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Story2 遭遇 作:YK_Yosthy
□ □
「つってもよ。いくら旅人だからって、どっか拠点みてえなとこはねえのかよ」
ルミンが僕にとっついてくる。さっきまであんなに威張ってたくせに。
「ないわけじゃないけど。まあ居候っていうの? そんな感じ」
「へえ」
ルミンの二つ返事を軽く受け流し、現在居候しているとこへと向かった。
五分くらいたって、その場所に着いた。その建物を、ルミンが明らか無関心そうに見つめながら僕にこう聞いた。
「ん? なんだこれ、銭湯か?」
「そうだよ」
そう返して、開いた自動ドアから中に入っていく。僕が帰ってきたことに気づいた千おばさんが笑顔で迎えてくれた。
「あら、おかえり。どうだい、今日も頑張ったかえ?」
郷崎 千尋。僕が千おばさんと呼んでいるその人は、ふくよかな見た目の通り、ゆったりとした口調で僕の、いや、僕たちの方を見てきた。今ではアラサーで、亡き夫の意志を継いで、女手一つで娘――もちろん僕のことではない――を育て銭湯を切り盛りしている千おばさんだが、かつては世界のあちこちを旅していたという。千おばさんから旅の話を聞くのが、僕の楽しみのうちの一つだった。
「ただいま、千おばさん」
「はいはい。……あら、あんたの隣にいるの誰かしら?」
隣にいる……ああ、ルミンのことか。ってことは、ルミンは僕以外の人にも一応見えるようだ。
「あ、初めまして。ルミンです」
あれ、何か礼儀正しい。僕に対しては口悪いのに。
「あら、かわいらしいドラゴンちゃんだこと」
ってあっさり乗せたよこの契約厨!? と思ったのもつかの間だった。
「はは、私にはわかるよ? ルミン、そんな優しそうな顔して、実際は游ちゃんに悪態ついてんだろ?」
「ゔ」
「あっはは、どうやら、図星のようだねぇ」
今日で何回『図星』というワードを聞いたのだろうか。いやマジで。ホントに。
「とりあえず上がるね。明日以降のこともあるからいろいろ整理したいし」
そう言って階段を駆け上がった。ルミンも急いでついていく。
「あ、おいちょっと待てよ!」
手洗いを済ませ、自分の、というよりかは自分たちの部屋の戸を開け、部屋の電気をつける。二段ベッド一つ、机二つの少々こぢんまりした部屋。千おばさんの娘で、僕より一個上の千秋さんと一緒の、だ。千秋さんはまだ帰ってきてないらしい。さっき明日以降のこともあるって言ったけど、もう既に準備は終わってるし。
「游我、まったりしてるとこ悪いんだが」
「ん~? どうしたのルミン」
「さっき渡したやつの話だ」
さっき渡したのって……ああ、これか。ルミンから受け取っていた紙束と機械を取り出した。正直言えば、これらについて、デュエルってので使うってこと以外なんもわかってない。
「そうそう。デッキの内容、ちょっと見てくれないか? デッキってのはその紙束の事な」
どれどれ。え。なにこれ。光、魔、罠、幻竜族、効果、ATK……え、なにこれ。
「その表情見るに、やっぱデュエル全然知らねえんだな」
そう言われましても。と、その時ちょうど、部屋の扉が開いた。千秋さんが帰ってきたのだろう。
「たーだいまー。うぇーい元気してるぅー?」
クールな見た目とは裏腹にいっつもハイテンションな千秋さん。こっちのデッキという紙束を見てさらにテンションを上げる。
「あれぇ? これって遊戯王のカードデッキじゃーん。どこでこれもらったのぉ? ってか何その隣にいるドラゴンちゃん、ルミン君でしょお? かーちゃんが言ってたよ~、游くんがかわいいドラゴン連れ帰ってきたって~」
千秋さんはそういうと、すぐにルミンのほっぺをフニフニしだした。
「ふゎーっう、ふぁみふぉすうひゃめひょー!」
「へっへー、やめるもんですかあ~?」
千秋さんがこれ以上暴走する前にどうにか制止させ、これまでの経緯を説明した。少々説明不足だったと思われたが、千秋さんはすぐに理解してくれた。
「ははーん、なるほどねー? よーするにルミン君に誘われて遊戯王をやってみようってわけだ」
「うん、まあ大体そんなとこ」
「よーし、そういうわけなら私とルミン君で遊戯王のことについてみっちり教えてあげるね~」
――いや、知っておくべきことが多い! ざっと30分くらい時間とられたぞ。しかもこれだけが最低限ってマジで言ってるのか? 融合、儀式、シンクロ、エクシーズ、ペンデュラム、リンク等々……。でも、楽しそうだということには変わりない。早くやってみたいのだ。たった一つの懸念点を除けば、だけど。僕が受け取ったデッキの中に、どうも千秋さんでもよくわからないカードがあったのだ。なんか、「効果」とか「チューナー」とかと同じ段に『コネクト』と記載されたカード(これで伝わるかな?)。
「うーん、『コネクトモンスター』かぁ~。フィールドのモンスターと手札の『コネクター』ってのを墓地に送ってできる召喚方法ってことだろうけど……。ねえルミン君。大体こんな感じの説明であってる?」
「ああ、大体な」
な、なんなんだこれ。レベルが高いようなそうでないような……。それほど奥深いってことなんだろうな、遊戯王って。
その時、1枚のカードが目に留まった。『ブライトハート・ルミナスドラグーン』。二人(?)が言っていた、コネクトモンスターである。
「ん。やっぱりこれに目をつけたか」
僕がルミナスドラグーンのカードを見ているのに気づいたルミンがこっちを見てくる。
「このデッキのエースカード、って立ち位置のつもりなんだがな」
「へえ。……なんか、運命っていうの?」
「そう……なのかもな」
「あ、そうだ!」
その時急に千秋さんが声を張り上げた。一体何事なのだろうか。千秋さんの顔をまじまじと見つめる。
「明日土曜日なんだし、せっかくだから、明日の分のショー終わったらいいとこ連れてってあげるわ」
今日の演目も終わり、投げ銭の量を確認し、千秋さんの下へかけていった。昨日言ってた『いいとこ』ってのが一体何なのか何も言われてない。僕の方に気づいた千秋さんが僕の事を無理くり引っ張って連行していった。
「はーい今日もお疲れぇー☆ それじゃしゅっぱーつ!」
あまりにも唐突が過ぎる。まずどこへ行くのかを説明してもらわないと。と、しばらく引っ張られるがままに移動して5分。なぁんかとてもかなりすごくでかい施設があった。そう、とてもかなりすごくでかいとしか言えないほど語彙力が欠損するほどとてもかなりすごくでかいのだ。
「え? なな、なにこれ!? スタジアム、ってやつ?」
「あー。游くん知らなかったかぁ~。向日市にある超でかいデュエルスタジアム、『サンフラワースタジアム』だよ」
「ほお。噂には聞いていたが、こりゃ確かにでけえな」
それを初めて見たのか、僕だけでなくルミンもそのスタジアムに驚いていた。あれ? でもちょっと待てよ?
「え、でもこれ、一般の人がフツーに入っていいとこなの?」
「ぜーんぜん大丈夫! ってか一般の人向けに開放されてるとこだしぃ、行こ行こ~☆」
「え、ええー!?」
「うぇ~い!」
「って、なぁんでルミンもノリノリなのぉ~!」
とにかく、とりあえず中に入ることにした。中に入って分かったことがある。広い。広すぎるし豪華ともいえる。床一面に赤の絨毯が引かれてあり、あちこちにデュエル用の台があって、そこでたくさんの人がデュエルしていたり……。僕みたいなのじゃ絶対身の丈に合ってない。
「おやぁ? 千秋じゃないか。まさかこんなとこで会うとは」
随分といけ好かない声が聞こえた。声のする方を向くと、そこにはスーツ姿の、千秋さんと同い年くらいの男が立っていた。千秋さんはさっきのとは想像もつかないほど打って変わり、鋭い目つきでその男をにらむ。
「ちょっと、どうしてあんたがここにいるのよ」
「あんたとは失礼な。私にはちゃんと名前っていうのがあるんですよ。それよりどうです? この後別の部屋で、少々お話でも」
「し ま せ ん ! はあもう、行くよ游我、ルミン」
そういうとすぐに、僕とルミンを引っ張って奥へと連れて行った。
「え、あ、うん」
そして、さらに連れてこられた先は、スタジアムNo.1の受付だった。この『サンフラワースタジアム』、プロが戦うエリア以外にも、実際にモンスターを召喚して戦えるスタジアムエリアが一般向けに解放されているそうで、ここではその受付をしてもらえるそうだ。そんなことより、千秋さんにさっきの人が誰なのかを聞いてみた。
「え? いやいや、ただの元恋人」
なんだ、ただの元恋人か。でも元恋人にしては随分としつこいような気がしてならない。何か裏でもあるのだろうか。そんな風に思考を巡らせていると、受付の方がこっちに向かって話しかけてきた。
「あら、こんにちは千秋さん、と、そちらの方は?」
「あ、定木 游我です」
「あら、あなたが定木さんね。千秋さんから話は聞いているわ」
「今日はその、千秋さんに連れられて」
「ええ、游くんに遊戯王をやらせてみようと思って」
「そうです。……へ?」
「あらそうなんですね?」
「いや僕何も聞いてないんだけど」
それでも受付さんと千秋さんは押せ押せの雰囲気。まずはじめになんでこうなったかの説明が欲しかったのだが、勢いに飲まれ結局屈してしまった。
「はいはい。やってみればいいんでしょ? やってみれば」
こんなことを言っているが、本当のところは今すぐにでもやりたくてたまらないのである。しかし、スタジアムの方での受付ということは、実際にスタジアムエリアでデュエルできるってことなのだろうか。それともう1つ。
「ところで、対戦相手って誰が?」
「えっと、フリーマッチとランクマッチの2種類があって、どっちをやるかで変わると言えば変わりますが……」
「ああもうまったく……。受付さん、私と游くんの二人でフリーマッチで試合登録の方をお願いするわ」
僕たちのやり取りを聞いて少々見かねたか、千秋さんが声をあげた。
「え、それって」
「私が相手になってあげる。デュエルのね」
「いいんですか?」
「いいのいいの。そんくらいお安い御用だしね☆」
さっきまでの暗い表情はどこ行ったんだ、と思わせるほどのいつもの笑顔でそう返してくれた。やはり千秋さんはこのギャップがかわいいのだ。別に好きだからそう言ってるわけではない。
「なんかホント、申し訳ないです」
「だーいじょうぶだって☆ てことで受付さーん、ヨロシクー!」
……というわけで、初めてのデュエル相手は千秋さんに決定した。まさか彼女がデュエルしてるなんて聞いてなかったから、いったい何のデッキを使ってくるのか楽しみだった。……んまあ、アカウントの登録作業等々で1時間弱余計に時間を使ってしまったんだけど。
「つってもよ。いくら旅人だからって、どっか拠点みてえなとこはねえのかよ」
ルミンが僕にとっついてくる。さっきまであんなに威張ってたくせに。
「ないわけじゃないけど。まあ居候っていうの? そんな感じ」
「へえ」
ルミンの二つ返事を軽く受け流し、現在居候しているとこへと向かった。
五分くらいたって、その場所に着いた。その建物を、ルミンが明らか無関心そうに見つめながら僕にこう聞いた。
「ん? なんだこれ、銭湯か?」
「そうだよ」
そう返して、開いた自動ドアから中に入っていく。僕が帰ってきたことに気づいた千おばさんが笑顔で迎えてくれた。
「あら、おかえり。どうだい、今日も頑張ったかえ?」
郷崎 千尋。僕が千おばさんと呼んでいるその人は、ふくよかな見た目の通り、ゆったりとした口調で僕の、いや、僕たちの方を見てきた。今ではアラサーで、亡き夫の意志を継いで、女手一つで娘――もちろん僕のことではない――を育て銭湯を切り盛りしている千おばさんだが、かつては世界のあちこちを旅していたという。千おばさんから旅の話を聞くのが、僕の楽しみのうちの一つだった。
「ただいま、千おばさん」
「はいはい。……あら、あんたの隣にいるの誰かしら?」
隣にいる……ああ、ルミンのことか。ってことは、ルミンは僕以外の人にも一応見えるようだ。
「あ、初めまして。ルミンです」
あれ、何か礼儀正しい。僕に対しては口悪いのに。
「あら、かわいらしいドラゴンちゃんだこと」
ってあっさり乗せたよこの契約厨!? と思ったのもつかの間だった。
「はは、私にはわかるよ? ルミン、そんな優しそうな顔して、実際は游ちゃんに悪態ついてんだろ?」
「ゔ」
「あっはは、どうやら、図星のようだねぇ」
今日で何回『図星』というワードを聞いたのだろうか。いやマジで。ホントに。
「とりあえず上がるね。明日以降のこともあるからいろいろ整理したいし」
そう言って階段を駆け上がった。ルミンも急いでついていく。
「あ、おいちょっと待てよ!」
手洗いを済ませ、自分の、というよりかは自分たちの部屋の戸を開け、部屋の電気をつける。二段ベッド一つ、机二つの少々こぢんまりした部屋。千おばさんの娘で、僕より一個上の千秋さんと一緒の、だ。千秋さんはまだ帰ってきてないらしい。さっき明日以降のこともあるって言ったけど、もう既に準備は終わってるし。
「游我、まったりしてるとこ悪いんだが」
「ん~? どうしたのルミン」
「さっき渡したやつの話だ」
さっき渡したのって……ああ、これか。ルミンから受け取っていた紙束と機械を取り出した。正直言えば、これらについて、デュエルってので使うってこと以外なんもわかってない。
「そうそう。デッキの内容、ちょっと見てくれないか? デッキってのはその紙束の事な」
どれどれ。え。なにこれ。光、魔、罠、幻竜族、効果、ATK……え、なにこれ。
「その表情見るに、やっぱデュエル全然知らねえんだな」
そう言われましても。と、その時ちょうど、部屋の扉が開いた。千秋さんが帰ってきたのだろう。
「たーだいまー。うぇーい元気してるぅー?」
クールな見た目とは裏腹にいっつもハイテンションな千秋さん。こっちのデッキという紙束を見てさらにテンションを上げる。
「あれぇ? これって遊戯王のカードデッキじゃーん。どこでこれもらったのぉ? ってか何その隣にいるドラゴンちゃん、ルミン君でしょお? かーちゃんが言ってたよ~、游くんがかわいいドラゴン連れ帰ってきたって~」
千秋さんはそういうと、すぐにルミンのほっぺをフニフニしだした。
「ふゎーっう、ふぁみふぉすうひゃめひょー!」
「へっへー、やめるもんですかあ~?」
千秋さんがこれ以上暴走する前にどうにか制止させ、これまでの経緯を説明した。少々説明不足だったと思われたが、千秋さんはすぐに理解してくれた。
「ははーん、なるほどねー? よーするにルミン君に誘われて遊戯王をやってみようってわけだ」
「うん、まあ大体そんなとこ」
「よーし、そういうわけなら私とルミン君で遊戯王のことについてみっちり教えてあげるね~」
――いや、知っておくべきことが多い! ざっと30分くらい時間とられたぞ。しかもこれだけが最低限ってマジで言ってるのか? 融合、儀式、シンクロ、エクシーズ、ペンデュラム、リンク等々……。でも、楽しそうだということには変わりない。早くやってみたいのだ。たった一つの懸念点を除けば、だけど。僕が受け取ったデッキの中に、どうも千秋さんでもよくわからないカードがあったのだ。なんか、「効果」とか「チューナー」とかと同じ段に『コネクト』と記載されたカード(これで伝わるかな?)。
「うーん、『コネクトモンスター』かぁ~。フィールドのモンスターと手札の『コネクター』ってのを墓地に送ってできる召喚方法ってことだろうけど……。ねえルミン君。大体こんな感じの説明であってる?」
「ああ、大体な」
な、なんなんだこれ。レベルが高いようなそうでないような……。それほど奥深いってことなんだろうな、遊戯王って。
その時、1枚のカードが目に留まった。『ブライトハート・ルミナスドラグーン』。二人(?)が言っていた、コネクトモンスターである。
「ん。やっぱりこれに目をつけたか」
僕がルミナスドラグーンのカードを見ているのに気づいたルミンがこっちを見てくる。
「このデッキのエースカード、って立ち位置のつもりなんだがな」
「へえ。……なんか、運命っていうの?」
「そう……なのかもな」
「あ、そうだ!」
その時急に千秋さんが声を張り上げた。一体何事なのだろうか。千秋さんの顔をまじまじと見つめる。
「明日土曜日なんだし、せっかくだから、明日の分のショー終わったらいいとこ連れてってあげるわ」
今日の演目も終わり、投げ銭の量を確認し、千秋さんの下へかけていった。昨日言ってた『いいとこ』ってのが一体何なのか何も言われてない。僕の方に気づいた千秋さんが僕の事を無理くり引っ張って連行していった。
「はーい今日もお疲れぇー☆ それじゃしゅっぱーつ!」
あまりにも唐突が過ぎる。まずどこへ行くのかを説明してもらわないと。と、しばらく引っ張られるがままに移動して5分。なぁんかとてもかなりすごくでかい施設があった。そう、とてもかなりすごくでかいとしか言えないほど語彙力が欠損するほどとてもかなりすごくでかいのだ。
「え? なな、なにこれ!? スタジアム、ってやつ?」
「あー。游くん知らなかったかぁ~。向日市にある超でかいデュエルスタジアム、『サンフラワースタジアム』だよ」
「ほお。噂には聞いていたが、こりゃ確かにでけえな」
それを初めて見たのか、僕だけでなくルミンもそのスタジアムに驚いていた。あれ? でもちょっと待てよ?
「え、でもこれ、一般の人がフツーに入っていいとこなの?」
「ぜーんぜん大丈夫! ってか一般の人向けに開放されてるとこだしぃ、行こ行こ~☆」
「え、ええー!?」
「うぇ~い!」
「って、なぁんでルミンもノリノリなのぉ~!」
とにかく、とりあえず中に入ることにした。中に入って分かったことがある。広い。広すぎるし豪華ともいえる。床一面に赤の絨毯が引かれてあり、あちこちにデュエル用の台があって、そこでたくさんの人がデュエルしていたり……。僕みたいなのじゃ絶対身の丈に合ってない。
「おやぁ? 千秋じゃないか。まさかこんなとこで会うとは」
随分といけ好かない声が聞こえた。声のする方を向くと、そこにはスーツ姿の、千秋さんと同い年くらいの男が立っていた。千秋さんはさっきのとは想像もつかないほど打って変わり、鋭い目つきでその男をにらむ。
「ちょっと、どうしてあんたがここにいるのよ」
「あんたとは失礼な。私にはちゃんと名前っていうのがあるんですよ。それよりどうです? この後別の部屋で、少々お話でも」
「し ま せ ん ! はあもう、行くよ游我、ルミン」
そういうとすぐに、僕とルミンを引っ張って奥へと連れて行った。
「え、あ、うん」
そして、さらに連れてこられた先は、スタジアムNo.1の受付だった。この『サンフラワースタジアム』、プロが戦うエリア以外にも、実際にモンスターを召喚して戦えるスタジアムエリアが一般向けに解放されているそうで、ここではその受付をしてもらえるそうだ。そんなことより、千秋さんにさっきの人が誰なのかを聞いてみた。
「え? いやいや、ただの元恋人」
なんだ、ただの元恋人か。でも元恋人にしては随分としつこいような気がしてならない。何か裏でもあるのだろうか。そんな風に思考を巡らせていると、受付の方がこっちに向かって話しかけてきた。
「あら、こんにちは千秋さん、と、そちらの方は?」
「あ、定木 游我です」
「あら、あなたが定木さんね。千秋さんから話は聞いているわ」
「今日はその、千秋さんに連れられて」
「ええ、游くんに遊戯王をやらせてみようと思って」
「そうです。……へ?」
「あらそうなんですね?」
「いや僕何も聞いてないんだけど」
それでも受付さんと千秋さんは押せ押せの雰囲気。まずはじめになんでこうなったかの説明が欲しかったのだが、勢いに飲まれ結局屈してしまった。
「はいはい。やってみればいいんでしょ? やってみれば」
こんなことを言っているが、本当のところは今すぐにでもやりたくてたまらないのである。しかし、スタジアムの方での受付ということは、実際にスタジアムエリアでデュエルできるってことなのだろうか。それともう1つ。
「ところで、対戦相手って誰が?」
「えっと、フリーマッチとランクマッチの2種類があって、どっちをやるかで変わると言えば変わりますが……」
「ああもうまったく……。受付さん、私と游くんの二人でフリーマッチで試合登録の方をお願いするわ」
僕たちのやり取りを聞いて少々見かねたか、千秋さんが声をあげた。
「え、それって」
「私が相手になってあげる。デュエルのね」
「いいんですか?」
「いいのいいの。そんくらいお安い御用だしね☆」
さっきまでの暗い表情はどこ行ったんだ、と思わせるほどのいつもの笑顔でそう返してくれた。やはり千秋さんはこのギャップがかわいいのだ。別に好きだからそう言ってるわけではない。
「なんかホント、申し訳ないです」
「だーいじょうぶだって☆ てことで受付さーん、ヨロシクー!」
……というわけで、初めてのデュエル相手は千秋さんに決定した。まさか彼女がデュエルしてるなんて聞いてなかったから、いったい何のデッキを使ってくるのか楽しみだった。……んまあ、アカウントの登録作業等々で1時間弱余計に時間を使ってしまったんだけど。
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