第６話　昇華と代償　作：提馬風

――プライドタワー、社長室――

神馬「ふむ……お互いに1ターン目が終わったね」

宮猫「戦闘狂の奈良じゃ分が悪い感じだな。ホントに勝ち越してんのか？」

神馬「伏せカード無しでキャット・ダンサーの攻撃を止めたのは流石だ。
　　　さて、次の遊陽のターンだけど、どうなると思う？」

猪上「大型モンスターを召喚したくても、あいつのフィールドにはエルフの蓑隠れしかいないしなぁ。
　　　もしダンディライオンを墓地へ送れたとしても、綿毛トークンはすぐにアドバンス召喚には使えない」

神馬「そうだ。それに、綿毛トークンのレベルでは儀式召喚も難しいだろう。
　　　かといってエルフの蓑隠れをリリースしてしまうのも得策ではない……」

神馬「ここからどうするつもりなのか、次のターンが見物だな」

―――

遊陽「私のターン、ドロー！」

遊陽「エルフの蓑隠れを手札に戻し、手札から『奔走するエルフ』を特殊召喚！」

奔走するエルフ「ヤアッ！」ATK1200

小柄なエルフのモンスター。

奔走するエルフ　レベル4　光
戦士族／効果
①：自分フィールドの「エルフ」モンスター１体を持ち主の手札に戻して発動できる。このカードを手札から攻撃表示で特殊召喚する。②：このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドの「エルフ」モンスターの攻撃力は３００アップする。
攻撃力 1200　守備力 800

遊陽「奔走するエルフの効果で、自身の攻撃力を300アップ！」

奔走するエルフ ATK1500

遊陽「さらに、エルフの蓑隠れがフィールドを離れたことで、装備されていたダンディライオンが破壊される！
　　　よって、綿毛トークンを2体特殊召喚！」

綿毛トークン DEF0
綿毛トークン DEF0

遊陽「私は儀式魔法、杜の化身の目覚めを発動！
　　　フィールドの奔走するエルフをリリースします！」

遊陽「杜の怒りを司る一輪の花！
　　　儀式召喚！ 降臨せよ、レベル4！杜の化身-ブルーム・ヴルム！」

ブルーム・ヴルム「グジュウゥゥ！！」☆4 ATK2300

奈良「そのモンスターは……」

遊陽「綿毛トークン2体をリリースして、ブルーム・ヴルムの効果発動！
　　　このカードの攻撃力を、リリースしたモンスター1体につき200アップする！」

ブルーム・ヴルム「ジュウゥゥ……」ATK2700

遊陽「バトルフェイズ！ ブルーム・ヴルムで、月光舞猫姫を攻撃！
　　　『シンテシス・バースト』！」

遊陽「キャット・ダンサーは戦闘では破壊されない。でも、ダメージは受けてもらいます！」

奈良「……それは、どうだろうね？」

遊陽「！？」

奈良「ダメージステップ開始時にリバースカード・オープン！
　　　トラップカード、『幻獣の角』！」

遊陽「幻獣の角！？」

奈良「このカードは、攻撃力を800上げる装備カードとして、キャット・ダンサーに装備される！」

月光舞猫姫「ニャ〜ン！」ATK3300

遊陽「攻撃力、3300……！！」

奈良「キャット・ダンサー！ 相手モンスターを返り討ちにして！」

バキィ！

遊陽「きゃああっ！！」LP3300

奈良「幻獣の角を装備したモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊したことで、
　　　あたしはデッキから1枚ドローする！」ﾋﾞｼｯ

遊陽「破壊されたブルーム・ヴルムの効果発動！
　　　デッキから『杜の化身-ダムドラゴラ』を手札に加えます！」

遊陽「私はモンスターを守備表示で召喚し、カードを2枚伏せて、ターンエンド！」

奈良「最初と同じ盤面か……。
　　　残念だけど、それじゃあセットモンスターもバレバレだね。
　　　もしあたしがエルフの蓑隠れを処理できるカードを引ければ、こっちがデュエルの主導権を握ることになる」

奈良「もちろん、このターンで片付けてみせるけどね！
　　　あたしのターン、ドロー！」ﾋﾞｼｯ

奈良「……そいつを処理はできないけれど、それでも充分だ。
　　　このターンで決着を着ける札は揃った！」

奈良「あたしは墓地の月光香を除外し、手札の『月光紫蝶』を捨て、月光香の第2の効果を発動！
　　　デッキから『月光狼』を手札に加える！」

奈良「さらに墓地へ送ったパープル・バタフライを除外し、手札から月光狼を特殊召喚！」

月光狼「グルルァッ！」☆6 ATK2000→2100

奈良「手札から『月光紅狐』を召喚！」

月光紅狐「クゥン！」☆4 ATK1800→1900

奈良「そして、今召喚したクリムゾン・フォックスをリリースして、キャット・ダンサーの効果を発動！」

奈良「バトルフェイズ！ キャット・ダンサーでセットモンスターを攻撃！ 攻撃宣言時、相手に100ダメージ！」

遊陽「伏せモンスターはエルフの蓑隠れ……。
　　　キャット・ダンサーの効果により戦闘破壊されず、デッキから『スポーア』を装備します」LP3200

奈良「この時、月光狼の効果により、貫通ダメージを与える！」

遊陽「貫通ダメージ！？ きゃああっ！」LP700

遊陽「……戦闘ダメージを受けたことで、トラップカード『エルフの抵抗』を発動！
　　　受けた戦闘ダメージと同じ攻撃力を持つエルフをデッキから墓地へ送り、
　　　このバトルフェイズではこれ以降、墓地へ送ったモンスターより攻撃力の高いモンスターは攻撃できません！」

エルフの抵抗　通常罠
①：自分が戦闘ダメージを受けた場合に発動できる。デッキから受けたダメージの数値と同じ攻撃力を持つ「エルフ」モンスター１体を墓地へ送る。このターン、この効果で墓地へ送ったモンスターより攻撃力の高いモンスターは攻撃できない。

奈良「だったら……月光狼でエルフの蓑隠れを攻撃！ これで終わりよ！！」

遊陽「トラップ発動、杜の化身-アイヴィ・ガードナー！
　　　デッキから大いなる記憶の樹を墓地へ送り、月光狼を攻撃不能にする！」

奈良「ムーンライトモンスターが効果の対象とされた時、墓地のクリムゾン・フォックスの効果を発動！
　　　その発動を無効にして破壊し、お互いに1000ライフを回復する！」LP5000

『月光狼』を捕らえようとする蔦の壁が、墓地から飛び出した『月光紅狐』に引き裂かれる。

奈良「これで攻撃は有効、あなたに貫通ダメージ！」

遊陽「植物族モンスターを装備したエルフの蓑隠れは、
　　　戦闘破壊されたことで、大いなる記憶の樹を除外してフィールドに裏側守備表示で特殊召喚されます」LP1700→400

奈良「なかなかしぶといね……あたしは幻獣の角の効果でデッキから1枚ドロー。
　　　カードを3枚セットして、ターンエンド！」

遊陽「エンドフェイズ時、フィールドから墓地へ送られたアイヴィ・ガードナーの効果を発動して、
　　　デッキから『杜の化身の木霊』をセットします！」

杜の化身の木霊　儀式魔法
このカード名の①②の効果は１ターンにそれぞれ１度しか使用できない。①：自分の墓地の「杜の化身」儀式魔法カード１枚を除外して発動できる。このカードの効果は、除外した儀式魔法のモンスターを儀式召喚する効果と同じになる。②：墓地のこのカードを除外し、除外されている自分の「杜の化身の木霊」以外の「杜の化身」儀式魔法カード１枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

YUHI LP400 手札2
NALA LP5000 手札0


遊陽「……ふふっ、まさかとは思いましたけどね。
　　　この私の守備展開でも戦闘を凌ぐのが精一杯なデュエル……、何度も経験しているじゃないですか。
　　　ムーンライトデッキ使いの、『LUNALAN』さん……！！」

奈良「ようやく気付いたね。
　　　その通り、あたしこそ、幾度もあなたを戦闘で打ちのめしてきた『LUNALAN』だ！
　　　遊陽ちゃんのデッキは、今までのデュエルで知り尽くしている。
　　　ここからどう動こうと、あたしの勝利は絶対に揺らぎやしない！！」

遊陽「奈良さんがそう言うなら、私は自分のデュエルでそれを覆してみせます！
　　　私のターン、ドローっ！！」ｼｬｷｰﾝ

遊陽「私は墓地のスポーアの効果を発動！ 墓地のダンディライオンを除外し、レベル4として特殊召喚する！」

スポーア「ポン！」☆4 DEF800

遊陽「私はセットしていた『杜の化身の木霊』を発動！
　　　墓地の杜の化身の目覚めを除外し、その効果を使用する！」

奈良「その瞬間、キャット・ダンサーを除外し、『パラドックス・フュージョン』を発動！
　　　その発動を無効にし破壊する！」

奈良「処理終了直後、永続トラップ『闇次元の解放』を発動し、キャット・ダンサーは帰還する！」

月光舞猫姫「ニャ〜ン♪」☆7 ATK2400→2500

遊陽「私は墓地に存在する杜の化身の木霊の効果を発動！
　　　除外した杜の化身の目覚めを手札に戻します！」

奈良「そしてそれを発動！ フィールドのエルフの蓑隠れとスポーアをリリースします！
　　　全てを破壊し尽くす、杜が生んだ地獄の化身！
　　　儀式召喚！ 降臨せよ、レベル7！ 杜の化身-ダムドラゴラ！！」

ダムドラゴラ「グアアァァ！！！」☆7 ATK2800

『ダーク・アームド・ドラゴン』のような見た目のモンスター。
しかしその身は鎧ではなく、植物の根や葉でできている。

杜の化身-ダムドラゴラ　レベル7　闇
植物族／儀式／効果
「杜の化身」儀式魔法により降臨。このカード名の②の効果は１ターンに１度しか使用できない。①：１ターンに１度、自分の墓地の植物族モンスター１体を除外して発動できる。フィールド表側表示カード１枚を選んで破壊する。「杜の化身」モンスターを除外してこの効果を発動した場合、破壊したカードは除外され、相手に１０００ダメージを与える。②：このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「杜の化身」儀式モンスター１体を手札に加える。
攻撃力 2800　守備力 1000

遊陽「墓地のブルーム・ヴルムを除外し、ダムドラゴラの効果発動！」

奈良「だったら最後のリバースカードを発動！ 速攻魔法『瞬間融合』！！」

遊陽「瞬間融合……！」

奈良「あたしはフィールドの月光舞猫姫と月光狼を融合！
　　　月明かりに舞い踊る美しき野獣よ、月夜に喰らう獣よ！
　　　月の引力により渦巻きて、新たなる力と生まれ変わらん！
　　　融合召喚！ 現れ出でよ、月光の原野で舞い踊るしなやかな野獣！ 『月光舞豹姫』！！」

月光舞豹姫「ハアァァッ！！」☆8 ATK2800

奈良「月光舞豹姫は、相手の効果では破壊されない。
　　　よって、ダムドラゴラの効果は他のカードに向くことになる！」

遊陽「……デュエルは自然であり、その中で起こるどんな想定外にも、デュエリストは対応しなければならない。
　　　パンサー・ダンサーを破壊できなくなったなら、他のカードを破壊するまでです！
　　　私が破壊するのは、フィールドに残った闇次元の解放！ 『ジェノサイド・ブレード』！！」

遊陽「杜の化身モンスターをコストとしてこの効果を発動したため、闇次元の解放は除外され、相手に1000ダメージ！」

『杜の化身-ダムドラゴラ』が放った鋭い葉の刃が、奈良のフィールドのカードを破壊する。
刃はそのまま奈良へと襲い掛かった。

奈良「どうしてそのカードを……ぐっ！！」LP4000

遊陽「私は杜の化身-ダムドラゴラで月光舞豹姫を攻撃！ 『ルーツ・パニッシャー』！！」

奈良「パンサー・ダンサーには、キャット・ダンサーのような戦闘破壊耐性はない……」

遊陽「相討ちです。よって、破壊されたレベル7の杜の化身-ダムドラゴラの魂が昇華する！
　　　我らの世界の聲に耳を澄ませ。その大いなる樹は、果てしない記憶の語り手となる！
　　　プロセス召喚！ 現れろ、レベル7！ 大いなる記憶の樹！！」

大いなる記憶の樹 ATK2000

遊陽「相手によって破壊されたことで、ダムドラゴラの効果を発動し、2枚目のダムドラゴラを手札に加えます」

遊陽「さあ……、奈良さんが除外したカードは何枚ですか？」

奈良「サーチに使った月光香、蘇生効果を発動したパープル・バタフライ、トラップを阻止したクリムゾン・フォックス……、
　　　それから、今除外された闇次元の解放！！」

遊陽「プロセス召喚に成功した大いなる記憶の樹の効果発動。
　　　除外されている相手のカード4枚を墓地へ戻し、攻守を倍にする！！」

奈良「ウソ……」ｿﾞｸ

遊陽「これで終わりです！ 大いなる記憶の樹で、奈良さんにダイレクトアタック！
　　　『フルメモリー・ウィスパー』！！」

奈良「うっ……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ！！！」LP0

WINNER YUHI


奈良「ウ……ッ、ハア、ハア……」ﾄﾞｻｯ

ソリッドビジョンが消えてからも、奈良は頭を抱えたまま息を切らしていた。
やがて膝から崩れ落ち、その場に倒れ込んでしまう。

遊陽「な……奈良さん！ 大丈夫ですか！？ 奈良さん！！」

神馬「奈良！」ﾀﾞｯ

危険を感じたらしい神馬が、エレベーターに乗って屋上に現れる。
神馬は奈良に近寄るが、奈良には反応を示す余裕などないようだった。

神馬「狒々木、宮猫と猪上を呼んで来てくれ！ 救護室まで奈良を運ばせる！」

狒々木「は……ははっ！」ﾋﾞｼｯ


遊陽「そ、そんな……」

神馬「生野遊陽、といったか。自分を悪く思うことはない。
　　　元はといえば、君のプロセスモンスターに興味を示して大会を開いたのは僕だ。奈良を止められなかったのもね。
　　　プロセスモンスターにはまだ謎も多い……、こちらでも最大限の安全対策を施すが、そのカードは慎重に使ってくれ」

遊陽「は、はい……」ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ


――プライドタワー・選手寮某室――

？？？「植物族のプロセスモンスター……。
　　　　それにあの姿や動き、やっぱり、エルストロームはこの世界に来ていたのか」

？？？「だけど、あれはエルストリームそのものじゃない。
　　　　もしかしたら、過去のエルストロームが、再び目覚めようとしているのかもしれない」

？？？「そうだとしたら、ボクはここまで来て正解だった。
　　　　とにかく、あの遊陽って子を守りながら、仕事をこなさないといけないな」

そのデュエリストの少女は、外に捻れた2本の長い角のある龍の頭の骨を被っていた。
彼女はそれを脱いで、部屋の机に置き、右手で撫でた。

彼女に左腕はない。代わりに装着されているのは、何か――龍ではないもののの骨で作ったような、シャープなデュエルディスク。

彼女の両の目元にはチョークで書いたような白い線が縦に引かれている。
まるで、涙の流れた跡のように。

彼女は後ろ結びの長い銀髪を靡かせ、自らの部屋を出ていった。

？？？「相棒、きっと元に戻してみせるからな」

彼女は、手に持ったプロセスモンスターのカードに語りかける。

『El(ｴﾚﾒﾝﾄﾛｰﾄﾞ)-死霊銀龍アクロマ・スピリット』