語る『ラグナシア』　作：はにわ改

　
『ーーまだ、身体は重いか？』

「ああ、少しな。
でもだいぶ軽くなった」

『せっかくご両親が夜食を用意してくれたんだ。
しっかり食べて体力を取り戻すのだな』

「ああ、心配かけて悪いな、ラグナシア」

ーー透矢の部屋。

刹那の用意した車で送ってもらった透矢は、真希と千鶴の助力も得て、無事に家へと帰って来た。
倒れた、ということを聞いてさすがに透矢の両親もかなり心配したようだが、
寝不足が原因、ということでうまく誤魔化したようである。
もちろん寝不足ではなく、倒れた原因が他にある事は透矢も知っていた。

『やはり・・・お前には早すぎたようだな』

「やっぱり・・・ラグナシアのカードに、体力を分けた、のが原因か？」

現在、午後十時前。
家に着いてからもしばらく付いてくれていた真希や千鶴を帰し、ベッドで横になっていた透矢。

それを待っていたかのようにラグナシアは透矢に『話しかけてきた』。

『今回のことで分かったろう。
“私”を使うにはまだ早いということが』

「・・・うん」

『あの力は私にとってはまだ一部。
だがその力を目覚めさせるだけでも、お前がそんなになる程の体力を必要としたのだ』

「もし全ての力を解放させてたらーー？」

『・・・無論、一歩間違えればーー』

「そっか・・・」

一歩間違えればーー。
その続きは敢えて語らなかったが、恐らく最悪の結末を指すのだろう。

体力には自信がある方の透矢が、倒れる程の体力を使って、解放出来たラグナシアの力はほんの一部。
それを考えれば、透矢の体力全てを使ったとしても、ラグナシアの力を完全に解放出来たかも疑わしい。

『そう悔やむ事はない。
私もそれを知りながら、お前を止めなかった責任がある』

「いや、俺がこのカードを使いたかったんだ！
ラグナシア・・・あんたの姿が見れて、嬉しかったし、良かったと思ってるんだぜ？」

『・・・全く、お前には敵わないな。
そんな事を言われては諌める事も出来ん』

「へへ・・・」

姿は見えなくても、口調からラグナシアが今どんな顔してるか、透矢には何となく感じ取れた。
きっと困ったようにしつつも、笑ってくれているのだろう、と。

「でも・・・また見えなくなっちまったな」

『元に戻ってしまった』、ラグナシアのカードを見つめる透矢。
もはやそこにはあの時見えた絵柄やテキストはない。

『お前の体力を貰って一時的に解放させただけだ。
貰った分を使いきれば元に戻る』

「ふーん・・・。
そういえば今朝も少し話してたけどさ、ラグナシアを完全に解放するには、俺がその、なんていうかーーレベルアップしないといけないのか？」

『そうだな。
これからお前がデュエルを重ねて得る経験、知識・・・それら全ての要素が私の糧となるだろう』

「早い話さ、デュエルをし続ければいつかは、って話か？」

『ただ漫然とやられても困るがな。
デュエルに掛ける思いも大事だ』

「それなら俺、自信あるぜ！」

『加えて後は相手だ。
強敵であれば強敵であるほどいい。
今日戦ったあの刹那、とかいうデュエリストのようにな』

「なるほどね・・・」

ラグナシアの言う事をそう、と信じる透矢。
実際に今日の出来事を体験しているからこそ、透矢はラグナシアの言葉を素直に聞くことが出来るようだ。
知らない人が聞けば、ただただ不思議な内容でしかない。
もっともそれを言い出したら、ラグナシアの声が聞こえるという時点で充分に不思議なことであるが。

『しつこいようだが焦るな、透矢。
お前ならばそう遠くない未来に、私の力を使いこなすことが出来るようになるだろう』

「うーん、でもやっぱり待ち遠しくってさ」

『やれやれ・・・懲りていないようだな』

「ははは！」

呆れた表情を見せているだろうラグナシア。
その表情を想像して、透矢は可笑しそうに笑うのだった。

『さぁ、もう休んだ方がいい。
食べれるようなら、用意してくれた夜食も頂くといい』

「ああ。
そういえば少し腹が減ったよ」

『ふふ・・・その様子ならば、もう大丈夫そうだな』

ラグナシアに促されて、むっくりと起き上がる透矢。
ずっと身体を休めていたからだろう、透矢が自ら言ったように、だいぶ体力は回復したようだ。

冷めてしまってはいるものの、まだ僅かに温かみの残る母の食事を、少しずつ口に運んでいく。

「・・・なぁ？ラグナシア」

『・・・どうした？透矢』

呼べば応えてくれる存在。
透矢にとって、そんなラグナシアという存在は自分が考えている以上に大きな存在になりつつあった。

「『お姉さん』の事、なんだけどさ」

『・・・ああ』

「その・・・。
うーん・・・こういうのってやっぱりルール違反、なのかな？」

『言わなくていい。
お前が気にするのも当然だ』

透矢が何を訊きたいのか、それはラグナシアにもすぐ分かった。
『お姉さん』という存在がどんな人物なのか、よく考えてみれば透矢にとって謎だらけなのだ。
だがラグナシアならば何かを知っているに違いない。
しかしそれを訊くのは『お姉さん』に後ろめたい気持ちがあるのだろう。

『私も話してやりたい。
お前と“あの人”の縁をな』

「やっぱり・・・俺と『お姉さん』は前に会ってるのか？」

『・・・そうだな。
だが、お前がそれを覚えていないのは無理もない』

「俺が凄く小さい時、とかか？」

『いや・・・そういう話ではない。
お前と“あの人”はある宿命で結ばれている』

「宿命、って？」

『・・・酷な、宿命・・・だな』

「ラグナシア？」

ラグナシアは明らかに話しにくそうにしている。
やっぱり聞いてはいけない事だったのか。
透矢は理由は分からなくても、ラグナシアに無理をさせてるのだとしたら、と思うと胸に痛いものが走った。

「・・・ごめん、もういいよ。
やっぱり『お姉さん』が話してくれるのを待つよ」

『・・・済まない、な』

「謝らないでくれよ、ラグナシア。
そりゃ、気になるけど・・・盗み聞きみたいな事はしたくないし」

『“あの人”を・・・大切に想ってくれてるのだな』

「当たり前だろ。
俺とラグナシア、それにアリアスやみんなと引き合わせてくれた人だぜ。
それに・・・」

『それに？』

「悩んでた俺に・・・デュエルの楽しさを思い出させてくれた人、だからさ」

『・・・透矢』

本当ならばどんなことがあってもその正体を知りたい。
だがそうしないのは『お姉さん』に対する透矢の純粋な気持ちである。
彼女を裏切りたくない。
そんな真っ直ぐな思いが透矢の逸る気持ちを制止させた。

その気持ちを知ってか、ラグナシアの声も透矢に対する同情に満ちていた。