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回帰〜穏やかな日々へ〜 作:名無しのゴーレム
「…………すぅ」
「……医者に診てもらったが、命に別状ないようだ」
「よかった……どれくらいで目覚めるんだ?」
「いつとは言えないらしい。早ければ半日もすれば目覚めるかもしれないが、遅ければ一月は……」
「そ、そんな……それでは、ゲヴァルフォスとの和議はどうするんだ!」
「私が出よう。……大丈夫だ、姫のおかげでスムーズに進むはずだからな。だからシズク殿は、姫と共に居てくれないか? きっとその方が、姫も嬉しいだろうから……」
「……分かった」
「……さて、遊介殿も和議に加わるのだったな?」
「あ、はい。なんか向こうの軍師が俺を呼んでるらしいから……」
「……捕虜になっている間にでも仲良くなったのか?」
「まあ、いろいろあったんですよ……」
あいつの名誉のためにも、あそこでの詳しいことは言わない方がいいだろうな……
「……あまり気にすることでもないが。さあ、行くぞ」
「はい!」
ーーヘクシエール王城の会議場にてーー
「……待たせてすまない。私がヘクシエールの代表を務めるクイナ・ウィンディだ」
「気にしないさ、そちらの事情は弁えているつもりだからな。……知っての通り、私はゲヴァルフォスの代表であるアルカ・グランベルゼだ」
……女帝も姫様と同じくらい、もしくはそれ以上のダメージを負っているはずなのに(少なくとも見た目の上では)まったく無傷のように振舞っている。
「……お前の姉はどんだけ丈夫なんだよ」
「一晩経ったらピンピンしてたよ。回復力が人並み外れてるんじゃないか……?」
「おい男ども。何をこそこそ話しているんだ?」
「「いえ、なんでもありません!」」
「? ……ならいいが。とっとと和議を始めようじゃないか」
「そうですな。まずは……ゲヴァルフォスは本日を以ってアルカ殿が帝王の座にある限り一切の侵略行為を行わないこと、これが我々の要求です」
「ああ、いいだろう」
「……交渉などはしなくていいのですか?」
「交渉? これは決闘の末に決まったことだ。それをひっくり返してしまってはゲヴァルフォスの名に傷が付いてしまうからな」
「……ならいいのですが」
……何気にすごいこと言ってないか? 例え他国に攻められても反撃に出られないなんて、かなりマズイ状況なんじゃあ……
「……姉様の馬鹿野郎……そんな無茶苦茶条件、まともに呑んだら国が滅びるに決まってんじゃねえか……」
……あ、やっぱりマズイ状況なんだ。それでもライトが直接何も言わない辺り、女帝は本気で姫様との約束を守るつもりなんだな……
「では、こちらからの条件を出させてもらおう。条件は一つ、それは……国どうしの対抗試合を開くことだ!」
「…………は?」
「む? それほど難解なことを言ったとは思えないが……だから、国の強者どうしでデュエルを行ってだな……」
「いや、それは分かっているのです。……承知しました。細部は後日に決めるとして、近いうちに執り行うことを約束しましょう」
「それはありがたい。……よし、ならこれで和議は終了だ。帰るぞ、我が弟よ」
「……え!? 今のでいいのか!?」
「これ以上何を話すんだ。早く戻って兵士どもを鍛え直さなければ……無論、私自身もだが。お前ももう少しマシになるまでシゴいてやるからな、覚悟しておけよ!」
「ハァ!? だから俺軍師だって……ちょっ、マジで帰るのかよ〜!!」
「…………」
「……終わりましたね、和議」
「あんな交渉相手は初めてだ……ともかくこちらの要求はすべて通った。ならばあまり気にすることもないだろう……姫のところに戻ろう」
「はい……」
廊下に出ると、そこにはゼロが立っていた。
「お、遊介。ちょっとこっちに来てくれないか?」
「……? ああ、分かった……」
「……で、なんだよ。城の外に出たけど……」
「……なあ遊介。お前がここに来た理由ってなんだと思う?」
「え? ……この国を、帝国の侵攻から守るためじゃなかったっけ?」
「そうだ。……なあ、俺が言いたいことが分かるか?」
「…………もう俺は用済みだと?」
「いや、そこまでは言ってないが……あんまり長居しても帰りにくくなるだけだろう? だから、姫が眠っている今のうちにでも……元の世界に、戻らないか?」
…………
「……確かに、そうした方がいいかもな。でも、その前に……」
「……クイナさん」
「ん? ……遊介殿か。どうかしたか?」
「……俺、自分の世界に帰ることにしました」
「……そう、か。姫に別れの挨拶をしなくてもいいのか?」
「いつ目覚めるかも分からないのに、ずっと待ってるわけにはいかないでしょ?」
「……確かに。カーバンクル隊にも連絡しておくから、今から会って来るといい。短い間だったとはいえ、一応同じ部隊の仲間だったのだからな」
「……ありがとうございます」
……えっと、ここがクイナさんが言ってた部屋だよな?
「……よし、入るか……」
ドアを開けた、その瞬間……
パァァァン!
「な、なんだぁ!?」
……部屋の中を見ると、そこにはクラッカーを構えた四人の姿が。
「遊介君、お疲れ様っス〜! 急だったから何にも用意できなかったっスけど、とりあえず祝勝会と送別会を一緒にやるっスよ〜!」
「……まあ、飾り付けとかを用意できなかったのはエルドが金をケチったからなんだけど」
「ちょっ、ロザリー!? ……そういうロザリーこそ、自分で料理を作るとか言って大量の炭を錬成してたじゃないっスか!」
「き、貴様ぁ!」
「2人とも、喧嘩をしに来たのではないでしょう? ……お飲み物をどうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
「…………遊介」
「な、なんだよ……」
「…………お前は、モテるのか?」
「……いや、特には……」
「…………そうか。…………このクラッカー、俺が用意したんだ。…………サプライズのできる男はモテる、だろう?」
「……ハハハ。そう、かもな……」
「……お前たち、部屋の外まで声が聞こえているぞ」
「あ、シズク……」
「!! シズク様ぁぁぁ〜〜!!」
「叫ぶな! ……だがまぁ、たまにはこういうものもいいか。菓子の類を持ってきたから、少しは宴の足しになればいいが……ん? というか、何故飲み物しかないんだ?」
「あ、ええっと、それは……」
「シズク様ぁ……グゥ」
「もう、これ以上払えないっスよ……グゥ」
「……こいつら、なんで寝てるんだ?」
「……シズク様。この菓子、ごく少量ですが酒が入っていますよ」
「何!? ……本当だ。遊介、お前は食べてないな!?」
「あ、ああ……」
「ホッ……もう潮時か。遊介、一度姫に会いに行くか?」
「……いや、大丈夫だ。ゼロにも出来るだけ早く戻って来るようにって言われてるからな」
「そうか……遊介」
「……ん、なんだ?」
「……お前は、私の自慢の部下だ。それと同時に、その、だからな……」
「? なんだよ、急に歯切れが悪くなって」
「いや、えっとな……」
「……個人的にも遊介さんのことを好いている、でしょう?」
「なあっ……何を言っている、レイチェル! ……ち、違うからな! あくまで心強い仲間としてであって、断じて他の意味は……」
「……ウフフ、照れても仕方ありませんよ」
「馬鹿なことを言うなぁ!!」
「…………モテている奴は許さない……!!」
「!? な、なんだか分からんがもう行くぞ! じゃあな!」
「あ、おい、待て! ……いつでもいい。また戻って来いよ、遊介……」
「……別れの挨拶は、終わったのか?」
「……ああ」
「よし、じゃあ始めるぞ……」
前と同じように、視界がだんだんと歪んでいく。
(……できるなら、一度でいいから姫様とデュエルしてみたかったなぁ……)
……まあ、今となっては叶わない願いなんだが。せめて、この世界の出来事を忘れないようにしないとな……
「…………ぅ、ううん……?」
……目覚めると、そこは本に囲まれた場所……図書館だった。
(日にちは変わってない、みたいだな。本当に時間の流れが違うってことか……)
「……時間は……6時か」
確か、ここの閉館時間は7時だったか……
(あの歴史書は……ないか。ゼロもいないし、さっさと帰ったってことなのか……?)
「…………俺も帰るか」
……あの体験が現実だと示すものは何もない。だから、言ってしまえばあれは夢だったと断じてしまうことも可能なわけだ。
(……でも、あの闘いの激しさは紛れも無い本物だった。もう見ることは出来ないけれど、きっとあれ以上のものはもう出会うことは無いんだろうな……)
……さて、明日からは真面目に発表の制作だ。旭の奴は当てにならないし、早めに資料を集めておかないとな……
ーーヘクシエール王城の一室にてーー
「……俺を呼んだのはお前か、クイナ」
「如何にも。……ゼロ殿には、どうしても尋ねたいことがあったのでな」
「なんだ? まだ戦後処理が終わってないだろうに、そんなに大事なことなのか?」
「ああ。……ゼロ殿が姫に手渡した手紙、あれは本当にゲヴァルフォスから送られてきたものか?」
「……何が言いたい」
「私は、此度の決闘がゼロ殿により仕組まれたものだと考えている」
「ハァ? ……おいおい、俺がどうやってそんなことを……」
「調べた結果、シズク殿たちが退却してきた前後の時期には王国軍以外の入国者は一切存在しなかった。そう、一切だ。この国は四方を壁で囲み複数箇所の関所を設けているが、王城から出ていないはずのゼロ殿はどうやってゲヴァルフォスの使者から手紙を受け取ったのか、是非聞かせてもらいたいな」
「…………」
「……そもそも、だ。遊介殿では女帝に太刀打ちできないのは目に見えていたはず。それでもゼロ殿はさも彼が国を救う英雄のように扱った。……ゼロ殿。あなたは最初からこの展開を予期して、またそうなるように裏で糸を引いていたのではないか?」
「…………そうだとしたら、お前はどうするんだ? 俺を裏切り者として排除するか?」
「……何もしない。結果としてこの国は最大の窮地を脱した。あなたが何を企んでいるのかは知らないが、こちらに牙を剥くまでは私たちの仲間であることに変わりはない」
「つまり、少しでも怪しい振る舞いをすれば容赦しない、と?」
「……そう思っていただければ」
「分かった、これからは変な振る舞いは控えるよ。軍師殿に睨まれちゃあ怖くて仕方ないからな。……話は終わりか?」
「……そう、だな」
「……よかったのか? あのまま帰してしまって……」
「……まだ危険分子とは断言できない、私はそう判断した。念のためにシズク殿に潜んでいてもらったが、すまなかったな」
「構わない。……だが、私にはどうしてもあいつが怪しく見えてしまう。勘みたいなものだから、お前は信用しないとは思うが……」
「いや、私も同感だ。『ゼロ・ウロボロス』……虚無と無限とは、ふざけた名前だとは思わないか?」
「……なんで、またここに来たんだろうなぁ……」
翌日の朝、気付けば足が自然とあの図書館に向かっていた。
「……仕方ない、また適当にいろいろ漁ってみるか……」
……うーん、やっぱりオカルトだよなぁ。でも、あんなのを体験した後だとまだまともに見えてくるのがまた、なぁ……
「…の……」
(……やっぱりデュエルモンスターズから離れるか? 言い出しっぺの旭がいないんだし、もっと無難なテーマにするか?)
「……! ゆ…す…!」
(あいつがなんて言おうが知ったことじゃないしな。よし、だったら……)
「遊介!」
「…………ん? 誰だよ、図書館で大声出してんの、は…………」
…………いや、いやいや、いやいやいや。そんなはずがない。まったく、俺はまだ寝ぼけてるのか。もしかしたら夢かもしれないな。よし、頬をつねって……
「……痛ってぇ!?」
「えぇ!? お、落ち着いてください! 普通、頬をつねったら痛いですよ!」
「そんなこと分かってるよ! …………ってことは、これは……やっぱり現実なのか?」
「えっと……はい、たぶん。あの、体調が優れないならどこかで休んだ方が……」
「いや、大丈夫だから…………あの、つかぬ事をお聞きしますが……あなたの名前は?」
「え? あ、私の名前は……」
「ユーノヴェルト・ハートラインです。お久しぶりですね、遊介」
第1章【異世界騎士と姫王】 完
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そしてまさかの姫様がこんにちは?…抱くのは(殴られた (2016-02-27 16:53)
普通に考えてゼロなんて名前の奴怪しくないですか?(一般論) 彼の正体は……いつか明らかになるんじゃないですかね?
姫様と遊介の今後のあれこれは……しばらくしたら書きます。次回からは1章の登場カードと登場人物の紹介になります。 (2016-02-27 20:00)