DRAW:２３１ ひとりぼっちの流星群　作：人喰い

(231)





いつかの───記憶。



少年「───お前とのデュエルつまんねぇんだよ！！！」


星奈「……なんで？」

少年「なんでじゃねぇよ！！
デモンズチェーンで俺のモンスター何回も何回も無効化しやがってよォ！！！キメェんだよ！！！」

星奈「…だって、とめないと、あたし、負けちゃ───」

少年「うるせぇ！！！」

ﾊﾞｷｯｯ‼︎

星奈「───っ…！
…いたい……いたいよ…、なんで、ぶつの…？」

少年「せっかく仲間に入れてやったのにクソみてーなデッキ使ってくんのが悪ぃんだよ！！」

星奈「…なんで………そんなこと……ぇぅ…いうの…？パパとママにもらった……たいせつなデッキなのに───」

少年「なにがパパとママだよ！！
だいたいおまえ、いっつもひとりだし……同じ服だし…気味悪ぃんだよ！！学校にも行ってねぇんだろ！！」

星奈「…が…っこ…？」

少年「もういい！みんな帰ろーぜ！
…お前もさっさと帰れよ！パパとママのところによ！！」

星奈「……かえ、る…？」

少年「なんだよ…お前、帰るとこねぇのかよ」

星奈「………」

少年「お前、親に捨てられたんじゃねーの？」

星奈「───ぇ」

たす、けて。

星奈「───すて、られた…？」

たすけて。

少年「捨てられたんだよ、お前は」

たすけて。

星奈「…ちがう。ちがうよ。パパは、ママは、ちゃん、ちゃんと、ちゃんと、あたしをむかえにくる、くるって、いくって、いった、いってた、の」

たすけて。

星奈「だから、あたしは、まってるの。ずっと、ずっと、ずっと、ずっと」

少年「あーもう！！わっかんねぇかなァ！！」

たすけて。

星奈「ずっと……ずっとずっとずっと」

少年「捨てられたんだよ！！お前は！」

たすけて。

星奈「ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと」

たすけて。

少年「…だから！！いい加減分かれよ！！お前は親に───」




たすけて、お星さま。



星奈「───まってるの！！！」



涙が一粒、こぼれ落ちた。

瞬間。





きらん。





空で何かが光る。

その場にいた誰もがそれに気づく事なく───刹那。



少年「───」


少年の眼前に、何かが落ちた。


少年「───ぁ…？」

遅れて、衝撃音。
飛来した“それ”は地面にめり込み、砂煙が舞う。

少年「………」

あまりに唐突な出来事に少年は言葉を失っていたが、数秒置いて、飛来した“それ”が、小さな石である事を理解する。
両手で覆えるくらいの、なんて事は無いただの石ころだが、降ってきた場所と、速度が、少年を混乱させるには充分すぎた。

少年「……隕……石…？」

そして次に、目線は目の前の幼き少女、星奈へ。

星奈「───」

星奈の右手は白い光で覆われており、よく見ると足元の石からも同じ光が漏れ出ている事に気づくと、

少年「…お前が……っ…やったのか……？」

少年は怯えた表情で問う。しかし、

星奈「───」

星奈は首を縦にも横にも振らない。
完全な放心状態。
星の声だけが、星奈の脳内を埋め尽くす。

少年「…なんで…なにも言わねぇんだよ…！」

星奈「───」


少年「…ッ…！
───バケ…モノ……ッ…！！」





その一言を受けてからしばらくの記憶は星奈には無い。

大粒の涙を流し星を降らせ続ける星奈に、1人の少女が声をかけるまでは。



「───そんなに泣いて、どうしたの？」


星奈「……ぁ……ぅ……」


「そっかそっか。辛かったね。怖かったね。
でも、もう大丈夫だから」


星奈「……ぇ……ぁ」



「あたしは、瑞希。───柏木 瑞希。
今日からあなたのお姉ちゃんだ」















◉◉◉遊戯王 Ph.X◉◉◉
───DRAW:２３１───
《ひとりぼっちの流星群》















【Side:結維】


《神星樹内部》
『王冠の間』〜『美の間』


【決闘ルール】
２対１
新マスタールール(2017.3.25〜2020.3.31適用)＊EXデッキから特殊召喚する際はEXモンスターゾーン及びリンクモンスターのリンク先に特殊召喚しなければならない。

【ライフポイント】
結維＆鈴華:共有8000
星奈:8000

【フィールド・墓地・除外】
共有

【ターン進行】
星奈→結維→星奈→鈴華→星奈→…



結維＆鈴華【LP 3600】
(モンスター)
『混沌魔龍 カオス・ルーラー』[ATK 3000]
『巨神竜フェルグラント』[ATK 2800]
(魔法)(罠)
なし
伏せ:1
手札:(結維:4(鈴華:2
墓地:ライトパルサー、ダークフレア、カオスウィッチ、ガイザー、カオスミラージュ、ジルドラス、ノーレラス、アークブレイブ、混沌空間
除外:ドロドロゴン、ワナビー！、コラプ、ワイバー、リンゴブルム、混沌領域


星奈【LP 6200】
(モンスター)
なし
(魔法)(罠)
なし
伏せ:0
手札:7
墓地:カドケウス、デネブ、シリウス、トライヴェール、天架け、ティンクル、
除外:トレミス、アルテア、アルタイル、シェラタン


◉TURN:０５◉

ターンプレイヤー:星奈



鈴華「───墓地から特殊召喚された『巨神竜フェルグラント』の効果発動！！」


《巨神竜
きょしんりゅう
フェルグラント/Divine Dragon Lord Felgrand》 †
効果モンスター
星８/光属性/ドラゴン族/攻2800/守2800
(1)：このカードが墓地からの特殊召喚に成功した場合、
相手のフィールド・墓地のモンスター１体を対象として発動できる。
そのモンスターを除外し、このカードの攻撃力・守備力は、
除外したモンスターのレベルまたはランク×１００アップする。
(2)：このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合、
「巨神竜フェルグラント」以外の自分または相手の墓地の
レベル７・８のドラゴン族モンスター１体を対象として発動できる。
そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。


鈴華「あなたの墓地の『星因士 デネブ』を除外して、そのレベルx１００───攻守をアップさせますわ！！」

巨神竜が雄叫びを上げると、星奈の墓地に眠るデネブが光の粒子に変換され、その粒子は巨神竜へと取り込まれる。

『巨神竜フェルグラント』
[ATK 2800→3200]
[DEF 2800→3200]



◉メインフェイズ◉

星奈「『星因士 アルタイル』を“しょーかん”っ！！」[ATK 1700]

ダークフレア、カオス・ミラージュ、フェルグラントによってキーカードを1枚ずつ除外されつつも、星奈は果敢にカードを切る。

星奈「召喚したアルタイルと、手札のリュラの効果！！」

星奈のデッキは、『星騎士 セイクリッド・カドケウス』、そして『星輝士 トライヴェール』のX召喚時の効果により手札に戻したカードから、何度でも展開し直す事ができるのだ。

鈴華「……」

対する鈴華は、やむを得ないといった表情で、カオスルーラーの効果で加えていた手札のカードに指をかける。

鈴華「───アルタイルを対象に『エフェクト・ヴェーラー』の効果発動！！」


チェーン③『エフェクトヴェーラー』
対象のモンスターの効果をターン終了時まで無効にする。
【対象】『星因士 アルタイル』

チェーン②『星騎士 リュラ』
デッキから「テラナイト」魔法カード1枚を手札に加える。

チェーン①『星因士 アルタイル』
墓地の「テラナイト」モンスター1体を守備表示で特殊召喚。
【対象】『星因士 シリウス』


逆順処理によりアルタイルの効果は無効化され、

星奈「リュラの効果で、『天架ける星因士』を手札に…っ！」

しかめっ面で星奈が手札に加えたのは『天架ける星因士』。
あのカードを手札に加えられてしまってからでは次以降の効果を止める際にせっかくのエフェクトヴェーラーが避けられてしまう可能性があると鈴華は判断し、この場では結果的に1枚の妨害札を使わされた形となる。


星奈「アルタイルとリュラで“おーばーれいねっとわーく”を構築！！えくしーず召喚っ！！『星騎士 セイクリッド・カドケウス』！！」

すかさず星奈は、もう4度目になる『星騎士 セイクリッド・カドケウス』のエクシーズ召喚。

『星騎士 セイクリッド・カドケウス』[ATK 2500]

星奈「もう説明する必要ないよね…っ！えくしーず召喚した『星騎士 セイクリッド・カドケウス』の効果はつどぉ！」

(1)：このカードがＸ召喚に成功した場合、
自分の墓地の「テラナイト」、「セイクリッド」カードをそれぞれ１枚まで対象として発動できる。
そのカードを手札に加える。

星奈「墓地の『テラナイト』『セイクリッド』カードを1枚ずつ手札に！」

墓地→手札
『セイクリッド・カドケウス』

墓地→EXデッキ
『星輝士 トライヴェール』


星奈「続けて『星騎士 セイクリッド・カドケウス』のもーひとつの効果っ！」

(2)：手札・デッキから「テラナイト」、「セイクリッド」モンスター１体を除外し、
このカードのＸ素材を１つ取り除いて発動できる。
この効果は、除外したそのモンスターの召喚成功時に発動する効果と同じになる。


デッキ→除外
『星因士 デネブ』

X素材→墓地
『星因士 アルタイル』

星奈「除外したデネブの効果でデッキから『星因士 ウヌク』を手札に！」[手札 6]

X召喚時に墓地から2枚を回収し、起動効果でデッキから下級モンスターの召喚時効果を使用できる。
爆発力と安定感を兼ね備えた、まさしくデッキの中心を担う存在。

星奈「まだ！『セイクリッド・カドケウス』の効果！！」

(1)：自分フィールドに「セイクリッド・カドケウス」以外の
「セイクリッド」モンスターが存在する場合に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。

星奈「手札から特殊召喚っ！！そしてもうひとつの効果、使うよっ！」

(2)：自分メインフェイズに発動できる。
デッキから「セイクリッド」魔法・罠カード１枚を手札に加える。

星奈「あたしが手札に加えるのは───これっ！『セイクリッドの星痕』っ！！そのまま発動っ！」


《セイクリッドの星痕
せいこん
/Constellar Star Chart》 †
永続魔法
自分フィールド上に「セイクリッド」と名のついた
エクシーズモンスターが特殊召喚された時、
デッキからカードを１枚ドローできる。
この効果は１ターンに１度しか使用できない。


星奈「まだ…まだぁ…っ！手札から、速攻魔法『天架ける星因士』はつどぉ！」


《天架
あまか
ける星因士
サテラナイト
/Satellarknight Skybridge》 †
速攻魔法
このカード名のカードは１ターンに１枚しか発動できない。
(1)：自分フィールドの「テラナイト」モンスター１体を対象として発動できる。
そのモンスターとはカード名が異なる「テラナイト」モンスター１体をデッキから特殊召喚し、
対象のモンスターを持ち主のデッキに戻す。
この効果で特殊召喚したモンスターが表側表示で存在する限り、
自分は「テラナイト」モンスターしか特殊召喚できない。

【対象】『星騎士 セイクリッド・カドケウス』

星奈「デッキから『星因士 ベガ』を出して、『星騎士 セイクリッド・カドケウス』をデッキへ！続けてベガの効果で手札のウヌクを特殊召喚っ！！」

『星因士 ベガ』[ATK 1200]

『星因士 ウヌク』[ATK 1800]

星奈「ウヌクの効果でデッキの『星因士 シャム』を墓地へっ！」

1枚1枚のカードが、夜空に連なる星々の様に結ばれ、展開を伸ばしてゆく。

その様子に鈴華は思わず、

鈴華「……ほんと…、良いデッキ、ですわね」

そう呟いた。

星奈「───っ」

星奈は一瞬、表情を歪ませる。
怒りや妬み、そして悲しみ。色んな感情が入り混じった、そんな表情を浮かべたかと思うと、それを隠す様に俯き、


星奈「……っ…『星守の騎士団』はつどぉっ！！」

感情に任せ、続く展開札を切る。
トライヴェールの効果で手札に戻していたカードだ。

星奈「発動時の効果で、墓地の『星因士 シャム』を特殊召喚っ！！」[ATK 1400]

鈴華「…！」

星奈「シャムの効果っ！！
1000のダメージ、受けてもらうよっ！！」

宣言と共に放たれた光の一矢は途中で2つに分かれ、結維と鈴華、それぞれの足に突き刺さる。

結維「……ッ…が…ッ…！！」
鈴華「…っ！！ぎ…ァ…ッッ！！」【LP 3600→2600】


星奈「ここで決めるんだ…っ…絶対に…っっ！！」

決意を秘めた一手。星奈は右手を掲げ、高らかに叫ぶ。

星奈「───カドケウス、ベガ、シャムの3体で…“おーばーれいねっとわーく”を構築っっ！！」

星奈の場のモンスター達は星となって宙を舞い、星奈の背後で三角形を描いた。


星奈「ムテキでステキな大三角っ！！
夏の夜空に光輝き───星を守る力となれっ！！
えくしーず召喚！ らんく４！
『星輝士 デルタテロス』っっ！！」


三角形は現れた星輝士の盾となり、左手に装備され眩い光を放つ。


『星輝士 デルタテロス』[ATK 2500]


星奈「デルタテロスの効果はっつどぉ！！
素材をひとつ使って、そっちの黒い方のドラゴンを破壊するよっ！！」

X素材→墓地
『星因士 シャム』

【対象】『混沌魔龍 カオス・ルーラー』


星輝士は掲げた剣を振り下ろす。発生した衝撃波は大地を割り、混沌魔龍を両断。辺りに爆風が立ち込める。

鈴華「…っ！」

星奈は手を緩めない。
続け様に盤上の永続魔法が光を放つ───

星奈「───『星守の騎士団』のもーひとつの効果っ！！」

(2)：自分フィールドの「テラナイト」、「セイクリッド」Ｘモンスター１体を対象として発動できる。
その自分のモンスターとはランクが異なる「テラナイト」、「セイクリッド」Ｘモンスター１体を、
対象のモンスターの上に重ねてＸ召喚扱いとしてＥＸデッキから特殊召喚する。


【対象】『星輝士 デルタテロス』


星奈「らんくあっぷ！！えくしーず・ちぇんじ！！
らんく５───『セイクリッド・プレアデス』！！」[ATK 2500]


《セイクリッド・プレアデス/Constellar Pleiades》 †
エクシーズ・効果モンスター
ランク５/光属性/戦士族/攻2500/守1500
光属性レベル５モンスター×２
(1)：１ターンに１度、このカードのＸ素材を１つ取り除き、
フィールドのカード１枚を対象として発動できる。
そのカードを持ち主の手札に戻す。
この効果は相手ターンでも発動できる。

星奈「この瞬間っ！『セイクリッドの星痕』の効果で、1枚ドロー！」[手札 5]

結維「…ッ…手札が……減らない…！」

星奈「まだまだぁ！プレアデスの効果っっ！！金色のドラゴンさんには、手札に戻ってもらうよっ！！」

X素材→墓地
『星輝士 デルタテロス』

【対象】『巨神竜フェルグラント』

星の騎士は剣を振るう。すると無数の星の欠片が巨神竜へと降り注ぎ、爆散。その衝撃で巨神竜のカードは鈴華の手札へと戻ってしまう。

鈴華「…っ…！」

星奈「…これでもう、おねーさんたちを守ってくれるモンスターはいない。
おねーさんは───ひとりぼっちだよ」

鈴華「───」

言葉の節々に宿る悲しみを全身で感じつつ、鈴華は、

鈴華「───ひとりぼっちじゃ、ありませんわ」

言い切った。瞳には確かな決意。

星奈「───」

鈴華「どれだけ盤面を返されようと、私の隣には結維さんが居てくれてる。そして───」

胸に手を当て、これまでの戦いを思い出す。
そして様々な苦難を乗り越え、共に育って来たデッキを思い、自然と表情が綻んだ。

鈴華「このデッキには、一緒に戦ってくれる大勢の仲間と、帰りを待ってくれる家族の思いが詰まってる。
───だから私は“ひとりじゃない”」


星奈「……っ…！！！
…うるさい…うるさいッうるさいっっ！！！
プレアデスっ！！やっちゃってっ！！」


『セイクリッド・プレアデス』
[ATK 2500]
───ATTACK───
【LP 2600】
『結維』＆『鈴華』


星の騎士はガラ空きとなった鈴華の場へ斬り込む。が、しかし───


鈴華「───この瞬間」


鈴華の場には、1枚の伏せカード。


鈴華「トラップ発動───『混沌変幻』」


《混沌変幻
カオス・ファンタズム
/Chaos Phantasm》 †
通常罠
(1)：除外されている自分の、光属性チューナーとチューナー以外のレベル８以下の闇属性モンスターを１体ずつ対象として発動できる。
そのモンスター２体を墓地に戻す。
その後、戻したモンスターのレベルの合計と同じレベルを持つ光・闇属性Ｓモンスター１体をＥＸデッキから特殊召喚する。


星奈「……！！」

鈴華「私はこの効果で、除外されている『百檎龍-リンゴブルム』と『ドロドロゴン』を墓地へと戻し───その2体の魂で……シンクロ召喚っっ！！」


◉◉◉☆6+☆2=☆8◉◉◉


鈴華「再び現れなさい───そして私たちを勝利へ導いて！！
『カオス・デーモン-混沌の魔神-』！！！」



『カオス・デーモン-混沌の魔神-』[ATK 2500]



星奈「…っ…！ジャマ…しないで…って言ってるでしょっ！！」

鈴華「いいえ、しますわ…！しますわよ！デュエルなんだから！！
そうしなきゃ、負けちゃうでしょーが！！」

星奈「───！！」

緊張が解けてきたのか、軽くムキになって声を荒げる鈴華を前に、星奈はいつか自分が口にしかけた言葉を思い出す。

星奈「……止めなきゃ……負けちゃう…───」

鈴華「全力で受けて！！全力で返す！！
その攻防が！！デュエルの楽しいところでしょう！！
───カオス・デーモンの攻撃力は、このターンにカードが除外されている場合、2000ポイントアップ！」

『カオス・デーモン-混沌の魔神-』[ATK 2500→4500]


星奈「……カンケー、ない…っ！！カンケーないよっ！！ジャマするなら───壊すだけっ！！！」


『セイクリッド・プレアデス』
[ATK 2500]
───VS───
[ATK 4500]
『カオス・デーモン-混沌の魔神-』


鈴華「…っ！！自爆特攻───なんてわけありませんわよね…！
迎え撃ちなさい！カオス・デーモン！！」

星の騎士は迷わず突き進み、そして極光の剣を振りかざす。
混沌の魔神は漆黒の槍でそれを受けて立つ───が。

鈴華「…！？」

剣と槍が触れ合った瞬間、魔神の身体が綻び始めた。

星奈「『セイクリッド・カドケウス』の3つ目の効果───」


(3)：このカードを素材として持っている「セイクリッド」Ｘモンスターは以下の効果を得る。
●このカードが光・闇属性モンスターと戦闘を行うダメージ計算前に発動できる。
そのモンスターを除外する。


星奈「カドケウスを素材として持ってるプレアデスは、光・闇のモンスターと戦うとき、だめーじ計算をする前に除外できる────きゃは。おねーさんの天敵だね」

言い切る頃には魔神の身体は完全に消滅し、星の騎士は悠々と鈴華を見下ろす。

鈴華「…！」

星奈「さあ、今度の今度こそおしまい。トラップにはちょっとビックリしたけど、次のウヌクの攻撃が通れば……っ…あとは手札に戻したダブル・フッキングで───」


鈴華「───それは、どうかしら」

星奈「───！」

消滅し光の粒子となった魔神が眩い光を放つ。やがて光の粒子は渦を巻き、その中より、“それ”は現れた。

鈴華「───希望も絶望も、全て受け止め………混沌とした世界に安寧を───っ！！」

白く美しい巻き髪。
黒を基調とした艶やかなドレス。
白銀の杖を悠然と構え微笑む───“混沌の女神”。

鈴華「───現れなさい…！！
『カオス・ゴッデス-混沌の女神-』！！！」


『カオス・ゴッデス-混沌の女神-』[ATK 2500]☆8


星奈「…っ！あのモンスター…っ！このまえ取り損ねちゃった…精霊の…！なんで───」

鈴華「カオス・デーモンの効果───ですわ」

(3)：このカードが相手によってフィールドから離れた場合に発動できる。
「カオス・デーモン－混沌の魔神－」以外の「カオス」Ｓモンスター１体をＥＸデッキから特殊召喚する。

鈴華「カオス・デーモンが相手によって場を離れた場合、EXデッキから『カオス』シンクロモンスターを特殊召喚する…！
混沌の魔神は……タダでは倒れませんわ…！倒れても、その意志は受け継がれるの！！」

星奈「……っっ…！！あと、ちょっとだったのに……っ…！」

女神の威光に星奈の場のウヌクは気圧され、攻撃の意思がない事を示した。そしてバトルフェイズは終了し───


◉メインフェイズ2◉


星奈「カードを3枚伏せて……たーんえんど」


◉エンドフェイズ◉



鈴華「…はァ…っ…はぁ…っ！なんとか、耐え切りましたわ…！
───本当に……強いわね、あなた」

星奈「……っ…、なんで…、
なんで…っ…、笑ってるの…？」

鈴華「……ふふ、私もわかりませんわ。
こんな状況なのに、なんでこんな気持ちになってしまうのか───」

星奈「…………なに、いってんの…」

鈴華「───なんて。世界の命運や人の命が懸かっていなければ、素直にデュエルを楽しめたのかもしれませんのに」

星奈「……あたし、は…、あたしの…でゅえる…は…、“つまんない”んだよ……！
そう、言った…言われた、の……っ！だから───」

鈴華「───そんな事ない！！」

星奈「───ぇ…？」

鈴華「…そんな、そんな…悲しい事を言わないでよ…」

結維「…そうよ。あなたまで自分のデュエルを否定してしまったら、ダメじゃない」

星奈「…なんで……そんなこと…いうの…？
星奈は……おねーさんたちに、いっぱい…ひどいこと…したのに」

結維「それはね───」

鈴華「───私たちみんな、デュエルを通してつながって来たから。
デュエルで悲しい思いをする人が居て良いわけがない。そう思うの」

結維「“誰かさん”の言葉を借りる事になるけど、敵味方ひっくるめて、デュエルを通じて分かり合う───それが私たちのデュエルよ」

星奈「…あ……ぇ……」

膝をつき、泣き崩れる星奈。

星奈「…うぁ…ああ、ああああ、ぇぁあぁあ……っ…！！」

過去の経験から、ただ自分勝手にデッキを回し、相手を壊すだけのデュエルを行ってきた。
そんな星奈だったが、対戦相手から初めて自分のデュエルを認められ、心の奥底に何かが芽生え始めていた。

その感情は───












「───そんなに泣いて、どうしたの？」












───刹那、一滴。

ぴちょん───と。

水滴が落ちる音。



星奈「───！」


音は星奈の背後から。
開いた大扉から、1歩、2歩と、踏み出す度に辺りに反響する。


星奈「───ねーね」

星奈は振り返り、震えた声で言った。

『ねーね』と呼ばれた少女は星奈の1歩前まで足を進めると、星奈の頭を優しく撫でる。

星奈「…ぁ……ぇぅ…ぁ……ぅ…っ…」

すると星奈はその少女にしがみつき、嗚咽を上げた。

「あーもう、ひとりでできるんじゃなかったのかよー。よしよし…」

背中をさする慣れた手つき、どこか微笑ましいやり取りもほどほどに、『ねーね』と呼ばれた少女は結維達に目線を移す。


結維「───」

鈴華「───」

栗須「───」

戒「───」

その場にいた4人全員は言葉を失い、ただ立ち尽くしていた。


「───♪」

身体のラインのよく出たボディスーツを着用しており、二つに括られた長く綺麗な黒髪とスタイルの良い体型が特徴の彼女の名は───


結維「───柏木 瑞希ッッ！！！」


『柏木 瑞希(かしわぎ みずき)』
終焉の焔・伍召焔が一人、儀式召喚を担当している。
和泉を“依代”として利用するために火群達の通う黒髭中学に生徒として潜入していた中学3年生。

瑞希「思ったより時間かかってたみたいだったから、心配になって様子見に来ちゃった」

彼女は朗らかに笑う。

結維「……ッ…和泉は無事なの…ッ」

瑞希「うん、無事だよ。……今のところはね」

結維「……そう」

瑞希「…反応それだけ？寂し〜〜」

結維「これ以上、時間稼ぎに付き合うつもりはないわ」

瑞希「ふふ。冷たいなぁ。『いずみん』とは真逆だね」

結維「……。2対2でやろうって言うんなら構わない。かかってきなさい」

瑞希「あっははは！私が言う事じゃ無いと思うけど、流石に無謀でしょ。星奈ひとりに2人ががりでそのザマなのにねぇ」

結維「……ッ…」

瑞希「んと、まあ、私は様子を見に来ただけだから。あなたたちと戦うつもりは無いよ。
もちろん、後ろに居る2人ともね」

栗須「……！」

戒「ッ…」

瑞希「それに私のかわいいかわいい妹も、ひとりでやれるって言ったからね」

鈴華「……っ…」

星奈「…うん、星奈……できるよ。
ひとりで……だいじょーぶ」

瑞希「…えらい！えらいね。それでこそ私の妹だよ───」

結維「…ッ」

鈴華「…ちょっと、待っ───」

結維「───ふざけ、ないでよ」

瑞希「…？」

結維「ふざけないでよ！！！」

鈴華「…！」


結維「………ちがう…でしょうが……ッッ」

結維は掠れた声で、叫ぶ。

結維「…妹……妹…って……ッ…違う、違うでしょ…！
…アンタの妹は…ッ…雫…ただ一人でしょっ！！！」

瑞希「───」

結維「…知らないわよね…。雫は、死んだはずのアンタと両親の敵討ちの為に、終焉の焔の事を一人で調べ続けて、私たちに会うまでずっと一人で孤独に戦ってきたのよ……！」

瑞希「───」

結維「…一度雫を……妹を見捨てて一人にさせたアンタが…どの面下げてッ！！その子の姉を名乗ってんのよ！！」

瑞希「───」

瑞希はしばし沈黙、そして、

瑞希「……何も知らないのに勝手な事言わないでよ」

冷たくあしらった。先程の朗らかな笑顔とは打って変わり、氷の様な冷たい表情。
しかし結維は引かない。

結維「…だったらせめてあの子にだけは話してあげてもいいじゃない！！」

瑞希「わっかんないかなぁ。知らない方がいい事だってあるんだよ」

鈴華「それは、違いますわ…！
何があったかは存じませんが、あの子はもう立派なひとりの決闘者───知る権利くらいはあるはずですわ！」

瑞希「……」

結維「…そうよ…！あの子を信じてあげるのがあなたの役目じゃないの！？」

瑞希「───信じてるからだよ！！」

そこで瑞希は声を荒げ、傍で見上げていた星奈の肩が僅かに揺れる。

星奈「……ねーね…」


瑞希「あの子が───雫が真実を知れば、取り返しがつかない事になる。
───あの子は優しいからね」


そう言う瑞希の表情は、憂いに満ちた柔らかな───妹を想う、姉の表情だった。

結維「───ッ」


瑞希「───それより長話、良いのかなぁ？
キミたちにはもう時間が無いんじゃなかった？」

ふっと表情を戻し、瑞希は誤魔化す様に問いかける。

結維「……！」

瑞希の言う“時間”とは、和泉が膨大な数の精霊を取り込み一体化してしまうまでの時間だろう。

結維「…そうね…。それにアンタと話をするのは、私の役目じゃ無い───」


雫の役目だ。


そう言って結維は視線を瑞希から星奈に移し、


結維「…待たせたわね。次は、私の番よ」


◉TURN:０６◉

ターンプレイヤー:結維

◉ドローフェイズ◉


カードを引こうとした、その時だった。


結維「───？」



違和感。



結維「───ぁ」


途端、視界が反転する。


鈴華「ッ…！？結維さ───」


呼ぶ声は届かず、結維の身体はその場に仰向けで倒れ込んだ。


「ユイ！！！」

すかさず、結維の精霊である『マスター・ヒュペリオン』は結維の身体から飛び出し呼びかける。

結維「───」

しかし返事は返ってこない。完全に気を失っている。

瑞希「───やっぱり、“時間”無かったみたいだね」

ヒュペリオン「…どういう……ッ…事だ…ッ…！」

瑞希「……“いずみん”と精霊との“統合”が本格的に始まったんだよ」

鈴華「…！！それって───」

瑞希「“いずみん”は……あと5分もすれば《精霊合成獣-キメラ-》へと進化する───」

そして、と瑞希は続ける。

瑞希「私たち終焉の焔は、その《精霊合成獣-キメラ-》の無尽蔵の精霊エネルギーを兵器として使い、人間界を支配するの」


ヒュペリオン「───」

鈴華「───」

栗須「───」

戒「───」

瑞希「今、いずみんと感覚を共有できる結維ちゃんの脳内には、膨大な量の情報が襲いかかったってわけ───」

鈴華「……ッ…！！」

ヒュペリオン「…貴……ッ様ァァ！！！」


戒「───……ッ…古宮！！俺たちは《美の間》へと向かうぞッ！！」

栗須「…ああッ！！失って…たまるかよ…っ！！！」

急ぎ、駆け出す戒と栗須。しかし───

瑞希「───行かせないよ」

瑞希が指を弾くと、赤い水泡が2人の全身を包んだ。

戒「ッ…！！」

栗須「！？」

ヒュペリオン「…マズイ…！あの水泡は人の生命力を奪う…！」


鈴華「…そんな…っ…！どうすれば───」

星奈とのデュエルの途中だというのに、結維は倒れ、戒と栗須は水泡に閉じ込められ、絶体絶命的状況で鈴華は必死で思考する。

鈴華「…どうすれば…、どうすれば───！」

が、打開策は浮かばない。そんな時だった



ぺちり。と、叩く音。

音は鈴華の左側。結維の倒れてる方からだ。


星奈「───おきて」


ぺちり。もう一発。

見ると、しゃがみ込んだ星奈が結維の頬を叩いていた。


星奈「おきて。メガネのおねーさん。おきてよ。ねえ」

ほとんど感情のこもってない星奈の言葉に、鈴華はただただ言葉を失う。
ヒュペリオンも、少し後ろからその様子を見守っていた。

星奈「おきて。次は、おねーさんの番だよ。寝てないで。カードを、引かなきゃ」

瑞希「───」

瑞希も星奈の行動は予想外といった様子で、目を丸くしてその光景を見ている。


星奈「…あたし、まだ、おねーさんの“でゅえる”───みてない」

淡々と。

鈴華「……！」

星奈は言う。

星奈「…うしろの精霊さんのチカラ───みてない」

ヒュペリオン「…ッ……！」

けれどだんだん、緊張は解け、

星奈「…もっと───はなそうよ」

声は震え、


星奈「おねーさんとも───あそびたい」


涙が溢れた。


星奈「だから、おきて」


かってにどこかへいかないで。







To Be Continued…