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第6話 D・ゲーム 作:氷色
目眩ーーー?
視界が歪んで立っていられない。
倒れる、と思った瞬間、半ば無意識に遊緋は咄嗟に何か掴まるものを求めて手を伸ばした。
「キャッ」
その手が何か柔らかいものを掴み軽い悲鳴が聞こえた気がしたが、重力に抗うことはできずそのまま倒れてしまった。
「痛ッ」
倒れた拍子にガツンと顔を床に叩きつけてしまう。ジーンとした痛みを鼻や額に感じる。しかしそのおかげか目眩は去ったようだ。
それでも勢いよくぶっ倒れたわりに顔以外に痛みはない。何か柔らかいものの上に倒れたようだ。目を瞑ったまま辺りを探るとふにふにと柔らかい感触。
「どさくさに紛れて私の身体を堪能するとは、意外とキミも男の子なんだな」
耳元で囁かれる紅羽の声。
バッと身体を起こすと、遊緋の身体のすぐ下に紅羽の肢体が横たわっていた。遊緋の男にしては小さな身体が彼女のそれに包まれるように密着している。更に遊緋の手は紅羽の胸の辺りに置かれていた。
「うわぁぁッ!!」
バネ人形のように遊緋が跳ね退くと、紅羽もようやくという感じで起き上がる。
「ご、ごめんなさいぃぃ!!」
まるで土下座せんという勢いで謝る遊緋。
とんでもないことをしてしまった。ハプニングとは言え、無断で女性を押し倒しあまつさえ胸を揉んでしまうなんて、訴えられれば間違いなく犯罪だ。冷や汗が吹き出る。
恐る恐る紅羽を見やるとその顔は厳しい。しかし紅羽は赤い髪をかきあげスマホを見ている。
「私の胸を触った男性は子供の頃を除けばキミが初めてよ。この責任は取ってもらうけれど……今はそれどころではないわね」
「え……?」
怒ってないのか?
というかそもそももしかして庇ってくれたのか?
遊緋が目眩を感じた時、紅羽は手が届くほど近くにいたわけではなかった。なのにバランスを崩した時にはすぐ近くにいたのは、きっと倒れそうになった遊緋を支えようとしてくれたのだろう。
紅羽はスマホを少しいじると「やはり……」と呟き玄関を開けた。
「ちょ、ちょっと、響先輩!?」
慌てて後を追おうとして、しかし遊緋はすぐに更なる困惑を受けることになった。
家の外がすっかり様変わりしていたからだ。
いや、建物等に変わりはない。自宅に変化はないし、隣が真崎家であることも同じ。
だがーーー
「なんだ……あれ?」
道まで出て辺りを見渡してみる。
付近をドーム状のオーロラの様なものが覆っていた。
半径50メートルくらいだろうか。ボウルをひっくり返したように半透明のカーテンみたいなものにすっぽりと包まれている。
「フッ、ビビっているな」
不意に男の声がした。
見ると痩身の男が一人、こちらに鋭い視線を送っている。
「それも仕方あるまい。こんなものを見るのは初めてだろうからな。なぁ、初心者くん?」
口調は丁寧だがその眼光にはこちらを威嚇するような剣呑なものを感じる。
しかしそれにも増して不気味なのは彼の格好だ。
彼が来ているのは、身体の側面に黒い縦線の入った黄色の全身スーツ。昔のカンフー映画で主役の俳優が来ていたのを見たことがあるが、街中でこんな格好をしている人は初めて見た。
「あれは『デュエルフィールド』。発動者を中心に展開されるドーム状の力場よ。目的はバトルの影響を外に漏らさないため……ともう一つ、捉えた獲物を外に逃がさないため」
紅羽が言う。
その表情は険しく、視線は男を射抜くかのよう。
それを受けて男は「ホウ」と唸る。
「どうやらまんざら訳も分からず参加したというわけでもないらしい。ならば話は早い、俺と勝負しろ。無論、拒否はできないがな」
男が左腕を掲げる。
そこには先程届いたばかりのあの機械によく似た物が装着されていた。
「な、え、勝負って?」
男が勝負を挑んでいるのはどうやら紅羽ではなく遊緋のようだ。それは彼の視線がこちらに向いているので一目瞭然だ。
紅羽の唇が僅かながら笑みの形に歪む。
「なるほど、貴方が噂の『ルーキー狩り』というわけ。確か名前は『龍』だったかしら?」
「いかにも。俺の名は『龍(リュウ)』。俺の名がそれほど有名になっているとは初めて知ったぞ」
男の表情からまんざらではない様子が何となく伝わる。名が知れ渡ることで自己顕示欲が満たされるタイプか。
「ええ、有名よ。“D・ゲームに参加したばかりで右も左も分からない初心者ばかりを狙う卑怯者”ってね」
「なっ……!?」
紅羽の挑発めいた言葉に、龍の顔がみるみる間に紅潮していく。
クールを装ってはいるがどうやらこの男そこまで器の大きい人間ではなさそうだ。
紅羽は尚も畳み掛ける。
「安心なさいな、貴方の相手は正真正銘たったいまD・ゲーム参加を決めたばかりのこの遊緋くんが務めるわ。そうね、スターチップも全賭けで良いわよ」
「なに!?」
二人が何の話をしているのかほとんど理解できない遊緋が置いてきぼりを喰らう中、話は順調に遊緋が闘う方向に進んでいく。
龍が笑う。
「クハハハッ!面白いッ!ではお互いスターチップは全賭けッ!何ならデッキも賭けようじゃないかッ!負けても後悔するなよ、少年!!」
彼らは一体何を言っているのだろうか。
困惑する遊緋に紅羽が近付く。
「遊緋くん、どうやらこれは避けられない闘いのようよ。ならば全力で叩き潰してあげて」
「て言われてもどうすればいいのか……」
「さっきの機械があるでしょう?」
言われて遊緋は届いたばかりのあのタブレット型の機械を取り出した。
「これはデュエルディスク。D・ゲームに於いてはこのデュエルディスクを使ってデュエルを行うわ。デッキーーーは分かるわよね?」
デッキと言えば、デュエルモンスターズで使う自分の山札のことだ。手持ちのカードから40~60枚のカードを選び好きに作れる自分専用のカード束である。
遊緋が持っているのは何者かが用意した初期デッキのみ。これの内容如何によってデュエルの進め方は変わる。
だが遊緋の聞きたいことはそれではない。
「い、いやそうじゃなくて、この状況は一体ーーー」
「順応なさい、遊緋くん。早速『敵』が現れるなんて予想外だったけれど、これがD・ゲームよ」
紅羽の目は相変わらず真剣だ。
これがジョークやなんかの類いではないことをその瞳は雄弁に物語っている。
「これが……D・ゲーム……」
「そう。D・ゲームの参加者はデュエリストと呼ばれ、あの龍という男の様に他のデュエリストを探して対戦していく。そうしてデッキを強化したり自分のデュエリストレベルを上げることで、最終的に全てのデュエリストの頂点である“王”を目指す。それがD・ゲームよ」
「……じゃあ、あれはーーー」
遊緋が指したのは先程説明があったデュエルフィールドだ。
あんなものは今だかつて見たことがない。明らかに現代技術を超越している。もはや超常現象の域だ。
「理解できないことばかりなのは分かるわ。だから言ったでしょう、新しい世界に連れて行くって。この状況はすでにその領域なの。細かいことはまた後で説明する。今キミが考えなければならないことは一つ。キミならもう大体分かってるんでしょう?」
「降りかかる火の粉を払うことだけ、てことですか?」
紅羽は先程あの龍とかいう男を指して『敵』と呼んだ。
これがゲームというのなら『敵』は倒さなくてはならない。少なくとも遊緋の望む世界のゲームとはそういうものだ。
紅羽は嬉しそうににっこりと微笑んだ。
答えはそれで充分だった。
遊緋の脳が凄い勢いで切り替わっていく。
これが喧嘩等の日常の延長線上ならばこうはいかないだろうが、これがゲームだと言うのなら話は別だ。ゲームならばこれはすでに遊緋の領域。龍を倒すために今やるべきことは、今できることをすることのみだ。
「こっちの準備は終わったぞ!そっちはまだかッ!?」
龍がこちらを急かすために叫ぶ。或いはこちらにプレッシャーをかけているのかもしれない。
「どうやら時間は限られているみたいですね」
遊緋は初期デッキと呼ばれた手持ちのデッキをザッと確認する。その目の動きは早い。カード一枚一枚のテキストを猛烈な勢いで読み理解していく。
「D・ゲームの対戦方法はーーー」
「ルールはキミがやっていたデュエルモンスターズとほとんど同じよ」
「なるほど、それでボクに白羽の矢が立ったわけですか。ようやく合点がいきました」
「本当に?本当はもうとっくに気付いてたんでしょう?」
今度は遊緋がにっこりと笑う番だった。さっきのお返し。
紅羽は苦笑を返すのみだった。
その心中は感嘆に満ちている。流石にデュエルモンスターズの全国7位は伊達ではない。最初はこんな弱々しい少年で大丈夫だろうかと心配だったが、今の彼はどうだーーーすでに頭の中は敵と闘うという思考に満ちている。ことゲームに関してならば彼の本質は戦士だ。自分の選んだパートナーは間違いではなかった。
「OKです。大体理解しました」
紅羽がそんなことを考えている間に、遊緋の準備は済んでいた。
教えてもいないのにすでにデュエルディスクにデッキをセットしている。
驚嘆すべきは、彼の理解したという言葉が彼のデッキに対しての言葉だということだ。ザッと内容を確認しただけで、他人が構築した初見のデッキを普通理解できるものだろうか。答えは否だ。しかし彼にかかればそれは造作もないことなのかもしれない。
「一応言っておくけれど、これはスターチップ全賭けのデュエルよ。これに負ければキミはその時点でゲームオーバーになるわ。本当に大丈夫?」
「そんな大事なことを今言います?」
遊緋は苦笑する。
しかしその顔はすぐに引き締まった。
「まぁたぶん大丈夫です。負けませんから」
その顔はやはり戦士のそれだった。
計らずも胸に来るものがあった。紅羽が数瞬見とれるほどの。
紅羽が何か言葉をかける前に遊緋は龍に歩み寄った。
10メートルほどの距離を取って二人は対峙する。
「フン、覚悟は出来たか?」
「ええ、いつでも」
遊緋は不敵に笑み、龍は見下すように鼻を鳴らした。
「じゃあ始めるか!これがD・ゲームだ!『デュエル・スタンバイ』!!」
龍が掛け声を上げると、二人の目の前に突如として光の渦が広がった。
視界が歪んで立っていられない。
倒れる、と思った瞬間、半ば無意識に遊緋は咄嗟に何か掴まるものを求めて手を伸ばした。
「キャッ」
その手が何か柔らかいものを掴み軽い悲鳴が聞こえた気がしたが、重力に抗うことはできずそのまま倒れてしまった。
「痛ッ」
倒れた拍子にガツンと顔を床に叩きつけてしまう。ジーンとした痛みを鼻や額に感じる。しかしそのおかげか目眩は去ったようだ。
それでも勢いよくぶっ倒れたわりに顔以外に痛みはない。何か柔らかいものの上に倒れたようだ。目を瞑ったまま辺りを探るとふにふにと柔らかい感触。
「どさくさに紛れて私の身体を堪能するとは、意外とキミも男の子なんだな」
耳元で囁かれる紅羽の声。
バッと身体を起こすと、遊緋の身体のすぐ下に紅羽の肢体が横たわっていた。遊緋の男にしては小さな身体が彼女のそれに包まれるように密着している。更に遊緋の手は紅羽の胸の辺りに置かれていた。
「うわぁぁッ!!」
バネ人形のように遊緋が跳ね退くと、紅羽もようやくという感じで起き上がる。
「ご、ごめんなさいぃぃ!!」
まるで土下座せんという勢いで謝る遊緋。
とんでもないことをしてしまった。ハプニングとは言え、無断で女性を押し倒しあまつさえ胸を揉んでしまうなんて、訴えられれば間違いなく犯罪だ。冷や汗が吹き出る。
恐る恐る紅羽を見やるとその顔は厳しい。しかし紅羽は赤い髪をかきあげスマホを見ている。
「私の胸を触った男性は子供の頃を除けばキミが初めてよ。この責任は取ってもらうけれど……今はそれどころではないわね」
「え……?」
怒ってないのか?
というかそもそももしかして庇ってくれたのか?
遊緋が目眩を感じた時、紅羽は手が届くほど近くにいたわけではなかった。なのにバランスを崩した時にはすぐ近くにいたのは、きっと倒れそうになった遊緋を支えようとしてくれたのだろう。
紅羽はスマホを少しいじると「やはり……」と呟き玄関を開けた。
「ちょ、ちょっと、響先輩!?」
慌てて後を追おうとして、しかし遊緋はすぐに更なる困惑を受けることになった。
家の外がすっかり様変わりしていたからだ。
いや、建物等に変わりはない。自宅に変化はないし、隣が真崎家であることも同じ。
だがーーー
「なんだ……あれ?」
道まで出て辺りを見渡してみる。
付近をドーム状のオーロラの様なものが覆っていた。
半径50メートルくらいだろうか。ボウルをひっくり返したように半透明のカーテンみたいなものにすっぽりと包まれている。
「フッ、ビビっているな」
不意に男の声がした。
見ると痩身の男が一人、こちらに鋭い視線を送っている。
「それも仕方あるまい。こんなものを見るのは初めてだろうからな。なぁ、初心者くん?」
口調は丁寧だがその眼光にはこちらを威嚇するような剣呑なものを感じる。
しかしそれにも増して不気味なのは彼の格好だ。
彼が来ているのは、身体の側面に黒い縦線の入った黄色の全身スーツ。昔のカンフー映画で主役の俳優が来ていたのを見たことがあるが、街中でこんな格好をしている人は初めて見た。
「あれは『デュエルフィールド』。発動者を中心に展開されるドーム状の力場よ。目的はバトルの影響を外に漏らさないため……ともう一つ、捉えた獲物を外に逃がさないため」
紅羽が言う。
その表情は険しく、視線は男を射抜くかのよう。
それを受けて男は「ホウ」と唸る。
「どうやらまんざら訳も分からず参加したというわけでもないらしい。ならば話は早い、俺と勝負しろ。無論、拒否はできないがな」
男が左腕を掲げる。
そこには先程届いたばかりのあの機械によく似た物が装着されていた。
「な、え、勝負って?」
男が勝負を挑んでいるのはどうやら紅羽ではなく遊緋のようだ。それは彼の視線がこちらに向いているので一目瞭然だ。
紅羽の唇が僅かながら笑みの形に歪む。
「なるほど、貴方が噂の『ルーキー狩り』というわけ。確か名前は『龍』だったかしら?」
「いかにも。俺の名は『龍(リュウ)』。俺の名がそれほど有名になっているとは初めて知ったぞ」
男の表情からまんざらではない様子が何となく伝わる。名が知れ渡ることで自己顕示欲が満たされるタイプか。
「ええ、有名よ。“D・ゲームに参加したばかりで右も左も分からない初心者ばかりを狙う卑怯者”ってね」
「なっ……!?」
紅羽の挑発めいた言葉に、龍の顔がみるみる間に紅潮していく。
クールを装ってはいるがどうやらこの男そこまで器の大きい人間ではなさそうだ。
紅羽は尚も畳み掛ける。
「安心なさいな、貴方の相手は正真正銘たったいまD・ゲーム参加を決めたばかりのこの遊緋くんが務めるわ。そうね、スターチップも全賭けで良いわよ」
「なに!?」
二人が何の話をしているのかほとんど理解できない遊緋が置いてきぼりを喰らう中、話は順調に遊緋が闘う方向に進んでいく。
龍が笑う。
「クハハハッ!面白いッ!ではお互いスターチップは全賭けッ!何ならデッキも賭けようじゃないかッ!負けても後悔するなよ、少年!!」
彼らは一体何を言っているのだろうか。
困惑する遊緋に紅羽が近付く。
「遊緋くん、どうやらこれは避けられない闘いのようよ。ならば全力で叩き潰してあげて」
「て言われてもどうすればいいのか……」
「さっきの機械があるでしょう?」
言われて遊緋は届いたばかりのあのタブレット型の機械を取り出した。
「これはデュエルディスク。D・ゲームに於いてはこのデュエルディスクを使ってデュエルを行うわ。デッキーーーは分かるわよね?」
デッキと言えば、デュエルモンスターズで使う自分の山札のことだ。手持ちのカードから40~60枚のカードを選び好きに作れる自分専用のカード束である。
遊緋が持っているのは何者かが用意した初期デッキのみ。これの内容如何によってデュエルの進め方は変わる。
だが遊緋の聞きたいことはそれではない。
「い、いやそうじゃなくて、この状況は一体ーーー」
「順応なさい、遊緋くん。早速『敵』が現れるなんて予想外だったけれど、これがD・ゲームよ」
紅羽の目は相変わらず真剣だ。
これがジョークやなんかの類いではないことをその瞳は雄弁に物語っている。
「これが……D・ゲーム……」
「そう。D・ゲームの参加者はデュエリストと呼ばれ、あの龍という男の様に他のデュエリストを探して対戦していく。そうしてデッキを強化したり自分のデュエリストレベルを上げることで、最終的に全てのデュエリストの頂点である“王”を目指す。それがD・ゲームよ」
「……じゃあ、あれはーーー」
遊緋が指したのは先程説明があったデュエルフィールドだ。
あんなものは今だかつて見たことがない。明らかに現代技術を超越している。もはや超常現象の域だ。
「理解できないことばかりなのは分かるわ。だから言ったでしょう、新しい世界に連れて行くって。この状況はすでにその領域なの。細かいことはまた後で説明する。今キミが考えなければならないことは一つ。キミならもう大体分かってるんでしょう?」
「降りかかる火の粉を払うことだけ、てことですか?」
紅羽は先程あの龍とかいう男を指して『敵』と呼んだ。
これがゲームというのなら『敵』は倒さなくてはならない。少なくとも遊緋の望む世界のゲームとはそういうものだ。
紅羽は嬉しそうににっこりと微笑んだ。
答えはそれで充分だった。
遊緋の脳が凄い勢いで切り替わっていく。
これが喧嘩等の日常の延長線上ならばこうはいかないだろうが、これがゲームだと言うのなら話は別だ。ゲームならばこれはすでに遊緋の領域。龍を倒すために今やるべきことは、今できることをすることのみだ。
「こっちの準備は終わったぞ!そっちはまだかッ!?」
龍がこちらを急かすために叫ぶ。或いはこちらにプレッシャーをかけているのかもしれない。
「どうやら時間は限られているみたいですね」
遊緋は初期デッキと呼ばれた手持ちのデッキをザッと確認する。その目の動きは早い。カード一枚一枚のテキストを猛烈な勢いで読み理解していく。
「D・ゲームの対戦方法はーーー」
「ルールはキミがやっていたデュエルモンスターズとほとんど同じよ」
「なるほど、それでボクに白羽の矢が立ったわけですか。ようやく合点がいきました」
「本当に?本当はもうとっくに気付いてたんでしょう?」
今度は遊緋がにっこりと笑う番だった。さっきのお返し。
紅羽は苦笑を返すのみだった。
その心中は感嘆に満ちている。流石にデュエルモンスターズの全国7位は伊達ではない。最初はこんな弱々しい少年で大丈夫だろうかと心配だったが、今の彼はどうだーーーすでに頭の中は敵と闘うという思考に満ちている。ことゲームに関してならば彼の本質は戦士だ。自分の選んだパートナーは間違いではなかった。
「OKです。大体理解しました」
紅羽がそんなことを考えている間に、遊緋の準備は済んでいた。
教えてもいないのにすでにデュエルディスクにデッキをセットしている。
驚嘆すべきは、彼の理解したという言葉が彼のデッキに対しての言葉だということだ。ザッと内容を確認しただけで、他人が構築した初見のデッキを普通理解できるものだろうか。答えは否だ。しかし彼にかかればそれは造作もないことなのかもしれない。
「一応言っておくけれど、これはスターチップ全賭けのデュエルよ。これに負ければキミはその時点でゲームオーバーになるわ。本当に大丈夫?」
「そんな大事なことを今言います?」
遊緋は苦笑する。
しかしその顔はすぐに引き締まった。
「まぁたぶん大丈夫です。負けませんから」
その顔はやはり戦士のそれだった。
計らずも胸に来るものがあった。紅羽が数瞬見とれるほどの。
紅羽が何か言葉をかける前に遊緋は龍に歩み寄った。
10メートルほどの距離を取って二人は対峙する。
「フン、覚悟は出来たか?」
「ええ、いつでも」
遊緋は不敵に笑み、龍は見下すように鼻を鳴らした。
「じゃあ始めるか!これがD・ゲームだ!『デュエル・スタンバイ』!!」
龍が掛け声を上げると、二人の目の前に突如として光の渦が広がった。
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遊緋にとって初めてのDゲームが「負けたらゲームオーバー」という過酷なものですが、どう乗り越えるのか楽しみです。 (2017-02-12 22:27)
龍さんはまるで王国編の羽蛾さんにそっくりですね。
そして次回からついにデュエルですね。遊緋がどのようなデュエルをするのか楽しみです。 (2017-02-12 22:46)
ラッキースケベを書くのは初めてだったので上手くエロチックに書けたかな?と少々不安です。
まぁかませ犬であることは否定できませんね笑
楽しんでいただけるよう頑張ります!
〉シュンPさん
龍のモデルは別の人物なのですが、まぁ役割的には羽蛾とカブるかもしれません。
さぁいよいよデュエルです。面白くなれば良いんですけどね。 (2017-02-13 08:48)