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HOME > 遊戯王SS一覧 > 1-19:黒竜降臨(*未修正)

1-19:黒竜降臨(*未修正) 作:氷色

「な、なんだーー!?」

突如、眩しい光を放ち始めたデッキに、皆一様に戸惑いの色を浮かべた。

「これはーー」

その現象に最も早く答えを見出だしたのはやはりアスナだった。

「ーーデッキが『成長』したのだ」

何度も既述の通り、デッキとはデュエリストと精霊の魂を元に生み出される。そしてその両者は密接にリンクし続けている。
デュエリストの魂が前に進めば、増すのは魔力だけではないのだ。

「デュエリストが成長し魔力が増大すれば、デッキもまた成長する!ユウゴ!キミのデッキに、新たなカードが生まれたのだ!」

アスナのその言葉は、デッキ内に逆転のカードがなかったユウゴにとって、降って湧いた希望だった。
それは喜ばしいことだ。

しかし、当のユウゴはそれでも未だ当惑の中にいた。

『ようやく自分の足で一歩を踏み出したか。良かろうーー』

頭の中にまた声が響く。
重く低い声。それがまるで頭蓋骨に反響するように脳を揺さぶる。

ユウゴは目眩を覚えて、思わず片膝をついた。

『マスター!?』

マナが心配げに顔を覗き込む。
その表情には心配と共に、主が突然よろめいたことへの驚きも表れている。
どうやらこの声は聞こえていないらしい。

自分にしか聞こえないらしきその声はユウゴの困惑を他所に抑揚なく言葉を続ける。

『ーーお前に我が力、貸してやろう』

「力を……貸す……?」

力なくそう呟くユウゴに返答はない。
だがそう言葉を反芻したことで、ユウゴは一つの閃きを得た。

「お前……夢の……?」

ユウゴにはこの声に聞き覚えがあった。
そう、それは幾度も繰り返し見たあの夢で、昨夜聞こえてきたあの声にそっくりだったのだ。

『危険が迫っている』

そう教えてくれた夢の声。
その夢の通り、今まさに危険の真っ只中にいるユウゴにとって、その関連性は非常に奇妙で重要だ。

「お前はあのドラゴンなのか!?」

今度ははっきりと疑問を口に出す。
マナやエビル・デーモンがその様子に眉を寄せるが、そんなことに構ってはいられない。

「どうなんだ!?答えろよッ!!」

いつになく強い口調。自分でも何をそんなに剥きになっているのか分からない。

返答の声はない。
あるのは静寂と徐々に穏やかになっていくデッキの輝きのみ。

『な、なんだかよく分かりませんけど、チャンスですよぅマスター!』

疑問に対して答えをもらえず、俯くユウゴを励ますようにマナが話題を変える。

マナの言い分はもっともだった。
なんだかよく分からないことに固執するよりも、まずはいま目の前のことに取り組むべきだ。まして今は無だった可能性に希望が生まれたばかりなのだから。

ユウゴも疑問を追求したい気持ちを今はぐっと我慢する。
他のことならいざ知らず、今まさに目の前の状況に懸かっているのはユウゴ達全員の命なのだ。

「分かったよ、マナ」

言って、今なお淡い光を放ち続ける自らのデッキに目を向ける。

全てはこのカードに懸かっている。
ユウゴの指が掛かるこのカードが、逆転のカードとなるかどうか。ここが最後の正念場だった。

「臆するな、ユウゴ」

『頑張って下さいぃ、マスター』

『クリ~!(`Δ´)』

アスナ、マナ、クリボーの祈りがユウゴの中に流れ込んで来るかのようだ。
それに確かな力を得る。

あの謎の声が、あの夢のドラゴンの声なのかは分からない。何故自分にだけしか聞こえなかったのかも分からない。
正直言って分からないことだらけだ。
だがあの声は確かに力を貸してやると言っていた。

「ならその力、今だけは何も訊かずに借りといてやる。俺に力を貸せ。俺達の未来に光を示せ!」

指先に力を込める。
そして運命を決めるそのカードを勢いよく引き抜いた。



「俺のターン!!ドロー!!」



引いたカードはーー



「《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》……?」

それは間違いなく先程まではユウゴのデッキにいなかったはずのモンスター。このデュエルを通してユウゴが生み出したカードということになる。

カードには黒いドラゴンのイラストが描かれていた。
その姿は、やはりあの夢に出てきた黒い竜によく似ている。
やはりあの声はこの黒竜の声だったのだろうか。

ユウゴはかぶりを振って、自分を諌める。心の中に再燃しかけた疑問を振りほどくように。
今は余計なことを考えている場合ではない。このデュエルに勝つことだけを考えろ。

重要なのは、この《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》でエビル・デーモンに勝てるかどうか。
《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》のカードの枠色はオレンジ。効果モンスターだ。この黒竜の持つ効果がどんなものかによって、ユウゴ達の命の行き場が決まる。

ユウゴは意を決してそのテキストに目を落とした。

その様子にエビル・デーモンは目を細める。

『デュエル中に新たなカードを生み出し、更にはそのカードを引き当てて見せた……か』

誰にも聞こえないような小さな声で呟く。

全く、人間という生き物はーー。

悠久の時を生きる精霊にとっては、人間の一生など瞬きのような時間に等しい。にも関わらず、いやだからこそかもしれないが、人間は一瞬一瞬まるで生まれ変わるかのように成長していく。その速さは光を目で追うかのようでもある。

目の前でたった今引いたカードを食い入るように見つめるこの小僧にしてもそうだ。
最初はただの食料程度にしか思っていなかったはずだが、今ではこの小僧が次にどんな手を打ってくるか楽しみですらある。

エビル・デーモンは自分のフィールドを見る。
自らの分身でもある《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》。それを強化するフィールド魔法《闇の二重魔法陣》。そして伏せカードが1枚。
これまでの戦い方から、小僧にこちらの伏せカードを破る手はあるまい。ならばどんな手を打ってきても、自分の負けは万に一つもないはず。

しかしながらもし万が一、彼がこの布陣を破り勝利を手にするようなことがあればーー。
その時はーー。

思索に耽るエビル・デーモンがふとユウゴの視線に気付いた。
ユウゴは真っ直ぐにエビル・デーモンを見つめている。その瞳には自信が溢れていた。

儂を倒す道筋を、見つけたとでも言うかよーー。

エビル・デーモンはユウゴのその瞳に、自分の中に不安と同時に歓喜が現れ出ていることに気付いている。
それが不思議と可笑しくエビル・デーモンは小さく笑った。

「いくぜ、エビル・デーモン!これが最後のターンだ!」

ユウゴがスタンバイフェイズを経過し、メインフェイズへと入る。
一体どんな攻めを見せてくれるのか、エビル・デーモンは期待している自分がいることを最早隠さない。

『フン、小賢しいわ!良かろう、見せてみるがいい!』

エビル・デーモンは泰然自若の構え。
対するユウゴはもう一度手札を確認する。その中にはもちろん《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》もある。

《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》の効果テキストを呼んだとき、ユウゴの頭の中で、まるでパズルが綺麗にはまっていくように勝利への道筋がはっきりと見えた。この流れが決まりさえすれば、このデュエルはユウゴの勝ちだ。

ユウゴが最後の力を振り絞り腕を振るう。

「まずは、墓地の《祈りの聖女 ホーリー・エルフ》のモンスター効果発動!」

デュエルの最序盤、《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》によって破壊され墓地に送られた《祈りの聖女 ホーリー・エルフ》。
彼女がユウゴの求めに応じてフィールドに姿を現した。しかしその姿は霊体なのか存在感に薄く、透き通っている。

「《祈りの聖女 ホーリー・エルフ》は墓地から自身を除外することで、同じく墓地の攻撃力2000以下の魔法使い族モンスター1体をフィールドに特殊召喚できる!」

《祈りの聖女 ホーリー・エルフ》が手を組み、天に祈りを捧げる。
すると徐々に彼女の姿は霞となって消え、代わりに天より光が降り注いだ。

「その効果により、墓地の《アップル・マジシャン・ガール》をフィールドに特殊召喚!」

光の中から現れたのは、《祈りの聖女 ホーリー・エルフ》同様《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の効果によって葬られたはずの《アップル・マジシャン・ガール》だった。お決まりのポーズをビシッと決める。

アップル・マジシャン・ガール/攻1200

《祈りの聖女 ホーリー・エルフ》の名の通り、彼女の祈りが奇跡を起こし、《アップル・マジシャン・ガール》を復活させたのだ。

それを確認するとユウゴはマナを振り返る。

「もう一回頼むぜ、マナ!」

『おっ安い御用ですぅ、マスター♪』

それに頷き、手札から《ブラック・マジシャン・ガール》を選ぶと、墓地からデュエルディスクに置いたばかりの《アップル・マジシャン・ガール》をもう一度墓地に送り、そこに交代させるようにセットした。

「《アップル・マジシャン・ガール》をリリースし、《ブラック・マジシャン・ガール》をアドバンス召喚!!」

今度は《アップル・マジシャン・ガール》が役目を終えたとばかりに身を翻し光と共に消え、代わりにマナがその場に躍り出る。

ブラック・マジシャン・ガール/攻2000

『今度こそマナは頑張っちゃいますよぅ!覚悟して下さいねッ!悪魔さん!』

流石に今度はポーズうんぬんのくだりは省略し、ビシッと杖をエビル・デーモンに向けて突きつける。

しかしそれに対するエビル・デーモンの顔は明るくない。

『またその小娘か……』

『何ですかぁそのうんざりって顔はぁ!?』

相変わらずギャーギャーと食って掛かるマナ。エビル・デーモンでなくとも煩わしく感じるのは致し方ないのかもしれない。

『攻撃力2000ぽっちの小娘では儂は倒せんと何度も言っておろうが』

『なんだとぉ~。バカー!』

ビックリするほど罵る言葉にボキャブラリーがないマナをなだめるように、ユウゴはエビル・デーモンに忠告する。

「またそんな。攻撃力だけで相手を判断しちゃダメだってさっき言っただろ?」

『では攻撃力2800の我が分身をどうする?除去する手段があるのか?』

どう頑張っても攻撃力で上回れないモンスターはカードの効果で除去する以外に方法はない。しかしユウゴの手札には《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》を除去できる効果を持つカードは1枚もなかった。

だがユウゴは笑う。

「除去するカードはないよ。だから、上から叩き潰す」

『ホウ……』

『大体そんな顔して“ぽっち”とか……。可愛く言っても全然可愛くありませんー』と歯をイーッと見せながらまだ悪態をついているマナを横目に、ユウゴが更に手札を切る。

「俺は手札から装備魔法《黒魔術の呪文書》を発動!《ブラック・マジシャン・ガール》に装備させる!」

《黒魔術の呪文書》は闇属性の魔法使い族モンスターを強化する装備魔法カード。

マナの手元に黒い表紙の分厚い本が現れる。と、同時にマナはどこから取り出したのか赤縁の眼鏡までかけている。いわゆるザマス眼鏡で、それをかけているだけで、なんだか知的に見えてくるから不思議だ。

ともかくこれによりマナの攻撃力は500ポイントアップした。


ブラック・マジシャン・ガール/攻2000→2500


しかしそれでもエビル・デーモンはまだ馬鹿にしたように鼻を鳴らす。

『何をするかと思えば、ただの強化カードかッ!?しかもまだ攻撃力2800には届いておらぬではないかッ!』

「そう慌てないでくれよ。確かにマナの攻撃力はまだ《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》には届かないさ。だけど大事なのは、“マナの攻撃力が2500になった”ってことなんだよ」

『何ィ?』

いぶかしがるエビル・デーモンによく分かるようにユウゴは手札からカードを1枚抜き出し見せる。
そのカードは紛れもなく先程ユウゴがドローしたばかりのカードーー《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》だった。

『そのカードが貴様のーー』

「ああ!こいつが俺の切り札だッ!!」

そしてユウゴはそのカードを勢いよくデュエルディスクにセットした。

「さぁ、来いッ!!俺の最強モンスター!!《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》!!」

ユウゴのフィールドに闇が轟く。
凄まじい爆風が吹き荒れ、それを切り裂くようにその黒竜は現れた。

黒い体躯、巨大な翼、大地を踏みしめる力強い脚、そして何者をも吸い込んでしまいそうなほど深い瞳。

《エクストリーム・エクリプス・ドラゴン》の降臨であった。
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氷色
今話でついに1000閲覧を突破しました!
物語が遅々として進まない稚拙描写の本作ですが、沢山の方に閲覧していただけてとても嬉しいです。
これからもワクワクするような物語になるようアイデアを振り絞り、精進致します。
ありがとうございます!! (2016-09-28 20:29)

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