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1-23:監視者 その2(*未修正) 作:氷色
*
ユウゴ達の住む有馬区から直線距離で15キロ弱ーー帝都南区にそのビルはあった。
帝都でも有数の企業ビルが建ち並ぶ一角。
このビルもそんな大企業の自社ビルの一つだ。
メタリックな銀色の外観は先鋭的で、直下からでは首を傾げなければ全体像を把握できないほどの高層ビルである。
上になるほど細くなる流線型のその佇まいは、まるで夜空を突き刺す槍のようだ。
そんなビルの一室。
パソコンのディスプレイに見入る女性がいた。
その目はディズニーチャンネルのコミカルな海外アニメを観る子供のように楽しげだ。
部屋はオフィスというよりは研究室という趣であり、女性がスーツに白衣を羽織っているところを見ると、やはり彼女は研究者なのであろう。
ディスプレイに映るのが何かの実験映像であれば、もっとそれらしかったかもしれない。
しかし映像に映っているのは、自分の3倍以上も大きな悪魔と戦っている少年の姿だった。
少年は雷に打たれボロボロになりつつも一瞬の勝機を逃さず見事勝利を手にした。
驚きなのは、これがアニメや映画の映像ではないということだ。これは今から7時間程前、有馬区の某所で実際に撮られた映像。
ドローンか何かで撮られたらしく、映像は空撮。かなりズームされているようだが、画像はわりと鮮明で、映し出されている人物の表情までよく見える。
戦いを終えた少年がふらつきながら倒れたところで、ようやく彼女はディスプレイから視線を上げた。
「アララ、倒れちゃった。まったく、だから言ったでしょ。“寝てないと明日がキツいわよ”って」
彼女は子供の可愛らしい失敗を微笑ましく見るようにくすくすと笑う。
そのとき部屋のドアがノックされ、彼女が入室を許可すると若い男が入ってきた。
「どうでした?彼のデビュー戦は」
彼は彼女が何の映像を見ていたのか知っている素振りで話す。
敬語なのは女性の方が上司に当たるからだ。
それに対して女性は軽くハンズアップして苦笑を返す。
「プレイングは全然まだまだね。父親の遺したノートをさりげなく読ませてたんだけどね。あれだけ弱らせておいた《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》相手に辛勝じゃあ及第点とは言えないわ。まぁ肝心の“エクリプス”を顕現させるところまで行けたのは良かったわね」
「スパルタですねぇ。しかし“エクリプス”が融合召喚に属する効果を持って顕現したのは予想外でしたよ。てっきり旦那さんと同じエクシーズ召喚系統かと……」
「まぁね。私もエクシーズに関するものが来るとばかり思ってて、黒い竜をデザインしちゃったわよ。まぁ姿形なんて、これからあの子が成長していく中でそれに適合するよう変わっていくんだからいいけど」
「彼の成長が楽しみですね」
そう言うと、目当ての書類を見つけたまだ年若い部下は部屋を出ていった。
一人になると、彼女は窓のサッシを開き外を見る。
すっかり夜の帳が深くなった帝都。時計を見ると午前2時になるところだった。
「楽しみ……か」
確かにそういう部分は大きい。
今度はデスクの上に散らばった書類の山に視線を向けた。
そのどれもに“E(エクストリーム)計画”という名が散見される。
「“エクリプス”とユウゴが決闘革命を巻き起こす。世界よ、刮目しなさい。私達のE計画を……!」
E計画主任研究員ーー武藤ロッカは帝都の闇に誓うように言う。
その顔は薄く、しかし楽しそうに笑んでいた。
*
目を開けたとき、そこにはたわわに実った果実が二つ。
「ふぇぇぇ~ッ、やめてくださいよ~カエデ先輩~」
そんな女の子の叫声に一気に頭が覚醒し、ユウゴは目の前にあるのが女性の胸だということにようやく気付いた。
「なっ、えっ、なにッ!?イデッ!」
慌てた拍子に寝かされていたソファから転げ落ちて、肘を強打する。
「痛つつつ」と肘を擦りながら顔を上げると、そこには数人の男女がこちらを見ていた。
一番近くにいたのは眼鏡の少女。先程の胸の持ち主だ。半分涙目でこちらを見ている。
その後ろにはここにいる中では最も小柄な少女。最高に面白いネタを聞かされたみたいに満面の笑顔。
少し離れて金髪のギャルが長机のパイプ椅子に座っている。こちらには興味なさそうにマニキュアを塗っている。
窓際には唯一の男性。腕組みをし、厳しい目付きでこちらを値踏みしているようだ。
まるで校長室にあるような大きくて威厳のある机に腰かけているのは長身の女性。その顔は含み笑いを堪えるように変形している。
どれも知らない顔ばかりだが、唯一の出入り口付近に見知った顔ーーアスナの姿を確認してようやくユウゴは胸を撫で下ろした。
だが状況が整理できない。
ここは一体どこなんだろう?なんで自分はこんなところにいるんだろう?タツヤも一緒だったはずだが、彼は?
色々な疑問が降っては湧いてきて頭が混乱する。
「も、もう、カエデ先輩が騒ぐから武藤くん起こしちゃったじゃないですか!」
そう言って怒るのは眼鏡の少女だ。
どちらかと言えばこの子の声で目が覚めた気もするが、今はそんなことを言っている場合ではない。
「だ、だって部長がアンリの、お、おっ、ぱいで包めば、や、安らぐってーー」
未だ「ヒーヒー」と笑いが治まらないカエデ先輩と呼ばれた小柄な少女。
どうやら“部長”という人物の指示で、この眼鏡の少女の胸をユウゴに押し付けようとしていたようだ。
チラリと見てみると、眼鏡の少女の胸は確かにユウゴの顔を包めそうなくらい立派なものだった。
なぜ起きてしまったんだ、俺ーー!
「……顔がいやらしいぞ、ユウゴ」
まるで氷のようなアスナの視線と言葉がユウゴの胸に突き刺さる。
「悪ふざけはこのくらいにしてそろそろ状況を説明してやったらどうだ?」
窓際の男が厳しい顔付きはそのままに話を先に進めることを提案する。
すると一番豪華な机に乗っていた長身の女性がひらりと飛び降りた。
「そうだね。私がキミの置かれているこの状況を説明してあげよう」
よく見れば彼女と窓際の男、そしてカエデ先輩という少女は見覚えのある制服姿だ。
そう、それはユウゴも通う有馬第一高校の制服だった。
さらに周りを見れば、今いるこの部屋の作りにも見覚えがある。
ここは有馬第一高校の部室棟によく似ている。
ユウゴの顔が元に戻り立ち上がるのを待って、彼女は腕を広げた。
「まずはこう言っておこうか、武藤ユウゴくんーー」
彼女の瞳はキラキラと輝きながらも、その深さでユウゴを吸い込もうとしているかのようだ。
これからとっておきのギャグを言うかのように息を吸い込み、彼女は言った。
「ーー“有馬第一高校カードゲーム部”へようこそ!」
ーー第2話へ続く
ユウゴ達の住む有馬区から直線距離で15キロ弱ーー帝都南区にそのビルはあった。
帝都でも有数の企業ビルが建ち並ぶ一角。
このビルもそんな大企業の自社ビルの一つだ。
メタリックな銀色の外観は先鋭的で、直下からでは首を傾げなければ全体像を把握できないほどの高層ビルである。
上になるほど細くなる流線型のその佇まいは、まるで夜空を突き刺す槍のようだ。
そんなビルの一室。
パソコンのディスプレイに見入る女性がいた。
その目はディズニーチャンネルのコミカルな海外アニメを観る子供のように楽しげだ。
部屋はオフィスというよりは研究室という趣であり、女性がスーツに白衣を羽織っているところを見ると、やはり彼女は研究者なのであろう。
ディスプレイに映るのが何かの実験映像であれば、もっとそれらしかったかもしれない。
しかし映像に映っているのは、自分の3倍以上も大きな悪魔と戦っている少年の姿だった。
少年は雷に打たれボロボロになりつつも一瞬の勝機を逃さず見事勝利を手にした。
驚きなのは、これがアニメや映画の映像ではないということだ。これは今から7時間程前、有馬区の某所で実際に撮られた映像。
ドローンか何かで撮られたらしく、映像は空撮。かなりズームされているようだが、画像はわりと鮮明で、映し出されている人物の表情までよく見える。
戦いを終えた少年がふらつきながら倒れたところで、ようやく彼女はディスプレイから視線を上げた。
「アララ、倒れちゃった。まったく、だから言ったでしょ。“寝てないと明日がキツいわよ”って」
彼女は子供の可愛らしい失敗を微笑ましく見るようにくすくすと笑う。
そのとき部屋のドアがノックされ、彼女が入室を許可すると若い男が入ってきた。
「どうでした?彼のデビュー戦は」
彼は彼女が何の映像を見ていたのか知っている素振りで話す。
敬語なのは女性の方が上司に当たるからだ。
それに対して女性は軽くハンズアップして苦笑を返す。
「プレイングは全然まだまだね。父親の遺したノートをさりげなく読ませてたんだけどね。あれだけ弱らせておいた《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》相手に辛勝じゃあ及第点とは言えないわ。まぁ肝心の“エクリプス”を顕現させるところまで行けたのは良かったわね」
「スパルタですねぇ。しかし“エクリプス”が融合召喚に属する効果を持って顕現したのは予想外でしたよ。てっきり旦那さんと同じエクシーズ召喚系統かと……」
「まぁね。私もエクシーズに関するものが来るとばかり思ってて、黒い竜をデザインしちゃったわよ。まぁ姿形なんて、これからあの子が成長していく中でそれに適合するよう変わっていくんだからいいけど」
「彼の成長が楽しみですね」
そう言うと、目当ての書類を見つけたまだ年若い部下は部屋を出ていった。
一人になると、彼女は窓のサッシを開き外を見る。
すっかり夜の帳が深くなった帝都。時計を見ると午前2時になるところだった。
「楽しみ……か」
確かにそういう部分は大きい。
今度はデスクの上に散らばった書類の山に視線を向けた。
そのどれもに“E(エクストリーム)計画”という名が散見される。
「“エクリプス”とユウゴが決闘革命を巻き起こす。世界よ、刮目しなさい。私達のE計画を……!」
E計画主任研究員ーー武藤ロッカは帝都の闇に誓うように言う。
その顔は薄く、しかし楽しそうに笑んでいた。
*
目を開けたとき、そこにはたわわに実った果実が二つ。
「ふぇぇぇ~ッ、やめてくださいよ~カエデ先輩~」
そんな女の子の叫声に一気に頭が覚醒し、ユウゴは目の前にあるのが女性の胸だということにようやく気付いた。
「なっ、えっ、なにッ!?イデッ!」
慌てた拍子に寝かされていたソファから転げ落ちて、肘を強打する。
「痛つつつ」と肘を擦りながら顔を上げると、そこには数人の男女がこちらを見ていた。
一番近くにいたのは眼鏡の少女。先程の胸の持ち主だ。半分涙目でこちらを見ている。
その後ろにはここにいる中では最も小柄な少女。最高に面白いネタを聞かされたみたいに満面の笑顔。
少し離れて金髪のギャルが長机のパイプ椅子に座っている。こちらには興味なさそうにマニキュアを塗っている。
窓際には唯一の男性。腕組みをし、厳しい目付きでこちらを値踏みしているようだ。
まるで校長室にあるような大きくて威厳のある机に腰かけているのは長身の女性。その顔は含み笑いを堪えるように変形している。
どれも知らない顔ばかりだが、唯一の出入り口付近に見知った顔ーーアスナの姿を確認してようやくユウゴは胸を撫で下ろした。
だが状況が整理できない。
ここは一体どこなんだろう?なんで自分はこんなところにいるんだろう?タツヤも一緒だったはずだが、彼は?
色々な疑問が降っては湧いてきて頭が混乱する。
「も、もう、カエデ先輩が騒ぐから武藤くん起こしちゃったじゃないですか!」
そう言って怒るのは眼鏡の少女だ。
どちらかと言えばこの子の声で目が覚めた気もするが、今はそんなことを言っている場合ではない。
「だ、だって部長がアンリの、お、おっ、ぱいで包めば、や、安らぐってーー」
未だ「ヒーヒー」と笑いが治まらないカエデ先輩と呼ばれた小柄な少女。
どうやら“部長”という人物の指示で、この眼鏡の少女の胸をユウゴに押し付けようとしていたようだ。
チラリと見てみると、眼鏡の少女の胸は確かにユウゴの顔を包めそうなくらい立派なものだった。
なぜ起きてしまったんだ、俺ーー!
「……顔がいやらしいぞ、ユウゴ」
まるで氷のようなアスナの視線と言葉がユウゴの胸に突き刺さる。
「悪ふざけはこのくらいにしてそろそろ状況を説明してやったらどうだ?」
窓際の男が厳しい顔付きはそのままに話を先に進めることを提案する。
すると一番豪華な机に乗っていた長身の女性がひらりと飛び降りた。
「そうだね。私がキミの置かれているこの状況を説明してあげよう」
よく見れば彼女と窓際の男、そしてカエデ先輩という少女は見覚えのある制服姿だ。
そう、それはユウゴも通う有馬第一高校の制服だった。
さらに周りを見れば、今いるこの部屋の作りにも見覚えがある。
ここは有馬第一高校の部室棟によく似ている。
ユウゴの顔が元に戻り立ち上がるのを待って、彼女は腕を広げた。
「まずはこう言っておこうか、武藤ユウゴくんーー」
彼女の瞳はキラキラと輝きながらも、その深さでユウゴを吸い込もうとしているかのようだ。
これからとっておきのギャグを言うかのように息を吸い込み、彼女は言った。
「ーー“有馬第一高校カードゲーム部”へようこそ!」
ーー第2話へ続く
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56 | 2-2:有馬第一高校カードゲーム部 | 1014 | 2 | 2016-10-17 | - | |
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