第４話 心の過去と力　作：ｸﾄｩﾙﾌ大好きな人

六花「ちょっと待って下さい！いきなりそんな事を言われても」

　突然告げられるまさかの出来事に凛はパニックになりかかっている。それもそうだ、サイコデュエリストと聞いていい噂を聞いた試しがない。殆どが大規模な事件に関わるものばかりだからだ。無差別テロや通り魔事件などで聞く事が多かったからこそ、自分の大切な人がサイコデュエリストだという話を信じたくなかった。


凛「そ、そんな事有り得る訳・・・ない・・・・ですよね・・」


　勢いよく立ち上がり、今にも泣きそうな凛を見て申し訳ないが事実だと宇宙は目を伏せる。
　「・・・そんな」と凛がふらつくがすぐ傍にいた六花が支え、ゆっくりソファーに座らせる。



宇宙「出来れば伝えたくはなかった。だが、これからも心と付き合っていくとならば話は別だ。だからこそ知って欲しい。私達の呪われた家系の事を、引き継がれる忌まわしい力のことを」


　紅茶を手に取った宇宙は一口だけ啜る。


六花「取り乱してごめんなさい。取り合えずサイコデュエリストの事もそうですが、心くんの精霊の事を教えて下さい。人工の精霊について」



　落ち着きを取り戻した六花は宇宙の目を真っ直ぐ見つめる。



宇宙「まず精霊についてだが、カードの精霊は元々精霊の世界にいた事は知っているな？」


　頷く六花。

宇宙「その精霊が見えるにはさまざまな条件がある。まずは精霊の付いたカードを所有している事、そして精霊に持ち主として認められる事。これらが最低条件だと言われている」


　「その中には例外も存在する。これが本当かは定かではないが、精霊を無理やりカード化させる事、これは正直信憑性が低い。そして」


六花「先ほど言った人工の精霊・・・」


　そうだと宇宙は頷く。


宇宙「正直な話、私には精霊の類は見る事が出来ない。私自身が精霊を所有していないからだ。そして心もまた精霊のカードを所有していなかった、１２年前まではな」



六花「その１２年前に何があったんですか」


香蓮「私と心が誘拐された事件ですわ」

　そこまで黙って話を聞いていた香蓮が口を開く。その表情は暗かった。


宇宙「香蓮、どこまで覚えているんだ」


香蓮「正直全くですわ。爺やに調べさせた時に偶然見つけましたの。あの時の記憶は曖昧なので明確な事は言えませんの」



　落ち着いているように見えるがカップを持つ彼女の手は微かに震えている。



宇宙「私自身、現場を見た訳ではないがひどい有様だったそうだ。心はその時に一度覚醒したのではないかと私は考えている」



凛「ワーム・ゼロは心くんが生み出した精霊・・・という事なんですか」


　俯いたまま凛は尋ねる。


宇宙「私の推測が正しければそうなるな。サイコデュエリストの力を使って無理矢理召喚したのか、または・・・」


　そこで宇宙は黙ってしまう。だがそこにいる３人は誰も尋ねようとはしない。重たい沈黙が続く。




凛「いくつか確認したいんですけど」


　沈黙を破ったのは凛だった。


凛「心くんは一度覚醒したのになぜ今は力を使えないのか、それと誘拐された現場で何があったのか教えて下さい」


　凛の目は真剣だった。宇宙は少し迷ったが、閉ざした口を開く。


宇宙「これはあくまで個人的な考えであって答えではない、それを頭の隅に置いておいて欲しい。その時警察が現場に駆けつけた時には誘拐犯の2人は死亡、心は拳銃で撃たれ瀕死の重傷だった。私はこれが何か関係しているのではないかと考えている」


　「心は眠らさせられている香蓮を庇った状態で倒れていたそうだ。そして犯人だが、オブラートに包んで言わせて貰うが人の形をしていなかったそうだが、この話題は少し避けておこう」





　まだ５歳の少年が背中を数発撃たれ、内臓が傷付き出血多量で死んでもおかしくない状況だったそうだ。すぐさま病院に運ばれ緊急手術ののち一命は取り留めたが意識不明のまま一ヶ月は寝たままだったと。



六花「その犯人が亡くなったのとワーム・ゼロの関係は何かあるんですか」


宇宙「そうとしか考えられないからだ、と言って置こう。普通に考えてみてくれ。５歳の少年が拳銃で撃たれているにも関わらずどうやって大の大人2人を消す事が出来るか。結論には早いかもしれないが力を使って殺したと言えば説明が付くだろう」



凛「ソラさんは心くんが人殺しだっていうんですか！？」


　テーブルを叩き立ち上がる。


宇宙「いや、私はそうとは思わない。『心が命令した』のではなく『精霊が自分の意思で攻撃した』と考えている」



　凛は息を荒げながらソファーに座る。宇宙は凛が座ったのを確認するとひっくり返ったカップを元に戻す。香蓮は近くにあったタオルでテーブルの紅茶を拭き取った。




宇宙「凛、私は心を信じている。これは私自身の心に誓って言える。話の続きになるが、この精霊が心の力で意図的に生み出されたものなれば心の力はかなりの物だ。伯母に当たる十六夜アキに匹敵するかそれ以上だ。そしてその力は『その精霊の力』で封印されたのではないかと考えている・・・というのが私の考えだ」




凛「でももしソラさんの話が本当だったとして、今の心くんに精霊が見えていると言う事は」


香蓮「封印された力が戻りつつある・・・と言う事ですわね」




宇宙「出来ればこんな話はしたくなかったが、いずれは知ることになるだろうからな。それとこれを2人に渡しておこう」



　そういって宇宙が差し出したのは小さな御守りだった。