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2-1:終わらない悪夢と押し入れの居候 作:氷色
凄い砂埃にユウゴは思わず腕で目を覆った。
砂埃というか、もはや砂塵の嵐である。肉眼では捉えきれない矮小な弾丸が暴風と共に何千億発もの数でユウゴを襲う。しかし、風圧に体のバランスは崩されそうになるが、不思議とその身を打つ礫の痛みはない。
それもそのはず。これはユウゴの見ている夢なのだ。
いや、ちょっと待てーー。
夢の中だというのに、ユウゴはそれに疑問を持つ。
これはいわゆる明晰夢というやつ。ユウゴ自身もそれを承知でその光景を見ていた。
しかしユウゴの中に生まれた疑問はそれではない。
“なぜまだこの夢を見るのか?”である。
「危ーーーーがーーーーている」
砂嵐の向こうから声がする。
しかしそれは暴風のもたらす轟音に掻き消されよく聞こえない。
そうだ、これは何度も繰り返し見たあの夢。全く同じ夢だ。
しかしこの夢は《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》がエビル・デーモンに襲われることを察知して、ユウゴに警告するために見せていた夢ではなかったのか。
「よーーー聞けーーーーウゴ」
それでも尚、その声の主は構わず言葉を続ける。
心なしか以前よりはその声が聞き取りやすくなっているような気がする。
これが以前と同じ夢ならば、夢の終わりは近い。
ユウゴは「今ならもしかしてーー」と思う。
エビル・デーモンとの戦いの最中では《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》には声が届かなかった。しかし今なら、この夢の中ならば、あるいはユウゴの声が届くかもしれない。
ユウゴは吹き付ける砂嵐の中、無理矢理その両目を開けた。
普通ならすぐに砂に進入され手痛いダメージを受けるはずだが、さすがに夢だけあってなんとかではあるが視界は広がりをみせた。
といっても見えるのは荒れ狂う茶色の風のみ。視界などほとんどない。
「聞いてくれッ《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》!!エビル・デーモンには勝ったんだッ!!危険はもう過ぎ去ったんじゃないのか!?」
あらん限りの力で砂嵐に向けて叫ぶ。
この暴風の向こうに《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》がいることは分かっているのだ。声が届きさえすれば、と微かな期待を叫声に込める。
しかし返答はない。
何をしても上手くいかない状況に、歯噛みし地団駄を踏みたくなる。
そして不意に一層強い一陣の風が吹き、ほんの一瞬ではあったものの砂埃が晴れた。
そしてユウゴが見たものはーー
ーーやはり《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》によく似た巨大なドラゴンだった。
体表は黒く、うなぎのように滑らかで光っているようにも見える。
巨大な両翼は耐えずバサバサと羽ばたき、この砂嵐がそれによるものであることを窺わせる。
威圧感あるその風貌とは裏腹にその瞳はどこか落ち着いた知性を湛えているように見えた。
以前の夢と何ら変わらない展開とその姿。
認めざるを得ない。これはやはり警告の夢。
《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》が報せたかった危機とは、エビル・デーモンの襲撃のことではなかったのだ。
彼がこんな夢と見せてまでユウゴに伝えたい危機はまだこれから先に待っているということだ。
邂逅はほんの一瞬。
すぐに視界は再び砂嵐に閉ざされてしまった。
しかしユウゴは叫び続ける。
「これから先、一体何が俺に起こるって言うんだッ!?俺は何をすればいいッ!?」
しかしその声は空虚に激しい風音に跳ね返されるのみ。
そこでブツンと、まるでテレビの電源が消えるように唐突にこの夢は終わる。
いつものことだ。
もう何十回と繰り返し見てきた夢。
《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》が伝えたい危機とは何なのか、そもそも《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》とは一体どういう存在なのか、何度同じ夢を繰り返してもやはりその答えには辿り着けない。残るのはいつものじりじりとした焦燥感だけ。
「ーー危険が迫っている」
最後のその言葉も、今は風に混じって舞う砂のようにしか聞こえなかった。
*
第2話:「帝王の降臨」
*
「何だって言うんだよ」
目を覚ますと、やはりいつもの自分の部屋だった。
いつものようにじっとりと汗ばんでいる体。それよりも不可解な夢の後味が口の中に入った砂のように不快で、ユウゴは目を覆った。
「ど~したんだい?ユウゴく~ん」
不意に聞こえてきたしゃがれ声にユウゴはビクッと体を震わせる。
見ると部屋の押し入れが少しだけ開いて、そこから猫のような大きな瞳がこちらを覗いている。
「おどかすなよ、アスナ」
思わずぶっきらぼうな言葉が出る。
時計を見ると午前2時。
こんな時間に押し入れからそんな声をかけられたら誰だって驚く。
「眠れないのか?」
「いつものことだよ」
普段通りの口調に戻ったアスナに、ユウゴは心配いらないといった風に返す。
「別に心配などしていないがな」
そう口を尖らせるアスナに思わず苦笑が漏れた。
「そっちこそ本当に大丈夫なのか?そんなとこで」
押し入れの中で寝ると言って譲らなかったのはアスナの方だが、女の子を押し入れに寝かせて自分はベッドに寝るというのは男としては申し訳ない気持ちになる。
女性としてもかなり小柄なアスナだが、それでも押し入れの中では手狭さを感じるだろう。
「慣れれば快適だぞ。それに古来から居候は押し入れに寝るものだと相場が決まっている。未来から来た青い猫型ロボットとかな」
そう言ってアスナはまた妙な声で「フフ、フフフフ」と笑う。
ああ、そういうことか。
先程からの妙なしゃがれ声は要するにド○えもんの声マネなわけだ。
「ん、あれ?分かりにくかったか?」
こちらのリアクションが思ったものと違ったのか首を傾げるアスナ。
ああ、確かに伝わりづらかったとも。
だって全っ然似てないんだもん。絶望的に似てない。もう似せようとしていたのかさえ疑わしいほどに似てないんだから伝わるはずないじゃん。
「つまりな、未来から来たという設定なのに古来からっていう矛盾がこのボケの面白いところでーー」
「そっちかいッ!!」
というかボケの面白いところを説明するってどんだけハートが強いんだ。あれか、DMCDではそういう訓練もするのか。
あとモノマネのクオリティの低さはどうした。あれはボケじゃないのか。マジなのか。あれで!?
と、心の中でひとしきりツッコんだユウゴが呆れたようにため息をつくと、アスナもおどけたように苦笑する。
こうして肩肘を張らない様子を見ていると、本当にただの同年代の女の子にしか見えない。
仕事モードとプライベートモードは完全に別ということか。
先程まで悪夢の余韻にささくれだっていた気持ちがいつのまにか落ち着いていた。
女の子の笑顔には不思議な力がある。
「明日も学校なんだ、もう寝よう」
ユウゴが布団を被り直すと、アスナも押し入れの戸を閉めた。
昨日知り合ったばかりの女の子と押し入れの戸一枚を隔てて眠る。
不思議な感覚だ。
彼女のことなど、ユウゴはほとんど何も知らない。知っているのは、その男みたいな固い口調とDMCDという組織の一員だということくらい。それでも不思議と信じられ、惹かれるものがある。
そういえば彼女自身が“デュエリスト同士は引かれ合う”というようなことを言っていた。
このなんとなく惹き付けられるような感覚がそれによるものなのかどうかは分からない。
それでもユウゴの中で、アスナの存在がすでに大きくなりつつあるのは事実だった。
今日一日で新たに知った一面もいくつかあった。
意外と天然なところ、プライベートではお茶目な部分もあるところ、狭い場所が好きなところ、ドラえ○んが好きなところ。
それにーー、とユウゴが呟く。
「ーー意外にも大山○ぶ代派」
「水田わ○びも好きだぞ、私は」
心外だ、というように押し入れから顔を出すアスナ。
もはやプライバシーもくそもないな、とユウゴは頭を抱える。
「……もういいから寝てくれ」
ああ、どうしてこうなったんだーー。
ユウゴは頭を抱えたまま、今日あったことを順番に回想し始めた。
そう、最初はあの“カードゲーム部”での出来事からだ。
*
砂埃というか、もはや砂塵の嵐である。肉眼では捉えきれない矮小な弾丸が暴風と共に何千億発もの数でユウゴを襲う。しかし、風圧に体のバランスは崩されそうになるが、不思議とその身を打つ礫の痛みはない。
それもそのはず。これはユウゴの見ている夢なのだ。
いや、ちょっと待てーー。
夢の中だというのに、ユウゴはそれに疑問を持つ。
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しかしユウゴの中に生まれた疑問はそれではない。
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砂嵐の向こうから声がする。
しかしそれは暴風のもたらす轟音に掻き消されよく聞こえない。
そうだ、これは何度も繰り返し見たあの夢。全く同じ夢だ。
しかしこの夢は《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》がエビル・デーモンに襲われることを察知して、ユウゴに警告するために見せていた夢ではなかったのか。
「よーーー聞けーーーーウゴ」
それでも尚、その声の主は構わず言葉を続ける。
心なしか以前よりはその声が聞き取りやすくなっているような気がする。
これが以前と同じ夢ならば、夢の終わりは近い。
ユウゴは「今ならもしかしてーー」と思う。
エビル・デーモンとの戦いの最中では《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》には声が届かなかった。しかし今なら、この夢の中ならば、あるいはユウゴの声が届くかもしれない。
ユウゴは吹き付ける砂嵐の中、無理矢理その両目を開けた。
普通ならすぐに砂に進入され手痛いダメージを受けるはずだが、さすがに夢だけあってなんとかではあるが視界は広がりをみせた。
といっても見えるのは荒れ狂う茶色の風のみ。視界などほとんどない。
「聞いてくれッ《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》!!エビル・デーモンには勝ったんだッ!!危険はもう過ぎ去ったんじゃないのか!?」
あらん限りの力で砂嵐に向けて叫ぶ。
この暴風の向こうに《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》がいることは分かっているのだ。声が届きさえすれば、と微かな期待を叫声に込める。
しかし返答はない。
何をしても上手くいかない状況に、歯噛みし地団駄を踏みたくなる。
そして不意に一層強い一陣の風が吹き、ほんの一瞬ではあったものの砂埃が晴れた。
そしてユウゴが見たものはーー
ーーやはり《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》によく似た巨大なドラゴンだった。
体表は黒く、うなぎのように滑らかで光っているようにも見える。
巨大な両翼は耐えずバサバサと羽ばたき、この砂嵐がそれによるものであることを窺わせる。
威圧感あるその風貌とは裏腹にその瞳はどこか落ち着いた知性を湛えているように見えた。
以前の夢と何ら変わらない展開とその姿。
認めざるを得ない。これはやはり警告の夢。
《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》が報せたかった危機とは、エビル・デーモンの襲撃のことではなかったのだ。
彼がこんな夢と見せてまでユウゴに伝えたい危機はまだこれから先に待っているということだ。
邂逅はほんの一瞬。
すぐに視界は再び砂嵐に閉ざされてしまった。
しかしユウゴは叫び続ける。
「これから先、一体何が俺に起こるって言うんだッ!?俺は何をすればいいッ!?」
しかしその声は空虚に激しい風音に跳ね返されるのみ。
そこでブツンと、まるでテレビの電源が消えるように唐突にこの夢は終わる。
いつものことだ。
もう何十回と繰り返し見てきた夢。
《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》が伝えたい危機とは何なのか、そもそも《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》とは一体どういう存在なのか、何度同じ夢を繰り返してもやはりその答えには辿り着けない。残るのはいつものじりじりとした焦燥感だけ。
「ーー危険が迫っている」
最後のその言葉も、今は風に混じって舞う砂のようにしか聞こえなかった。
*
第2話:「帝王の降臨」
*
「何だって言うんだよ」
目を覚ますと、やはりいつもの自分の部屋だった。
いつものようにじっとりと汗ばんでいる体。それよりも不可解な夢の後味が口の中に入った砂のように不快で、ユウゴは目を覆った。
「ど~したんだい?ユウゴく~ん」
不意に聞こえてきたしゃがれ声にユウゴはビクッと体を震わせる。
見ると部屋の押し入れが少しだけ開いて、そこから猫のような大きな瞳がこちらを覗いている。
「おどかすなよ、アスナ」
思わずぶっきらぼうな言葉が出る。
時計を見ると午前2時。
こんな時間に押し入れからそんな声をかけられたら誰だって驚く。
「眠れないのか?」
「いつものことだよ」
普段通りの口調に戻ったアスナに、ユウゴは心配いらないといった風に返す。
「別に心配などしていないがな」
そう口を尖らせるアスナに思わず苦笑が漏れた。
「そっちこそ本当に大丈夫なのか?そんなとこで」
押し入れの中で寝ると言って譲らなかったのはアスナの方だが、女の子を押し入れに寝かせて自分はベッドに寝るというのは男としては申し訳ない気持ちになる。
女性としてもかなり小柄なアスナだが、それでも押し入れの中では手狭さを感じるだろう。
「慣れれば快適だぞ。それに古来から居候は押し入れに寝るものだと相場が決まっている。未来から来た青い猫型ロボットとかな」
そう言ってアスナはまた妙な声で「フフ、フフフフ」と笑う。
ああ、そういうことか。
先程からの妙なしゃがれ声は要するにド○えもんの声マネなわけだ。
「ん、あれ?分かりにくかったか?」
こちらのリアクションが思ったものと違ったのか首を傾げるアスナ。
ああ、確かに伝わりづらかったとも。
だって全っ然似てないんだもん。絶望的に似てない。もう似せようとしていたのかさえ疑わしいほどに似てないんだから伝わるはずないじゃん。
「つまりな、未来から来たという設定なのに古来からっていう矛盾がこのボケの面白いところでーー」
「そっちかいッ!!」
というかボケの面白いところを説明するってどんだけハートが強いんだ。あれか、DMCDではそういう訓練もするのか。
あとモノマネのクオリティの低さはどうした。あれはボケじゃないのか。マジなのか。あれで!?
と、心の中でひとしきりツッコんだユウゴが呆れたようにため息をつくと、アスナもおどけたように苦笑する。
こうして肩肘を張らない様子を見ていると、本当にただの同年代の女の子にしか見えない。
仕事モードとプライベートモードは完全に別ということか。
先程まで悪夢の余韻にささくれだっていた気持ちがいつのまにか落ち着いていた。
女の子の笑顔には不思議な力がある。
「明日も学校なんだ、もう寝よう」
ユウゴが布団を被り直すと、アスナも押し入れの戸を閉めた。
昨日知り合ったばかりの女の子と押し入れの戸一枚を隔てて眠る。
不思議な感覚だ。
彼女のことなど、ユウゴはほとんど何も知らない。知っているのは、その男みたいな固い口調とDMCDという組織の一員だということくらい。それでも不思議と信じられ、惹かれるものがある。
そういえば彼女自身が“デュエリスト同士は引かれ合う”というようなことを言っていた。
このなんとなく惹き付けられるような感覚がそれによるものなのかどうかは分からない。
それでもユウゴの中で、アスナの存在がすでに大きくなりつつあるのは事実だった。
今日一日で新たに知った一面もいくつかあった。
意外と天然なところ、プライベートではお茶目な部分もあるところ、狭い場所が好きなところ、ドラえ○んが好きなところ。
それにーー、とユウゴが呟く。
「ーー意外にも大山○ぶ代派」
「水田わ○びも好きだぞ、私は」
心外だ、というように押し入れから顔を出すアスナ。
もはやプライバシーもくそもないな、とユウゴは頭を抱える。
「……もういいから寝てくれ」
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モチベ保つためにも沢山のコメントお待ちしています! (2016-10-10 23:36)