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幕間〜現代世界と姫王〜中編 作:名無しのゴーレム
「あ、ユウく〜〜ん!! まったく、なんで家にいないのさ! おかげで私、ずっとここで待ってたんだからね!!」
「……えっと、あちらの方は?」
「…………夕立 旭(ゆうだち あさひ)、俺の幼馴染だよ」
何かある度に俺を連れ回し、訳のわからない事態に巻き込む……言わば『歩く火薬庫』と言ったところか。
「ちょっとちょっと〜、聞こえてるんでしょ? 無視するなんてどういうつもりなの〜」
「……ハァ。旭、俺の記憶が正しければお前は海外にいるはずなんだが?」
「え? ああ、今から空港に行くよ? その前にユウ君に会っときたいなぁって思ってたんだけど……ところで、その人は?」
「え……」
マズい、どうしよう……真実をそのまま伝えてみろ、火薬庫が大爆発するぞ……?
「その、彼女は……」
「初めまして、私はユーノヴェルト・ハートラインと申します。海外から観光に訪れたのですが、道に迷ってしまい……そこで、遊介に助けていただきました」
「……え?」
「へぇ……日本語上手ですね!」
「ありがとうございます。勉学を積み重ねた甲斐がありました」
…………? 何だこれ、どういうことだ?
「……ユウく〜ん。こんな美人さんを連れて来るなんて、なかなかやるねぇ〜?」
「ど、どういう意味だよ……」
「アッハッハ〜、分かってるくせに〜」
「……それで? わざわざ家の前で待っていて、俺に何の用なんだよ」
「あ、そうだった。……はい、これ」
そう言って旭が手渡してきた物、それは……
「……紙?」
「発表の資料だよ。デュエルモンスターズの創始者であるペガサス・J・クロフォードの生い立ちからデュエルモンスターズの誕生、そして現在に至る発展……とりあえずその辺をまとめてあるから」
「……マジで?」
「マジマジ。あとはこれを用紙にまとめてくれればいいから」
「…………」
「……何、その顔は? ひょっとして私がユウ君に全部押し付けるとでも思ってた?」
「い、いや……ありがとう。俺の方でも見て回ってたんだけど、今いちいいのが見つからなかったんだ」
「そりゃあよかった。じゃあ、そろそろ私は行くね。あんまりみんなを待たせてもあれだし」
「おう。お前のことだから心配はいらないだろうけど、まあ気をつけろよ」
「もちのろんだよ。ユウ君こそ、私が帰ってくるまでに死んじゃったりしないでね?」
「……冗談、なのか?」
「半分くらいは。じゃあね〜〜!!」
––––嵐のような幼馴染が去って行った後、俺たちはようやく家に入った。姫様を玄関に待たせて、親がどうしているかを確認しようとしたが……
「おい、嘘だろ……?」
リビングのテーブルに置かれた、1枚の置き手紙。それに書かれた内容は……
「……なんでうちの親連れて海外行ってんだ、旭ぃぃぃ!!」
「!! 遊介、何かありましたか!?」
俺の叫びを聞きつけて、姫様が慌ててこちらに駆けてきた。
「あ、姫様……ごめん、何でもないから」
「ならよかったのですが……」
……しかし、どうしたものか。置き手紙によると旭たちが帰ってくるのは夏休みの終わり頃。それまで俺は、身の回りのことをすべて自分でしなければならないってことか……
「…………」
「あの、遊介……?」
「……とりあえず、しばらく親は帰ってこないみたいだから。姫様、入ってもいいよ」
「本当ですか! ありがとうございます! それでは……」
「あ、その前に……靴は玄関で脱いでくれない?」
「え?」
––––思いがけないアクシデントにより、自宅に姫様を招くこととなってしまった。
「へぇ……こちらの世界のお家はこのようになっているのですね」
「まあ、一概には言えないけどな。さて、と……」
まさかこうなるとはまったく想像していなかったけれど、これからどうしたものか……
「……そういえばさ、姫様。さっき旭相手に流れるように嘘ついてたけど、あれって咄嗟に思い浮かんだの?」
「えっと、あれは……ゼロからこの世界では身分を隠すようにと言われていましたので。ゼロの助言通り、異国からの旅行者を装いましたが……大丈夫でしたか?」
「大丈夫といえば、まあ大丈夫だろうな」
正直、あの時はやばいと思ったからな。そこはゼロに感謝すべきか……
「姫様、今から行きたいところってある?」
「行きたいところ、ですか? たくさんあって、どれがというところは……」
「ああ、そうだよな。じゃあ……カードショップとかは?」
「……カードショップ?」
「お、おお……」
「……そんなに驚く感じなんだな」
自宅から徒歩10分、学校帰りなんかに旭とたまに寄るカードショップに到着した。
「これほどの枚数のカードを揃えるとは、有数の富豪が経営しているのでは……?」
「……まあ、確かに枚数だけはすごいが」
「いらっしゃい〜……なんだ、遊介君じゃないか。隣のお嬢さんは友達かい?」
「店長、彼女は……」
「は、はじめまして! 私はユーノヴェルト・ハートラインと申します! 許可なく店に立ち入ってしまい、誠に申し訳ございません!」
「え、えぇ!? 姫様、いきなり何言ってんの!?」
「……いや、今まで入店してくる客相手に許可を出したことなんて一度もないから気にしないけどね。……それにしても遊介君、旭ちゃんといい彼女……ユーノヴェルトちゃんといい、君と一緒の女の子ってどれも変わった子だよね。もしかして、そういうのがタイプ?」
「どんなタイプだよ!」
「ハハハ、冗談だよ。ともかく、好きに見ていくといいよ。最近は隣町に馬鹿でかいカードショップができて、ほとんどの客が流れていったからね。僕としても暇で暇で仕方ないや……」
「近くに、この店以上のものが……!? 遊介、この世界でのカードの価値は一体どうなっているのですか!?」
「……まあ、姫様の世界よりずっと低いことは疑いようがないな」
俺としては姫様の世界でのカードの価値が気になる。入るのに許可が要るカードショップってどんなだよ。
「……あ、そうだ。久しぶりに『あれ』やろっかな〜。遊介君、どうだい?」
「『あれ』か……俺、今日デッキ持って来てないんだよ」
「そっか、残念だな〜」
「……? 遊介。『あれ』とは?」
「ん? ああ、この店のサービスの一環みたいなもんだけど……」
「ユーノヴェルトちゃんはデッキを持ってるかい?」
「え? ……はい。肌身離さず持ち歩くようにしています」
「そ、そこまでかい……まあいい。僕とデュエルしないか? ユーノヴェルトちゃんが勝ったら好きなカード1枚を超割引価格で売ってあげるよ」
「超割引価格……?」
「95パーセントオフ、だったっけ?」
「そうそう。利益なんて出るわけない、だから今みたいに人が超少なくて僕が超暇な時だけ行われるキャンペーンなんだけど……やっていかない?」
「遊介……」
「……やりたいなら、やってもいいんじゃないか?」
「!! ……はい、その申し出を受けさせていただきます!」
「いいねえ、そう来なくっちゃ! さっそくデュエルテーブルを用意してっと……」
「……机の上でデュエルを?」
「まあ、ここでデュエルディスクを使うわけにもいかないだろうよ……」
「準備出来たよ!」
「はい! それでは……」
「「デュエル!!」」
「魔賢龍王ソロモンでスターダスト・ドラゴンを攻撃!」
店長 LP700→0
「っ、と……はぁ、負けちゃったか」
「姫様、おめでとう!」
「は、はい! ありがとうございます!」
「それじゃあどれにする?」
「え?」
「……あ、忘れてるんだね。僕に勝ったから好きなカード1枚を激安で売ってあげるよ。さあ、選んでくるといい」
「この店にあるカードなら何でもいいから。姫様、見てきなよ」
「……では、そうさせてもらいますね」
「……ところでさ、遊介君」
「ん? 店長、どうかした?」
姫様がカードカタログをしげしげと眺めている最中、店長が俺に話しかけてきた。
「ユーノヴェルトちゃんがまさかペンデュラム召喚を使うとは思わなかったよ。普及してきたとはいえ、まだまだ希少価値の高いカードだからね……」
「……まあ、俺も最初は驚いたよ」
「しかも使っていたカードは全部見たことないものだし。たまにプロデュエリストとかが世界に一枚しかない超レアカードを使ってることもあるけど……」
「…………」
「遊介君はあの子のこと『姫様』って呼んでるけど、どういうことなの? まさか、どっかの国のお姫様なんてことは……ないよね?」
「えっ……」
うわ、ミスった……姫様が配慮してくれても、俺がしくじったら何の意味もないってのに……
「……彼女、海外から来たんだよ。最初に着ていた服がお姫様っぽかったから、そのまま姫様って……」
さすがに、厳しいか……?
「ああ、なるほどね。確かにドレスとか似合いそうな気もするなぁ」
「……そうかねえ」
「いやいや、絶対すごいよ。僕が言うんだ、間違いないって」
「あんたは何者なんだよ……」
「遊介! 決まりました!」
「おっと、決まったのか。……なるべく安いのだと嬉しいんだけどなぁ」
「大したレアカード扱ってないだろ、元から……で、何を買うことにしたんだ?」
「はい……これです!」
姫様が俺たちに見せたカード、それは……
––––そのカードを購入して、俺と姫様はカードショップを出た。
「……なあ姫様、本当にそれでよかったのか? あんまりレアなカードでもないし、そもそも姫様のデッキとは相性悪そうだけど」
「そんなことは関係ありませんよ。さあ、遊介の家に戻りましょうか」
「……? そうだな」
……そういえば、姫様が帰るのは明日の朝だったか。もう日も暮れそうだ、早くホテルか何かを探さないと……
「姫様、寝るんならやっぱりベッドの方がいいよな?」
「? 遊介、それ以外に寝る場所があるのですか?」
「……いや、知らないならそれでいいよ。じゃあホテルを……」
「遊介の家の寝室がどのようになっているから知りませんが、私はどんな部屋でも構いませんから」
「あ、ああ……?」
ちょっと待てよ? 今の言葉、どういう意味だ……?
「姫様、もしかして……うちに泊まるつもりだったり?」
「え? ……はい、そうする予定でしたが」
「…………」
……まあ、姫様をホテルに1人きりにするのは危険といえば危険だが……
(そういう問題じゃないだろ。姫様をうちに? どこに寝かせるつもりだよ。食事は? 風呂は?)
「…………」
「ゆ、遊介……駄目、ですか……?」
「っ!?」
グッ。だから、そんな顔されたら……
「…………ああもう、どうにでもなりやがれ!!」
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