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2-4:転校生は美少女 作:氷色
*
次の日の朝、教室に登校したユウゴは早々にタツヤに捕まった。
「よう、ユウゴ。なんだずいぶん眠そうだな」
「おはようタツヤ」
あくびを噛み殺しながらも、タツヤの無事な姿にホッとする。
昨夜帰宅した頃にはすでに午前3時を回っていた。
それから寝る気にもなれず、ダラダラと時間を過ごして朝を待った。
母が帰って来ない日だったのは幸いだった。放任主義とは言え、流石に無断外泊がバレればただでは済むまい。
二日続けての寝不足にはなってしまったが、それだけで済んだのだ、良しとしなければならないだろう。
「そういやさ、聞いてくれよ」
ユウゴが席につくと、タツヤはその前の席を拝借して座りこっちを向く。
そして驚くべきニュースを切り出した。
「俺、昨日の記憶がないんだよ。放課後、お前と一緒に帰ってる途中までは覚えてるんだけど、それ以降の記憶が飛んでんだよ。気付いたら朝で、普通に自分のベットで寝てた。不思議だろ?」
「そ、そう、それは不思議だね」
突然エビル・デーモンに襲われて気を失っていたのだ、それは記憶などないだろう。
タツヤの家はユウゴの家とは逆で父子家庭だ。タツヤの父も仕事からの帰りが遅く、アキラ達は気付かれることなくタツヤを家まで連れてはいけたのだろうが、その結果タツヤは自らの記憶喪失を疑うに至ってしまったということなのだろう。
本当のことなどとても言えず、ユウゴは内心冷や汗をかきながらも曖昧に誤魔化すことしかできない。
「なんかいつのまにか擦り傷とかもできてて……ってあれ、お前も怪我してんじゃん」
タツヤの怪我はたぶん最初に吹っ飛ばされたときに派手に転がってできた傷だ。大きな傷ではないが、絆創膏が不器用にいくつも貼られていて痛々しい。
ユウゴの怪我は大半をアンリに治療してもらってはいたが、魔力による傷ではないものは彼女の“治癒術”でもそう簡単には治せないらしく、まだいくつか残っている。
「もしかしてお前何か知ってんじゃないのか?」
ギクッ。
流石はタツヤ、妙なところで勘が働く。
「な、なに言ってるんだよ。昨日、土手で二人して転んだじゃないか。それも覚えてないの?」
「はぁ?うーん……高校生にもなって二人して転ぶか?でも、なんかそんなこともあったような気も……」
嘘は言っていない。土手で二人して転んだのは本当だ。
妙に動揺を見せず、エビル・デーモンとの戦いに関することだけを黙って、他はそのまま話すしかない。勘の鋭いタツヤには半端な嘘は逆効果だ。
それにしても流石に転んだということで丸め込むのは無理があったか。
しかしおぼろげながら当時の記憶が残っているのか、まだ懐疑の目ではあるものの一概に嘘だとは断言できないタツヤ。
ここは畳み掛けるしかない。
「昨日は家までは普通に帰ってたよ。本当に覚えてないの?」
「うーん……」
タツヤはますます疑いの目を向ける。しまった、逆効果だったか。
しかしそんなユウゴの窮地を救ったのは意外な人物だった。
「大ニュースだ!!」
そう叫びながらユウゴとタツヤの会話に割り込んできたのは『本田 弘寿(ホンダ ヒロトシ)』だ。
ヒロトシはユウゴ・タツヤのクラスメートで、タツヤを除けば最も仲の良い友人ということになる。
何かと騒がしいヤツで、いつもテンションが高い。意外と情報通でもあり、こうして学校内のニュースを持ってくることも多い。いわゆるムードメーカーというやつだ。
ユウゴは学校ではこの三人で過ごすことが多い。
そのヒロトシがいつものようにユウゴ達の元へと今日の重大ニュースを持ってきたのだ。
しかし今日のタツヤはそれどころではない。
「今はお前に構ってる暇はねぇんだよ。なんてったって記憶喪失だぞ。これに勝るニュースなんてーー」
「鶴岡が学校辞めたらしいぞ!」
ユウゴとタツヤは目を丸くして顔を合わした。
「マジでッ!?」
すげなくスルーを決め込もうとしていたタツヤもそれ以外二の句を告げられない。
『鶴岡』というのはユウゴ達のクラスの担任教師だ。
30代の男性で、生活指導も担当しているが、教師の特権を振りかざす高圧的な態度で生徒からの人気はない。カツラの疑惑もあった。
「辞めたって、なんで!?」
昨日まではいつも通りの嫌なヤツで、学校を辞めるような素振りは全くなかった。
急な話で、確かに理由が気になる。
「それが全く分からないらしい。今朝になっていきなり辞めるって言い出したらしくてよ。先生達も大騒ぎだったぜ」
「マジか。まぁ嬉しいけど」
タツヤがへらへらと笑う。
クラスでも目立つ方のタツヤは鶴岡から目を付けられていた類いであり、事ある毎に言い掛かりのような注意を受けていたので無理もない。
鶴岡自身が大いに問題のある人物であり、これが解雇であってもユウゴも正直言って同情はできない。
「実は良いニュースはもう一つあるんだぜ」
「何だよ、勿体ぶるなよヒロトシ」
最初のニュースでユウゴ達の驚きを引き出せたヒロトシはご満悦でどや顔。
おかげでタツヤの関心が昨日の記憶喪失から逸れたのは助かった。これ以上食い下がられたらきっとボロが出ていただろうから。
ヒロトシにとってはそんなユウゴの密かな感謝など知ったことではなく、飢えた魚に餌をやるように話題を切り出す。
「なんと、このクラスに転校生が来るらしい。それも女子!」
「マジかッ!」
「こんな中途半端な時期に?」
もはや“覚醒”と言わんばかりにくわっと目を見開いて食いつくタツヤと、一方で中途半端なこの時期に転校してくるその女子に不穏な雰囲気を感じるユウゴ。
その時、タイミング良く予鈴が鳴り渡った。
「おーい、席に付けー」
ガラッと教室のドアが開き、入ってきたのはやはりいつもの鶴岡の姿ではなかった。
その日の朝のHRに現れたのは、響紅司だった。
眠そうに大欠伸をかましながら気だるげに教壇へと上がる。
その姿に戸惑い半分という感じでざわつきながらもクラスメート達が各々の席へと付いていく。タツヤやヒロトシもユウゴの席を離れ、自分の席に付いた。
全員が席に座りヒビキに注目が集まると、コウジはおもむろに話し始める。
「あー、すでに知ってるヤツもいると思うが、担任の鶴岡先生は退職された。ので、俺が代わりに今日からこのクラスの担任になった。まぁ、ヨロシク頼む」
自己紹介も何もなく、とりあえず事実のみを列挙したシンプルな切り出し。
「それ以外話すつもりはない」と言わんばかりだが、それで納得できるほど思春期の好奇心は甘くない。
一人の女子生徒が手を挙げ、「鶴岡先生は何故退職されたんですか?」と質問した。
ほとんどクラス全員を代表しての質問だ。
ヒビキはそんな質問は想定通りという風にニヤリと嗤いーー
「心底大人を軽蔑したくなかったら聞かねぇ方がいいぞ」
とだけ言って、生徒達を沈黙させた。
一体、鶴岡先生に何があったと言うのだろう。
ヒロトシの言うところでは依願退職のようだったが、真相は何かとんでもない不祥事によって依願退職を強制されたとかなのかもしれない。
「まぁそう悪いことばかりでもねぇぞ。こっちについても知ってるヤツもいるだろう。転校生がいる。おーい、入れー」
ヒビキが教室の外に手招きすると、彼女は颯爽と教室の中に入ってきた。
その姿に教室が一気にどよめく。
ピンと伸びた背筋、細い手足、軽やかに揺れる絹糸のような黒髪、気品すら感じるような佇まい、そして見る者を射抜くような大きく強い瞳。
ヒビキに隣り合う形で教壇に立った転校生は、とんでもない美少女だった。
「天上院アスナだ。よろしく」
そう言って、アスナは(間違いなくユウゴを見つめて)軽く笑った。
次の日の朝、教室に登校したユウゴは早々にタツヤに捕まった。
「よう、ユウゴ。なんだずいぶん眠そうだな」
「おはようタツヤ」
あくびを噛み殺しながらも、タツヤの無事な姿にホッとする。
昨夜帰宅した頃にはすでに午前3時を回っていた。
それから寝る気にもなれず、ダラダラと時間を過ごして朝を待った。
母が帰って来ない日だったのは幸いだった。放任主義とは言え、流石に無断外泊がバレればただでは済むまい。
二日続けての寝不足にはなってしまったが、それだけで済んだのだ、良しとしなければならないだろう。
「そういやさ、聞いてくれよ」
ユウゴが席につくと、タツヤはその前の席を拝借して座りこっちを向く。
そして驚くべきニュースを切り出した。
「俺、昨日の記憶がないんだよ。放課後、お前と一緒に帰ってる途中までは覚えてるんだけど、それ以降の記憶が飛んでんだよ。気付いたら朝で、普通に自分のベットで寝てた。不思議だろ?」
「そ、そう、それは不思議だね」
突然エビル・デーモンに襲われて気を失っていたのだ、それは記憶などないだろう。
タツヤの家はユウゴの家とは逆で父子家庭だ。タツヤの父も仕事からの帰りが遅く、アキラ達は気付かれることなくタツヤを家まで連れてはいけたのだろうが、その結果タツヤは自らの記憶喪失を疑うに至ってしまったということなのだろう。
本当のことなどとても言えず、ユウゴは内心冷や汗をかきながらも曖昧に誤魔化すことしかできない。
「なんかいつのまにか擦り傷とかもできてて……ってあれ、お前も怪我してんじゃん」
タツヤの怪我はたぶん最初に吹っ飛ばされたときに派手に転がってできた傷だ。大きな傷ではないが、絆創膏が不器用にいくつも貼られていて痛々しい。
ユウゴの怪我は大半をアンリに治療してもらってはいたが、魔力による傷ではないものは彼女の“治癒術”でもそう簡単には治せないらしく、まだいくつか残っている。
「もしかしてお前何か知ってんじゃないのか?」
ギクッ。
流石はタツヤ、妙なところで勘が働く。
「な、なに言ってるんだよ。昨日、土手で二人して転んだじゃないか。それも覚えてないの?」
「はぁ?うーん……高校生にもなって二人して転ぶか?でも、なんかそんなこともあったような気も……」
嘘は言っていない。土手で二人して転んだのは本当だ。
妙に動揺を見せず、エビル・デーモンとの戦いに関することだけを黙って、他はそのまま話すしかない。勘の鋭いタツヤには半端な嘘は逆効果だ。
それにしても流石に転んだということで丸め込むのは無理があったか。
しかしおぼろげながら当時の記憶が残っているのか、まだ懐疑の目ではあるものの一概に嘘だとは断言できないタツヤ。
ここは畳み掛けるしかない。
「昨日は家までは普通に帰ってたよ。本当に覚えてないの?」
「うーん……」
タツヤはますます疑いの目を向ける。しまった、逆効果だったか。
しかしそんなユウゴの窮地を救ったのは意外な人物だった。
「大ニュースだ!!」
そう叫びながらユウゴとタツヤの会話に割り込んできたのは『本田 弘寿(ホンダ ヒロトシ)』だ。
ヒロトシはユウゴ・タツヤのクラスメートで、タツヤを除けば最も仲の良い友人ということになる。
何かと騒がしいヤツで、いつもテンションが高い。意外と情報通でもあり、こうして学校内のニュースを持ってくることも多い。いわゆるムードメーカーというやつだ。
ユウゴは学校ではこの三人で過ごすことが多い。
そのヒロトシがいつものようにユウゴ達の元へと今日の重大ニュースを持ってきたのだ。
しかし今日のタツヤはそれどころではない。
「今はお前に構ってる暇はねぇんだよ。なんてったって記憶喪失だぞ。これに勝るニュースなんてーー」
「鶴岡が学校辞めたらしいぞ!」
ユウゴとタツヤは目を丸くして顔を合わした。
「マジでッ!?」
すげなくスルーを決め込もうとしていたタツヤもそれ以外二の句を告げられない。
『鶴岡』というのはユウゴ達のクラスの担任教師だ。
30代の男性で、生活指導も担当しているが、教師の特権を振りかざす高圧的な態度で生徒からの人気はない。カツラの疑惑もあった。
「辞めたって、なんで!?」
昨日まではいつも通りの嫌なヤツで、学校を辞めるような素振りは全くなかった。
急な話で、確かに理由が気になる。
「それが全く分からないらしい。今朝になっていきなり辞めるって言い出したらしくてよ。先生達も大騒ぎだったぜ」
「マジか。まぁ嬉しいけど」
タツヤがへらへらと笑う。
クラスでも目立つ方のタツヤは鶴岡から目を付けられていた類いであり、事ある毎に言い掛かりのような注意を受けていたので無理もない。
鶴岡自身が大いに問題のある人物であり、これが解雇であってもユウゴも正直言って同情はできない。
「実は良いニュースはもう一つあるんだぜ」
「何だよ、勿体ぶるなよヒロトシ」
最初のニュースでユウゴ達の驚きを引き出せたヒロトシはご満悦でどや顔。
おかげでタツヤの関心が昨日の記憶喪失から逸れたのは助かった。これ以上食い下がられたらきっとボロが出ていただろうから。
ヒロトシにとってはそんなユウゴの密かな感謝など知ったことではなく、飢えた魚に餌をやるように話題を切り出す。
「なんと、このクラスに転校生が来るらしい。それも女子!」
「マジかッ!」
「こんな中途半端な時期に?」
もはや“覚醒”と言わんばかりにくわっと目を見開いて食いつくタツヤと、一方で中途半端なこの時期に転校してくるその女子に不穏な雰囲気を感じるユウゴ。
その時、タイミング良く予鈴が鳴り渡った。
「おーい、席に付けー」
ガラッと教室のドアが開き、入ってきたのはやはりいつもの鶴岡の姿ではなかった。
その日の朝のHRに現れたのは、響紅司だった。
眠そうに大欠伸をかましながら気だるげに教壇へと上がる。
その姿に戸惑い半分という感じでざわつきながらもクラスメート達が各々の席へと付いていく。タツヤやヒロトシもユウゴの席を離れ、自分の席に付いた。
全員が席に座りヒビキに注目が集まると、コウジはおもむろに話し始める。
「あー、すでに知ってるヤツもいると思うが、担任の鶴岡先生は退職された。ので、俺が代わりに今日からこのクラスの担任になった。まぁ、ヨロシク頼む」
自己紹介も何もなく、とりあえず事実のみを列挙したシンプルな切り出し。
「それ以外話すつもりはない」と言わんばかりだが、それで納得できるほど思春期の好奇心は甘くない。
一人の女子生徒が手を挙げ、「鶴岡先生は何故退職されたんですか?」と質問した。
ほとんどクラス全員を代表しての質問だ。
ヒビキはそんな質問は想定通りという風にニヤリと嗤いーー
「心底大人を軽蔑したくなかったら聞かねぇ方がいいぞ」
とだけ言って、生徒達を沈黙させた。
一体、鶴岡先生に何があったと言うのだろう。
ヒロトシの言うところでは依願退職のようだったが、真相は何かとんでもない不祥事によって依願退職を強制されたとかなのかもしれない。
「まぁそう悪いことばかりでもねぇぞ。こっちについても知ってるヤツもいるだろう。転校生がいる。おーい、入れー」
ヒビキが教室の外に手招きすると、彼女は颯爽と教室の中に入ってきた。
その姿に教室が一気にどよめく。
ピンと伸びた背筋、細い手足、軽やかに揺れる絹糸のような黒髪、気品すら感じるような佇まい、そして見る者を射抜くような大きく強い瞳。
ヒビキに隣り合う形で教壇に立った転校生は、とんでもない美少女だった。
「天上院アスナだ。よろしく」
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68 | 1-23:監視者 その2(*未修正) | 801 | 3 | 2016-10-08 | - | |
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57 | 1-EX:登場オリカ紹介 その1 | 736 | 2 | 2016-10-09 | - | |
72 | 2-1:終わらない悪夢と押し入れの居候 | 868 | 4 | 2016-10-10 | - | |
58 | 2-2:有馬第一高校カードゲーム部 | 1022 | 2 | 2016-10-17 | - | |
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これからもどうぞよろしくお願いします。 (2016-10-26 01:54)
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