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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第54話 月夜に咲く姫

第54話 月夜に咲く姫 作:白金 将


 アルストロメリアの夜はとても静かだ。
 伽藍も翌檜もシロも、そして他の従業員も寝静まった構内には人の姿がほとんどない。それは葵が収容されている地下牢でもまた同じことだった。

「……」

 眠気を我慢していた葵だったが、遂に彼女は目を閉じてうつらうつらとし始める。
 そうした彼女の脳裏に浮かんだのは、ある部屋の光景だった。

(……ここは、どこだ)

 何やら格式高い雰囲気が漂っている部屋だ。決して狭くはないその部屋には存在感のある机と高級な椅子がワンセットで置いてあり、その椅子に男が座って葵の事をじっと見ていた。彼が誰だったのか、机の所にある立札を見てみたがぼやけてよくわからない。
 葵は何も言わずにその男の元に詰め寄る。男はただ座っていた。そして、葵は自身の左腕にデュエルディスクがセットされていることに気が付く。

〈Real Solid Vision System...Stand by...?〉
(これは……)

 机越しに葵を睨む男もその片腕にデュエルディスクを装着していた。そして彼は立ち上がると、まるでこれから起こることがとても面倒くさそうにため息をつく。

「君のような者が来ることは薄々分かっていたよ……成程、ここまでか」

 葵がデッキトップに指を乗せる。そうしてカードを一枚引いた。
 直後、部屋の様子が一変し、辺り一帯が瓦礫と血飛沫の跡でいっぱいになる。

(……なんだ、これ)

 吐き気を催す程の光景から目をそらし、男が座っていたところを見る。
 果たしてそこには、血まみれになって椅子に身体を預ける彼の姿があった。

「……!」

 ちがう。私はそんなことはしていない。こんなことが起こるわけがない。
 葵はかっと目を見開くとそのまま部屋の最奥に設置されている窓へ走って、ディスクが装てんされている左腕でその窓を殴り抜いた。

(ちがう、ちがうちがうちがうちがう……!)

 葵は怯えるように窓ガラスに映った自分の顔を見る。
 燃える赤の目をしていた鏡の中の葵はとても楽しそうな笑みを浮かべていた。





 洋館の中庭に月の光が満ちている。
 そこでは遊乃とユーノがクイーン・オブ・ナイツと対峙していた。

― ― ― ― ― ― ― ―
遊乃   8000
ユーノ  8000
クイーン 8000
― ― ― ― ― ― ― ―

 先行は遊乃のターンだ。後続のユーノに目配せをし、視線でエールを送り合う。

「私は手札から〈星因士 ベガ〉を通常召喚、そしてベガの効果発動! 手札から〈星因士 デネブ〉を守備表示で特殊召喚します! さらに特殊召喚されたデネブの効果発動! デッキから〈星因士 アルタイル〉を手札に加えます!」
「レベル4モンスターが2体か……」
「私は2体のモンスターでオーバーレイ! エクシーズ召喚! お願いします、ランク4、〈No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド〉!」

 遊乃の元に巨大な「手」が現れる。守備表示でX召喚されたそれはクイーンの様子を窺うように指を動かした。

― ― ― ― ― ― ― ―
No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド

エクシーズ・効果モンスター
星4/地属性/岩石族/攻2000/守2000
レベル4モンスター×2
相手フィールド上の効果モンスターの効果が発動した時、このカードのエクシーズ素材を2つ取り除き、相手フィールド上の効果モンスター1体を選択して発動できる。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、選択した効果モンスターの効果は無効化され、表示形式の変更もできない。この効果は相手ターンでも発動できる。
― ― ― ― ― ― ― ―

「私はカードを1枚セットしてターンエンド!」
「それじゃあ次は私のターン! 私は手札から〈融合〉を発動!」

 ユーノは手札の〈捕食植物コーディセップス〉〈捕食植物プテロペンテス〉を墓地へ送る。そうして彼女の前の地面に禍々しい色をした穴が開いた。

「数多の植物組み合わさりし悪魔の権化よ、今ここに現れてすべてを食らい尽くせ! 融合召喚! お願いします、レベル7〈捕食植物キメラフレシア〉! 私はこれでターンエンド!」

 遊乃の前にはジャイアント・ハンド、ユーノの前にはキメラフレシアが立っている。残しておくと非常に厄介なキメラフレシアと、相手の動きを止めることに特化したジャイアント・ハンドはクイーンにプレッシャーを与えているかにも見えた。

「それでは私のターン、ドロー……ところでだ」

 クイーンの目が遊乃とユーノを交互に見る。
 二人が身構えると、クイーンは秘かに笑顔を浮かべながら話を切り出した。

「君たち二人はよく似ているな。まるで双子の姉妹のようだ」
「どういうこと……?」
「だが、双子にしては違う部分もあると見える。例えば――」
「その話は今はいい」

 クイーンの話をユーノが遮った。遊乃がちらと見ると、ユーノは何かとても張り詰めた雰囲気を漂わせながらクイーンと向き合っている。そこには遊乃が声をかけられる余地もなかった。
 そんな様子のユーノを見て、クイーンは察したように押し黙る。

「……まあ良い。いずれ嫌でも知ることになるだろう。私は手札からフィールド魔法〈四季姫の箱庭〉を発動!」
「見たことのないカード……!」
「遊乃ちゃん、気を付けよう!」
「うんっ!」

― ― ― ― ― ― ― ―
四季姫の箱庭 ※オリカ

フィールド魔法
①フィールドのレベル・ランクが8以上の植物族モンスターは相手の効果の対象にならない。
②フィールドのモンスターは全て植物族になる。
➂1ターンに1度発動できる。自分の手札・墓地からレベル8植物族モンスター1体を特殊召喚する。
― ― ― ― ― ― ― ―

「効果耐性……」
「植物は無限の可能性を秘めている。それを証明してやろう。私は手札から〈椿姫ティタニアル〉を墓地へ送って〈トレード・イン〉を発動、カードを2枚引かせてもらおう」
「ティタニアル!?」
「そして箱庭の第三の効果を発動、墓地から甦れ、ティタニアル!」

 クイーンの前に一輪の花が咲く。そこには、先程ユーノの相手をしていたティタニアルの姿があった。一度敗北を喫していたためかユーノを見る目は厳しい物になっている。

「他の四季姫は全て私の眷属……続けて私は手札から〈ローンファイア・ブロッサム〉を通常召喚、そして効果発動。デッキから2体目の〈ローンファイア・ブロッサム〉を守備表示で特殊召喚」

 遊乃が渋い顔になる。ローンファイア・ブロッサムはフィールドから離れて効果を発動するためジャイアント・ハンドで止めることが出来ないのだ。それに、止めようとしたところでティタニアルによって無効・破壊されてしまえば遊乃のフィールドはがら空きになってしまう。

「2体目の〈ローンファイア・ブロッサム〉が場に出た時、私は手札から〈地獄の暴走召喚〉を発動させてもらおう」
「暴走召喚……!?」
「この後何が起こるか、ここまで来た程の手慣れであれば想像はつく筈だが……」

 クイーンのフィールドに三体のローンファイア・ブロッサムが並ぶ。ほぼ全ての植物族を引っ張り出すことの出来るそれが三体並ぶということは、今この状況ではクイーンは自身の思うがままにデッキを動かせることを意味していた。

「自身をリリースし、1体目の〈ローンファイア・ブロッサム〉の効果を発動。デッキから〈桜姫タレイア〉を攻撃表示で特殊召喚! 続けて2体目もリリースして効果発動! デッキから〈姫葵マリーナ〉を攻撃表示で特殊召喚! そして最後の〈ローンファイア・ブロッサム〉の効果を発動! 現れろ、〈紅姫チルビメ〉!」

フィールドに四季姫が全員揃う形になった。一人でさえ目が覚める程の存在感を示していたというのにそれが四体分、そして現在はその陰にクイーン・オブ・ナイツの存在もちらつかされている。
 遊乃もユーノも完成されたフィールドの様子に目を見張っていた。だが、これでは終わらない。最後の番人としての彼女がここで終わるわけがない。

「場の〈桜姫タレイア〉〈姫葵マリーナ〉〈紅姫チルビメ〉でオーバーレイネットワークを構築!」
「レベル8モンスター三体……!」
「獣寝静まる月の夜、ただの一度光り輝き、誰知らぬ地で気高く咲き誇れ! エクシーズ召喚! 降臨、〈No.87 雪月花美神クイーン・オブ・ナイツ〉!」

 二人の前に立っていたクイーンの姿が一層とはっきりした物になった。
 香り高く「咲いた」彼女は、紛れもなく今ここに居る誰よりも輝いていた。


― ― ― ― ― ― ― ―
No.87 雪月花美神クイーン・オブ・ナイツ

エクシーズ・効果モンスター
星8/水属性/植物族/攻3200/守2800
レベル8モンスター×3
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、以下の効果から1つを選択して発動できる。この効果は相手ターンでも発動できる。●相手フィールド上にセットされた魔法・罠カード1枚を選択して発動できる。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、選択されたカードは発動できない。●フィールド上の植物族モンスター1体を選択して裏側守備表示にする。●フィールド上のモンスター1体を選択し、その攻撃力を300ポイントアップする。
― ― ― ― ― ― ― ―
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光芒
四季姫3体でクィーン・オブ・ナイツというのは予想できましたが……暴走ロンファというのはつい最近自分も作品で取り上げましたが決まると本当に凄いですよね。しかし、そのロンファ×3が霞むレベルのフィールド魔法……四季姫に限らず【森羅】とかでも使えそうだから強いですよね。

そして冒頭では葵にも何かやばそうな兆候が……彼女はいったい何と戦っているのやら。危険なにおいしかしませんが。 (2017-08-23 23:19)
白金 将
<<<光芒 さん
暴走ロンファ強すぎるんですよね……植物族の決戦兵器というべき存在ですか。相手のフィールドを参照する必要はありますがトークンで無理矢理条件を満たす荒業もあるので怖い怖い。
このデュエルはこれまでの四季姫戦の総決算であり、ユーノとようかんの秘密を徐々に明かしていく役割も担っています。だからなるべくわかりやすく、豪快な進行にしたいですね……他にもオリカがあるのでお楽しみに。

葵さんに関してはそろそろ末期症状が来ています。遊乃ちゃん、早く帰ろう!
何と戦っているかに関しては物語終盤で明らかになりますね。あとどれくらいかなぁ。 (2017-08-24 04:42)
tres(トレス)
なるほど、クイーン・オブ・ナイツのデッキは四季姫全員が入った豪快なデッキということですか。そしてそれらを素材に自身を召喚と…にしてもローンファイア・ブロッサム3体がクイーン・オブ・ナイツに化けるとはやっぱり強いですね。
知らない間になんだか葵が大変なことになってますね、大丈夫でしょうか… (2017-11-12 15:31)
白金 将
<<<tres(トレス) さん
おそらくクイーン・オブ・ナイツの召喚条件的に四季姫を使う事を想定しているのだと思いますね。既存のカードではとてもではないがエース張れないのでしっかりと切り札になれるサポートカードを入れました。ロンファ暴走召喚は本当に強いですね……
そろそろ遊乃ちゃん、おうちに帰らないとまずいんじゃないのかな……? (2017-11-12 16:10)

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