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第1話 現れた乱暴者 作:ター坊
~とある女子高生サイド~
遅刻!遅刻!遅刻!
新学期が始まって1ヶ月もしないうちに遅刻はないよぉ!漫画みたいに食パンを口にしながら通学路を疾走する。
…あ、でもそう言えばこういうシチュエーションって曲がり角の辺りでイケメンな男子とぶつかって知り合ったりするんだよねぇ。やーん、もうバカバカ!そんなことあるわけ…
ドーーン!
「きゃっ!」
色々想像しながら走っているとホントに曲がり角で誰かとぶつかってしまって尻餅をつく。え?まさか…じゃなくて謝らないと!
「あの!ごめんなさ…」
そこで言葉が止まってしまった。
「あぁ?なんだ?」
うわぁ…明らかにガラが悪そうな三人組だよぉ。
「お?その制服、聖フレイアじゃね?」
「あのデュエル全国大会常連の?」
「可愛いし、胸もあるなぁ…」
やだ…。早く行かないと。
「あの、ホントにすいませんでした…。ですけど急いでますので、これで失礼いたし…」
「ぬぉぉ!いってぇぇよぉぉ!」
私がぶつかった人が急に叫びだす。
「ど、どうしたんだ?」
「腕が!腕がぁ!」
「大変だ!折れちまってる!」
わざとらしく大声をあげながら騒ぎだす。
「そんな。ぶつかったのは謝りますけど、折れてるなんてそんなわけ……」
「うるせぇな!人様にぶつかってその態度はなんだ!?あ?」
「ひっ…」
思わず怯んでしまう。
「なーに簡単なことだって。ちょーっと俺達にご奉仕してくれたらよー」
「いや…」
誰か…助けて…
ごっ!
「いってぇぇ!」
「おい!誰だ今石投げたや」
その場にいた私を始め、三人組も固まってしまった。
ボタン全開の長ラン
使い込まれた色合いの下駄
汚れた布袋
少し古い学帽
そして…何か圧倒的なオーラというか、とにかく恐い…。
まるで昔の番長みたいな。そんな感じの大柄な人が立っていた。
「な、なんだ?て、テメェは」
「…」
三人組の一人が訊ねてもその人は何も応えない。
「テメェ、シカトこいてんじゃねぇぞ!」
一人が殴りかかるが
ガチッ
手首を掴まれ止められる。
「…テメェ。腕折れてんじゃねぇのか?」
「へ?」
「嘘つきは嫌いだ」
ゴギャ!
「ヒギャアァァ!折れる!マジで折れちまうぅぅ!」
その人は掴んだ不良の手首を外側に捻る。無言で徐々に外へ外へと手首を捻っていく。
ギリギリ…
「ひぃぃ!ごめんなしゃい!ごめんなしゃい!もうしましぇん!!」
不良が泣きわめきながら謝ると手首を離して蹴り飛ばした。
「グヘェ!」
「うわぁぁ!に、逃げろぉぉ!!」
「こ、殺されるぅぅ!」
「ま、待ってくれぇぇ~!」
三人組は一目散に逃げていった。……あっ!
「あの、ありがとうございました…」
その人は恐い表情のままこちらを見る。気まずい…。
ふと、時計を見ると遅刻までもう5分もない。
「あ、あの!急いでるので失礼します!」
私がその人の横を通り過ぎた時だった。
「待ちな」
思わず体が硬直する。
「ひっ!」
何をされちゃうんだろう…。その人が近づくたびに響く乾いた下駄の音が死の足音のように感じる。逃げ出したいけど恐くて足が動かない。声もあげれない。
そうこうしているうちにその人はかなり近い距離に来て私の腕を見る。
「お前」
「は、ひゃい…」
声が震える。
「その時計、ズレてねぇか?」
「…へ?」
私は時計を急いで確認した。
その人の指摘通り、私の腕時計はかなりズレていたことがスマホの時計表示と比べることで気付いた。朝は寝ボケてて腕時計の時間を見て焦って出てきたっけ。本当の時間は遅刻でもなんでもない、歩いてても遅刻の時間30分以上前に着けるくらい余裕がある。朝から災難だなぁ。
「おい」
「はい!な、なんでしょうか」
「さっきの連中が言ってたが、お前、聖フレイア学園の生徒か?」
「は、はい!聖フレイア学園1年の天宮夏蓮(あまみや かれん)と言います!」
はっ!つい名乗っちゃった。
「わざわざご丁寧にな。俺も名乗っておこう。俺は男山遊太郎(おとこやま ゆうたろう)だ」
「男山…さん?」
私は落ち着いて通学路を歩く。いつもと違って圧倒的な威圧感と下駄の音を聞きながら。
「あの…」
「あ?」
やっぱり恐い…。
「えっと、男山さんはど、どうして聖フレイア学園に?」
「ああ。ちょいとワケありで来週から通うことになってな。その下見だ」
「へぇ…そうなんですか……」
大丈夫かな…これからの学校生活…。
「そ、そう言えば私たちの学校に通うってことはデュエルモンスターズするんですね」
聖フレイア学園は現在まで続くデュエルモンスターズブームの元祖的な存在で、卒業生の中にも日本代表として世界に羽ばたく選手がいるほどだ。
「一応な。…お前は強いのか?」
「いえ、そんな!この間FからEにクラスアップしたばかりでそれほどでは…」
デュエリストたちはみんな、大会の成績やデュエルに関する活動によってG~Aまでのクラスを持っている。このクラスは大会の出場資格や格式の高いカードショップの入店条件などに関わってくる。デュエルディスクのコアカラーの色で判別し、Eクラスの私は青だ。またAより上にS、さらにZもあるけど、世界大会に呼ばれるような人たちなので一般人には縁遠い。特にZクラスの人に出会うなんて神様に会うようなものだ。
下駄の音が響く気まずい沈黙の中、かなり早く聖フレイア学園に着いた。
「ここがそうか。どうもな」
「あ、はい」
…冷静に考えれば男山さん……。案外普通?いや見た目恐いし、不良の腕を折ろうとしたりして乱暴だけど、訊いたことにはちゃんと答えてくれるし、結局は助けてくれたし、思ったより悪い人じゃないかも…?
「あら?ごきげんよう。お早いですわね」
後ろから声がして振り返ると、女生徒数名を従えるあの人が立っていた。
「せ、生徒会長さん…」
生徒会長の氷杖院詩音(ひょうじょういん しおん)さん。
デュエルディスクの製造シェア80%を誇る会社の社長令嬢で、私と同じ学年なのにAクラスの実力を持つすごい人だ…。
「まぁ、氷杖院様にお声を掛けていただけるなんて朝から幸運ね」
「そうよね~。Eクラスのくせにさー」
「…」
取り巻きの女生徒になじられる。…あれ?
「なんで私がクラスアップしたのを…?」
「生徒会長たる者、下々の生徒達の成長をチェックするのは至極当然ですわ」
「はぁ…」
「そう言えば、隣のばっちぃ男は誰ですの?制服も違うようですし」
「えっと、この人は男山遊太郎さんと言いまして、学園に用事があるってことで道案内しました」
「そう。ま、どうでもいいですわ」
「…」
男山さんは全く動じる様子もなく黙って立っている。
「…♪そうだ、夏蓮さん。ちょっとデッキをお貸しなさい」
「え?どうして…?」
「この私自らが今後のクラスアップのためのアドバイスをして差し上げますわ」
けどその目線は明らかに親切心ではないと直感させる。
「いえ、そんな…」
「氷杖院様の御心遣いを踏みにじる気なの?」
「何様のつもりなの?」
「ひっ!で、ではよろしくお願いします…」
私は嫌々ながらデッキを生徒会長に渡す。
「…ふんふん。…ん?夏蓮さん。これは何かしら?」
生徒会長はデッキから1枚のカードを取り出す。
「それは…クラスアップしたお祝いに、って父が買ってくれたカードで…」
「そうなの…じゃあ頂きますわね」
「そんな!どうして!?」
「だってこんなレアカード、貴方のクラスでは身の丈に合わないんですもの。クラスが低いデュエリストが持ち主なんて、このカードも可哀想ですわ」
「そんな!そんなのって無いと思います!」
「あ、そうそう。他のカードは別に要りませんわ」
バラバラバラ…
私のデッキがばら蒔かれる。
「あ、あんまりです…」ウック,ヒック…
自然と体が崩れ、涙が零れてくる。
「オーッホッホッホ!」
「…」
ドンッ!!
「なっ!」
「…え?」
男山さんは急に生徒会長を突き飛ばした。
「…邪魔だ」
そう言って男山さんはしゃがんで私のデッキを広い集めていく。私を始め、取り巻きの女生徒も一瞬の出来事にしばし呆然とした。
「ほらよ」
広い集めた私のデッキを手に乗せてくれた。
「あ、ありが…とう…ございます…」
「あと1枚だな。おい」
男山さんは立ち上がると生徒会長を睨み付ける。
「…貴方。私を誰か存じてのことですの?」
「ああ。性根の腐った高飛車女」
「なんですって!?」
「自分の格下ゆすってカードを取り上げるとは情けない奴だな」
「あ、貴方!氷杖院様になんて口を…」
「そーよ、そーよ!」
『三下は引っ込んでろ!!』
空に響く爆音のような大声の一喝に全員が恐れおののく。
「貴方!タダで帰れると思わないことね!」
「ほう。で?」
「貴方、学園に用があるって言ってましたけど本当ですの?」
「ああ。来週から通うことになってな。その件で呼び出された」
「そう。ならこの学園に入学する以上、デュエルは出来ますわね?」
「ああ」
男山さんは担いでた汚い布袋からデュエルディスクを取り出す。…ええ!?
「…フ、フフ…。ウフフ、オーッホッホッホ!なんですの、それ?」
「この男、馬鹿ね」
「そんなのでよく氷杖院様に楯突くわね」
生徒会長も取り巻きの女生徒も嘲笑う。私自身も驚く他なかった。男山さんのデュエルディスクのコアカラーは黒…クラス最下位のGクラスを意味する。
「お話になりませんわ。とっとと帰りなさい」
「…ま、仕方ねぇか。万が一負けたら恥だもんな」
「…!万が一ですって?」
「ああ。負けたらアンタの名に傷が付くからな。ビビって戦えないなら無理もねぇか」
男山さん、そんなに煽ったら…。
「わ、私が貴方に負ける道理なんかありませんわ!…安い挑発ですけど、まぁ可哀想ですし乗ってあげますわ」
「ふっ。そうこないとな」
男山さんと生徒会長が睨み合う。
「俺が勝ったらテメェが取ったコイツのカードを返せ」
「あら?アンティですの?」
「お前が絶対勝つ自信があるなら良いだろう?それとも恐いか?」
「まさか。では私が勝ったら?」
「このデッキ全部はどうだ?」
そんな!自分のデッキを賭けに出すなんて!
「お、男山さん!いいですから。止めてください」
「あら夏蓮さん。この馬鹿は自分から挑んだのですのよ?」
「気にすんな。どうせ勝つのは俺だからな」
「その威勢、いつまで続くかしら?」
「そんなことよりアンティはどうする?」
「そうですわね…。Gクラスのカードなんか取っても嬉しくもありませんし。…確か来週から通うと言ってましたね」
「ああ」
「なら私が勝ったら、卒業するまで生徒会の奴隷になりますという誓いを立てるのはどうです?」
「いいぜ」
即答した。どこからそんな自信が湧くのだろう…。生徒会長も少し黙ったあと、取り巻きの女生徒に呼び掛ける。
「…フン。貴方達」
「は、はい!」
「貴方達には証人になってもらうわ。この男が負けてすっとぼけないようにね」
「分かりました!氷杖院様!」
「ですが、朝のホームルームまであと25分ですが…」
「たかがGクラスですもの。5分もあれば終わりますわ」
「…話は済んだか?」
「ええ。良いですわ」
生徒会長も鞄からデュエルディスクを取り出す。Aクラスの証であるコアカラーの赤が太陽に反射してルビーのような輝きを放つ。
「愚か者に格の違いを刻みつけて差し上げますわ!」
「御託はいい。来な」
二人がデュエルディスクを構える。
「「デュエル!!」」
~???サイド~
あらん?外で何かあったわね?窓から見ると
「まぁ♪遊太郎ちゃんが来たのね!でも到着早々デュエルなんて、相変わらずの暴れん坊なんだからぁ~。けど、そこが可愛いのよねぇ。アタシも見に行こ♪待っててね~遊太郎ちゅあぁ~ん♪」
遅刻!遅刻!遅刻!
新学期が始まって1ヶ月もしないうちに遅刻はないよぉ!漫画みたいに食パンを口にしながら通学路を疾走する。
…あ、でもそう言えばこういうシチュエーションって曲がり角の辺りでイケメンな男子とぶつかって知り合ったりするんだよねぇ。やーん、もうバカバカ!そんなことあるわけ…
ドーーン!
「きゃっ!」
色々想像しながら走っているとホントに曲がり角で誰かとぶつかってしまって尻餅をつく。え?まさか…じゃなくて謝らないと!
「あの!ごめんなさ…」
そこで言葉が止まってしまった。
「あぁ?なんだ?」
うわぁ…明らかにガラが悪そうな三人組だよぉ。
「お?その制服、聖フレイアじゃね?」
「あのデュエル全国大会常連の?」
「可愛いし、胸もあるなぁ…」
やだ…。早く行かないと。
「あの、ホントにすいませんでした…。ですけど急いでますので、これで失礼いたし…」
「ぬぉぉ!いってぇぇよぉぉ!」
私がぶつかった人が急に叫びだす。
「ど、どうしたんだ?」
「腕が!腕がぁ!」
「大変だ!折れちまってる!」
わざとらしく大声をあげながら騒ぎだす。
「そんな。ぶつかったのは謝りますけど、折れてるなんてそんなわけ……」
「うるせぇな!人様にぶつかってその態度はなんだ!?あ?」
「ひっ…」
思わず怯んでしまう。
「なーに簡単なことだって。ちょーっと俺達にご奉仕してくれたらよー」
「いや…」
誰か…助けて…
ごっ!
「いってぇぇ!」
「おい!誰だ今石投げたや」
その場にいた私を始め、三人組も固まってしまった。
ボタン全開の長ラン
使い込まれた色合いの下駄
汚れた布袋
少し古い学帽
そして…何か圧倒的なオーラというか、とにかく恐い…。
まるで昔の番長みたいな。そんな感じの大柄な人が立っていた。
「な、なんだ?て、テメェは」
「…」
三人組の一人が訊ねてもその人は何も応えない。
「テメェ、シカトこいてんじゃねぇぞ!」
一人が殴りかかるが
ガチッ
手首を掴まれ止められる。
「…テメェ。腕折れてんじゃねぇのか?」
「へ?」
「嘘つきは嫌いだ」
ゴギャ!
「ヒギャアァァ!折れる!マジで折れちまうぅぅ!」
その人は掴んだ不良の手首を外側に捻る。無言で徐々に外へ外へと手首を捻っていく。
ギリギリ…
「ひぃぃ!ごめんなしゃい!ごめんなしゃい!もうしましぇん!!」
不良が泣きわめきながら謝ると手首を離して蹴り飛ばした。
「グヘェ!」
「うわぁぁ!に、逃げろぉぉ!!」
「こ、殺されるぅぅ!」
「ま、待ってくれぇぇ~!」
三人組は一目散に逃げていった。……あっ!
「あの、ありがとうございました…」
その人は恐い表情のままこちらを見る。気まずい…。
ふと、時計を見ると遅刻までもう5分もない。
「あ、あの!急いでるので失礼します!」
私がその人の横を通り過ぎた時だった。
「待ちな」
思わず体が硬直する。
「ひっ!」
何をされちゃうんだろう…。その人が近づくたびに響く乾いた下駄の音が死の足音のように感じる。逃げ出したいけど恐くて足が動かない。声もあげれない。
そうこうしているうちにその人はかなり近い距離に来て私の腕を見る。
「お前」
「は、ひゃい…」
声が震える。
「その時計、ズレてねぇか?」
「…へ?」
私は時計を急いで確認した。
その人の指摘通り、私の腕時計はかなりズレていたことがスマホの時計表示と比べることで気付いた。朝は寝ボケてて腕時計の時間を見て焦って出てきたっけ。本当の時間は遅刻でもなんでもない、歩いてても遅刻の時間30分以上前に着けるくらい余裕がある。朝から災難だなぁ。
「おい」
「はい!な、なんでしょうか」
「さっきの連中が言ってたが、お前、聖フレイア学園の生徒か?」
「は、はい!聖フレイア学園1年の天宮夏蓮(あまみや かれん)と言います!」
はっ!つい名乗っちゃった。
「わざわざご丁寧にな。俺も名乗っておこう。俺は男山遊太郎(おとこやま ゆうたろう)だ」
「男山…さん?」
私は落ち着いて通学路を歩く。いつもと違って圧倒的な威圧感と下駄の音を聞きながら。
「あの…」
「あ?」
やっぱり恐い…。
「えっと、男山さんはど、どうして聖フレイア学園に?」
「ああ。ちょいとワケありで来週から通うことになってな。その下見だ」
「へぇ…そうなんですか……」
大丈夫かな…これからの学校生活…。
「そ、そう言えば私たちの学校に通うってことはデュエルモンスターズするんですね」
聖フレイア学園は現在まで続くデュエルモンスターズブームの元祖的な存在で、卒業生の中にも日本代表として世界に羽ばたく選手がいるほどだ。
「一応な。…お前は強いのか?」
「いえ、そんな!この間FからEにクラスアップしたばかりでそれほどでは…」
デュエリストたちはみんな、大会の成績やデュエルに関する活動によってG~Aまでのクラスを持っている。このクラスは大会の出場資格や格式の高いカードショップの入店条件などに関わってくる。デュエルディスクのコアカラーの色で判別し、Eクラスの私は青だ。またAより上にS、さらにZもあるけど、世界大会に呼ばれるような人たちなので一般人には縁遠い。特にZクラスの人に出会うなんて神様に会うようなものだ。
下駄の音が響く気まずい沈黙の中、かなり早く聖フレイア学園に着いた。
「ここがそうか。どうもな」
「あ、はい」
…冷静に考えれば男山さん……。案外普通?いや見た目恐いし、不良の腕を折ろうとしたりして乱暴だけど、訊いたことにはちゃんと答えてくれるし、結局は助けてくれたし、思ったより悪い人じゃないかも…?
「あら?ごきげんよう。お早いですわね」
後ろから声がして振り返ると、女生徒数名を従えるあの人が立っていた。
「せ、生徒会長さん…」
生徒会長の氷杖院詩音(ひょうじょういん しおん)さん。
デュエルディスクの製造シェア80%を誇る会社の社長令嬢で、私と同じ学年なのにAクラスの実力を持つすごい人だ…。
「まぁ、氷杖院様にお声を掛けていただけるなんて朝から幸運ね」
「そうよね~。Eクラスのくせにさー」
「…」
取り巻きの女生徒になじられる。…あれ?
「なんで私がクラスアップしたのを…?」
「生徒会長たる者、下々の生徒達の成長をチェックするのは至極当然ですわ」
「はぁ…」
「そう言えば、隣のばっちぃ男は誰ですの?制服も違うようですし」
「えっと、この人は男山遊太郎さんと言いまして、学園に用事があるってことで道案内しました」
「そう。ま、どうでもいいですわ」
「…」
男山さんは全く動じる様子もなく黙って立っている。
「…♪そうだ、夏蓮さん。ちょっとデッキをお貸しなさい」
「え?どうして…?」
「この私自らが今後のクラスアップのためのアドバイスをして差し上げますわ」
けどその目線は明らかに親切心ではないと直感させる。
「いえ、そんな…」
「氷杖院様の御心遣いを踏みにじる気なの?」
「何様のつもりなの?」
「ひっ!で、ではよろしくお願いします…」
私は嫌々ながらデッキを生徒会長に渡す。
「…ふんふん。…ん?夏蓮さん。これは何かしら?」
生徒会長はデッキから1枚のカードを取り出す。
「それは…クラスアップしたお祝いに、って父が買ってくれたカードで…」
「そうなの…じゃあ頂きますわね」
「そんな!どうして!?」
「だってこんなレアカード、貴方のクラスでは身の丈に合わないんですもの。クラスが低いデュエリストが持ち主なんて、このカードも可哀想ですわ」
「そんな!そんなのって無いと思います!」
「あ、そうそう。他のカードは別に要りませんわ」
バラバラバラ…
私のデッキがばら蒔かれる。
「あ、あんまりです…」ウック,ヒック…
自然と体が崩れ、涙が零れてくる。
「オーッホッホッホ!」
「…」
ドンッ!!
「なっ!」
「…え?」
男山さんは急に生徒会長を突き飛ばした。
「…邪魔だ」
そう言って男山さんはしゃがんで私のデッキを広い集めていく。私を始め、取り巻きの女生徒も一瞬の出来事にしばし呆然とした。
「ほらよ」
広い集めた私のデッキを手に乗せてくれた。
「あ、ありが…とう…ございます…」
「あと1枚だな。おい」
男山さんは立ち上がると生徒会長を睨み付ける。
「…貴方。私を誰か存じてのことですの?」
「ああ。性根の腐った高飛車女」
「なんですって!?」
「自分の格下ゆすってカードを取り上げるとは情けない奴だな」
「あ、貴方!氷杖院様になんて口を…」
「そーよ、そーよ!」
『三下は引っ込んでろ!!』
空に響く爆音のような大声の一喝に全員が恐れおののく。
「貴方!タダで帰れると思わないことね!」
「ほう。で?」
「貴方、学園に用があるって言ってましたけど本当ですの?」
「ああ。来週から通うことになってな。その件で呼び出された」
「そう。ならこの学園に入学する以上、デュエルは出来ますわね?」
「ああ」
男山さんは担いでた汚い布袋からデュエルディスクを取り出す。…ええ!?
「…フ、フフ…。ウフフ、オーッホッホッホ!なんですの、それ?」
「この男、馬鹿ね」
「そんなのでよく氷杖院様に楯突くわね」
生徒会長も取り巻きの女生徒も嘲笑う。私自身も驚く他なかった。男山さんのデュエルディスクのコアカラーは黒…クラス最下位のGクラスを意味する。
「お話になりませんわ。とっとと帰りなさい」
「…ま、仕方ねぇか。万が一負けたら恥だもんな」
「…!万が一ですって?」
「ああ。負けたらアンタの名に傷が付くからな。ビビって戦えないなら無理もねぇか」
男山さん、そんなに煽ったら…。
「わ、私が貴方に負ける道理なんかありませんわ!…安い挑発ですけど、まぁ可哀想ですし乗ってあげますわ」
「ふっ。そうこないとな」
男山さんと生徒会長が睨み合う。
「俺が勝ったらテメェが取ったコイツのカードを返せ」
「あら?アンティですの?」
「お前が絶対勝つ自信があるなら良いだろう?それとも恐いか?」
「まさか。では私が勝ったら?」
「このデッキ全部はどうだ?」
そんな!自分のデッキを賭けに出すなんて!
「お、男山さん!いいですから。止めてください」
「あら夏蓮さん。この馬鹿は自分から挑んだのですのよ?」
「気にすんな。どうせ勝つのは俺だからな」
「その威勢、いつまで続くかしら?」
「そんなことよりアンティはどうする?」
「そうですわね…。Gクラスのカードなんか取っても嬉しくもありませんし。…確か来週から通うと言ってましたね」
「ああ」
「なら私が勝ったら、卒業するまで生徒会の奴隷になりますという誓いを立てるのはどうです?」
「いいぜ」
即答した。どこからそんな自信が湧くのだろう…。生徒会長も少し黙ったあと、取り巻きの女生徒に呼び掛ける。
「…フン。貴方達」
「は、はい!」
「貴方達には証人になってもらうわ。この男が負けてすっとぼけないようにね」
「分かりました!氷杖院様!」
「ですが、朝のホームルームまであと25分ですが…」
「たかがGクラスですもの。5分もあれば終わりますわ」
「…話は済んだか?」
「ええ。良いですわ」
生徒会長も鞄からデュエルディスクを取り出す。Aクラスの証であるコアカラーの赤が太陽に反射してルビーのような輝きを放つ。
「愚か者に格の違いを刻みつけて差し上げますわ!」
「御託はいい。来な」
二人がデュエルディスクを構える。
「「デュエル!!」」
~???サイド~
あらん?外で何かあったわね?窓から見ると
「まぁ♪遊太郎ちゃんが来たのね!でも到着早々デュエルなんて、相変わらずの暴れん坊なんだからぁ~。けど、そこが可愛いのよねぇ。アタシも見に行こ♪待っててね~遊太郎ちゅあぁ~ん♪」
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にしてもしょっぱなから民度が低いのなんのって…これだから遊戯王の世界ってやつぁ…。
自信満々の最低クラスとかいう最強フラグ。とりあえず下衆お嬢様が腹立つんで早く続きが見たいですね。気長になっております。 (2015-10-05 17:19)
こういうクラス分けとか格付けがあると詩音のような奴が現実でも出ると思うんです。「とりあいず憎たらしさを!」と考えたらこんなお嬢様に。そしてそんな奴を気持ち良く成敗する次回をお楽しみに! (2015-10-05 17:45)
詩音は最初の敵ですから相応のキャラ作りをする予定です。イメージは女万丈目ってところですかね。夏蓮ちゃんも可愛くしてくつもりです。はてさて次の更新はいつになるのやら? (2015-10-05 21:12)