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ブランシェの日常ー忍び寄る暗雲 作:名無しのゴーレム
「……はぁ。」
まったく、どうしてあいつらはいつまで経っても落ち着きが無いんだ。
「いくら誕生してすぐったって、さすがにあれは無いだろ……」
「待ってください2人とも! それ、大切なものなんです!」
「アハハ! ねえクランポネ、この白いのって何だろう?」
「……何だろう? ヒラヒラしてるけど……」
「あ、止めて〜! それ国宝なんですって〜!!」
「…………」
見れば見るほど女神らしくない。今だって私たちを祀っている祭壇の巫女相手に追いかけっこしてやがる。……そろそろ止めるか。
「……テメェら、いい加減にしやがれ! なんで女神が巫女をからかって遊んでんだ!」
「わーい、ブランシェが怒った〜! クランポネ、逃げよ!」
「……うん。逃げろ〜。」
「待ちやがれ! ……クソっ、逃げ足だけは一人前ってか! ……はぁ、悪いなミユキ。」
「い、いえいえ、気になさらないでください。祓串を2人の目のつくところに置いてしまった私が悪いですから……」
……その言い方、まるであの2人がペットみたいな風だぞ?
「……捕まえてくる。ミユキはここで待ってろ。」
「え? あ……行ってしまいましたか。」
「…ったく、どこに行きやがった。」
この頃、あいつらの行動範囲が広がってきている。この前なんか森の深いところにある洞窟にまで行きやがったからな。
「……一人じゃ無理だな。やっぱ誰かに協力してもらうか……」
「おやブランシェ様、どうかいたしましたか?」
「お前は……ロッカか。」
「はい。タイガ様の命により今からミユキ様のところに向かうところです。ブランシェ様は?」
「……ペルサンテとクランポネを探してる。お前は見なかったか?」
「……いいえ。あのお二方なら森の方に居るのでは? 以前の『視察』から、あの辺りに興味を持っておいででしたから。」
「そうか……分かった。感謝する。」
「いえいえ。女神様のお役に立てたなら幸いです。」
「……さて、ブランシェ様はもう行かれましたよ?」
「……アハハ! ロッカ、ありがとね! いつもブランシェが私を追いかけてるから、今度は私たちがブランシェをびこーするの! 面白そうでしょ!」
「……でも、見つかったら怒られそう。」
「見つからなきゃいいんだよ! ……あ、ブランシェが向こうに! 行こう、クランポネ!」
「……ふぅ。何とか祓串は取り戻せたか。ミユキ様にも国宝の扱いには気を付けてもらいたいものだ。あと、ばれた時のためにブランシェ様に対する言い訳も考えておかないとな……」
「……おかしい。」
ロッカの言葉には違和感がある。あいつが2人についてそんなに詳しく知っているとは思えない。
「……まあ、まずは森に行ってみるか。あそこには『あいつ』もいるしな。」
「……それで、こんな洞窟にまで来たということでしたか。」
「その通りだ。ビオラ、お前ならあいつらがどこにいるか調べられるんじゃないか?」
「出来ますが……あの2人なら、そこに居ますよ?」
「……何?」
ビオラが指差す先、そこには……
「……わっ! 見つかっちゃった! ビオラ、なんで言っちゃうのさ!」
「どうしよう、ペルサンテ……」
「……逃げよう!」
「ま、待て! ……チクショウ!」
「どうしてあの2人を追いかけているのですか? もうこの辺りにも慣れていますから、迷子になるとは思いませんが。」
「……あいつら、国宝の祓串を持って逃げやがったんだ。早く取り戻したいんだが……」
「……祓串なら、今は祭壇にありますよ?」
「……何だと!? なんでそんなこと分かるんだよ!」
「祓串には女神様と繋がる、強い魔力がありますから。私からすれば探すまでもなく見つけられるんです。」
「……そうか、分かった。私は帰るとするよ。ありがとな。」
「……ブランシェ様。実は1つ、伝えたいことがあるんです。」
「ん? なんだ?」
「先ほどイヴェールの将来を占ったのですが、そこで……近い未来、この地に新たな災いが起きる、と。」
「災い……戦争ってことか?」
「なんとも言えません。ですが、これはブランシェ様の耳に入れておくべきお話だと思いまして……」
「……一応、気をつけておく。何か分かったらすぐに連絡してくれ。」
「はい。それでは、お気をつけて……」
洞窟の外に出ても、もう2人の姿は見当たらなかった。……まあいい、放っておけばいつか帰ってくるだろう。『お腹減った〜!』とか言って。
「さて、じゃあ祭壇に……」
「ブランシェ様、ここにいらしたのですか。」
突然声を掛けられた。一体誰だ……?
「……タイガ? お前、なんでこんなところにいるんだよ。」
「ブランシェ様を探していたのですが、どこにも姿が見えないので。ビオラに探してもらおうと……」
……こんなに人探しを頼まれていたら、ビオラも大変だな。
「それで、私に何の用だ?」
「実は……すみません、ここで話すことではありませんので。詳しい話は俺の家でします。」
「分かった。なら早く行くぞ。」
「はい。」
タイガの家――『守護者』の一族の本家へと足を踏み入れる。その奥にある広間に通されると、そこには私たち以外にもいくらかの人がいた。
「……さて、それでは説明します。……ヒラカゼ。」
「はい。以前に馬車で森を通っていたら、このようなものを見つけたのです。」
そう言ってヒラカゼは床に置いてあった何かを持ち上げる……あ、あれは!?
「……機械兵、と呼ばれるものだそうです。」
「ま、待てよ! 奴らの残した残骸は全部回収したはずだろ!? それにこれ、壊れてすらねぇじゃねえか!」
「これだけではありません。ナライ、ツグミ……数多くの住民がこのようなものを見つけています。」
「なっ……それじゃあ!?」
「……確かなことは言えませんが、恐らく。」
まさか、また奴らが攻めて来るって言ってんのか? ふざけてる、こっちはまだ完全な回復も出来てないってのに。
「……どうする気だ? 奴らだって今度は私たちへの対策をしてくるはずだ。正直、勝てる気がしないぞ。」
「……俺も同意見です。ですから、こちらも先に手を打つことにしました。」
……手?
「何をする気だよ。向こうに乗り込んだところで結果は見えてる。なら……」
「……他国の協力を仰ぎます。ここから遥か西方にある『王国』、彼らと手を結ぶことが出来れば勝機も見えてくるはずです。」
「……間に合うのか? その王国だってそんなすぐに首を振ってはくれないだろ。その間に攻め込まれたら……」
「すでにツバキとスイセンを大使として送り出しています。必ず間に合うとは言えませんが、出来る限りのことはするつもりです。……それと、この案件と関連してもう一つ。」
まだ何かあるのか? まったく、イヴェールもとんでもない状況に……
「3日後に到着予定の劇団『ルリール』をどうしたものかと。さすがに来てすぐに危ないから帰れなんて言うのは……」
「……あぁ、そう言えばそんなのもあるんだったか。」
ちょっと前にあいつらが騒いでたな。『お祭りだ〜!』とか。
「いつ戦争が起きるか分からないのは事実だ。すぐに使者をよこして追い返した方がいい。」
「……ブランシェ様の言う通りですね。そのようにします。」
「あの〜、本当にそれでいいんですか?」
おずおずと1人の女性――ツグミが発言する。
「? ツグミ、どういう意味だ?」
「えーと、タイガ様もブランシェ様も知っているのではないですか? ミユキ様やペルサンテ様、クランポネ様は今回のルリールの訪問をとても楽しみにしていましたよ。事情が事情ですから仕方ないのかもしれませんが……それに、彼らはきっとすべてを話してもショーをしに来ますよ。」
「なんでそんなことが言えんだよ。」
「実は一度、他の土地でルリールのショーを見たことがありまして。その時も付近で紛争が起きていましたが、一切予定を変えることなくやりきってみせました。ですので、今回もきっと……」
……馬鹿げた連中だ。命が惜しくないのか?
「……そうか。なら、使者を派遣した上で向こうの意思を尊重しよう。ブランシェ様、構いませんか?」
「……好きにしろ。」
「あ、ブランシェ様! お帰りなさいませ!」
「……ああ、ただいま。」
「ブランシェ、遅いよー! ミユキ、早くご飯にしよ!」
「はい。ブランシェ様はどうしますか?」
「……いや、いい。」
「えー! 食べないの!?」
「……今日、ハンバーグだよ?」
「考え事がしたいんだよ。」
……また、戦争が起きるのか。今度は一体どれだけの犠牲者が出るだろう。いや、そもそも勝てるかどうかの話だ。私たちが敗れれば、イヴェールは……
「……ブランシェ様、よろしいですか?」
「……ミユキか。なんだ?」
「……ロッカから話は聞きました。近く、再び戦争になるかもしれない、と。」
ロッカのやつ、それを伝えに行っていたのか。
「……勝てるのですか?」
「……タイガは色んな策を講じている、だから心配するな。きっと今度も勝てるさ。」
「……そう、ですよね。分かりました。」
「……あいつらはどうしてる?」
「2人ならもうベッドに。遊び回って疲れたんでしょうね。」
「……なんか今の、あの2人の母親みたいだな。」
「え? いやいや、そんなこと……それを言うなら、ブランシェ様はお姉さんみたいですね。」
……姉、か。あながち間違ってもないかもしれないな。
「……次は、あいつらにも本格的に戦いに加わってもらうことになる。それまでには、女神がどうあるべきかを教え込んでおかないとな。」
「…たぶんですけど、その必要はないと思いますよ。」
「それはまた、どうして。」
「……ペルサンテ様もクランポネ様も、私たちの祈りに応えて現れてくれましたから。だからきっと、イヴェールの危機には毅然と立ち向かってくれると思います。……もちろん、私たち自身も戦います。父様が命を賭けて守ったこの地を、そうやすやすと明け渡すつもりはありません。」
……最初に見たときは頼りなさそうなやつって印象だったが、どうやらそれは間違いだったらしい。
「……ハハッ。」
「? ブランシェ様、私、何かおかしなことを言いましたか?」
「いや、そうじゃない。……大丈夫だ。何とかなるさ。」
……そう、女神は民の願いを叶えるもの。なら、ここまで強い思いを受け取った私が……いや、『私たち』が負けるわけがない。
「……もう寝るか。ミユキも、明日は早いんじゃなかったか?」
「え? ……あ、そうでした! ブランシェ様、お休みなさいませ!」
「ああ、おやすみ。」
――いつか、この日常が壊されるときがくるかもしれない。でも、きっと私たちは大丈夫だ。
(だから、今はこの日々を味わう、か。ハ、ずっと祭壇で眠っていたときが懐かしいもんだ。)
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