83.想輝旋錬　作：くちなし

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某日。夜が更け、風が冷たくなり、肌寒く感じる時間。外の灯りも消え、灯すものは月の光だけ。皆が寝静まって静寂になっている。
ここでもメンバーは就寝に入り、疲れを癒していた。ただ一人を除いて。

(、、うーん、、こうしようかしら、、)

明かりで真っ白な部屋に、瑞穂はただ一人デッキの構築に頭を悩ませていた。

(、、少なくとも、ただものじゃないことだけは事実、、)

今までは、シンクロ召喚を多用したビートダウンで相手を揺るがせていた瑞穂の【BF】デッキだが、他にもいくつか構築の種類があり、どうするべきかをまず考えていた。

(決勝だもの、、！あたしだって、、！)

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翌日朝。太陽が少しずつ昇り、みんなが順々に目を覚ます。時間がたつにつれて人の往来が増え、にぎやかになる街。そして、時計の針が午後11時を回る中、悠里ただ一人が一度も顔を見せていなかった。

「遅いですね。。悠里くん。。」
「んもう、、生活リズムもまともに合わせられないのかしら、、！」
「、、瑞穂、落ち着いて、、」
「わ、わたし、起こしてきますね。。」

愚痴る瑞穂を有希が宥め、香織は悠里の様子を見に行くことにした。

「悠里くん。。？起きてます。。？」
「、、入れば」

返答後、ゆっくり扉を開ける。部屋は整頓されていて、布団も端の方に折り畳まれていた。そこで悠里は、手慣れた様子でパソコンの画面を操作していた。

「、、なあ、瑞穂呼んできてくれ」
「あ、うん。。」

ーーー

「、、なによ」
「瑞穂、”花園凛華”って人物を知ってるか」
「、、！、、その子はあたしの幼馴染よ。なんであんたがその名前を、、？」
「、、わざわざ”稲垣瑞穂様”宛てにメールが届いてる」

”花園凛華”という人物ワードに耳にし、内容が気になるようなので、メールの中身を見せてやった。それをサルでも解るように短くすると、こうなる。

”瑞穂、Dホイール忘れてるから届けに行くよ。待っててね”

「、、こっち来るの！？」
「そりゃそうだろ、、」
「ちょっと！なんでもっと早く見せなかったのよ！」
「なんでって、、お前が集中してるから気を利かせたんだ」
「そういうのはちゃんと見せてよ！」
「ちょ。。二人とも！」

二人のもめ騒ぎはピンポーンという音と同時に止んだ。

「やっほー瑞穂ー！」
「まさか本当に来るとは思わなかったわよ、、どんだけ体力あるのよ」

ニシシと笑うその人物。同室に、ほぼ全員がガレージに終結していた。
”ほぼ”なのは、海清と氏家さんが出かけていて、いないからである。

「そんな遠いところからきてるのか？」
「まあ、そこそこ遠いけど、夜通し走ってきたから道はすいてたよ」
「夜通しって、、」
「だって、ここからあたしの故郷まで約550kmよ？」
「ご。。550km。。ですか。。！？それを一晩で。。」
「まあ、風当たり気持ちよかったよ。それにしても、都会は違うなぁ」
「ま、それはいいとして、わざわざ持ってきてくれてありがと」
「そうそう。なんで持ってかなかったんだろうってみんな言ってたよ」
「、、、」
「ご覧あれ！これが瑞穂のDホイール！”オルニス・メラン”さ！」

布を取り除くと、そこには黒く輝くDホイールがあった。
黒ベースの色に、黄色と赤の線が施されている。

「かっこいいな、、」
「。。きれいに磨かれてますね。。」
「当然よ！うちのエースだもの」
「エース？義姉妹なのか？」
「あー、わたしと瑞穂は同じ施設で育ったんだよー」
「なるほど」
「ちなみに、あたしの両親は両方とも健在よ」
「じゃあ、なんで施設に、、？」
「、、」

ーーー回想①　始

あれからもう7年経つわね、、
あたしの両親は当時忙しくて、海外に出張に行ったわ。俗にいう繁忙期ってやつね。

だから、あたしは施設に預けられた。そこで出会ったのが凛華よ。そこでの生活に不自由はなかった。凛華とはしゃいだり、決闘したり。喧嘩もしたけど、寂しくはなかったわ。

そして、あたしはそこでクルトという青年に会ったわ。当時の換算で5個くらい年上だったかしら。彼は時々施設に遊びに来ては、差し入れを持ってきたり、決闘をしてくれたりしたわ。あたしはよく彼に相手してもらったから”クルト兄”って呼んでたわ。それに、機械操作に手慣れていて、よく倉庫でDホイールの整備をしてたわ。

でも、それはある日突然崩れたわ。3年前のことよ。
夕方に火災が起こったの。しかも、倉庫裏のゴミ捨て場で。
火事に気付いたときは結構燃えてて、金属ばかりだったから中は当然、蒸すように暑かった。
あたしが最初に気づいて、中に入ったけれど、その時はもう遅かった。。鉄材がクルト兄の下敷きになってて、非力なあたしじゃ重さと暑さで動かせなかったわ。それを察したのか、こう言ったのよ。
「お前だけでも逃げろ」ってね。当然あたしは否定した。
クルト兄は、「Dホイールとデッキをお前に託す！だから逃げろ、、！」って言ったけれど、それでもあたしは否定したの。だけど、そのあとに凛華が入ってきて、
「逃げるよ！クルト兄の最期の願いなんだから！瑞穂が生きることが、、最後の願いなのよ！」
、、この言葉には逆らえなかったわ。。

結局、あたしはクルト兄の言われた通りにしてその場を去ったわ。火災で倉庫は全焼。クルト兄は、、

ーーー回想①　終


「、、そんなことがあったのか、、」
「、、、」
「、、あの時の瑞穂はテコでも動かなかったから説得が大変だったよ、、」
「でも、あの時にあたしはクルト兄の願いも無駄にすることになったかもしれない、、凛華の冷静さにはほんと助けられたわ」
「。。じゃあ、その”託されたデッキ”が、、」
「そう。この【BF】デッキよ。でも、あたしはまだこのデッキを使いこなせてはないわ」
「だから夜遅くまでデッキ練ってたんだな」
「、、！？」
「、、みんな知ってる」
「そうですよ。夜なべして頑張ってるの、みんなみてますから」

きょとんとしている瑞穂。

「良かったねー瑞穂。いい仲間に恵まれて～」
「、、そういえばクルト兄、言ってたっけ。。WRGPで、このDホイール、”オルニス・メラン”を走らせて、優勝することが夢だって」
「じゃあ乗ってやれよ。んで、見せてやんなよ。天国にいる”クルト兄さん”に」
「、、そうね。そうよ！クルト兄に、成長したところ、見せてやるんだから！」

瑞穂が得意げに言う。

「、、まったく、入るタイミングを見失ったじゃないか」
「まったくその通りっさ！」
「海清くん、、氏家さん！」

二人そろって帰ってきた。そして、海清は、瑞穂に何かを投げ渡す。

「それ、使いなよ。何かの役に立つかもしれないから」
「そうっさ！それがあたしと海清っちの贈りモンさっ！」
「2人とも、、」
「さて、ごはんにしましょうか。。！何食べます？」
「はいはい！あたしハンバーグっさ！」
「うちはピーマンの肉詰めや！」
「、、生魚」
「私ピーマン嫌いだから肉詰めはパス」
「じゃあ、から揚げと行こうー！」
「ちょ、、凛華！何あんたまで参戦してんのよ！」
「。。というか、お昼ごはんなので、あんまり重いのはなしにしませんか。。？」

はぁ、、、今夜の夜はいつも以上ににぎやかになりそうだ。
瑞穂の幼馴染とかいうから、てっきりこいつも自己中かつ自由奔放で、東奔西走してる人間なのかと思ったら、550kmを一晩で来たり、別瑞穂のDホイールをわざわざ持ってきたり、、なんか不思議で野生な人間だ。瑞穂よ、仲間の力を糧として強くなれ。亡きクルト兄さんの夢を、、叶えてやれるといいな。。

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次回予告！
凛華が悠里たちのもとへやってきて一晩が明けた朝に、瑞穂は凛華からある事実を耳にする。それは、大切な人に対する復讐でもあり、瑞穂自身の想いに負の感情を灯すものだった、、！

次回！第84話「受翼絶絆」