のLPはまだ2300も残ってる! お前はこのターンで決められない! 俺の手にはまだ逆転の手もあるんだよ!」
「…《ソニカル・パラディン》でダイレクトアタック!」
「何だと!?」
「《ソニカル・パラディン》は攻撃宣言時、手札を1枚捨てることでもう1度だけ攻撃できる! 切り裂け、風の刃! 勝負を決めろ! 『ソニック・ソリッド』!」
「なっ…ぐっ…あああ!」
「決まったぜ! 俺はもう止められない!」
デュエルに敗北した男は、左腕を痛そうに押さえながら逃げるように言った。
「ほ、ほらよ! 持って行け!」
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