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HOME > 遊戯王SS一覧 > 1-18:ユウゴの賭け(*未修正)

1-18:ユウゴの賭け(*未修正) 作:氷色

『なんだとッ!?』

方向を歪められた雷撃が、指向性を失って四方へと飛び散り、空を切り、地を抉る。
しかし決してそれはユウゴを傷付けることはない。

『いっ、一体何が……ッ!?』

エビル・デーモンの顔には隠しきれない驚愕。
防御の芽は完全に摘んでいたはずだ。あのタイミングの攻撃を防げるはずはなかったはずなのだ。

「どうしたんだよ、エビル・デーモン?」

ユウゴの問いに、エビル・デーモンはこのデュエルが始まってから初めて畏怖を感じた。

「何を焦ってるんだ?今までずっと冷静だったアンタらしくないじゃないか」

このデュエル、エビル・デーモンは常に冷静だった。それはこのデュエル中、常にエビル・デーモンが優位に立っていたからで、常にデュエルをコントロールしていたのが彼だったからだ。
しかしここに来てエビル・デーモンは感じていた。これまでは常に自分の掌にあった支配を、ユウゴに奪われるような感覚を。

「思えばこのターンのアンタはちょっと違ってたよな。なんか攻め急いでいるようだった。これまでは律儀にフェイズ移行を宣言したり、俺のアクションを待つ余裕があったのに。本当はもっと早く気付いてたんじゃないのか?流れが俺に傾き始めていることに」

デュエルにも他のスポーツなどと同様に流れというものが存在する。
その流れはずっとエビル・デーモンが掴んでいた。
しかし今それはユウゴの方に傾きつつある。

何がきっかけだったか、と問われれば、それはあの“ブラック・クロス・バーニング”だろう。
それ自体は《デーモンの暴虐》・《デーモンの雄叫び》により〔凌いだ〕かのように思えた。しかしあの瞬間だけは、ユウゴがエビル・デーモンの予測を確かに上回っていたのだ。〔凌いだ〕というのは防御に回った側の言葉だ。
デュエルの流れは常に攻める側に流れていくもの。例え相手のターンであろうとも、〔攻める防御〕と〔凌ぐ防御〕では意味が全く異なる。
あの攻防では《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》を効果耐性を付与させた上で蘇生させたエビル・デーモンに落ち度はなかった。しかしあの攻撃に全てを込めたユウゴの気迫、そしてそれを凌がれながらも心を折らなかったユウゴの覚悟が、流れを引き寄せたのだった。

「このターンは俺にとっても賭けだったよ。一つ目の賭けはアンタが《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の効果を使うかどうか。アンタにターンが移った瞬間、もしも何も考えずにアンタが《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》に《アップル・マジシャン・ガール》を攻撃させていたら、俺は為す術もなく負けていた」

《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の攻撃力は2800、《アップル・マジシャン・ガール》は1200。残りLP1200だったユウゴを倒すには、効果など使わずとも充分だったのだ。

「だがアンタはそうしなかった。そしてアンタならそうはしないんじゃないかと俺は踏んでいた。俺はその予想に賭けたんだ」

ユウゴはエビル・デーモンの性格を自分なりにずっと分析していた。

エビル・デーモンは事あるごとにユウゴを小僧、マナを小娘、クリボーを下等精霊と卑下して呼んでいた。それは自身の強さに対する誇り高さの裏返しではあったが、ユウゴ達を格下だと侮っていたのは確かだ。
そして武人的な性格のエビル・デーモンならば、勝利に確信を得た段階で確実な勝利よりも圧倒的な勝利を収めることに思考がシフトするだろうと予測したのだ。

「あの場面では、圧倒的な勝利とは俺のモンスターを全滅させ、その上で直接攻撃で俺を仕止めることだ。だからアンタは確実に《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の効果を使ってくると思っていたよ」

事実、それは現実となり、結果的にユウゴは《マジシャンズ・ヘリテイジ》を発動させ、新たに2枚のカードを手にすることができた。

「んで、そいつが二つ目の賭け。《マジシャンズ・ヘリテイジ》を発動させたとしても、俺のフィールドががら空きなのは確か。この《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の攻撃を防げなきゃそれで終わりだ。だから賭けた。この《マジシャンズ・ヘリテイジ》の2ドローで、俺のデッキで唯一この攻撃を防ぐ力を持ってるカードを引くって可能性に」

「そうか……」と納得の言葉を呟いたのはアスナだった。

現在のデュエルにおいてドローとは、単純な運によるものではない。
デュエルが単なるカードゲームであった昔はそうだったのかもしれない。カードが物質であったならば、一度セットされたデッキの内容や順番が勝手に変わることなど有り得ない。だからこそドローによって目当てのカードを引き当てることができるかどうかはほぼ完全に運によるものと言えた。

だが現在のデュエルは魔力による儀式である。
デッキはデュエリストの魂が形になったものであり、それはデュエリストの魂の力ーーつまりは魔力に強く影響を受ける。そう、それは魔力の増減によりその内容や順番までもが変化してしまうほどに。

強い魔力の持ち主はドローで目当てのカードを引き当てることができる。
魔力により自らの運命を導くことができるのだ。

デュエリストになりたてのユウゴがそのことを知っていたのかどうかは、アスナには分からない。
たぶん知識としてはそんなこと知らなかっただろうとは思うが、それでもユウゴはその可能性に賭けた。
おそらくは魔力障壁の時と同じ。本能的に、感覚としてそのことを理解していたということなのだろう。


『……あのドローでそれを引き当てていたというのか!?一体そのカードとは……』

ユウゴの種明かしは続いていた。
フィールドではまだ《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》は雷撃を照射し続けており、そしてユウゴの何かもまたそれを防ぎ続けている。

「攻撃を止めてよく見てみなよ」

『くっ、《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》よ、攻撃は中止だッ!』

エビル・デーモンの命を受け、《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》は攻撃を止める。
すると最後にバシッという音だけを残してフィールドの雷撃も止む。

そして現れたものを見て、エビル・デーモンは苦虫を噛み潰す。

現れたのは体躯と呼ぶにはあまりにも小さな影。ふさふさの黒い毛、大きくつぶらな眼、小さな手足。

「そう、俺のデッキで唯一この状況を打開できたモンスター。それは、アンタが下等精霊と呼んで馬鹿にしていた俺のもう一人の相棒ーー《クリボー》さ」

《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の“魔降雷”を受け止め、防いでいたのはクリボーだった。

『クリ~o(`^´*)』

一瞬でユウゴをボロボロにした“魔降雷”を受け止めてなお、その姿には焦げ跡一つない。
つぶらな瞳をキッと座らせ、ユウゴを守るという意思を込めてエビル・デーモンを睨みつけるその様子は勇ましい。

『バカな……そんな下等精霊に儂の“魔降雷”が弾かれたというのか……』

信じられない、という様子のエビル・デーモンにユウゴは嘆息してみせる。

「下等とかなんとか、そんなこと言って見下してるから足元を掬われるんだ。《クリボー》には手札から発動して戦闘ダメージを0にできる効果がある。俺の守りの相棒さ」



《クリボー》
効果モンスター
星1/闇属性/悪魔族/攻 300/守 200
(1):相手モンスターが攻撃した場合、そのダメージ計算時にこのカードを手札から捨てて発動できる。その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる。



ユウゴは《マジシャンズ・ヘリテイジ》の賭けに勝ち、見事《クリボー》を引き当てていたのだ。
それは魔力のせめぎあいにおいて、少なくともあの瞬間にはユウゴの方がエビル・デーモンを凌駕していたという証明。
そしてユウゴとその精霊であるクリボーとの絆が確かなものだったことの証明だった。

役目を終えたクリボーが煙のように消えていく。
その直前にはユウゴを振り返り、応援するようにこくりと頷いた。

「ありがとう、クリボー。キミに守ってもらった命、絶対に無駄にはしない!」

ユウゴもそれに拳を握って応える。
だがクリボーの働きに本当の意味で応える方法は一つしかない。
それはこのデュエルに勝つこと。

「種明かしフェイズはこれで終了だ。まだアンタのターンは終わってない。さぁ、プレイを続けてくれ」

エビル・デーモンにターンの続きを促す。
しかしバトルフェイズはこれで終了。手札に他のモンスターがないエビル・デーモンにはできることは僅かしかなかった。

『儂はカードを1枚伏せてターン終了だ』

エビル・デーモンのフィールドにセットカードが現れる。
それはこのターンのドローフェイズで引いた罠カード。

このターンの攻防で、流れは完全にユウゴの方に傾いたかもしれない。
しかし最後に勝つのが自分であることは変わらない。

エビル・デーモンはこの罠カードの存在により自らの負けなどあるはずがない、と確信していた。
そして事実そのカードは発動を許せば一瞬でユウゴを塵にできるほどの力を秘めているのだった。


エビル・デーモン(手札3・LP3800)

モンスター
真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン/攻2800

魔法・罠
闇の二重魔法陣/フィールド
デーモンの暴虐/永続罠
セットカード×1



エビル・デーモンのターンを防ぎきったことで、ユウゴにターンが回ってきた。
だが彼我の実力差を考えれば、このターンがユウゴの勝つことができるラストチャンスだ。

ユウゴの手札は現在4枚。

内訳は
《ブラック・マジシャン・ガール》
《翻弄するエルフの剣士》
《黒魔術の呪文書》
《増殖》

この内、《翻弄するエルフの剣士》には攻撃力1900以上のモンスターとの戦闘では破壊されない効果がある。


《翻弄するエルフの剣士》
効果モンスター
星4/地属性/戦士族/攻1400/守1200
(1):このカードは攻撃力1900以上のモンスターとの戦闘では破壊されない。


このモンスターを守備表示でフィールドに出せば、あるいは次のターンを耐え、もう一度チャンスが訪れるかもしれない。
だがもし次のターンでエビル・デーモンが《翻弄するエルフの剣士》の守備力を超える攻撃力のモンスターを召喚してきたら、その時点でアウト。もうそのリスクは犯せない。
それに何よりそんな延命手を打てば、せっかく引き寄せた流れが再びエビル・デーモンの元に戻ってしまうのは明白だ。

《増殖》は論外。
このカードは《クリボー》とのコンボで初めて威力を発揮するカード。《クリボー》が既に役目を終え墓地にある現状では、残念ながらこのカードに仕事はない。

それに対して《黒魔術の呪文書》は《ブラック・マジシャン・ガール》とのコンボで、その攻撃力を500ポイントアップさせることはできる。
しかし攻撃力2000の《ブラック・マジシャン・ガール》を強化したとしてもその攻撃力は2500止まり。攻撃力2800の《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》には及ばない。

つまり現状の手札では、どうやってもこの状況を覆すことはできないということだ。

「このドローで全てが決まるってことか……」

このターンで勝負を決するためには、ここで起死回生のカードを引くしかない。

しかしユウゴの手はなかなかデッキへと伸びなかった。
その顔には躊躇が滲む。

ここで良いカードを引けなければ自分達の命が危ないというプレッシャーは確かにある。
しかしそれよりも事態は更に深刻だった。


ーーデッキのどのカードを引けば勝てるのか、そのビジョンが見えない。


このデッキは、ユウゴ・マナ・クリボーの魂で作られている。よってこのデッキにどんなカードが眠っているのか、実際に見ずとも魂が把握している。
しかし脳裏に浮かぶどのカードをドローしたとしても、このターンでエビル・デーモンに勝つことは不可能としか思えない。

今のユウゴならば、はっきりとイメージさえできれば、先の《クリボー》のようにあるいはデッキ内の好きなカードをドローできるかもしれない。
しかし何を引けば良いのかすら分からない状態では、そんな力を発揮することなどできない。

『さっきまでの威勢はどうした?小僧』

しばらく黙していたエビル・デーモンもユウゴの様子に何かを察したのか口を開く。
その口振りからは若干余裕を取り戻しているようだ。

「くっ……」

分かっている。
ユウゴが躊躇すればするほど、流れはエビル・デーモンに傾く。
しかし焦れば焦るほど指先は震え、思考は悪い方へと進んでいく。

そんなユウゴを見かねてマナがその肩へと手を伸ばす。

だがユウゴが目を閉じ深呼吸をしたことでその手は止まった。
ユウゴはそうしたまま何度も深呼吸を繰り返す。

流石に心配になったマナが口を開きかけたが、それを制すようにユウゴが目を開けた。

「サンキュな、マナ」

ユウゴの目はマナの動きなど捉えてはいなかった。にも関わらずユウゴはマナの気遣いを感じ取っていたようだ。
まるで以心伝心。
これが契約を結んだことによる効果なのかどうかは分からないが、出会ってまだ小一時間の二人の間には確かな繋がりが生まれていた。

ビジョンはまだ描けていない。引くカードもイメージできない。
だが立ち止まることも許されない。

ならば、とユウゴは考える。

今は一歩を踏み出そう。マナが、クリボーが、アスナがくれた勇気と覚悟を信じよう。マナが、クリボーが、アスナが、自分を信じてくれたように。
デッキはユウゴ達の魂の結晶。その力を信じた者にのみ、デッキは応えてくれるのだ。

意を決して指先がデッキに手を掛ける。

「俺達のデッキよ!俺達の想いに応えてくれッ!」

ユウゴがカードを引き抜こうと、指先に力を込める。






その時だーー









『ーー良かろう』










重たく低い声がユウゴの頭に響きーー











ーー突如、デッキは輝き出した。

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