81.窮愕浮心　作：くちなし

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「よし！集まったわね、、」

氏家さんと、香織を除いて、チームエイトスターズが集結。ちなみに、氏家さんは、翼率いる『バスターズ』の、香織は『天使の音響』の試合観戦に行っている。というのも、該当チームから見に来るよう誘われたからである。

「決勝に向けて、作戦会議よ！」

作戦会議ねぇ。。悔しいが、こいつは自分より頭が切れる。案外まともな作戦を出しては実行し、ここまで勝ち進んできた。

「決勝は、今大会の優勝候補とまで謳われているわ。それに、ここまで来ると、相手もきっと、こっちの戦術を知り尽くしているわ。そこで、決勝は相手の裏をかいて挑むわよ」

そう言って前に躍り出ると、裏返していたホワイトボードを裏返す。

「デュエルスタイルそのものを変えて、相手を戸惑わせつつ、優勝を勝ち取る！名付けて、”DDO”作戦よ！」

そのまんまじゃねーか。でも、戦法を変えて相手を惑わすという点については、優勝のためとはいえ、あいつなりに考えているといえる。

「で、具体的にはどうするの、、？」
「リミットは一週間後。それまでにデッキの構築そのものを改革する。とはいっても、コンセプトや相性の問題もあるから、完全には無理だけど、出来る範囲で組み直すわ。そして、決勝戦に出す駒は、、」

ホワイトボードに名前を書いていく。瑞穂が考えたメンバー。
香織と、悠里、瑞穂。そして、なぜか有希。

「なんで4人なんだ」
「決勝は4人チームらしいのよ。だから有希も入れたってワケ」
「で、使用デッキとか、そこら辺の探索は？」
「、、不明」

有希が悠里の問いに答える。

「不明？、、どういうことなんだ、それは」
「どうやら、その相手、各試合毎に使ってるデッキが全部違うのよ。被りなくね」
「なるほど。ただ単純に対策を講じても、別のデッキで対抗するなら空撃ちになる。一つの作戦か、、」
「、、今まで使ったのは、、」

有希がひとつひとつを細かく、丁寧に説明する。そして、一番伝えたいことなのか、少し間を置いて言葉を切り出した。

「、、そして大事なことは2つ。まず1つ、全てのデッキにおいて、共通して使われているカードがある。それは、、」

パソコンの画像を悠里に見せる。そこには使用者の顔写真もあった。

「こいつは、、確かに、どのデッキにも入るっちゃ入るなぁ、、」

悠里が低い声で唸る。そしてこうつぶやく。「こいつら、厄介だ」と。

「この人、、もしかして、、」
「、、火憐、どうしたの。何かあるの？」
「思い当たる節あるねん。そのチームは3年前に行われた、海馬コーポレーション主催のデュエルトーナメントで、初出場にして全戦全勝、、優勝したチームなんよ」
「海馬コーポレーションの大会で、、」
「初出場で優勝、、」

これにはさすがの瑞穂も驚いたようで、言葉が詰まっているようだ。

「うち、前にそのチームが気になって、選手名簿を見たことがあるんよ。チーム自体の名簿はあったんやけど、、」
「、、けどなんだ」
「残りの2人の戦法は不明なんよ。というのも、残りの2人は、1戦も決闘していないから、、」
「ってことは全戦、先鋒一人で三人抜きして優勝したのか、、」

ズン、、と、重力がかかったみたいに、その場の空気が重くなる。

「でも、その隠れたデッキも、無理矢理引きずり出して、公にさらしてやるわよ！」
「ここまで来たなら優勝のみだね。オレもできる範囲でサポートするよ」
「うちも、知ってる情報はフル活用するやんね！」
「、、今までの使用カードの効果を調べておく、、」

メンバーがまとまりつつある中、その雰囲気は1本の電話によって状況は一変する。

「、、もしもし？なによ、そんな焦って、、」

どうやら電話の相手は、瑞穂の台詞から推測するに、焦っている様子である。

「、、え？嘘でしょ、、？」

そして、有希に言った。「『天使の音響』の結果を調べて！今スグにっ！」
有希はパソコンの画面に目線を落とし、カタカタとキーボードを打つ。

「、、ええ。分かったわ。ありがと」

携帯を耳から離し、重い表情で話を切り出す。

「、、香織か」
「、、ええ」
「そんな重い表情して、アンドレちゃんのチームでしょ？」
「、、スタジアムに行くわよ。今すぐに、、！」

瑞穂の表情からは、驚愕と焦りが入り混じっているのがわかった。悠里たちは瑞穂に従い、スタジアムに向かうために外に出る。そして、パソコンに映し出された画面には、こう書かれていた。



≪『天使の音響』、、先鋒相手に2台クラッシュ、、交代不能で敗退、、≫



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スタジアムに駆け込む瑞穂たち。そこに香織がやってくる。

「香織、どういうこと！？」
「つたえた通りです。。蒼羽ちゃんたちが、先鋒相手に2人抜きされて、しかも蒼羽ちゃんのDホイールがクラッシュ。。蒼羽ちゃんはコースに身を投げ出されてうごかなくなって。。」

コースに目をやる悠里。そこには、ピットで担架に乗せられたアンドレと蒼羽。見るからに満身創痍である。そして、蒼羽のDホールは大破した状態でコースに転がっていた。

「ウソだろ、、？あのチームが誰一人倒せないで、しかもクラッシュ、、？」
「、、あの蒼羽が手も足も出ないのかよ、、」

「とにかく、蒼羽ちゃんのところに行きましょう。。！」

蒼羽たちのもとへ向かう途中、担架で運ばれるアンドレと蒼羽が医務室に運ばれていくのが見えた。そして、取り残された詩音が気の抜けたように突っ立っては、椅子に座り込んで頭を抱えていた。

「天草、、！」
「観月悠里、、いたのね、、あーあ、無様なところを見せちゃったわね」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ、、2人は、、」
「、、2人とも、クラッシュして投げ出された時に頭を強く打ったみたいで、、今手術中よ」
「相手はなんのデッキだった？」
「、、分からない。だけど、、とても強かった、、先鋒のアンドレは2ターンキル、蒼羽は攻撃を受けてクラッシュ、、わけわからないわ、、でも、なにもできないのが悔しい、、」
「おい、天草。僕らは明日、そいつらと決勝戦で戦う。出来る限りの情報をよこせ」
「、、分かったわよ」

「、、蒼羽！アンドレ！！」

2人が担架に乗せられて出てくる。運搬人にこう言った。「E地区303号室へお願いします」

ちなみに、その部屋は、われら『エイトスターズ』のアジトである。

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「ここは、、？」
「アンドレ、、蒼羽、、！」
「、、詩音、、迷惑かけたわね」
「そんなことより大丈夫なのか」
「あら、悠里。心配してくれたのかしら？」
「違え－よ。ここはウチのアジト。そんで他が今出てるから留守番兼面倒見役」
「、、可愛いリンゴ。。これ、悠里やったの？」
「、、アンドレも目が覚めたか」

2つのベットの間に置かれた小さな机には、うさぎを模した皮むきをされた林檎が2皿分置いてあった。

「、、とりあえずは、、ゆっくり休め」
「ありがと。それにしても、たった一人倒せずに負けるとは、まだまだ未熟ね。私も。
、、Dホイールがクラッシュするなんて、考えてもなかったわ、」
「え？蒼羽もクラッシュしたの？」
「蒼羽は頭を強く打って脳震盪を起こしてた。アンドレは、、大丈夫か？」
「わたしはピットまで何とかバトンを繋げられはしたのだけど、、」
「けどなんだ」
「、、少し休もうと思ったら急にふらついて、、」
「、、そうか。こんな時に悪いが、その時の状況と、相手について詳しく教えてくれないか」
「分かったわ」

悠里の依頼に不思議な表情を浮かべながら答える蒼羽。そして、それを聞いて頷くアンドレ。

「最初にアンドレが出て、うまく先攻を取れたからか、いいスタートを切れたのよ。その切り返しはすぐだったわ、、」

ーーー

「そうか、、でも、そのカテゴリは初めて耳にしたぞ」
「あたしも初めてよ。でも、それでも2人がかりで倒せないなんて、、」
「それよりも、なんでDホイールがクラッシュしたんだ、、？」
「それが、、」

唯一決闘に出ずにいた詩音が切り出す。

「アンドレのは速度制限チップが、蒼羽のは、エンジンに角砂糖が入ってたみたいなのよ」
「、、ってことは、試合前に相手を潰しにかかったってことか」
「そういうことね」

悠里は勘繰る。もしかしたら、、

「、、席を外すがいいか、、？」
「ええ。ここで待ってるわ」
「悪いな」

悠里は部屋を後にする。何か嫌な予感がする。
優勝候補のチームが何かしら手を加えることはないだろう。各人物が目立っている状態の中、何かをするのには人目に付く。だとすれば、第三者の手によって工作された可能性が高い。そして、今現在、一番に狙われるとすれば、、瑞穂だと悠里は踏んだ。

「、、予感が当たらなければいいが、、」

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「よーし、これで食料はそろったわね！」
「、、今夜は親子丼作る、、」
「ふふ。今から楽しみですね」

有希、瑞穂、香織が、食料調達に向かっていた。両手に買い物袋を抱え、3人で話している帰路。

「逃げろー！トラックが突っ込んでくるぞー！！」

誰かが言った。人々が逃げ惑う。
その先に見えたのは、、運転手がいない大型トラックがスピードを上げて向かってくる。

「暴走してる、、、、！」
「、、かなり危険、、トラック、こちらまであと100m、時速は推定70km、、」
「分析してる場合じゃないですよ、、！！」

生憎3人は両手がふさがっていて決闘盤を取り出すことができない。それは、防ぐ手段がないということである。

(嫌だ、、！あたしはまだ、、っ！)

残り100m、、逃げられない。迫る車に怯える2人、何かを察した有希、、その時。

「、、手札から”深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト”を召喚っさ！！」
「罠カード発動！！」

道路上に1本の線路が引かれる。そして、その線路を駆け抜け、暴走トラックを止める。

「ふぅ～、、ギリギリ間に合ったっさ！」
「ほんと、危ないったらありゃしない、、」

暴走車を止めるべく現れた2体のモンスターの持ち主は、、氏家さんと翼だった。


次回！第82話「影雅暗躍」